陸水学雑誌
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54 巻, 3 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
  • 石田 昭夫
    1993 年 54 巻 3 号 p. 163-169
    発行日: 1993/07/28
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    中国のみから記録されているHalicyclops sinensisと,普遍種ではあるが未記録だったPara-Cyclopspoppeiを日本で初めて記録した。日本海の舳倉島から記載されその後の記録のなかったHalicyclops japonicusと,北海道襟裳で採集記録のあるBryocamptus laccophilusの屋久島における分布ならびに,九州から記録されたOchyidacyclopssp.の四国および北海道における分布を記録した。これらの種について識別のための図と分布に関する論議をそえた。
  • 宮原 裕一, 渡辺 宏, 鈴木 潤三, 鈴木 静夫
    1993 年 54 巻 3 号 p. 171-178
    発行日: 1993/07/28
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    牛込濠の湖水,植物プランクトン及び標品のフォスファターゼ活性に及ぼす五種のテトラピロール化合物の影響について観察した。
    三試料のアルカリフォスファターゼ活性は,使用したビリルビン,ビリベルジン,メソポルフィリン,ウロビリンにより阻害されたが,阻害強度は化合物によって異なる。酸フォスファターゼはウロビリンを除く4種のテトラピロール化合物により阻害を受けた。
    これらの化合物によるアルカリフォスファターゼ,及び酸フォスファターゼの阻害形式は,Line-weaver-Burk plotにより解析された。さらに,アルカリフォスファターゼに対するウロビリンの影響を調べるために,両者を混合させた溶液のゲルクロマトグラフィーを行った結果,アルカリフォスファターゼの活性中心である亜鉛がウロビリンとキレートを形成し,脱離する可能性が示唆された。従って,テトラピロール化合物のフォスファターゼ阻害は,テトラピロール化合物のキレート形成によるものと推察された。
  • 池田 知司, 松本 達郎, 吉舎 廣幸, 石田 祐三郎, 河合 章
    1993 年 54 巻 3 号 p. 179-189
    発行日: 1993/07/28
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    関西地方を中心に淡水赤潮を形成するPeridinium bipes f. occultatumの増殖制限因子を,AGP試験とP.bipesの生理的特性および赤潮発生貯水池の元素濃度から推定した。
    P.bipesの淡水赤潮が発生する3か所の貯水池においてAGP試験を行ったところ,主に表層水ではリンあるいは窒素とリンの添加によりP.bipesの増殖が促進された。また各貯水池の主要な栄養塩濃度とP.bipesの栄養要求特性を比較検討した結果,第1の増殖制限因子はリンで,次いで窒素が制限となっていることが明らかとなった。
    奈良県旭貯水池において,赤潮発生日数をP.bipesの貯水池内での増殖の指数として,この年変化の要因を検討した結果,河川流入水量の増加に伴って,貯水池内の第1と第2の増殖制限因子である全リンと全窒素濃度が増加し,その結果として赤潮発生の長期化(P.bipesの大増殖)を引き起こしている可能性が推察された。
  • 遠藤 修一, 奥村 康昭
    1993 年 54 巻 3 号 p. 191-197
    発行日: 1993/07/28
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    最近15年間に得られた自記流向流速計による連続測流,およびレーダによるブイの追跡観測の結果から,夏季のびわ湖表層には,反時計回りの第1環流と,時計回りの第2環流が安定して存在していることが確認された。これらの環流の位置は,従来考えられていた位置とは大きく異なっている。いわゆる第3環流については顕著には認められなかった。
  • 岩熊 敏夫, 上野 隆平, 野原 精一
    1993 年 54 巻 3 号 p. 199-212
    発行日: 1993/07/28
    公開日: 2009/12/11
    ジャーナル フリー
    1988年5月から1989年6月にかけて富栄養湖の湯の湖でユスリカ相と幼虫個体群及び貧毛類の現存量変動を調べた。10カ所の底質及び優占する沈水植物,コカナダモ(Elodea nuttallii(PLANCH))の付着物の幼虫を室内飼育することにより,16種,1,213個体のユスリカ成虫を回収した。Diclotendipes lobiger(KIEFFER)とPsectrocladius yunoquartus SASA は水深7m以下の底質から,Tanytarsus nippogregarius SASA et KAMIMURAは水深10m以下の底質から羽化したが,Chironomus nipponensis TOKUNAGAはすべての水深から羽化し,10mより深い地点の底質から羽化する唯一の種であった。C.nipponensisとT.nippogregariusは底質から羽化した全個体の93%を占めていた。沈水植物付着物からは9種が羽化しD.lobiger,P.yunoquartusおよびCricotopus trifasciatus(MEIGEN)の3種で全羽化個体の96%を占めていた。
