理学療法科学
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21 巻, 1 号
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研究論文
  • 宮原 洋八, 竹下 寿郎, 西 三津代
    2006 年 21 巻 1 号 p. 1-5
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/24
    ジャーナル フリー
    この研究の目的は,地域在住の若者から高齢者を対象に膝伸展力,握力,長座体前屈,閉眼片足立ち,最大歩行速度を測定し,その関連を検討した。鹿児島県笠利町に居住する17歳~85歳の住民106名を対象とした。その結果,膝伸展力の平均値は男性で29.4 kg,女性では21.7 kgであった。膝伸展力体重比の平均値は男性で42.7%,女性では41%であった。膝伸展力の決定因は,全症例では閉眼片足立ちと最大歩行速度,中年群女性で最大歩行速度,高年群女性で握力と長座体前屈と年代や性により異なった。
  • ─若年者と中高年者を比較して─
    斉藤 琴子, 丸山 仁司
    2006 年 21 巻 1 号 p. 7-11
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/24
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は敏捷性と歩行能力の関係および年齢が及ぼす影響を明らかにすることである。健常若年者8名と健常中高年者8名を対象として,最大タッピングおよび最大ステッピング,10 m最大歩行(歩幅,歩隔,歩行速度,歩行率)を測定した。結果は若年者では歩行因子である歩幅,歩隔,歩行速度,歩行率と敏捷性の指標である最大タッピング,最大ステッピングとは有意な相関が見られなかったが,中高年者では最大ステッピングと最大歩行速度(r=- 0.71,p<0.05),最大ステッピングと最大タッピングに有意な相関が見られた(r=0.75,p<0.05)。歩行能力および敏捷性の変化については,最大タッピング,最大ステッピング,歩幅,歩行速度,歩行率で中高年者に有意な低下がみられた。以上の結果から,若年者では敏捷性と歩行能力には関係がみられないが,中高年者では下肢の敏捷性から歩行能力を推測することが可能なことが示唆された。
  • 劉 恵林, 霍 明, 丸山 仁司
    2006 年 21 巻 1 号 p. 13-16
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/24
    ジャーナル フリー
    健康成人19名を対象に,注意需要の指標であるプローブ反応時間を測定し,自転車エルゴメータ駆動時負荷強度とペダル回転数の変化により,至適ペダル回転数を求めた。方法では,運動強度は40,60,80,100,120 wattsにそれぞれペダル回転数20,40,60,80,100 rpmの条件で,プローブ反応時間を測定した。それぞれの運動強度のプローブ反応時間は回転数を要因とした分散分析の結果,有意な主効果がみられた。また,各ペダル回転数間を多重比較検定(Tukey-Kramer検定)した結果,80,100,120 wattsにおいて各ペダル回転数間で有意差を認め,プローブ反応時間は60 rpm時が最小値を示した。したがって,至適ペダル回転数は60 rpmであることが推察できた。
  • 崎田 正博, 高柳 清美, 中山 彰一, 花田 穂積, 熊谷 秋三
    2006 年 21 巻 1 号 p. 17-23
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/24
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,足底・足関節メカノレセプター及び下腿筋固有受容感覚が立位姿勢制御に及ぼす影響を検討することである。健常成人男性18名を対象に膝下冷却を行い,動的立位姿勢制御評価機器(Equitest)を用いてバランス能力を評価した。重心動揺やストラテジーは,閉眼や視覚誤認識,体性感覚に誤認識を与える課題が単一課題から重複課題になるに従い,重心動揺の増加や股関節ストラテジーを用いたバランス戦略へと移行した。潜時は,身体前方動揺よりも後方動揺に有意な遅延が生じ,後方動揺に対して姿勢回復に時間を要することが考えられた。応答振幅力においては,身体の前後両方向に対して姿勢回復に要する足関節底背屈力が冷却後有意に減少し,足関節周囲筋群の筋力的要素も姿勢平衡に重要であることが考えられた。
  • 宮原 洋八, 竹下 寿郎, 西 三津代
    2006 年 21 巻 1 号 p. 25-29
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/24
    ジャーナル フリー
    この研究の目的は高齢者を対象に,持久性能力と運動を測定し,それらの関連と地域特性を明らかにすることである。奄美大島の笠利町に居住する高齢者206人を対象とし,運動能力テストとして握力,長座体前屈,閉眼片足立ち,最大歩行速度を,持久性能力テストとしてPhysical Work Capacity,息こらえ,肺活量を採用した。各持久性能力は年齢と負の相関がなかった。息こらえは長座体前屈と肺活量は握力,最大歩行速度との関連が強かった。息こらえや肺活量は,他地域や全国値と比べ小さかった。
