【目的】本研究の目的は,脳血管障害者の嚥下障害の関連要因について,おもに運動要因に着目して検討することである。【方法】対象は回復期病棟入院中の脳血管障害者90 名(嚥下障害あり45 名,嚥下障害なし45 名)とした。調査項目は,基本属性の他に上下肢の運動麻痺の程度,歩行自立度,舌圧,舌骨上筋群の筋力,喉頭位置,頸部可動域,脊柱後弯度,体幹機能,呼吸機能,握力などの運動要因を評価した。単変量解析にて有意な差があったものを説明変数とし,嚥下障害の有無を目的変数とした二項ロジスティック回帰分析(尤度比検定:変数減少法)を実施した。【結果】脳血管障害者の嚥下障害に関連する運動要因は,舌骨上筋群の筋力,頸部伸展可動域,脊柱後弯度であることが明らかとなった。【結論】本報告は,理学療法士でも嚥下障害に介入できる可能性を示すものになると考えられ,臨床場面でも応用可能な有益な情報になるものと考えられた。
【目的】本研究の目的は急性心不全患者の退院時の歩行自立の可否と30 秒椅子立ち上がりテスト(以下,CS-30)の関係について調査することである。【方法】急性心不全患者77 名を対象とし,退院時の歩行自立の可否で自立群と非自立群の2 群間に分類した。退院時の歩行自立の可否と測定項目の関係について調査した。【結果】自立群は非自立群と比較して年齢は有意に低く,体重,BMI,理学療法実施日数,eGFR,介入時CS-30,退院時CS-30 は有意に高かった。ロジスティック回帰分析では介入時CS-30,退院時CS-30 が独立した因子として抽出された。介入時CS-30,退院時CS-30 のカットオフ値はそれぞれ5.5 回,7.5 回であった。【結論】急性心不全患者の退院時の歩行自立の可否には介入時CS-30 と退院時CS-30 が関連していた。
【目的】本研究の目的は,3D-to-2D レジストレーションを用いての動的な外転運動における肩甲上腕関節の回旋角度を無負荷時,負荷時で比較検討することである。【方法】対象は健常成人18 例18 肩,平均27.9 歳(23 ~38 歳)である。方法は,まずX 線透視像で肩甲骨面上での自動外転運動の動態撮影を無負荷時と3 kg 負荷時の二種類で行った。その後,3D-to-2D レジストレーションを用いて上腕骨・肩甲骨の三次元動態を推定した。得られた結果から肩甲上腕関節における上腕骨の回旋角度を算出し,無負荷群と3 kg 負荷群の比較を行った。【結果】下垂位から最大外転位までで上腕骨は無負荷時では26.5°,3 kg 負荷時では16.8° 外旋した。外旋角度は両群間で有意差を認めなかった。【結論】健常肩では肩甲上腕関節における上腕骨の回旋は3 kg の負荷では影響を受けないことが考えられる。
【目的】障害物への接近,Lead limb とTrail limb の跨ぎ越えという一連の動作を歩行中の障害物跨ぎ動作とし,3 軸加速度計を用いて若年者と高齢者を対象に側方の姿勢安定性について明らかにする。【方法】対象者は14 人の健常若年者と14 人の健常高齢者とした。対象者は自由歩行と歩行中の障害物跨ぎ動作を行った。得られた加速度データから,各区間における側方のRoot Mean Square(以下,RMSML),およびRMS Ratio(以下,RMSRML)を算出した。【結果】RMSRML は自由歩行より障害物跨ぎ歩行の方が有意に大きく,年齢の主効果は認められなかった。RMSML はTrail limb の跨ぎ区間で他の区間よりも有意に大きかった。【結論】年齢にかかわらず,自由歩行よりも歩行中の障害物跨ぎ動作で側方への身体動揺が大きくなり,Trail limb の跨ぎ区間でもっとも姿勢不安定になる可能性が示唆された。
