【目的】在宅脳卒中者の生活空間における各活動範囲(住居内,住居周辺,住居近隣,町内,町外)に関連する因子を調査した。【方法】在宅脳卒中者143 名を対象に,基本属性,Life-space assessment(以下,LSA),Modified Fall Efficacy Scale(以下,MFES),Barthel Index(以下,BI)等,計15 項目を調査した。統計学的検討では各活動範囲別のLSA 得点と各評価指標との相関分析を実施した。また,対象者を通所系サービスおよび外来リハ利用の有無であり群・なし群に割付けし,2 群の各活動範囲別得点に対し,対応のないt 検定を実施した。【結果】住居内・住居周辺のLSA 得点はMFES とBI との間に中等度の相関を認めた。また,住居周辺,町内・町外の得点は,通所系サービスおよび外来リハ利用あり群で有意に高かった。【結論】生活空間は,各活動範囲によって関連する因子が異なることが示唆された。
【目的】本研究はランニング中の下腿と後足部間の協調性パターンを明らかにすることを目的とした。【方法】対象者(健常男性10 名)はトレッドミル上で裸足ランニングを行った。Modified vector coding technique を用いて下腿と後足部間のcoupling angle を算出し,4 つの協調性パターンに分類した。【結果】吸収期前半と推進期前半で下腿と後足部間の協調性パターンはanti-phase を示していた(外旋と回内,内旋と回外)。また,吸収期と推進期でin-phase with proximal dominancy(内旋と回内+下腿の動きが優位,外旋と回外+下腿の動きが優位)の割合がもっとも多かった。【結論】本研究より,ランニング中はanti-phase の協調性パターンがあり,さらにin-phase with proximal dominancy の割合が多くを占めることが明らかになった。
【目的】本研究の目的は,pusher syndrome(以下,PS)を呈した脳卒中片麻痺者におけるsubject visual verticality(以下,SVV)の偏倚量の推移とPS の重症度およびPS の改善経過との関連について明らかにすることである。【方法】対象は,理学療法初回介入時にSVV の測定が可能であったPS 例14 名とした。調査期間はSVV の初回評価から3 週間とした。週2 回,計6 回の各測定時のPS の重症度とSVV の偏倚量の変化の推移,ならびに2 項目の相関関係を調査した。【結果】PS の重症度とSVV の偏倚量は有意に改善した。しかし,両者の改善する時期は異なり,すべての測定時期で有意な相関を認めなかった。
【結論】SVV の偏倚量の推移はPS の重症度とその改善経過に関連しない可能性が高いと思われた。
【目的】本研究は,中高年女性における腹圧性尿失禁とインナーユニットの関係について検討した。さらに,動作課題の妥当性について,骨盤底拳上量による腹圧性尿失禁検出度を比較した。【対象と方法】中高年女性101 名を対象とした。質問紙表にて尿失禁群と非尿失禁群に群分けした。握力,CS-30 テストに加え超音波画像診断装置を用いて腹横筋厚,多裂筋横断面積,骨盤底拳上量を測定した。【結果】尿失禁群はすべての筋で,同時収縮および抵抗運動で非尿失禁に比べ有意に低値を示した。尿失禁を従属変数としたロジスティック回帰分析で選択された因子は,抵抗運動時の骨盤底挙上量であった。【考察】インナーユニットは協同運動しており,特に抵抗運動時の骨盤底挙上量の低下は腹圧性尿失禁のリスクファクターであることが示唆された。さらに,抵抗運動時の骨盤底挙上量が4.88 mm 以下である場合は腹圧性尿失禁の可能性が著しく高いことが示唆された。
【目的】通所リハを利用する要支援・要介護者を対象として運動機能に対する介入効果に1 年間の生活空間の変化が及ぼす影響を検討することを目的とした。【方法】対象者は通所リハを利用中の40 名とし,生活空間評価としてLife Space Assessment(以下,LSA),運動機能評価として四肢等尺性筋力,5 m 最大歩行速度(以下,5MWS),Timed Up and Go test(以下,TUG),片脚立位保持時間,Functional reach test を初期評価,6 ヵ月後,12 ヵ月後に計測した。12 ヵ月後にLSA 得点が維持向上または減少したかによって対象者を2群に分け,12 ヵ月間の運動機能の変化率を群間で比較した。【結果】LSA 得点維持向上群に比べLSA 得点低下群では5MWS の変化率が低値,TUG は高値を示した。【結論】通所リハの利用者の移動能力を低下させないためには生活空間を維持する重要性が示唆された。
【目的】延髄外側梗塞患者において自覚的視性垂直位(以下,SVV)と静止立位バランス,歩行非対称性の関係を検討する。【方法】Body lateropulsion(BL)を呈する延髄外側梗塞患者9 名において,SVV 値と立位重心動揺計の総軌跡長,矩形面積,足圧中心左右偏位および加速度計より算出した歩行非対称性との関係をSpearman の相関係数を用いて検討した。【結果】SVV 値は平均7.4(SD:9.5)度であった。SVV 値と開眼足圧中心偏位とは相関しなかったが,閉眼足圧中心偏位と相関を認めた(r = 0.75, P < 0.05)。また,SVV 値の絶対値は歩行非対称性と有意な相関を認めた(r = –0.78, P < 0.05)。【結語】BL を呈する延髄外側梗塞患者において,SVV 偏位は閉眼の静止立位バランスと歩行非対称性と関連した。その因果関係については今後の検証が必要である。
【目的】下腿骨幹部骨折後に生じた足関節背屈可動域制限に対し超音波検査に基づき運動療法を進めた症例を経験したので報告する。【方法】対象は下腿骨幹部骨折と診断された10 歳代女性である。術後,足関節背屈可動域制限に対して超音波検査を実施した。【結果】受傷後18 日の超音波検査では2 ヵ所に異常所見を認めた。1 ヵ所目は下腿中央の硬結部の下層にあるヒラメ筋内に筋膜下血腫を認め,2 ヵ所目は長趾屈筋を含む深層の領域に血腫や筋線維の走行の乱れが描出された。受傷後38 日で硬結部の圧痛はなくなり,超音波検査では血腫が軽減してきたため,損傷部への伸張刺激を軽減したうえでストレッチングを開始した。受傷後75 日で足関節背屈が25°となり,超音波検査では筋線維の配列や走行が健側と比べほぼ差がなくなった。【結論】損傷組織に対する超音波検査は,発生部位や程度,修復過程の把握が可能であり,運動療法の適否や方法を決定する一助となることが示唆された。
【目的】脳卒中後の嚥下障がいを呈する2 症例に対し,体幹および頸部筋・喉頭周囲筋への運動療法を実施し,嚥下障がいの改善を認めたため報告する。【対象と方法】2 症例は嚥下障がいのみならず喉頭挙上不全と体幹機能障がいを呈しており,1 症例目は矢状面での体幹機能の問題を有し,2 症例目は前額面での体幹機能の問題を有していた。それぞれ体幹機能障がいの特性が異なるこの2 症例に対し,症例の個別性に合わせた体幹機能向上練習を実施した。次に言語聴覚士と共同して頸部筋・喉頭周囲筋への運動療法および間接嚥下訓練を実施した。【結果】2 症例とも喉頭挙上運動の改善が認められ,嚥下障がいが改善した。【結論】脳卒中後の嚥下障がい者の中には,体幹機能の改善を基礎的条件とした喉頭挙上運動の再獲得を必要とする症例が存在すると推測された。体幹機能の獲得とともに喉頭周囲の協調運動を獲得することは,嚥下障がいを効果的に改善させるひとつの手段となる可能性が示唆された。