  • 板子 伸子, 潮見 泰藏
    2006 年 21 巻 1 号 p. 31-35
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/24
    ジャーナル フリー
    老人保健施設に入所する高齢障害者54名に対して,Visual analog scale(以下VAS)による主観的健康感の調査を行い,幸福感や運動機能,認知機能,意欲との関連性を検討した。結果は,VASによる主観的健康感が高い群の方が,中等度の群に比べてFIM認知機能が低い傾向が認められた。また,PGCモラールスケールとVASによる主観的健康感は弱い相関が認められた。これらの結果から,高齢障害者に対してVASによる主観的健康感を聴取する際には,認知機能の客観的評価とともに解釈する必要性はあるが,幸福感だけではなく健康感を含めることで,より具体的なリハビリテーションの目標設定が可能になるものと推測された。
  • 塩田 和史, 菅原 詠子, 菅原 慎吾, 牧野 美里, 佐々木 誠
    2006 年 21 巻 1 号 p. 37-41
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/24
    ジャーナル フリー
    障害物を見て記憶する仕方の相違が障害物を跨ぐ課題遂行に及ぼす影響について明らかにするために,健常学生25名を対象に,6つの条件下で障害物を視覚的に認知記憶させた後,障害物を跨がせた。静止した場合には,遠い条件よりも近い条件の方が障害物に近い脚の運びをしていた。静止した条件と接近した条件とでは跨いだ後の圧中心軌跡,障害物-足部距離に差はなかったが,15秒後に跨ぐよりも直後に跨ぐ方が有意に障害物に近い脚の運びをし,圧中心軌跡も安定傾向にあった。以上より,障害物からの距離が近いと障害物を自身が跨ぐものとしてよりリアリティーを持って認識でき,記憶から動作に移る時間が短い方が適応的に跨げることが示唆された。
  • 上岡 裕美子, 吉野 貴子, 菅谷 公美子, 大橋 ゆかり, 飯島 節
    2006 年 21 巻 1 号 p. 43-48
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/24
    ジャーナル フリー
    外来脳卒中後遺症者(患者)と担当理学療法士(PT)それぞれが認識している理学療法目標の比較検討に用いるために,脳卒中後遺症者の外来理学療法の目標となる項目を抽出することを目的とした。最初に,医療専門職18名から外来リハビリテーションにおける目標を広く抽出し,その中から外来理学療法目標となり得る項目をPT5名によって選択した。これに患者5名および文献から得られた外来理学療法目標を加えた。次いで,グループKJ法によって似通った項目をグループ化し抽象度を統一した結果,60項目が抽出された。最後に3組の患者と担当PTを対象に予備調査を行ったところ,抽出された外来理学療法目標60項目を用いて患者と担当PTが認識している目標を数量的に把握することが可能であることが確認された。
  • 山路 雄彦, 坂本 和義
    2006 年 21 巻 1 号 p. 49-53
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/24
    ジャーナル フリー
    健常成人女性を対象に上肢振戦を測定した。高速フーリエ変換と自己回帰モデルよりトータルパワー(TP)とピーク周波数を算出して検討した。TPは,40歳代,50歳代になると高くなり,60歳代では低くなった。60歳代の5-8 Hz帯の帯域別TP含有率は高い傾向にあるが,50歳代,60歳代の8-14 Hz帯の帯域別TP含有率は低い傾向にあった。ピーク周波数は,20歳代,30歳代においては,2峰性を示しているが,40歳代になると3峰性の対象者が多く,60歳代では3峰性が多かった。年代が高くなるとTPの増加,5-8 Hz帯のTP増加,8-14 Hz帯のTP減少,ピーク周波数の2峰性から3峰性へ移行することがわかった。
症例研究
  • 上杉 雅之
    2006 年 21 巻 1 号 p. 55-58
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/24
    ジャーナル フリー
    対象は3歳5か月の時に低酸素性虚血性脳症と診断された女児。患児は治療開始当初の3歳8か月のとき寝返りができなかった。治療期間は3歳8か月から8年間実施した。今回,患者に抗重力伸展活動を促す理学療法を実施した。その結果,患者は四肢の痙縮,腰背筋群のアテトーゼ,下部体幹から骨盤周囲筋群の低緊張,右下肢の屈曲スパズムを呈したが,患児は9歳8か月で独歩可能となった。
  • 海部 忍, 森岡 周, 八木 文雄
    2006 年 21 巻 1 号 p. 59-63
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/24
    ジャーナル フリー
