陸水学雑誌
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60 巻, 2 号
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  • 中西 正己, 関野 樹, 紀本 岳志, 津田 良平, 熊谷 道夫
    1999 年 60 巻 2 号 p. 125-137
    発行日: 1999/06/01
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    平年,琵琶湖では夏期にクロロフィル極大層が表水層中に観察される。しかしながら,異常渇水に見舞われた1994年9月には,クロロフィル極大層が水温躍層内に観察された(subsarface chlorophyll maximum layer)。本論文は,この年の諸環境を平年通りクロロフィル極大層が表水層中に形成された1993年のそれらと比較し,水温躍層中のクロロフィル極大層形成過程に関する以下のような仮説を提唱した。1.平年は栄養塩に富んだ河川水が表水層に供給されるのに対し,1994年は渇水によりその供給が途絶えた。このため,表水層の植物プランクトンが著しく減少し,植物プランクトンの成長に必要な充分量の太陽光が水温躍層内にまで届いた。2.硝酸態窒素が深水層より拡散等の物理過程を経て水温躍層内に供給された。さらに,内部波等のブレーキングにより巻き上げられた湖底堆積物を含む濁水が水温躍層内に侵入し,堆積物に含まれる鉄やアルミニウムに吸着したリンが,植物プランクトンの光合成による高pH下で放出された。3.充分な光と水温躍層中に放出された栄養塩を使って,植物プランクトン,特にピコプランクトンの成長が活発化し,水温躍層内にクロロフィル極大を形成した。
  • 野崎 健太郎
    1999 年 60 巻 2 号 p. 139-157
    発行日: 1999/06/01
    公開日: 2009/12/11
    ジャーナル フリー
    琵琶湖北湖沿岸の礫帯において,底生藻および浮遊藻群落の現存量と種組成の季節変動を1994年6月から1996年4月にかけて調べた。現存量の大きな季節変動は,底生藻群落では糸状緑藻 Spirogyra sp.,浮遊藻群落ではClosterium aciculare,,Staurastrum dorsidentiferum, Gomphosphaeria lacustrisの消長に起因していた。底生藻および浮遊藻群落の現存量の極大は,ともにわずか1~2種の優占的な増殖に由来していた。全藻類量に占める底生藻群落の割合は,全ての調査地点で平均90%以上であった。従って,本調査地では底生藻が基礎生産者として卓越していると評価された。湖沼沿岸帯における藻類群落の基礎生産構造は,一般的に浮遊藻および底生藻群落から成る2層構造と見なされてきた。Spirogyraの様な糸状緑藻も底生藻の1構成員とされてきたが,基質への付着器を持たないSpirogyraは,石面上で固着生活する底生藻群落(固着藻群落)を覆うように繁茂し,また群落内の光の消散係数は両群落で著しく異なっていた。従って,湖沼沿岸帯の藻類群落の基礎生産構造は,浮遊藻,糸状緑藻および固着藻群落から成る3層構造として捉えるべきであると結論付けた。
  • 伊藤 富子
    1999 年 60 巻 2 号 p. 159-175
    発行日: 1999/06/01
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    1994-1996年に北海道恵庭市漁川水系の源流において,シコツシマトビケラParapsyche shikotsuensis (IWATA)の生活史を調べた。この種は明瞭な年1化であり,成虫は6-8月に出現し,水面上と水中の石や倒木に卵塊を産み付けていた。その子孫は秋のうちに急速に成長し,10月までに3齢以上になり,ほとんどのものが5齢(終齢)になって冬を迎えた。冬の間も幼虫は発育し体重も増加した。幼虫はササなど河畔植生の水に浸かっている葉や茎,倒木,瀬に生息しており,2齢,3齢,5齢幼虫の密度は瀬でやや高かった。消化管内容物は55-95%が動物の砕片で,残りは維管束植物であった。動物質の割合は,齢間の比較では4齢幼虫で低く,採集時期間では10月に低く,採集した基質問では差がなかった。また,3,4,5齢幼虫について月間で比較したところ,10月には動物質の割合の低い傾向が共通して認められた。
