岩手県松尾村の松尾五色沼は,春に「あお」く,夏に「しろ」くなって,秋と冬には「あか」であるが,春に向かってしだいに「あお」く澄む。夏に現れる単体イオウの白色懸濁物による「しろ」,また秋の鉄化合物の褐色懸濁物による「あか」の出現に対する微生物の関与を評価し,微生物による硫黄および鉄酸化活性を測定する目的で,約18ヶ月にわたって調査した。鉄(II)イオンと単体イオウを酸化基質として,懸濁物のもつ酸化活性を微生物による酸化活性,懸濁物を除いた湖水の酸化活性を化学的酸化活性として変動を調べ,湖色との関連を検討した。その結果,「しろ」の時期に対応して単体イオウ酸化活性は高くなっており,最大レベルで約2mgS
8・l
-1・d
-1(約60μmol S
8・l
-1・d
-1)に達した。このことから,「しろ」の出現に対して微生物が関与している可能性が示された。一方,鉄酸化活性は,最大レベルで5から6mgFe
2+・l
-1・d
-1(約100μmol Fe
2+・l
-1・d
-1)と見積もられ,「あか」くなると同時に急激に高くなった。鉄(II)イオンの全酸化量に対する微生物による酸化の割合は季節によって変化したが,酸化が盛んなときには,化学的酸化の10倍以上と見積もられた。
一方,化学的酸化活性は一年を通してあまり変化しなかった。「しろ」の時期の鉄酸化活性は,溶存酸素が制限要因となって低く抑えられていると推測した。冬期の硫黄および鉄の酸化活性の低下は低水温によるものと考えた。
抄録全体を表示