【目的】急性期脳卒中患者におけるMini-Balance Evaluation Systems Test(以下,Mini-BESTest)の妥当性,信頼性,反応性,解釈可能性を検討した。【方法】対象は脳卒中患者 42 名とした。Mini-BESTest と他の評価尺度の相関関係,内的一貫性,既存のバランス評価尺度との変化量の相関関係,および歩行自立度の判別精度を検討した。【結果】バランスおよび他の類似概念の評価尺度と有意な相関(r=0.36 ~0.83)を示し,内的一貫性も良好(α=0.88)であった。Mini-BESTest と既存のバランス評価尺度の変化量は有意な相関(r=0.84)を認めたが,歩行自立の判別精度は低かった。【結論】Mini-BESTest は妥当性,信頼性,反応性,解釈反応性を示し,急性期脳卒中患者に対するバランス評価尺度として妥当な尺度であることが示唆された。
【目的】本研究の目的は,要介護高齢者の身体機能と身体各部位筋量の特徴を検討することである。【方法】対象は65 歳以上の地域在住男性高齢者53 名とし,健常高齢者(以下,健常群)と要介護高齢者(以下,要介護群)に分類した。身体機能の評価には,基本チェックリスト下位項目のNo.6 ~10 の質問を用いた。超音波B モード法を用いて身体8 部位の筋厚の測定に加え,身長,体重,BMI を測定した。【結果】要介護群は健常群よりも身体機能の総得点およびそれぞれの項目の得点が高かった。下腿前部および後部の筋厚のみ健常群よりも要介護群が有意に小さかった。【結論】要介護男性高齢者の場合,特に下腿前部と後部の筋量は低下することが示唆された。
【目的】急性期虚血性脳梗塞患者において初回の背臥位から端座位への姿勢変換による血圧変動とその後の神経症状増悪との関連を検討することを目的とした。【方法】発症24 時間以内に入院した虚血性脳梗塞患者165 名を対象に初回離床時に端座位を10 分間以上行い,背臥位と比較して端座位3 分後または10 分後の血圧変動の有無を評価した。対象者を入院7 日以内にNIHSS 値で2 点以上増加を認めた神経症状増悪群と非増悪群の2 群に分け, 調査項目や生化学的項目,血圧関連指標と神経症状増悪との関連を多重ロジスティック回帰分析を用いて検討した。【結果】増悪群は25 名(15.2%)であった。神経症状増悪の独立した関連因子として,穿通枝領域の脳梗塞,HDL コレステロール値,端座位時の血圧低下が抽出された。【結論】急性期虚血性脳梗塞患者において発症後早期の初回端座位時の血圧低下は入院7 日以内の神経症状増悪と関連することが示唆された。
【目的】人工膝関節全置換術(以下,TKA)後患者の階段降段動作では,同年代健常者の遠心性膝関節伸展モーメントを再現できているのかを明らかにすること。【方法】対象は,術後1 年以上経過し降段動作が1 足1 段様式で可能なTKA 群8 例と同年代高齢者である健常群10 例とした。降段動作解析は,三次元動作解析装置と床反力計を用いて矢状面の関節角度,関節モーメント,関節パワーと表面筋電図にて下肢筋活動を計測した。主要な計測項目である膝関節伸展モーメントの第1 ピークの立脚前期(20%)と第2 ピークの立脚後期(80%)ですべての計測データを比較した。【結果】TKA 群の降段動作時の遠心性膝関節伸展モーメントは,立脚前期および立脚後期のいずれも健常群よりも有意に低かった。【結論】TKA 後1 年経過しても階段降段動作では,同年代健常者の遠心性膝関節伸展モーメントを再現できていなかった。
【目的】本研究は,入院期高齢心不全患者における早期レジスタンストレーニング(resistance training:以下,RT)の安全性と実行可能性および身体機能への効果について検討することである。【方法】RT の適応基準,禁忌,除外基準を考慮した高齢心不全患者をRT 群とコントロール群との2 群に無作為割付けした。また,主要アウトカムを膝伸展筋力とし,副次アウトカムを快適歩行速度とSPPB とし,これらの介入前後と群間の差を比較した。【結果】膝伸展筋力と快適歩行速度は交互作用が有意であり,RT 群の方で改善が顕著であった。effect size は,RT 群の膝伸展筋力と快適歩行速度は中程度,RT 群のSPPB とコントロール群の膝伸展筋力,SPPB は小程度であった。【結論】入院高齢心不全患者において早期レジスタンストレーニングは適応,禁忌,除外を明確化し段階的な負荷量で漸増すれば安全かつ効果的に実行できることが示唆された。
