アオコを作る藍藻の中には毒素を作る種類があるが,その中のMicrocystin属の毒素を中心に,毒素を生産する種類,毒素の化学,生理作用などについて以下の順でまとめた。
(1)日本の湖沼で水の華を作る主要な藍藻種には,Anabaena flos-aquae An.circinalis, An.spiroides, Aphanizomenon flos-aquae, Microcystis aeruginosa, M.viridis, M.wesenbergii, Oscil-latona rachiborskiiなどがあるが,最も普遍的に長期間その出現がみられるのはMicyocystis属によるものである。
(2)有毒アオコとして動物に被害を与えたと報告されているものは,主にMicrocystis属に含まれる肝臓毒素と,Anabaena,Aphanizomenonに含まれる神経毒素である。
(3)Microcystis属に含まれる毒素microcystinは,特殊なアミノ酸を含む7種のアミノ酸からなる環状ペプチドであるが,そのうちの2種のL一アミノ酸の違いとデヒドロアラニンとアスパラギン酸のメチル基の有無により今では40以上の成分が知られるようになった。そのうち日本産Microcystis属に含まれる主要成分は,microcystinRR,YR,LRであり,これらの3種の毒素はM.aeruginosaのLグループとM.viridisの全ての株とM.aeruginosaのSグループの一部の株に含まれる。また,microcystinはAnabaena,Oscillatoriaの一部の種類にも含まれている。
(4)microcystinはマウスなどの哺乳動物の肝臓に特異的に作用し,肝臓のうっ血,肝細胞の懐死を引き起こすほか,動物プランクトン,魚類に対しても致死作用を示す。この毒素のマウスに対する毒性LD
50は腹腔内投与で70-100μg・kg
-1であり,1-2時間で死亡する。また,microcystinは発ガンのプロモーターとしての作用を持ち,この作用も肝臓に特異的であることが明らかとなっている。
(5).Anabaenaの毒素anatoxin aはAn.flosaquae,An.circinalis,Aph.flos-aquaeなどに含まれ,コカインに類似した構造を持つ分子量165のアミンである。この毒素の致死作用は4-5分でみられ,マウスに対しては,筋肉の麻痺などを,鳥などに対し反弓緊張作用をおこす。生理学的にはアセチルコリンのレセプターに結合し,後シナプスの脱分極を阻害する。
(6)anatoxina(s)は、An.flos-aquaeから分離され,分子量252のメチル化された燐酸を含む環状ヒドロキシグアニジンである。この毒素はanatoxinaと似た作用のほか,マウス等に対し涙や唾液の分泌を促進させる作用を持ち,興奮伝達物質であるアセチルコリンを分解するコリンエステラーゼの作用を阻害する。
(7)Aph.flos-aquaeには海産渦鞭毛藻Alex-andrium属が生産し,麻痺性貝毒の原因物質であるsaxitoxin,neosaxitoxinが含まれている。これらの毒素は神経や骨格筋において細胞の興奮の伝達でみられるNaイオンやKイオンの調節の過程で,Naチャンネルのレセプターに結合し,その作用を阻害する。
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