イノベーション・マネジメント
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19 巻
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論文
  • ―BEPSに関するOECD/G20包摂的枠組の成果―
    菊谷 正人
    原稿種別: 論文
    2022 年 19 巻 p. 1-22
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/03/31
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    国際課税の主要な課題が国際的二重課税と国際的租税回避から国際的二重非課税にシフトした結果として、現在、「税源浸食と利益移転」(BEPS)が世界的に大きな政治・社会問題となっている。OECDは、多国籍企業のグローバル化と経済の電子化による国際的二重非課税に起因するBEPSに対処するために2015年10月に「BEPS最終報告書」を公表し、11月のG20財務大臣会議で採択されている。その後、OECDは経済のデジタル化から生じる税制上の課題に対処するために、「BEPSに関するOECD/G20包摂的枠組」(「BEPS包摂的枠組」)を2016年に設置し、BEPSに対する解決策の基礎を形成する可能性のある2つの柱の青写真に関する報告書を2020年10月に公表した。「第1の柱」は、すべての管轄地域間で公平な競争条件を確保し、課税権のより公平かつ効率的な配分を実現するために、事業利益に適用される課税根拠と利益配分に焦点を当てる。「第2の柱」では、国際的に営業している大規模事業者が少なくとも最低レベルの税金を支払うことを保証するために、最低法人税率の全世界的導入が提案されている。

    本稿では、「BEPS包摂的枠組」によって2020年10月に承認されたBEPSに関する2つの柱の青写真に関する報告書(「第1の柱」と「第2の柱」)のうち、「第2の柱」の内容・特徴および2021年10月のG20最終合意を解析した上で、国際課税の課題(BEPS)が理論的に探究される。

  • 高橋 慎
    原稿種別: 論文
    2022 年 19 巻 p. 23-48
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/03/31
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    本研究では、構造型ベクトル自己回帰(structural vector autoregressive:SVAR)モデルを用いて、S&P 500 E-mini先物のベスト・ビッド(最高値での買い注文)とベスト・オファー(最安値での売り注文)のファイルから計算されたオーダー・フロー・インバランス(買い注文と売り注文の差、order flow imbalance:OFI)と価格リターンの間の相互作用を分析する。よく知られている注文の数量などの市場変数の日内変動は、SVARモデルを1日の短い区間ごとに適用することで考慮し、一定区間で集計することによる内生性は、分散不均一性による識別(identification through heteroskedasticity:ITH)によって構造パラメータを推定することで処理した。ITHによる推定の結果、有意な内生性が存在すること、推定されたパラメータと関連する変量(OFIによって引き起こされるリターンの分散など)は市場変数の変動を反映して時間とともに変化することが示された。

  • ―取り組みプロセスと従業員の意識変化―
    丹下 英明, 新家 彰
    原稿種別: 論文
    2022 年 19 巻 p. 49-70
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/03/31
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    本稿では、中小企業がサステナビリティ経営に取り組むプロセスと、従業員の意識変化について、事例研究と従業員アンケートから分析を行った。その結果、以下の三点が明らかになった。

    第一に、中小企業におけるサステナビリティ経営への取り組みは、現状に危機感を抱いた経営者が、多様なステイクホルダーと出会い、情報を収集するなかで、社会的課題解決に取り組むビジネスモデルを形にしている。

    第二に、サステナビリティ経営への取り組みは、新製品の開発や、新たな販路開拓につながっている。こうした過程では、認証の取得や経営陣の協力、既存の取引先の活用が寄与している。

    第三に、サステナビリティ経営への取り組みは、従業員の意識変化につながっている。一方で、中小企業は、サステナビリティ経営の方針を従業員に浸透させることに課題を抱えている。特にパート社員において、そうした傾向がみられる。

    以上のように、サステナビリティ経営に取り組むことは、中小企業に多くの利点をもたらす。中小企業は今後、サステナビリティ経営の視点を取り入れることが重要だろう。

査読付き投稿論文
  • 石谷 康人
    原稿種別: 査読付き投稿論文
    2022 年 19 巻 p. 71-89
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/03/31
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    組織アイデンティティの研究分野では、その内容の形成にまつわる文献が少ない。そのため、組織アイデンティティの形成の「どのように(方法)」と「何を(内容)」と「なぜ(理由)」を結びつけることが課題となっていた。そこで、本論文では、組織の戦略とアイデンティティの相互関係性に着目しつつ、戦略の継続的遂行に対する縦断的アプローチから、組織アイデンティティの内容の形成について述べた。そのために、日本の不織布産業における乾式不織布のパイオニアであり、日本初となる高機能かつ高付加価値の不織布を積極的に開発しつつニッチ市場で競争優位を確立している金星製紙株式会社の事例研究を実施した。

