陸水学雑誌
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57 巻, 2 号
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  • 平林 公男, 市村 忠, 林 秀剛
    1996 年 57 巻 2 号 p. 99-106
    発行日: 1996/06/01
    公開日: 2009/12/11
    ジャーナル フリー
    Phaenopsectra kizakiensis幼虫の浮泳行動を調査するために,1985年5月13日から1986年1月8日までの期間,木崎湖湖心の異なった水深に6器のsediment trapを設置した。調査期間中,全trapで165匹のP. kizakiensis幼虫が捕獲できた。最も多く捕獲できたtrapは15m層に設置したもので,10月13日から20日にかけての7日間で57匹が捕獲された。幼虫の多くは,6月下旬から12月中旬にかけて捕獲でき,特に10月中旬かに11月初旬は多くの幼虫が捕獲できた。10月中旬から11月初旬は,木崎湖底層において溶存酸素量が1mg・l-1以下に減少する時期である。Ekman-Birge採泥器によって採集した湖底泥中.に生息する幼虫とtrapによって捕獲される幼虫との体長頻度分布を比較してみると,浮泳活動を行っている幼虫は4齢後期のものであることが明らかとなり,湖底層に形成される貧酸素水塊から逃れるために浮泳活動を行うものであることが示唆された。
  • 渡辺 泰徳
    1996 年 57 巻 2 号 p. 107-117
    発行日: 1996/06/01
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    奥多摩湖(中栄養)と諏訪湖(非常に富栄養)の表層水中の細菌プランクトンの生産速度に対する制限要因について,トリチウム標識チミジン取り込み速度を指標として研究した。湖水の1μmろ液中の生産速度は,全湖水中のそれに対して諏訪湖では65%,奥多摩湖では95%を占めており,浮遊性の小型細菌の寄与が大きいことが確認された。1時間当たりの細菌生産量(細胞数)を推定すると,現存量の約10%となり,サイズ分画間での差は見られなかった。湖水をサイズ分画して,明および暗条件下にインキュベートして生産速度を測定すると,1μm以上の分画では明条件の方が生産速度が高くなった。この傾向は諏訪湖では2,3日後,奥多摩湖では1日後から見られ,植物プランクトンからの光合成産物の供給が原因と思われた。奥多摩湖ではリン酸塩の添加が生産速度を上昇させたがアンモニウム塩は効果が見られず,湖水中のリン酸塩の枯渇が制限要因と考えられた。
    諏訪湖ではこれら無機塩の添加による効果は明確でなく,捕食による圧力が細菌数の制限要因になっていることが推定された。諏訪湖水のlμmろ液をインキュベートすると生産速度が5日後には50%,10日後には約20%に減少した。このときにセストンの水抽出液(有機炭素として10μg・l-1)を加えると生産速度が約2.5倍に増加した。チミジン取り込みによる細菌プランクトン生産の測定の有効性が議論された。
  • Charles W. HECKMAN, Benedito Rogério Santana TRINDADE, Edna Lop ...
    1996 年 57 巻 2 号 p. 119-132
    発行日: 1996/06/01
    公開日: 2009/12/11
    ジャーナル フリー
    During studies conducted from 1991 to 1994 in the Pantanal of Mato Grosso, the physical and chemical parameters of natural water bodies supporting populations of euglenophyte species were determined, and the data were used to discover the conditions under which the individual species actually live. The results show that there is considerable specific variability not only in the minima and maxima of the individual parameters at which each species occurred but also in the ranges, some species appearing only within a narrow spectrum of physical or chemical conditions and others being able to survive in the greatest variety of environments. Information on the temperature, pH, electrical conductivity, oxygen saturation, water hardness, and concentrations of calcium, cloride, iron, silicate, ammonium, nitrite, nitrate, and phosphate at which a total of 43 species survived is presented.