【目的】低速度レジスタンストレーニング(以下,LRT)時における筋活動動態を明らかにすること。【方法】健常成人男性13 名を対象に,LRT,高強度運動(以下,HI),低強度運動の3 条件で膝関節伸展運動を3 セット実施した。運動中の外側広筋の筋活動を高密度表面筋電図で測定し,各条件で,電極内の%MVC(Maximum Voluntary Contraction),電極内の異質性を表す修正エントロピー,積分筋電図(以下,iEMG)で比較した。【結果】LRT の%MVC は高強度運動と比較して,1 セット目では有意に低値を示したが,3 セット目には同等の筋活動が認められた。LRT と高強度運動では修正エントロピーに有意差を認めなかった。iEMG では3 条件間に有意差を認めなかった。【結論】LRT はHI,LI と同様のiEMG を示し,セット数を重ねる毎にHI と同等の%MVC,運動単位の動員様式となり,HI と同等の活動になることが示唆された。
【目的】片麻痺を呈した2 症例に対し,下肢装具を用いて倒立振子モデルの形成をめざした歩行練習を施行し,歩行能力と歩容の改善を認めたため報告する。【対象と方法】麻痺側下肢の支持性が低下し歩行が全介助であった重度片麻痺例に対し,足部に可動性を有す長下肢装具(以下,KAFO)を用いて前型歩行練習を施行した。また,無装具で独歩可能だが歩容異常を呈した生活期片麻痺例に対し,あえて下肢装具を用いて歩行練習を実施した。【結果】重度片麻痺例は下肢の支持性が向上し,倒立振子を形成した歩容での歩行を獲得した。生活期片麻痺例においても歩行能力と歩容が改善した。【結論】重度片麻痺例に対するKAFO を用いた前型歩行練習は,下肢の支持性を向上させ,より高い歩行能力を獲得することに貢献できる可能性がある。また,無装具でも歩行可能な片麻痺例の歩行能力や歩容の改善においても下肢装具を用いて倒立振子を再現する歩行練習を応用できる可能性があると思われた。
【目的】食道がん術後に筋力と全身耐久性が低下し,身体活動量が低下した症例に対し,退院後月一回の外来フォローにより,良好な結果を得たため報告する。【対象】対象は食道扁平上皮がんの80 歳代男性患者である。術後に気胸および肺炎を併発し,術後早期に理学療法を再開したが呼吸機能,筋力,全身耐久性ともに低下していた。【方法】月一回の外来フォローにて運動指導と栄養指導,1ヵ月の平均歩数,自主トレーニング実施日数のフィードバックを実施した。【結果】膝伸展筋力,30 秒間立ち座りテスト,6 分間歩行試験の改善を認め,1ヵ月の平均歩数は1,392 ± 810 歩から3,547 ± 1,022 歩まで有意に増加した。【結論】本症例の結果は,適切な運動指導と栄養指導に加えて,1 ヵ月の平均歩数や自主トレーニング実施日数をフィードバックすることで,月一回の外来フォローであっても,運動機能の向上とともに,身体活動量を増加,維持できることを示唆している。
【目的】本研究の目的は,市中肺炎患者における介入時のCS-30 が退院時における歩行能力の予測に応用できるかを検証することである。【方法】対象は市中肺炎患者60 名とし,退院時の歩行が自立している者を自立群,自立していない者を非自立群とし,2 群に分類した。退院時の歩行自立の可不可に影響を及ぼす因子について検討した。【結果】自立群は非自立群と比較して入院前歩行能力が自立している割合が高く,Alb,介入時歩行FIM,介入時CS-30,退院時CS-30 が高い結果であった。介入時CS-30 のカットオフ値は5.5 回であり,曲線下面積は0.916,感度は83.3%,特異度は97.1%であった。【結論】市中肺炎患者において介入時CS-30 は退院時歩行自立の可不可の予測指標として有用である可能性が示唆された。