経頭蓋磁気刺激(以下,TMS)に関して,Baker らの報告以来,これまでに多くの研究が報告されてきた。 非観血的な方法であることから理学療法に関連する学術大会や学術誌においてこの方法を用いた研究が報告される例は多く,患者を対象とする臨床研究も散見されるようになってきた。このような状況を鑑み,当該刺激方法に関する安全性を検討する委員会を有する国内学会や,国際的な指針からの情報を簡潔にまとめ,理学療法領域の研究に従事する方々に情報共有することが肝要との判断から,声明を発出するに至った。TMS を用いた研究にかかわる場合には,必要な知識の習得と十分なトレーニングが重要であり,今後,大学院カリキュラムのレベル,あるいは卒後教育のレベルで,トレーニングの標準化を検討するべきであろう。現時点では個々人の技術と知識の習熟状況,および実施環境などから慎重に行われつつ,さらに知見が蓄積されていくことを望む。
【目的】重度脳卒中者の退院時Functional Independence measure(以下,FIM)の要因と転帰先,入院時能力の関係を検討する。【方法】回復期リハビリテーション病棟入院時にFIM 運動項目値が38 点未満の脳卒中者47 名を対象に退院時FIM 値の因子分析を実施。因子得点と転帰先の関係を調査し,入院時Functional Movement Scale(以下,FMS)値,FIM 値を,偏順位相関分析を実施した。【結果】自宅転帰者は全員が介助者を要していた。因子分析では2 因子が抽出され,自宅転帰者15 名中,食事・整容がかかわる第2 因子の因子得点が0 以上の症例が14 名であった。第1 因子は入院時FMS 複数項目と,第2 因子は入院時FIM 認知項目値と相関が高かった。【結論】自宅転帰には両因子得点が高いと可能性が高く,入院時FMS とFIM 認知項目は両因子の予測の一助となる可能性がある。
【目的】重症COVID-19 患者の急性期における骨格筋量の変化と骨格筋量減少の危険因子を調査した。【方法】人工呼吸器管理となった重症COVID-19 患者15 人を対象とし,骨格筋量は腹部CT より骨格筋指数(以下,SMI)を計測した。SMI の変化率によりSevere muscle atrophy 群とmild muscle atrophy 群に分類し,背景因子を比較検討した。また,Severe muscle atrophy の危険因子を決定木分析にて評価した。【結果】急性期においてSMI の変化率は–8.1% であり有意に減少した。決定木解析では第1 分岐因子はBMI であり,23.4 kg/m2 以上で50%,第2 分岐因子はAPACHE Ⅱscore であり,17 点以上で75%であった。【結論】重症COVID-19 患者は入院中に骨格筋量の減少を認めた。また入院時のBMI とAPACHE Ⅱ score は,骨格筋萎縮のリスク因子である。
【目的】日本語版高齢者運動セルフエフィカシー尺度の信頼性・妥当性を検証した。【方法】保健事業参加高齢者を対象とした。翻訳はバイリンガル2 名の順翻訳と逆翻訳を経た。再テスト信頼性検証に級内相関係数とBland-Altman 分析,内的一貫性検証のためCronbach のα 係数,同時的妥当性検証に運動セルフエフィカシー尺度との相関分析,因子構造とモデル検証のため探索的および確証的因子分析を行った。【結果】対象294 名中217 名を解析した。再テスト信頼性の級内相関係数0.57,α 係数0.95。運動セルフエフィカシー尺度との相関係数は0.42 で,運動行動変容段階や最大歩行速度と有意な相関を認めた。3 つの因子負荷量は0.5 以上,寄与率62.3%。因子名は環境的負荷,身体的負荷,精神的負荷とした。【結論】構成概念妥当性が確認され,モデル適合度はRMSEA を除き高値だった。再評価信頼性の検証が課題として示された。
【目的】男子大学生の血管内皮機能に影響を与える要因モデルを構築し, 強度別身体活動量,血圧および体脂肪率との関連を明らかにする。【方法】対象は,健常な男子大学生22 名とした。血管内皮機能関連因子は,体脂肪率,血圧,運動習慣の有無を調査測定し,身体活動量は低強度身体活動時間,中高強度身体活動時間を測定した。調査測定項目と血管内皮機能との関連は,パス解析を用いてモデルの適合度を検証した。【結果】血管内皮機能に対し,拡張期血圧が直接的に,体脂肪率および低強度身体活動時間が拡張期血圧を介して間接的に影響した(χ 2 値 = 3.122,CMIN/DF = 0.520,GFI = 0.952,CFI = 1.000,RMSEA < 0.001,AIC = 21.122)。【結論】男子大学生の血管内皮機能は,低強度身体活動時間および体脂肪率の多寡が拡張期血圧を介して影響を及ぼすことが示唆された。