  • Janet W. REID, 石田 昭夫
    1996 年 57 巻 2 号 p. 133-144
    発行日: 1996/06/01
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    北米から得られたソコミジンコ,カントカンプタス科,Gulcamptus属の2新種を報告する。これまでG.uenoiMIURAとされていたアラスカの個体群は新種であることが判明したので,G.alas-kaensisと命名した。ヒューロン湖とアラスカから得られた雌のGulcamptus huronensis,n.sp.を記載した。雄は得られていない。Neomaraenobiotus FLOSSNERはGulcamptus MIURAの異名と考えられ,したがってN.laurentiacus FLOSSNERはGulcamptus属に移される。Gulcamptus属の記相を改める。Gulcamptusに属する種の分布は韓国,日本(北海道),カナダ(ユーコンとNorth West Territories)および合衆国(アラスカとヒューロン湖)に及ぶことになる。
  • 佐藤 泰哲, 中村 宗献, 加藤 賢治, 勾坂 宙
    1996 年 57 巻 2 号 p. 145-152
    発行日: 1996/06/01
    公開日: 2009/12/11
    ジャーナル フリー
    2年間に渡り,小野川湖の物理学的,化学的諸因子の分布を明らかにした。これらは,小野川湖の深水層における物質代謝と同湖の栄養状態を論じることのできる,初めてのデータ・セットである。
    小野川湖は2回循環湖で,深水層の溶存酸素は8月から10月になくなった。小野川湖と同時に形成された桧原湖では,無酸素層は形成されない。
    水深,栄養状態等の違いによるものと考えられる。更に,小野川湖の湖中林が酸素消費を促進している可能性もある。硝酸塩は,無酸素層で枯渇し,脱窒が示唆された。深水層のアンモニアは春から夏にかけ一貫して増加し,他方硝酸塩はこの期間減少する。アンモニアと硝酸塩の間の物質収支に基づくと,この湖では見かけ上硝化は起こらない。
    アンモニア生成速度と脱窒速度が硝化速度を上回れば,実際には硝化が起こっていても,今回の観測結果のようになるだろう。クロロフィルaの濃度は3~48μg・1-1で,初秋に年間の最大値に達する。秋期循環期のクロロフィルaの最大値は,桧原湖の約2-3倍である。春と秋の循環期の透明度の平均値は3mで,夏の成層期の平均値は5mであった。循環期の全リンの濃度は貧栄養の範囲,クロロフィルa濃度は富栄養の範囲,透明度は中栄養の範囲であった。また,夏季成層期の深水層が無酸素状態になることより,この湖は富栄養であると示唆される。以上より,小野川湖の栄養状態は中栄養と富栄養の境界にあると判断した。
  • 高野 敬志, 日野 修次
    1996 年 57 巻 2 号 p. 153-162
    発行日: 1996/06/01
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    1993年と1994年に北海道茨戸湖において,ケイ藻の出現種および現存量と栄養塩濃度,特に溶存性ケイ素濃度に注目して調査を行った。1993年では最大溶存性ケイ素濃度は例年より低く,ケイ藻の個体数の増加に伴って著しく減少し,6月の平均濃度は0.11mgSi・l--1あった。溶存性ケイ素濃度の減少によりMelosiya ambiguaの個体数が徐々に減少し,6月からCyclotella meneghinianaの個体数が増加してM. ambiguaに入れ替わって優占した。1994年では最大溶存性ケイ素濃度は高く,5~7月では最小濃度が0.49mgSi・l-1と1993年に比べて高かった。M. ambiguaの個体数も多く,4月から7月まで常にC.menegh-inianaの個体数を上回った。溶存反応性リン濃度も4月後半から5月前半で急激に減少し,6,7月は両年とも0.006mgP・l-1以下であったが,両年で大きな差はなかった。ケイ藻の体積当たりのケイ素含量は,1993年6月において0.07pgSi・μm-3であり,1994年5,6月の値と比べ低いものであった。M. ambigua, C. meneghinianaを用いて,短期間回分培養による成長速度を求めた結果,M.ambiguaはC. meneghinianaに比べ半飽和定数が高く,ケイ素制限下では成長が劣ることが示唆された。これらの結果から,1993年に観察されたM.ambiguaの個体数の減少とC. meneghinianaへの優占種の交代は溶存性ケイ素濃度の減少が原因であることが推定された。
  • 橋 治国, 井上 隆信
    1996 年 57 巻 2 号 p. 163-171
    発行日: 1996/06/01
    公開日: 2009/12/11
    ジャーナル フリー
    本研究は,都市近郊の浅い湖沼の富栄養化解析の基礎として,流入負荷の少ない札幌市近郊の茨戸湖の上部湖盆を対象とし,セジメントトラップを用いた短期間の沈降物捕集実験を中心にして,水中懸濁物質や底泥の組成分析とあわせて懸濁態窒素・リンの循環量について検討を行った。
    セジメントトラップは,口径5cm,筒長25cmのアクリル製円筒を水深2m,4m,6mに4個ずつ取り付けた装置を用い,アンカーとフロートを用いて湖心に設置し,3日後に回収した。
