陸水学雑誌
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55 巻, 4 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
  • 山本 鎔子, 田中 和明, 小森 登
    1994 年 55 巻 4 号 p. 241-245
    発行日: 1994/10/28
    公開日: 2009/12/11
    ジャーナル フリー
    湖沼から分離された粘液細菌Myxococcus属の生産するカビ臭について
    諏訪湖の湖水および湖庭泥堆積物から分離された粘液細菌Myxococcus属11株が,培養の過程でラン藻や放線菌と同様のカビ臭を生産することが判明した。カビ臭の原因はgeosminで,分離株の一つMY-2では培養初期には菌休1gあたり,およそ400μg生産され,培養後期には細胞外に溶出される。いままで水域のカビ臭に関わる生物は,ラン藻や放線菌であると考えられていたが,粘液細菌もその一つである可能性の高いことが示された。
  • 水上 善博, 小森 琢, 川嶋 宗継
    1994 年 55 巻 4 号 p. 247-255
    発行日: 1994/10/28
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    琵琶湖畔における降水の化学的研究(滋賀県大津市)I.pH,溶存イオンおよびそれらの起源
    1990年12月から1993年11月の3年間に,滋賀県大津市で24時間分の降水サンプルを採取し,溶存イオンの化学分析を行った.降水サンプルの89%がいわゆる酸性雨であった.相関分析の結果,降水のpHは硫酸と硝酸による酸性化とアンモニアと炭酸カルシウムによる中和の結果であることがわかった.サンプル毎にイオンの濃度は大きく変動した(変動係数:97%~194%).通常行われているように,Na+を基準として海塩補正を行うと,多くのサンプルで海塩濃度が過大に評価されることがわかった.すなわち,Mg2+,Cl-,Ca2+,およびK+の濃度が負に計算される場合が生じた.このことは,海塩起源以外のNa+が存在することを示唆しており,本研究では,海塩補正の基準イオンをサンプルによって変えた.主成分分析による多変量統計解析を行った結果,溶存イオンを起源によって分類することができた.その結果,H+,SO42-,NO3-およびNH4+は主としてガス起源,Na+,Mg2+,Cl-は海塩起源,Ca2+,K+およびH2PO4-は土壌起源であると分類された.
  • 落合 正宏, 清水 裕一
    1994 年 55 巻 4 号 p. 257-266
    発行日: 1994/10/28
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    鶴見川下流域のTR-07(鷹野大橋)より下流の感潮領域にて,河川水中の懸濁態炭水化物,アミノ酸,クロロフィル色素を測定した。懸濁態炭水化物,アミノ酸を,アラビノースとクロロフィル色素を指標として用い,上流より供給された部分と現場にて生産された部分とに区別し,各地点における各々の割合を求めた。上流より供給された懸濁態炭水化物とアミノ酸の感潮領域での挙動に相違が観測された。上流より供給された懸濁態炭水化物はTR-07より下流で徐々に低下し,懸濁態アミノ酸はTR-06(末吉橋)より下流にて急激に低下した。この様な挙動の相違は懸濁態炭水化物とアミノ酸が感潮領域における塩化物イオン他のイオン強度に対し異なる挙動をとるためであろう。
  • 関 鉄兵, 谷口 真人
    1994 年 55 巻 4 号 p. 267-277
    発行日: 1994/10/28
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    琵琶湖における固有振動を明らかにするために,湖水位実測記録の周波数分析と有限要素法を用いた数値実験を行い,両者を比較した。
    実際の琵琶湖での固有振動を明らかにするために,琵琶湖北湖と南湖の2カ所で湖水位を記録し,その振動の周波数分析を行った結果,五つの卓越振動周期が得られた。
    有限要素法を用いた琵琶湖の固有振動の数値実験では,琵琶湖全域を241節点・357要素の三角形有限要素に分割し,それぞれの節点についての固有値・固有ベクトルを算出した。固有振動のうち,30分以上の長い周期の振動について,振動モードを求めた結果,振動周期の異なる七種類の振動モードを得た(ModeI~VII)。
    琵琶湖内にある沖島が固有振動に与える影響を調べた結果,本研究で対象とした周期の長い振動では,影響はほとんど認められなかった。さらに,北湖と南湖の境界部の形状が,ModeIの振動に与える影響を明らかにするため,湖岸・湖底条件を変えて数値実験を行った結果,境界部の形状が浅いほど振動周期が長くなり,広いほど振動の形態に影響を与え,かつ振動周期が短くなることがわかった。
    実測した湖水位記録を用いた周波数分析の結果得られた振動は,有限要素法を用いた数値実験結果のModeI・II・III・V・VIの五つの振動モードと対応しており,実測および数値実験の双方から琵琶湖の固有振動を明らかにすることができた。
  • 高野 敬志, 日野 修次
    1994 年 55 巻 4 号 p. 279-286
    発行日: 1994/10/28
    公開日: 2009/12/11
    ジャーナル フリー
    何が茨戸湖の夏季優占浮遊藻類種を変化させたか?