【目的】慢性閉塞性肺疾患(以下,COPD)において,吸気筋トレーニング(以下,IMT)が身体活動量に与える効果を明らかにすること。【方法】59 例の安定期COPD 患者を,最大吸気口腔内圧(以下,PImax)の30% 以上の負荷でIMT を行うIMT 群と10% 以下のSham 群へ無作為に振り分けた。IMT は,1 セッションを30 呼吸,1 日2 セッションとし,3 ヵ月間実施させた。測定項目は,PImax,6 分間歩行距離(以下,6MWD),1 日の平均歩数(以下,Steps),中から高強度の平均身体活動時間(以下,MVPA)とした。【結果】解析対象は,IMT 群23 例,Sham 群27 例であった。PImax,Steps,MVPA で有意な交互作用がみられ,IMT 群でのみ経時的に有意な差がみられた。6MWD に交互作用はみられなかった。【結論】3 ヵ月間のIMT によってPImax および身体活動量に向上がみられた。IMT は身体活動量を向上する可能性がある。
【目的】本研究の目的は,5 つの運動機能領域の側面から,3 ~10 歳の児の歩行能力の特徴を明らかにすることであった。【方法】3 ~10 歳の定型発達児76 名と14 名の若年成人を対象とし,小児群は2 歳毎に4 群に割りあてた。対象者は,6 m の直線歩行路を快適な速度で歩くように指示された。三次元動作解析システムにて,歩幅,歩隔,ステップ速度,ステップ時間,支持脚時間,および遊脚時間を算出した。変動係数とSymmetry Index も算出した。これら歩行変数を5 つの機能領域に分類した(歩調,時間因子,左右対称性,変動性,および安定性)。各変数を年代間で比較した。【結果】歩調,時間,および左右対称性は,7 歳から成人と有意差を認めなかった。一方,変動性と安定性は,全小児群と成人群に有意差を認めた。【結論】成人の値と同等の値に到達する年齢は変数により異なり,特に歩行の変動性や安定性の領域は発達が遅い。
【目的】成長期男子サッカー選手の下肢筋柔軟性と関節弛緩性の特徴を明らかにすること。【方法】対象は中学1 年男子サッカー部員のうち,過去の身長データが得られ,疼痛のない33 例とした。身長,体重, 下肢筋群の筋柔軟性(ハムストリングス,大腿四頭筋,腓腹筋),関節弛緩性を測定した。身長データからAge of Peak Height Velocity(以下,APHV)を算出し,APHV と暦年齢の差を成熟度指数とした。成熟度指数が–6 ~0 ヵ月の者をG1,0 ~6 ヵ月後の者をG2,6 ~12 ヵ月後の者をG3 に群分けし,筋柔軟性,関節弛緩性を3 群間で比較した。【結果】GI 群9 例,G2 群12 例,G3 群12 例であった。軸脚腓腹筋の筋柔軟性はG1 がG2 と比較して,関節弛緩性スコアはG1 がG3 と比較して有意に低かった。【結論】APHV 前の軸脚腓腹筋の筋柔軟性と関節弛緩性は APHV 後よりも低かった。
【目的】スポーツ歴のある脊髄完全損傷者を対象として,一次運動野の上肢筋脳機能地図をfunctional magnetic resonance imaging(以下,fMRI)法により作成し,機能地図の拡張,および経過年数,運動年数との関係を明らかにすること。【方法】脊髄完全損傷者7 名,健常者6 名を対象としてfMRI 撮像中に上肢筋収縮課題を行い,脳賦活量の定量化および経過年数・運動年数と相関のある脳領域を算出した。【結果】脊髄損傷群において,手指筋収縮時の脳賦活量が健常者群よりも大きかった。また,上腕周囲筋収縮時の脳賦活量は脊髄損傷者群内でも差が見られたが,運動年数との正の相関が見られた。【結論】脊髄損傷後の一次運動野では,障害由来的に手指筋脳機能地図が拡張し,使用頻度依存的に上腕周囲筋脳機能地図が拡張しうる。本結果は,脊髄損傷受傷後に高強度の身体活動が神経学的にも推奨される根拠となりうる。
