本研究では,気候特性の変化が森林土壌中のNO
3--NやSO
42--Sの移動に及ぼす影響を明らかにするため,1992年から1994年までの土壌溶液中の溶存物質の濃度の変化をモニターした。その結果,以下のことが明らかになった。1)1992年および1994年に比べ,冷夏と呼ばれた1993年の夏季には,表層のNO
3--N濃度が上昇しなかった。そのため,1993年以降,林地に流入している硝酸汚染地下水は希釈され,1992年に比べ,2割以上濃度が低下した。2)土壌溶液中のNO
3--Nは,降水による流入と最表層の深度2.5cm付近で硝化反応によって生成され,微生物活動による硝化反応は,温度の依存性が確認された。3)深度75cmをフラックス面とした物質収支より,各年の夏季におけるNO
3--Nの生成量が推定され,1993年の夏季は明らかに他の年に比べNO
3--Nの生成量が少なかったことが示唆された。また,降水量が少なかった1994年の夏季には,水のフラックスが小さかったため,NO
3--Nの下方への流出量は小さかった。4)1993年以降土壌中のNO
3--N濃度の低下にともない,SO
42--S濃度の上昇が認められた。土壌中には,陰イオンとしてはSO
42--Sが主に吸着されているため,この成分が流出したことが示唆された。5)溶液中のSO
42--S含量は,溶液中の総イオン濃度が低下し,pHが上昇することに伴って,増大する傾向を示した。つまり,冷夏の年には,硝化反応が抑制され,pHも低下せず,陽イオン濃度も上昇しなかったため,吸着態のSO
42--Sがより流出したものと推定された。
抄録全体を表示