    茨戸湖において,1989年以前の夏季の優占種であり,例年濃密な水の華を形成していたMicrocys-tis aeruginosaなどのラン藻が1990年以後にはほとんど出現せず,替わって同時期にケイ藻種が優占するようになった。リン酸態リン(PO4-P)濃度は1989年以前では年間を通じて常に検出されていたが,1990年以後,5,6月には検出されなくなり,リンが欠乏していると考えられた。1991年には、8~9月にPO4-P濃度が再び増加した直後に数種のラン藻の発生が認められた。これらのことから,ラン藻からケイ藻への優占種の移行は,夏季に優占していたM. aeruginosaの成長が始まるであろう5,6月にケイ藻による取り込みによってPO4-Pが欠乏したため,その現存量を増加させることができず,替わってリン制限状態に強いケイ藻種が,低水温下,高いケイ酸濃度の状況下で入れ替わって好適に細胞数を増加させ,夏季まで優占したために起きたものと推定した。
  • 大野 俊夫, 早川 典生
    1994 年 55 巻 4 号 p. 287-295
    発行日: 1994/10/28
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    自己回帰モデルによる統計的予測法は,観測データを時系列解析して,持続性のある変動部分を統計的に取り出し,この部分に着目して外挿する方法である。模擬結果と実際の貯水池の水温に予測モデル適用して,モデルの予測に関する有効性の評価法,適用上の注意点などを検討し,次の結論を得た。
    1)模擬結果よりモデルの予測の有効性の指標ηは65%となり,貯水池の貯水量や気候などの環境の時間的構造が変化しない場合,本モデルの予測法の適用により予測誤差の標準偏差を35%程度改善させることが期待できる。
    2)モデルの同定にあたり必要なデータ数Noは約40~50個以上の実測データの蓄積があれば,信頼性十分なモデルを同定できる。
    3)指標ηの値は,各水深によらず約88%となり,有効な予測法であるが,模擬結果(η~65%)の方が良好である。これは,実際の貯水池の貯水量や気候などの環境が不規則的に変化していることを示唆するものである。
    4)貯水池の水温の時系列には4~5日程度の振動が微弱ながら認められた。これは,三寒四温に代表される1週間ほどの気象変化を統計的に処理する結果,平均化されてこの周期として検出されたとみてよい。
  • 2.ヤマトビケラ科,ツノツツトビケラ科,フトヒゲトビケラ科およびホソバトビケラ科
    野崎 隆夫, 伊藤 富子, 谷田 一三
    1994 年 55 巻 4 号 p. 297-305
    発行日: 1994/10/28
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    日本産トビケラ目チェックリスト
    2.ヤマトビケラ科,ツノツツトビケラ科,フト ヒゲトビケラ科およびホソバトビケラ科
    日本産トビケラ目各種の分類,生物地理および種生態に関する文献のチェックリストの第2報として,ヤマトビケラ科,ツノツツトビケラ科,フトヒゲトビケラ科およびホソバトビケラ科のリストを示した。ヤマトビケラ科では,誤同定に基づく 4種 (Agapetus comatus PICTET, Agapetus fuscipes CURTIS, Glossosoma boltoni CURTISおよびGlossosoma vernale PICTET)を除き,現在までに日本から,2属10種のコヤマトビケラ亜科(新称)Agapetinae,1属9種のヤマトビケラ亜科Glos-sosomatinaeおよび1属1種のケシヤマトビケラ亜科(新称)Protoptilinaeが記録されている。そのうち,原記載論文中において種名に二つのつづりがみられた2種について,学名の訂正を行った(Agapetus budaensis KOBAYASHIおよびGlos・sosoma uogatanum KOBAYASHI)。しかし,まだ以下の5つの問題が残されている。1)ヒメナガレトビケラAgapetus annulicornis(MATSUMURA)は,雌の外形のみが記載されており,今後詳細な記載が必要である。2)幼虫と巣の記載だけがなされている多くの'種'では,種ときには属の特徴が明確に示されていない。3)Mystroglossa亜属の特徴が明確でないので,本亜属とSynafophora 亜属の関係を再検討する必要がある。4)イノプスヤマトビケラGlossosoma inops(TSUDA)は,隣接する国の近緑種と比較して,種名を検討する必要がある。5)雄交尾器が日本産の既知種と明らかに異なる北海道産の種の種名が確定していない。
    ツノツツトビケラ科(新称)Beraeidaeでは,最近はじめて日本から1種が記録された。
    フトヒゲトビケラ科では,現在までに日本から2属4種が記録されているが,次の3つの課題が残されている。1)ヨツメトビケラPerissoneura paradoxa McLACHLANとオオヨツメトビケラPerissoneura similis BANKSの地理的変異を調べる必要がある。2)Psilotreta armata MARTYNOVの模式標本を精査する必要がある。3)幼虫が他の2種と明らかに異なる,沖縄県産のキソトビケラ属Psilotretaの種名が決定されていない。
    ホソバトビケラ科では,現在までに2属3種が日本から記録されているが,クロホソバトビケラ(新称)Molanna nervosa ULMERの模式標本を精査する必要がある。
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