【目的】本研究の目的は,腱板断裂患者に対し患者立脚評価を用いた治療方針の予測をすることである。【方法】対象は腱板断裂患者229 名で,初診1 ヵ月以降の治療方針(手術または保存)を目的変数,患者立脚評価を説明変数とした決定木分析と傾向スコア分析を行い,治療方針のオッズ比を算出した。【結果】決定木分析にてもっとも手術療法が選択される手術療法傾向群と,もっとも保存療法が選択される保存療法傾向群に分け,それ以外を中間群とした。傾向スコア分析を考慮したオッズ比は,保存療法傾向群に対して手術療法傾向群で11.50 倍,中間群に対して手術療法傾向群で3.47 倍の手術療法が選択された。【結論】腱板断裂患者の治療方針の予測には,SST における4 つの質問の重要性が示唆された。
【目的】肺炎罹患により,理学療法(Physical Therapy;以下,PT)を実施した当院精神科病棟入院患者の死亡転帰にかかわる因子を検討すること。【方法】対象は2015 年1 月~2018 年11 月の間に,医療・介護関連肺炎(Nursing and Healthcare associated Pneumonia:以下,NHCAP)を発症し,PT を実施した当院精神科病棟入院患者とした。PT 開始から120 日の観察期間中に,死亡した患者を死亡群,生存した患者を生存群とし,Cox 比例ハザード分析を用いて,死亡転帰にかかわる因子を検討した。【結果】解析対象は81 名,観察期間中の死亡者は31 名(38.3%)であった。Cox 比例ハザード分析では,年齢と発症時Body Mass Index(以下,BMI)が採択された。【結論】NHCAP を罹患した当院精神科病棟入院患者の死亡転帰は,年齢と発症時BMI に影響されることが示唆された。
【目的】Bennett lesion に起因する棘上筋のinternal impingement が症状の原因と思われる症例に対し,投球動作の改善を目的とした運動療法を行った結果,競技復帰が可能となったので報告する。【方法】症例は右肩関節の投球時痛が主訴の29 歳男性。投球動作はearly cocking 期から胸椎伸展と投球側への体幹回旋保持が不足し,非投球側への早期の体幹回旋運動の開始および過剰な体幹側屈がみられた。投球時痛は肩甲上腕関節後方に認め,身体機能評価から棘上筋のinternal impingementが痛みの原因と考えられ,肩関節への負荷の少ない投球動作を獲得するための運動療法を行った。【結果】異常な投球動作に関連する身体機能の改善を図った結果,全力投球が可能となった。【結論】身体機能評価から障害部位を推定し,投球動作の改善を目的とした運動療法を行うことが重要であると考えられた。
【目的】重症熱傷受傷後に早期から理学療法を行い,退院できた幼児を経験したので報告する。【症例】2 歳の男児,重症熱傷に対し人工呼吸管理下に治療を開始した。熱傷面積は体表の72% で,頸部・体幹・右上腕は全周性にⅢ度熱傷であった。入院後5 日目より理学療法を開始し,気管挿管中は鎮痛下で関節可動域練習を行った。抜管後,関節可動域練習や歩行練習を実施したが,本人が痛いと拒否するため介入に難渋した。また,筋力低下により基本動作には重度の介助を要した。入院後103 日目以降,熱傷の軽快とともに歩行練習等を行えるようになり,運動機能は急速に回復し,152 日目に退院した。関節可動域は全周性にⅢ度熱傷であった部位以外には制限を認めず,運動機能は屋外歩行が可能となった。【結語】2 歳の重症熱傷児でも人工呼吸管理中の鎮痛下より関節可動域練習を行い,熱傷の時期に応じた運動療法を施行することで,屋外歩行が可能となるまで回復した。
【目的】脳卒中患者に対する早期離床を発症後48 時間以内の起立と定義し,有効性および安全性について検証すること。【方法】対象は脳卒中患者とし,早期離床導入前群(以下,導入前群)と早期離床導入後群(以下,導入後群)に分けた。主要アウトカムは退院時のBarthel Index ならびにmRS とした。副次項目は不動関連の合併症ならびに神経学的有害事象とした。【結果】導入前群110 名,導入後群93 名であった。Barthel Index は導入前群と比較して導入後群で有意に高かった。mRS(0–1) に該当する者は導入前群と比較して導入後群で有意に多かった。不動関連の合併症は導入前群と比較して導入後群で有意に少なかった。神経学的有害事象は両群間で有意差を認めなかった。【結論】発症後48 時間以内の起立と定義した早期離床は,脳卒中患者においてテント上病変ならびに保存的治療例で安全に実施可能で機能的予後を良好にし,不動関連の合併症を減少させる。