    流速と風速の観測結果から,本湖盆では風速が3m・s-1以上あると,湖水の混合により水質の鉛直分布の濃度差がなくなることがわかり,この地域の月別平均風速は3.7~4.3m・s-1であることから,本湖盆では常時湖水が混合されていることが推察された。
    沈降捕集物質・水中懸濁物質・底泥の各成分の含有率を比較すると,強熱減量・炭素・窒素・リン・Chl-aの成分で水中懸濁物質が高く,次いで沈降捕集物質,底泥の順になった。また,沈降捕集物質と水中懸濁物質はともに,水深が深くなるとこれからの含有率が小さくなった。鉄の含有率は,逆の傾向になった。
    沈降捕集物量は設置期間の平均風速に比例して増加した。また,平均風速が小さいと水深が大きくなるほど沈降捕集物量が増えるが,風速が大きくなると水深別の沈降捕集物量に差がなくなった。
    沈降捕集物量が増加すると一定の組成に近づき,この組成比は底泥の組成比に近くなることから,沈降捕集物質を舞い上がった底泥成分とそれ以外の水中懸濁成分の混合物と仮定して,強熱減量・炭素・窒素・リン・Chl-a・鉄の6つの化学成分を用いて分離することができた。
    水中懸濁物質と考えられる成分と舞い上がった底泥と考えられる成分の沈降速度は,それぞれ0.91m・d-1,22m・d-1になり,舞い上がった底泥成分の沈降速度が大きくなった。浅い湖沼においては舞い上がった底泥成分の湖内での循環速度が速いため,水中懸濁物質に含まれる栄養塩は,みかけの存在量以上に藻類増殖への寄与が大きいことが示唆された。今後,舞い上がった底泥成分の藻類増殖への寄与など,詳細な研究が必要であると考えられる。
  • 浜田 篤信, 佐々木 道也, 外岡 健夫, 岩崎 順
    1996 年 57 巻 2 号 p. 173-177
    発行日: 1996/06/01
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    波浪によって砂浜に打ち上げられた湖水が,砂層に浸透して再び湖岸水域に戻る過程で起こる浸透水中の窒素及びリンの変化を霞ケ浦湖岸の砂浜に浸透水採取用容器を埋設して周年にわたって観測し,砂浜における物質循環を検討した。浸透水中には,硝酸態窒素,アンモニア態窒素及びリン酸態リンが豊富に含まれており,分解が活発に行われていることが示唆された。全窒素濃度は,夏季には波浪によって砂浜へ打ち上げられる直前の湖岸水の35-80%に低下した。全リンは浸透の過程で無機化されたが,濃度の顕著な低下は認められなかった。こうした窒素とリンの浸透過程における物質代謝の差を反映してN/P比は浸透過程で低下した。
  • 松山 通郎
    1996 年 57 巻 2 号 p. 179-182
    発行日: 1996/06/01
    公開日: 2009/12/11
    ジャーナル フリー
    貝池H2S層上端に密集している光合成細菌,Chromatium sp.のいおう粒を欠いた細胞を色々な照度下におき,H2Sを有する液体培地を満たしたガラス管内での上昇運動を検討した。光の供給がないと,細胞はいおう粒を貯えることなく沈降した。12時間明暗周期での0.2μ mole・m-2・S-1の光の照射で,いおう粒を獲得した細胞は培地中を浮遊,あるいは上昇した。しかし,表層下を浮遊している細胞の数はゆっくりと減少した。10μ mole・m-2・S-1の照射では,全ての細胞はいおう粒を満たし,活発に生長し,培地中均質に分布した。細菌の上昇運動はいおう粒を貯えた細胞を光制限下におくと顕著であった。
  • 堀智 孝, 杉山 裕子, 金尾 昌美, 長井 正博, 谷口 延子, 杉山 雅人, 藤永 太一朗
    1996 年 57 巻 2 号 p. 183-192
    発行日: 1996/06/01
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    1992年4月から1995年3月に至る3年間,一か月間隔で,琵琶湖水中のSi,Al,Pの濃度変化をそれぞれの元素の溶存形態を区別して観察した。琵琶湖集水域の初年度の気象は平年並みであったが,2年次は異常な多雨,3年次は異常な少雨であった。琵琶湖の水位変化の様子と少雨期におけるDOC,Am-N,NO3-Nの変化を添えて,上記化学成分の観測結果を研究資料として提供する。
  • 倉茂 好匡, 豊島 照雄, 中野 繁
    1996 年 57 巻 2 号 p. 193-197
    発行日: 1996/06/01
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    北海道北部・パンケナイ川では,1993年から1994年にかけての冬期に,水棲動物の生息場所を再造成する目的で,河川改修に伴って敷設されたコンクリートを一部除去し,かつコンクリートを除去した流程のところどころに横断方向に丸太を敷設する工事を行った。コンクリートブロックはこの区間の基盤岩である第三紀泥岩の上に直接敷設されており,しかもこの泥岩が水飽和状態では柔らかい性質をもつため,コンクリートを除去した区間の河床は,工事直後の融雪出水により複雑に侵食された。本研究は,このコンクリートを除去した区間の1994年の融雪出水後の河床地形測量結果を公表し,今後の河川改修の基礎資料たらんことを目的とする。
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