陸水学雑誌
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58 巻, 4 号
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  • 福原 晴夫, 田中 貴子, 和泉 みゆき
    1997 年 58 巻 4 号 p. 335-347
    発行日: 1997/12/01
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    浅く,比較的冨栄養化した砂丘湖の二つである佐潟(新潟市,37゜49'N,138゜53/E)において,マツモの成長と殖芽の形成率を調べた。春に採集したシュートのうち90%は殖芽から由来した。主軸の活発な成長は,6月から7月の下旬にかけて認められ,その成長率は0,98cmday-1であった。また,全シュート長(主軸+側枝)では5.21cmday-1であった。最盛期における平均主軸長は8月初旬に67cm,平均側枝長は7月下旬に213cmであった。8月下旬にはシュートの分断が起こり,切れ藻の状態となって成長を続けた。11月初旬には,少数の側枝を有した主軸長約3cmとなり,12月には殖芽のみが採集出来た。
    主軸及び側枝の先端部での殖芽の形成は10月から認められた。野外での殖芽の形成率は主軸55%,側枝10%で平均約20%であった。乾燥重量1g当たりに形成された殖芽は35.7個であった。マッモの現存量は,他の水域でも報告されているように年変動が著しく,これには特に成長開始時期の水温が重要であると推定された。茎の分断とその先端部での殖芽の形成は,本種が分布を広げる上で重要な手段となっていると考えられる。
  • 石田 昭夫
    1997 年 58 巻 4 号 p. 349-358
    発行日: 1997/12/01
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    Eucyclops serrulatusとE.speratusに類似する1新種Eucyclios roseusを記載した。本種はヨーロッパからアジアに広く分布すると見られる。日本において混乱していたE.serrulatusとE.speratusの分類は本種の存在が知れたことで部分的に解決された。琉球列島から北海道までE.roseus,E.serrulatusおよびE.speratus-likespeciesが分布するが,E.speratus s.str.は出現しない。日本のsperatus-likespecies complexは幾つかのタクサに分けられ,その一つは主に日本の北半分に,他方は南半分に分布する。E.roseusとE.speratus-like species complexの日本における棲み場所は池,湖沼,河川の中・下流域で,E.serrulatusのそれは一般的に山地水体と泉流に限られる。
  • 佐藤 泰哲, 勾坂 宙
    1997 年 58 巻 4 号 p. 359-372
    発行日: 1997/12/01
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    秋元湖は檜原湖,小野川湖同様,1888年の磐梯山の噴火に伴う泥流によるせき止め湖である。全窒素,全リン,クロロフィル,透明度に基づき,秋元湖は貧栄養と中栄養の境界にあると判断された。この栄養状態は,檜原湖と同じで小野川湖より貧栄養である。恐らく,最大水深(秋元湖33m,檜原湖31m,小野川湖21m)の違いが,この100年の間に,栄養状態の違いを生み出したのであろう'。
    この栄養状態の違いが秋元,檜原湖と小野川湖の間に,いくつかの湖沼学的な相違を生み出している。即ち,1)深水層における見かけ上のアンモニアの再生は,小野川湖では秋元湖,檜原湖の6~14倍である。2)秋元,檜原湖では,深水層の溶存酸素はゼロにならないが,小野川湖ではほぼ2カ月半,嫌気状態となる。3)硝酸塩の時空間分布より,3つの湖共に硝酸還元は起こっていると判断されるが,秋元湖,檜原湖では硝酸還元により深水層の硝酸塩がゼロになる前に秋の循環が始まる。小野川湖の硝酸塩はほぼ3カ月間,完全になくなる。4)硝酸塩の時空間分布より,秋元湖と檜原湖では硝化が起こっていると判断されるが,小野川湖では硝酸塩の時空間分布からは,硝化は示唆されない。アンモニア再生,硝化,硝酸還元活性のバランスが湖により異なると考えられる。
