陸水学雑誌
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56 巻, 3 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • 大高 明史, 西野 麻知子
    1995 年 56 巻 3 号 p. 167-182
    発行日: 1995/07/31
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    1986年以来の調査で琵琶湖から記録された4科35分類群の水生ミミズについて,チェックリストを示し,分類学的考察を加えた。これには,過去に琵琶湖からの記録がある全種類と,3種の日本新記録種および5種の琵琶湖新記録種が含まれる。琵琶湖で記録された種数は,これまでに日本から知られている水生ミミズ類全体の58%に相当し,ひとつの湖としては日本の他の湖沼に比べて際だって多い。かつて琵琶湖から記載されたKawamuria japonica STEPHENSONは,エラミミズBranchiura sowerbyi BEDDARDの後部体節の鰓が退化した種内変異型と推測された。琵琶湖にはこの型のエラミミズが深底部にまで広く生息するという,他の湖には見られない特徴がある。
  • 牧 陽之助
    1995 年 56 巻 3 号 p. 183-193
    発行日: 1995/07/31
    公開日: 2009/12/11
    ジャーナル フリー
    岩手県松尾村の松尾五色沼は,春に「あお」く,夏に「しろ」くなって,秋と冬には「あか」であるが,春に向かってしだいに「あお」く澄む。夏に現れる単体イオウの白色懸濁物による「しろ」,また秋の鉄化合物の褐色懸濁物による「あか」の出現に対する微生物の関与を評価し,微生物による硫黄および鉄酸化活性を測定する目的で,約18ヶ月にわたって調査した。鉄(II)イオンと単体イオウを酸化基質として,懸濁物のもつ酸化活性を微生物による酸化活性,懸濁物を除いた湖水の酸化活性を化学的酸化活性として変動を調べ,湖色との関連を検討した。その結果,「しろ」の時期に対応して単体イオウ酸化活性は高くなっており,最大レベルで約2mgS8・l-1・d-1(約60μmol S8・l-1・d-1)に達した。このことから,「しろ」の出現に対して微生物が関与している可能性が示された。一方,鉄酸化活性は,最大レベルで5から6mgFe2+・l-1・d-1(約100μmol Fe2+・l-1・d-1)と見積もられ,「あか」くなると同時に急激に高くなった。鉄(II)イオンの全酸化量に対する微生物による酸化の割合は季節によって変化したが,酸化が盛んなときには,化学的酸化の10倍以上と見積もられた。
    一方,化学的酸化活性は一年を通してあまり変化しなかった。「しろ」の時期の鉄酸化活性は,溶存酸素が制限要因となって低く抑えられていると推測した。冬期の硫黄および鉄の酸化活性の低下は低水温によるものと考えた。
  • 倉茂 好匡, 竹中 健
    1995 年 56 巻 3 号 p. 195-203
    発行日: 1995/07/31
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    北海道東部・根釧原野を流れる西別川において,1993年7月と11月の平水時に,河川水の透明度の縦断分布をブラックディスク法で測定した。ブラックディスク法とは,河川水中においた黒色円板を水平方向に引き,これを特製の箱めがねを介して目視したときの最大距離をもって透明度とする方法である。西別川上流部における透明度は7m以上であったが,中流部以下では2m以下と低い値であった。また,透明度と懸濁物濃度との問には,強い負の相関関係がみられた。またこの関係から,清明な水塊中では少量の懸濁物濃度の増加が顕著な透明度の減少をひきおこすが,懸濁した水塊中では懸濁物濃度の変動に対する透明度変化の応答はにぶいことが判明した。懸濁物の灼熱減量値は20%以下の低い値を示した。懸濁物の粒径組成は,河床堆積物および河岸堆積物の細粒部分の粒径組成に類似していた。また,支流から供給される懸濁物の総量は,本流の河川懸濁物流量よりも十分に小さい値であった。これらより,西別川の平水時の懸濁物は河岸あるいは河床より供給された土砂起源の細粒物質であると考察した。単位河川長あたりの懸濁物供給量をみると,上流部および下流部では1g・sec-1・km-1程度であるのに対し,中流部では3~5g・sec-1・km-1の高い値を得た。この高い懸濁物供給量の発現原因については,今後の研究が必要である。
  • 松山 通郎
    1995 年 56 巻 3 号 p. 205-209
    発行日: 1995/07/31
    公開日: 2009/12/11
    ジャーナル フリー
    貝池H2S層上端には2種の大型の細菌, Chromatium sp.と Macromonas sp.が常時密集している。分離したChromatium sp.を無機培地中で色々な光合成有効輻射エネルギー(PAR)下で培養した。細菌は遮光下でも培地を満たしたガラス管内を上昇した。細菌はPAR1μmole・m-2・s-1以上で生長した。1994年7月24日,湖でのPAR測定は2種の細菌が出現し始める深さ4.5mで10μmole・m-2・s-1であったが、それらがピークを示す深さ5.0mで0.1μμmole・m-2・s-1以下に減衰することを示した。