    水深7mの地点でのユスリカの年平均密度および年平均現存量はそれぞれ2,210m-2および3.8gd,w.・m-2であった。そのうちC.nipponensis幼虫は1,800m-2(81%)と3.5gd.w.・m-2(93%)を占めていた。貧毛類の年平均現存量は13.7gd.w.・m-2と高いものであった。C.nipponensis個体群は重なり合う2つのコーホートに分けられ,1つは4月に羽化しそのうち一部が,早めに前年の10月に羽化をしていた。もう1つは5~7月に羽化した。大量に流入する温泉水を含む地下水が底層の水温を上昇させ,C.nipponensisが1年で生育することができるものと考えられた。
    1979年から1981年にかけて行われた調査で記録された15種のうち5種は今回採取されなかった。水草の種組成と現存量の変化がユスリカ群集に影響を及ぼした可能性が考えられた。
  • 知北 和久, 細萱 陽, 棗 床輔
    1993 年 54 巻 3 号 p. 213-224
    発行日: 1993/07/28
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    1989年9月―10月の期間,北海道の小カルデラ湖,倶多楽湖で水位,水温,流速及び気象の観測を行い,内部波の特性についてFFTによるスペクトル解析を行った。この時期は,湖の放熱期にあたり,表層の水温は徐々に低下した。水温躍層の下の流動機構は,回転性の内部波による周期運動によって励起されることが,水位,水温及び流速のスペクトル解析によって明らかになった。また,湖の上を吹く風は,毎日の陸海風と一時的な低気圧通過時によるものとがあり,前者が太平洋に近い倶多楽湖を特徴づけている。相対的に強い海風と低気圧通過時の東風の両方により,3.1-3.3hの周期の時計回りまたは反時計回りの内部波が励起されること,一方,低気圧の通過時には,2,7hの周期の時計回りの内部波も同時に優勢であることが観測された。
  • その生物学的、化学的特性
    渡辺 真利代, 原田 健一
    1993 年 54 巻 3 号 p. 225-243
    発行日: 1993/07/28
    公開日: 2010/03/04
    ジャーナル フリー
    アオコを作る藍藻の中には毒素を作る種類があるが,その中のMicrocystin属の毒素を中心に,毒素を生産する種類,毒素の化学,生理作用などについて以下の順でまとめた。
    (1)日本の湖沼で水の華を作る主要な藍藻種には,Anabaena flos-aquae An.circinalis, An.spiroides, Aphanizomenon flos-aquae, Microcystis aeruginosa, M.viridis, M.wesenbergii, Oscil-latona rachiborskiiなどがあるが,最も普遍的に長期間その出現がみられるのはMicyocystis属によるものである。
    (2)有毒アオコとして動物に被害を与えたと報告されているものは,主にMicrocystis属に含まれる肝臓毒素と,Anabaena,Aphanizomenonに含まれる神経毒素である。
    (3)Microcystis属に含まれる毒素microcystinは,特殊なアミノ酸を含む7種のアミノ酸からなる環状ペプチドであるが,そのうちの2種のL一アミノ酸の違いとデヒドロアラニンとアスパラギン酸のメチル基の有無により今では40以上の成分が知られるようになった。そのうち日本産Microcystis属に含まれる主要成分は,microcystinRR,YR,LRであり,これらの3種の毒素はM.aeruginosaのLグループとM.viridisの全ての株とM.aeruginosaのSグループの一部の株に含まれる。また,microcystinはAnabaena,Oscillatoriaの一部の種類にも含まれている。
    (4)microcystinはマウスなどの哺乳動物の肝臓に特異的に作用し,肝臓のうっ血,肝細胞の懐死を引き起こすほか,動物プランクトン,魚類に対しても致死作用を示す。この毒素のマウスに対する毒性LD50は腹腔内投与で70-100μg・kg-1であり,1-2時間で死亡する。また,microcystinは発ガンのプロモーターとしての作用を持ち,この作用も肝臓に特異的であることが明らかとなっている。
    (5).Anabaenaの毒素anatoxin aはAn.flosaquae,An.circinalis,Aph.flos-aquaeなどに含まれ,コカインに類似した構造を持つ分子量165のアミンである。この毒素の致死作用は4-5分でみられ,マウスに対しては,筋肉の麻痺などを,鳥などに対し反弓緊張作用をおこす。生理学的にはアセチルコリンのレセプターに結合し,後シナプスの脱分極を阻害する。
    (6)anatoxina(s)は、An.flos-aquaeから分離され,分子量252のメチル化された燐酸を含む環状ヒドロキシグアニジンである。この毒素はanatoxinaと似た作用のほか,マウス等に対し涙や唾液の分泌を促進させる作用を持ち,興奮伝達物質であるアセチルコリンを分解するコリンエステラーゼの作用を阻害する。
    (7)Aph.flos-aquaeには海産渦鞭毛藻Alex-andrium属が生産し,麻痺性貝毒の原因物質であるsaxitoxin,neosaxitoxinが含まれている。これらの毒素は神経や骨格筋において細胞の興奮の伝達でみられるNaイオンやKイオンの調節の過程で,Naチャンネルのレセプターに結合し,その作用を阻害する。
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