陸水学雑誌
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55 巻, 3 号
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  • 近田 俊文, 滝井 進, 福井 学, 楠岡 泰, 松本 源喜, 鳥居 鉄也
    1994 年 55 巻 3 号 p. 185-192
    発行日: 1994/07/30
    公開日: 2009/12/11
    ジャーナル フリー
    南極ドライバレー地域のプリクセル湖における水中細菌の数・細胞サイズ・現存量の垂直分布について,1985年12月にアクリジンオレンジ染色による直接計数(AODC)法を用いて調べた。湖水中の全菌数は,表層(水深5.0m)の5.4×105cells・ml-1から底層(水深19.0m)の1.7×107cells・ml-1に増加した。細菌の細胞サイズについて,湖水全層にわたり平均細胞幅0.37-0.64 μmおよび平均細胞長1.04-1.85 μmの範囲の桿菌が優占していたが,10.0mと12.5m層では平均細胞サイズが若干大きかった。細胞体積量から炭素量に換算した細菌現存量は,0.017-0.29mgC・1-1の範囲であり,それは全有機炭素量に対して0.75-5.9%を占めた。湖水から分離した80株について属レベルの同定を行った結果,そのほとんどはPseudomonas, Acinetobacter-Moraxella, Caulobacterに属していた。また,硫酸塩還元細菌が底層水から検出された。
  • 森川 和子, 殿 隆史
    1994 年 55 巻 3 号 p. 193-199
    発行日: 1994/07/30
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    多摩川中流域是政において河川水と河床付着層の細菌群集を,アクリジンオレンジ染色法,INTフォルマザン計数法および4段階の培養温度による平板法によって計数した。本調査地点における水質変動は,前報に述べた前年の結果と等しく,DOCとP-化合物の変動は調査日から遡って5日間の流量変動と高い相関をもって変動した。調査地点の環境要因について主成分分析を行った結果,前報とほぼ同様に,DOC,PO4-P,TDP,NH4、-N,NO3-N,河川水中のクロロフィル量等からなる主成分を得た。平板法による計数値では20℃における値が年間を通じて最も高く,また20℃で得た付着層の細菌は主成分と有意の相関を持って変動した。また,5℃の培養で得られた付着の細菌数は,水温変動に2カ月遅れて変動した。しかし,河川水中の細菌数はいずれの測定方法でも環境要因とは独立に変動した。付着層の細菌群集の変動が環境要因と呼応して変動したことから,付着層における細菌群集は河川における自生的な種であり,河川水を流れて行く細菌群集の多くは他生的な種であると考えられた。AO染色法・INT計数法による細菌数の変動は,環境要因との関連が認められなかった。なお,これらの計数の際,付着層標本のフィルターには微少粒子が混在していたが,河川水標本には見られなかった。
  • 中野 伸一
    1994 年 55 巻 3 号 p. 201-211
    発行日: 1994/07/30
    公開日: 2009/12/11
    ジャーナル フリー
    琵琶湖における従属栄養鞭毛虫のリン排出速度を見積もり,鞭毛虫の本湖のリン循環における重要性を検討した。鞭毛虫の細胞密度は0.67から11×106cells・1-1の範囲にあり,蛍光色素ラベルされた細菌を用いる方法による細菌摂取速度は0.20から23×108bacteria・1-1・d-1であった。細菌の炭素含量は季節的に大きく変化した(0.53~15fmolC・cell-1)が,そのC:P比は比較的安定であった(モル比で106±25,n=24)。これらのデータとある数式モデルから,鞭毛虫によるリンの排出速度を見積もった。このモデルの信頼性を確認するために,C:P比が30から103の細菌を用いた培養実験を行った。この実験の5回のうち4回において,このモデルから見積もられた鞭毛虫のリン排出速度は,他の方法で見積もられたそれによく一致した。琵琶湖における鞭毛虫のリン排出速度は,0.11から59nmolP・1-1・d-1と大きく変化し,一次生産に必要なリンの4.2から31%に相当した。以上の結果から,琵琶湖の鞭毛虫は主要ではないが重要なリンの供給者であり,また植物プランクトンの一次生産には他のリン供給源も必要であることが考えられた。
  • 中里 亮治, 渡辺 泰徳
    1994 年 55 巻 3 号 p. 213-221
    発行日: 1994/07/30
    公開日: 2009/12/11
    ジャーナル フリー
    蛍光顕微鏡による湖沼堆積物中の細菌数の直接計数法の検討
    湖沼堆積物中の細菌の直接計数法について蛍光顕微鏡を用いた検討を行った。計数効率を評価するため既知密度の細菌を含む合成堆積物を使用した結果,アクリジンオレンジ(AO)染色の場合では非生物粒子と細菌との判別が困難で細菌数を正確に評価できなかった。一方,4'6-diamidino-2-phenylindole(DAPI)染色では93%以上の計数効率が得られた。染色時のDAPI濃度としては1.0μg・ml-1において計数性が最も優れていた。堆積物粒子から付着細菌を分散させるには剥離剤としてピロ燐酸ナトリウム(10mM)を添加し超音波処理をすることが有効であった。さまざまな希釈濃度における堆積物粒子による視野内遮蔽面積と細菌計数値の変化などから,堆積物をフィルターに濾集する場合には,含水率,粒子組成,デトライタスの形状と量などの堆積物の性質に応じて最適希釈量を検討する必要性が示唆された。
    この直接計数法を用い諏訪湖湖心堆積物の細菌数の垂直分布を調べた結果,表層(0-3cm)で2.94×1010細胞・g乾重-1,深層(45-50cm)で3-5×109細胞・g乾重-1であり,平板希釈法での計数法のそれぞれ600,1,500倍の値を示した。また画像解析装置を用いて計測したDAPI染色による細菌細胞長の分布は表層と深層で差がみられ,表層でより大型の細菌の比率が高かった。堆積物中の細菌細胞数やサイズ分布と堆積物中の有機炭素量との関係をあわせて考察した。
  • 石田 紀郎, 赤羽 耕介
    1994 年 55 巻 3 号 p. 223-228
    発行日: 1994/07/30
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    琵琶湖産イサザ(Chaenogobius isaza TANAKA)に含まれる水田用除草剤CNPを1963年から1987年までの25年間にわたって分析した。CNPは1965年から使用されているジフェニール・エーテル系の除草剤であり,水田の田値え前後にのみ使用される。滋賀県下でのCNP使用量とイサザ体中の濃度との相関係数は0.404であり,CNPの使用量の変化だけではイサザ体中濃度の変化を合理的に説明することはできなかった。そこで,農薬の水田からの流出に大きな影響を及ぼす雨量(本剤が使用される5月と6月上旬の雨量)およびCNP使用量との関係を調べたところ,相関係数は0.527となった。しかし,1965年から1975年までと1976年から1987年までのイサザ体中の蓄積傾向は異なっており,使用量および雨量以外の要因が関与していると考えられたので,農業排水の琵琶湖への流入様態を大きく変えた圃場整備事業の進捗率を加味して考察した。使用量,雨量,進捗率から求めた係数とイサザ体中の濃度との間の相関係数は0.851となり,1965年から1987年までのイサザ体中のCNP濃度変化をかなりの程度説明することが可能となった。以上の調査結果および考察から,水生生物への農薬の蓄積動態には当該農薬の使用量のみならず水をとりまく環境の変化が大きな影響を及ぼすとの結論を得た。
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