    今回,発症から約6ヵ月経過後も半側空間無視が残存している脳卒中片麻痺患者に対して認知運動療法の理論に基づいたリハビリテーションを実施した結果,症状にある程度の改善を認めた。リハビリテーション開始時,机上検査では☆印抹消課題にて右1/3程度のみの抹消結果であったが,6週間後には左下の一部を見落とす程度にまで改善した。それに伴い,当初見られていた車椅子駆動時における左側物体への衝突や左折の見落としがなくなるという動作場面においても改善が認められた。これらの結果から,半側空間無視に対して,認知過程(知覚-注意-記憶-判断-言語)を考慮した,体性感覚情報を中心とするリハビリテーションを遂行することにより,空間認知における「方向性注意の学習」が成立し,無視側身体に対する注意の喚起が可能となることが示唆された。
  • ─ホーチミン市小児リハビリテーションセンターでの活動経験から─
    石井 博之
    2006 年 21 巻 1 号 p. 65-68
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/24
    ジャーナル フリー
    私の発展途上国での国際協力の経験から,リハビリテーションの治療技術などは向上しているにもかかわらず,坐位保持装置など福祉機器の適切な導入の必要性を感じていた。そこで今回,ベトナムホーチミン市にある小児リハビリテーションセンターにおいて,現地で購入した素材を用いて坐位保持装置を作製し,その有効性を検討した。
特集
  • 谷 浩明
    2006 年 21 巻 1 号 p. 69-73
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/24
    ジャーナル フリー
    セラピストが臨床で用いる教示とフィードバックの学習効果について概説する。教示はその注意をinternal focusではなく,external focusに向けさせるのが学習に効果的である。external focusの特徴を持つ外在的フィードバックについても,教示と同様,学習効果が高いが,こうした言葉による介入は,学習者自身の潜在的な学習を阻む危険をはらんでいる。また,従来とは異なる考え方として,自己決定の要素を含んだ練習方法を紹介する。
  • 長崎 浩
    2006 年 21 巻 1 号 p. 75-79
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/24
    ジャーナル フリー
    基本動作の運動協調性を運動学だけでなく運動力学(筋トルク)のレベルで議論した。多関節運動の場合に発生する相互作用トルクを定義して,その意義と役割をリーチ動作を例として説明した。相互作用トルクは小脳失調症などの運動協調障害の説明にもなりうる。相互作用トルクは多関節運動に関してベルンシュタインが指摘した反力現象の1例であり,その解明は今後の理学療法学に新たな展開をもたらすであろう。
  • 豊田 平介
    2006 年 21 巻 1 号 p. 81-85
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/24
    ジャーナル フリー
    本稿では運動障害における行為の調整と学習に関して,片麻痺者の身体情報の知覚と実際の行為について検討した。制御の観点から知覚には自己の知覚と環境の知覚の二つの機能が存在する。片麻痺者でこの二つの機能を測定するため間隙の通過といった限定的な行為場面を設定し,移動レベルの変化に伴いπ数を測定していった。π数より身体情報の知覚と実際の行為において乖離する時期があることが重要である。個々の片麻痺者において経過は様々であり,一定の経過を辿るのではないことも確認された。環境に適応していくための行為の調整と学習には多様性があるということを指摘した。そして最後に運動療法への展開を述べた。
  • 潮見 泰藏
    2006 年 21 巻 1 号 p. 87-91
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/24
    ジャーナル フリー
    本稿では,CarrとShepherdによって考案された運動学習モデルに基づいて,脳卒中患者の機能回復と運動学習の関係について論じた。脳卒中患者が自立した日常生活を送るためには,多様な条件下での学習を支援し,獲得した動作を汎化させることが重要である。より高い技能を獲得するには,運動学習の過程で課題の特異性を考慮し,適切な環境条件を設定することが重要な鍵となる。
  • 大橋 ゆかり
    2006 年 21 巻 1 号 p. 93-97
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/24
    ジャーナル フリー
    本稿では,理学療法の近接領域―心理学,生理学,力学―における知見や着想のいくつかを概観しながら,理学療法と運動学習の接点を検討する。技能獲得の方法論に“KR”という概念を与えたのは行動主義心理学である。一方,スキーマ理論は認知心理学の情報処理理論を利用しながら独自の概念を作り上げて行き,技能獲得の方法論を改定した。また,ダイナミカル・システムズ理論は,生理学領域の反射理論や階層理論を批判し,心理学領域からはエコロジカル・アプローチを取り入れ,さらに力学領域の理論も応用して構築された。ダイナミカル・システムズ理論の臨床応用が課題指向型アプローチである。運動学習は理論的にも臨床応用的にも“直ぐ使える”ようでありながら,なかなか理学療法の領域に浸透してこない。その理由は何か,運動学習理論を理学療法に取り込むには何が必要かを提言し,本稿の結びとする。
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