【目的】地域在住高齢者における骨量・筋量低下と身体活動との関連性を明らかにすることを目的とした。【方法】地域コホート研究(垂水研究2018)に参加した地域在住高齢者173 名を分析対象とした。骨量低下は%YAM が70% 以下とし,筋量低下は四肢骨格筋指数がサルコペニアの基準より低いものとした。身体活動量は3 軸加速度計を用いて,座位行動時間延長,中高強度身体活動時間低下,歩数低下の有無に分類した。骨量・筋量をもとに正常群,骨量低下群,筋量低下群,骨量・筋量低下群の4 群に分類し,基本情報および身体活動を比較した。【結果】骨量・筋量低下群は正常群と比べて中高強度身体活動時間が有意に減少していた(オッズ比3.29,p < 0.05,共変量:年齢(5 歳階級),性別,歩行速度低下,うつ傾向)。【結論】骨量・筋量低下を併存している高齢者は,中高強度身体活動時間が減少していることが示唆された。
【目的】二次進行型MS 患者の下腿三頭筋の痙縮に対して,FES を前脛骨筋に実施し,痙縮の減弱に伴い歩行能力向上を認めたため報告する。【症例】40 歳台男性。再発と寛解を繰り返しているMS 患者で,今回4 度目の再発にて歩行困難となり入院。ステロイドパルス療法が施行されたが,右下腿三頭筋の痙縮や前脛骨筋の筋力低下が残存し,歩行が不安定であった。【方法】FES は,歩行練習中に右前脛骨筋に対して5 日間実施した。評価は,介入前後でMAS や足クローヌス,6 分間歩行距離などを測定した。【結果】FES 介入前後でMASは2→1+,クローヌススコアは4 →1,6 分間歩行距離は80 m →150 m であった。【結論】前脛骨筋へのFES は,即時的に下腿三頭筋の痙縮を減弱させ,立脚期の反張膝や遊脚期での躓きが減少することで,歩行能力を向上させる可能性があることが示唆された。
【目的】首下がり症状を呈した変形性頸椎症2 症例の前方注視障害に対して,腰椎・骨盤矢状面アライメントの改善をめざした理学療法の有効性について検討することを目的とした。【症例】変形性頸椎症を既往とし,首下がり症状が出現した2 症例であった。両症例の立位姿勢は全脊柱アライメントより,頸部屈曲位,胸椎後弯,後方重心,また症例1 は腰椎前弯代償,症例2 は骨盤後傾代償が認められた。【経過】両症例ともに頸部および,腰椎・骨盤帯に対する理学療法を実施した。いずれも介入3 ヵ月で頸胸椎アライメントが改善し,一時的に前方注視可能となり,6 ヵ月で腰椎・骨盤帯アライメントが改善し,長時間前方注視可能となった。【結論】首下がり症状による前方注視障害の改善には頸部自動伸展機能の改善に加えて,矢状面上における脊柱全体と骨盤帯のバランスが取れた立位姿勢をめざした介入が有効であると考えられた。
【目的】筋筋膜性疼痛症候群を生じた進行性卵巣癌患者に対して,運動療法と経皮的電気刺激治療の併用により疼痛の緩和,オピオイド鎮痛薬使用量の減量,身体活動・身体機能・QOL の改善を認めた症例を経験したので報告する。【症例紹介】卵巣癌術後再発,肝転移,遠隔リンパ節転移,腹膜播種を有する40代の女性であった。再発・転移に対する化学療法中より頸部から殿部にかけて筋筋膜性疼痛症候群を認めた。【治療プログラムと経過】頸部から殿部にかけての筋筋膜性疼痛症候群に対して,運動療法に加え,疼痛部位に対する経皮的電気刺激治療を施行した。【結果】疼痛は理学療法開始後より経時的に緩和した。疼痛緩和に伴いオピオイド鎮痛薬使用量も経時的に減量した。また,身体活動,身体機能,QOL にも改善が認められた。【結論】運動療法と経皮的電気刺激治療の併用は,がん患者の筋筋膜性疼痛症候群に対する治療・サポーティブケアのひとつとなる可能性が示唆された。
【目的】本症例報告では,歩行獲得に難渋した全層植皮によるサイム切断例に対し,早期簡易的義足の使用による効果の検証を目的とした。【症例】55 歳,男性。創治癒が不良で,断端痛・幻肢痛により断端末荷重が不良であったサイム切断例。早期荷重を可能とするために,入院早期から脚長差に対し簡易的義足を作製し,仮治療用義足の作製までの34 日間を使用した。その結果,断端痛・幻肢痛の改善に伴い,入院時は歩行不能であったが,退院時に義足使用による屋外松葉杖歩行が2,000 m まで可能となった。【結語】本症例では,早期から脚長差を補完するために簡易的義足を用いて理学療法を行うことで,脚長差による異常歩行を予防し,円滑に義足歩行へ移行するために有効であった。
【目的】二次性サルコペニアを呈したTrousseau 症候群患者に対する理学療法について報告する。【対象と方法】卵巣癌の精査中に小脳梗塞を発症した50 代女性である。初期評価では,握力は右8.5 kg/左11.5 kg,快適歩行速度は0.73 m/ 秒,Skeletal Muscle mass Index(以下,SMI)は4.4 kg/m2 であり,重症サルコペニアを呈していた。分岐鎖アミノ酸を含む栄養療法でタンパク質の摂取量を漸増させ,運動療法は低負荷高頻度Resistance Training と有酸素運動を中心に実施した。【結果】最終評価では,握力は右18.9 kg/ 左19.3 kg,快適歩行速度は1.17 m/ 秒,SMI は5.6 kg/m2 と各指標で改善を認め,歩行自立で自宅退院となった。【結論】二次性サルコペニアを合併したTrousseau 症候群に対して,適切な栄養管理下の運動療法は効果的である可能性が示唆された。