    これら3つの湖は歴史が明らかで,年齢が同じで,同一環境に存在するが,栄養状態は貧から中栄養の秋元湖及び檜原湖,中から富栄養の小野川湖と異なる。それ故,様々な観.点からの比較湖沼学的研究のために良い研究対象となろう。
  • 滝井 進, 李 建華, 林 秀剛
    1997 年 58 巻 4 号 p. 373-384
    発行日: 1997/12/01
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    長野県木崎湖湖心部の水深29mの堆積物におけるメタン生成と硫酸還元の季節変化を2年あまりに渡って調査した。底泥面積当たり(0-12cm)のメタン生成速度は平均1.89mmol m-2 d-1,硫酸還元速度は0.112mmol m-2 d-1であり,硫酸塩の制限のため,メタン生成が卓越した。メタン生成は深層(9-12cm)で活性が最大になることが多いが,硫酸還元は表層で活性が高かった。底層温度はほとんど6℃で変化しないにもかかわらず,季節的にはともに夏期を中心に活性が高い傾向があった。基質,阻害剤の添加や培養温度の活性に及ぼす影響から,硫酸還元は主に硫酸塩の供給によって制限されているのに対し,メタン生成を制限する主な因子は温度と考えられた。
  • 野原 精一, 花里 孝幸, 岩熊 敏夫
    1997 年 58 巻 4 号 p. 385-393
    発行日: 1997/12/01
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    湖への農薬の負荷量を把握するために,1990年の梅雨期の雨水中の農薬濃度を茨城県で測定した。降水中の最大農薬残留量はオキサジアゾンで4.2μgl-1であった。雨水中のフェノベンカーブ(BPMC),フェニトロチオン(MEP),エジフェンフォス(EDDP)の濃度は0.58,0.53,0.36μgl-1以下であった。フェニトロチオンの雨水からの年間降下量の割合は出荷量の1.5%と見積もられた。雨水による各農薬降下量は雨量や茨城県の農薬出荷量との有為な関係は見られなかった。1990年3月から12月に茨城県中沼の湖水及び一時的に流入する農業用水の中の農薬濃度を測定した。モリネート,シメトリン,イプロベンフォス(IBP),チオベンカーブの農業用水の中濃度は1.2μgl-1以上と高い範囲にあった。ダイアジノン,マラソン,フェンチオン(MPP)の農業用水の中濃度は02μgr1以下と低い範囲にあった。湖水中のシメトリンの最大濃度は0.91μgl-1であった。クロルニトルフェン(CNP)を除いて,湖水中の最大の濃度は農業用水の約1/10程度であった。湖沼への農薬流入を見積もる上で雨水を介しての流入は重要な流入源の一つである事が明らかになった。
  • 池田 知司, 大西 庸介, 籏持 和洋, 石田 祐三郎, 河合 章
    1997 年 58 巻 4 号 p. 395-403
    発行日: 1997/12/01
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    Peridinium bipes f. occultatumによる淡水赤潮が西日本の多くの貯水池において発生しており,この原因を本種の生理的特徴から検討した。P.bipesの増殖に関する最適光強度を無菌クローン株を用いた培養試験から求めた。本種の最適光強度は130μEm-2sec-1であり,同属のP.penardiiや淡水産珪藻類に比べて高い光強度に適応した種であった。
    リン,窒素,カルシウムおよびマグネシウムについて,本種の増殖に最適な濃度を,プルームを形成する同属種や他の植物プランクトンのそれと比較した。P.bipesはこれらの種と比較して低い栄養条件で増殖し得る種類と推定された。この高い光強度と低栄養条件で増殖できるという特徴が,西日本の多くの貯水池においてP.bipesによる赤潮が形成される要因となっていると考えられた。
    MONODの式に適合させて求めたP.bipesの最大比増殖速度(μmax)と半飽和定数(ks)を同属のP.gatunenseや4種の珪藻の値と比較した。P.bipesの最大比増殖速度(μmax)はこれらの種に比べて低く,半飽和定数(ks)は高いという特徴を持つ種であった。また本種の比増殖速度の最大値は0.171d-1であり,これは既知の植物プランクトンの値に比べて低いものであった。これらの増殖パラメータに関する特徴は,本種が共存する他の植物プランクトンに比べて,増殖において必ずしも有利な種ではないことを示している。
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