    同社の開始時期の異なる再生PET繊維使用不織布事業や合繊エアレイド不織布事業の成功事例を調査することで、戦略とアイデンティティの相互関係性の視座から組織アイデンティティの内容の形成について考察した。その結果、同社の組織アイデンティティの形成では、代々の経営者による「高付加価値製品の積極的な開発によるニッチトップ戦略の追求」が深いプロセスとなっていたことが分かった。同社は、その影響を受けて(どのように)、自社の組織アイデンティティの内容を(何を)、不織布のニッチ市場で持続的競争優位を確立するために(なぜ)形成したことが分かった。

  • Yoshiko Kurosawa
    原稿種別: Refereed Article
    2022 年 19 巻 p. 91-112
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/03/31
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    The business succession of SMEs is becoming a serious issue, increasing number of business successions to women, which are often carried out with less management experience and no preparation period, so it is necessary to create an environment that promotes post-succession business growth. Preliminary research revealed inhibiting factors to include lack of management experience due to inadequate preparation time, limited time to manage the business due to juggling housework and childcare, and the scarcity of role models. An analysis of the differences in characteristics between male and female successors revealed significant differences in corporate age, number of employees, and managerial age. This study analyzed the financial data of 400 SMEs with female successors, using probit regression and multivariate analysis to measure the differences in corporate performance between intra-relative and non-relative succession and companies’ characteristics. Results showed that (1) companies succeeded to relatives were older in corporate and managerial age, and smaller (capital and employees); (2) sales and net income were lower, and profit margins tended to be negative, while the sales per employee tended to be higher; and (3) the higher the number of employees, the more profitable the company. In conclusion, female successors, who tend to be strong on increasing staff numbers and staff development, may be a positive for business growth.

研究ノート
  • ―イノベーション創出の基礎理論―
    洞口 治夫
    原稿種別: 研究ノート
    2022 年 19 巻 p. 113-126
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/03/31
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    組織は哲学の主体となりうる。伝統的な意味での哲学が、個人による知的な問いかけを行うのに対し、本稿では、組織が哲学を構築し、その内容を言語化しうることを主張する。組織は知識を創造し、組織学習、組織文化、組織行動に影響を与える。組織の規模、組織規範を再構築するうえでも、組織哲学が必要となる。組織を重要な分析単位とする学問領域には、政治学、経営学、法学、心理学、経済学、社会学があり、組織哲学の考察を通じて学際的な研究が構築されうる。組織の構成要員としてAI(人工知能)が加わる時代を迎え、人間を個人として捉えた哲学だけではなく、組織を主体とする哲学が新たに構築されるべきである。

  • ―『我社五十年のあゆみ』を中心として―
    安士 昌一郎
    原稿種別: 研究ノート
    2022 年 19 巻 p. 127-136
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/03/31
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    本稿では、大日本製薬株式会社における企業家活動を取り上げる。資料『我社五十年のあゆみ』を得たことで、共同出資により製薬会社、薬品試験機関を設立した大阪薬種商の重要性がより明確に把握できた。

    当該資料により、半官半民の大日本製薬会社が設立された時点で、パンデミック時の医薬品の安定供給が想定されていたことが判明した。この企業は、後に大阪の薬業者により共同設立された大阪製薬株式会社に吸収合併された。また薬業者に、良質な医薬品を調達し販売できないという問題意識があったこと、その状況を好転させることで「名声を回復する」意図が存在したことが明らかとなった。

    また品質試験の為の企業も共同設立した際は、欧米に倣って薬品試験の業務は本来民営にて行われるべきであると主張している。更に、日本の近代化が進行するに従い官営の衛生試験所が廃止される可能性もある、とも主張した上で私立の試験機関を立ち上げるに至ったことが分かった。

    彼らの行動力は薬業調査会の設置提案という形で、政府への働きかけにも表れている。加えて、個別の企業においても医薬品研究の進展を助ける育英事業が見られた。

    これまで研究してきた大阪の薬業者が持つ先見性、行動力、リーダーシップについて、新たな資料を通し、より一層明らかとなった。

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