    Chromatium個体群の75%以上は光が欠乏した状態にある。Chromatium sp.の個々の細胞はH2S層内を上昇し,その上端で光要求を満たすと推察された。
  • 宮島 利宏, 中野 伸一, 中西 正己
    1995 年 56 巻 3 号 p. 211-220
    発行日: 1995/07/31
    公開日: 2010/03/04
    ジャーナル フリー
    琵琶湖南湖における浮遊性珪藻類と粒子状珪酸の分布,堆積物・湖水間の珪酸の交換に関する観察結果を,特に大型中心目珪藻の出現と珪酸の沈殿・再溶解サイクルとの相互関係の観点から検討した。湖水中のアルカリ可溶性懸濁態珪酸の濃度と珪藻の個体群密度との間には強い相関があり,この結果から,調査期間中の優占種珪藻Aulacoseira granulataの1細胞あたりの珪酸含有量はおよそ8pmolと見積られた。細胞あたりの珪酸含有量は珪藻の分布密度が高い場合に減少する傾向が認められた。珪藻による珪酸の粒子化速度は,窒素やリンのような栄養塩の利用可能度によって制限されているものと推測された。アルカリ不溶性の懸濁態珪酸の濃度は懸濁態チタンや懸濁態アルミニウムの濃度と密接な相関があり,主に陸起源の粒子から成ることが推測された。南湖の不攪乱堆積物コアを用いた珪藻由来堆積物の培養実験では,おそらく底生無脊椎動物による摂食を通して堆積珪藻殻の再溶解が進み,珪酸が湖水中へ回帰した。しかし北湖の不攪乱堆積物からの珪酸の湖水中への回帰は,間隙水中の溶存珪酸プールからの拡散によって支配されていた。関連する過去の研究例と著者らのデータを総合すると, AulacoseiraやStephanodiscusのような大型の中心目珪藻が,溶存珪酸の粒子化と珪酸粒子の湖底への輸送との両方の過程に主要な寄与をしているが,堆積した珪酸粒子のうちで堆積物中に永久的に固定される比率は,堆積後の諸作用の影響を強く受けているものと結論された。
  • ワイスバード リチャード, 石井 雅男, 福島 武彦, 大槻 晃
    1995 年 56 巻 3 号 p. 221-226
    発行日: 1995/07/31
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    生態学や生物地球化学の研究では水中のDIC濃度を知ることが極めて重要であるが,現在利用されている手法はかなり難しいか,かなり不正確である。本論文では,市販の非分散型赤外線検出器(NDIR)を用いた有機炭素測定器が溶存態無機炭素(DIC)の測定においてかなり正確で,よい精度を有していることを示した(±2-3μmol・dm-3)。この精度は標準法であるCO2クーロメーターの精度±0.5-1μmol・dm-3と比べると悪いが,扱い易さ,繰り返し測定の容易さの点でこの器械は優れている。このため,DIC濃度の変化が比較的大きい水域でその空間分布を求める場合や離散的に生産量を測定する場合には,この器械による測定が有効である。しかし,海におけるDIC濃度の測定には,精度の観点からクーロメータニの利用が望まれる。
  • 牧 陽之助
    1995 年 56 巻 3 号 p. 227-231
    発行日: 1995/07/31
    公開日: 2009/12/11
    ジャーナル フリー
    1991年の7月,松尾五色沼の湖色が,「あお」から「あか」に変わった。この変化は,春には「あお」く,夏に「しろ」くなって,秋から冬には「あか」くなるという,通常の規則的な湖色変化とは異なるものであった。この現象を説明するために,1990年から1994年の5年間の湖色変化と,水温・溶存酸素濃度・降水量・風向・風速との関連を検討した。その結果,1991年の6月と7月には日雨量が50mmを超える強い風を伴った降雨が繰り返し起きた事がわかった。
    この時期には,停滞していた表層水の溶存酸素は1mgO2・l以下であったが,2mg O2・1-1以上の富酸素水の「くさび」が数回観測された。・以上の知見から,1991年の夏には,強い風を伴った多量の降雨が頻発し,一時的に表層水の溶存酸素量が増加し,その結果,硫化水素の酸化反応に加えて,鉄(II)イオンの酸化がすすみ,湖色が「あか」くなったと推察した。
  • 平 誠
    1995 年 56 巻 3 号 p. 233-236
    発行日: 1995/07/31
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    高層湿原の池溏における,セストン量と甲殻類プランクトン群集の種組成の関係を,苗場山頂湿原において調査した。水中のセストン量が約4mg・l-1より少ない池溏ではAcanthodiaptamus pacificus,約4mg・l-1から7mg・l-1までの中程度のセストンを有する池溏ではDiaphanosoma brachyurum,約7mg・l-1より多くのセストンを有する池溏ではDiphnia longispinaがそれぞれ優占した。これらの結果から,腐植物質を主とするセストンの量が、甲殻類プランクトンの種組成を決定する重要な要因の1つである可能性が示唆された。
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