  • 永翁 一代, 森川 和子
    1999 年 60 巻 2 号 p. 177-184
    発行日: 1999/06/01
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    多摩川に注ぐ野川上流域にある都市湧水・真姿の池湧水において,1993年3月より1994年10月まで,2週間間隔で採水を行い,従属栄養細菌数・AODCと環境要因を測定した。真姿の池湧水の水温は,年間を通じて16℃で一定であったが,平板法でえた従属栄養細菌数は2.6×10~1.6×103CFU ml-1の間で変動し,AODCは1.8×103~5.5×104 count ml-1の間で変動した。pHは平均6.71と中性であった。NO3--Nは4.28~7.78mgl-1で変動し,平均6.58mgl-1であった。TOC,NH4+-N,NO2--N,RP,TPは検出限界以下であった。従属栄養細菌数・AODC共に季節に呼応した変動はみられず,従属栄養細菌数とAODCの変動のパターンは一致していなかった。さらにAODCは,従属栄養細菌数より2桁~3桁多かった。また従属栄養細菌数の変動には,降水による影響が認められ,降水量の積算によって,従属栄養細菌数が3つに区分された。AODCとNO3--N濃度の変動に有意の正の相関がみられたので,窒素代謝に関係する細菌の存在が予想されたが,硝化細菌は検出されず,蛋白質分解細菌・脱アミノ細菌・硝酸還元菌・脱窒素細菌は従属栄養細菌数よりも少なかった。しかし,湧水中の従属栄養細菌に対する窒素代謝に関連する細菌数の割合は,湧き口から850m流下した地点より高く,湧水細菌群集は地中で高分子の分解能を持つ細菌が移動して湧出していることが示唆された。
  • 馮 延文, 小倉 紀雄, 馮 宗い
    1999 年 60 巻 2 号 p. 185-200
    発行日: 1999/06/01
    公開日: 2009/12/11
    ジャーナル フリー
    本研究では,北京郊外と東京郊外における大気汚染の実態,降水の化学組成を把握し,物質収支の差異を明らかにするために,1995年から1996年まで北京郊外の北京市林業局付属十三陵森林公園(以下十三陵と略記)と東京郊外の東京農工大学農学部波丘地付属実験実習施設(以下波丘地と略記)の2カ所の小流域で,調査を行った。この研究によって,以下のことが明らかになった。(1)1995年6月~1996年5月の降水の年間平均pH値は,十三陵で6.7,波丘地で4.7であった。pH値は北京郊外で東京郊外より高かった。(2)両地点の降水の化学組成はかなり異なり,十三陵ではSO42-濃度は平均325μeql-1で,陰イオンのおよそ70%を占め,酸性化には硫酸イオンの寄与が大きいと考えられた。波丘地で最大値を示したのはNO3-(平均46.5μeql-1)であり,全ての陰イオンの38%を占め,酸性化の原因は硝酸イオンの寄与が大きいと認められた。(3)両小流域の物質収支については,著しい差異が認められた。十三陵では,1995年6月~1996年5月の間に全ての可溶性無機物F-,Cl-,NO2--N,NO3--N,SO42--S,Na+,K+,Ca2+,Mg2+,H+,NH4+-Nの合計97.5kg ha-1 yr-1が集水域に蓄積した。波丘地では,Mg2+,Na+,F-が集水域から流出し,その他のイオンが蓄積する傾向が認められた。一方,フッ化物イオンについては著しい差異が認められた。十三陵では,フッ化物イオンの濃度および降下量は大きく,その約81%が小流域に蓄積したが,波丘地ではその濃度は小さく,インプットの約105%が流出した。フッ化物イオンは他の陰イオンに比べると著しく毒性が高いと言われており,十三陵で現在と同じレベルのフッ化物イオンが降下し続けると将来,地下水や植物に直接的な被害を与えることが考えられる。
  • 辻 彰洋, 唐崎 千春, 神松 幸弘, 山本 敏哉, 村山 恵子, 野崎 健太郎
    1999 年 60 巻 2 号 p. 201-213
    発行日: 1999/06/01
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    福井県敦賀市の中池見湿地において約50地点の調査地点を設け,春から夏にかけて付着ケイ藻群集ならびに水草と水質との関係について調査を行った。主成分分析による解析の結果,いずれの時期の調査についてもカルシウム,マグネシウムイオンやpHを中心とする成分が第一軸を形成し,付着ケイ藻群集や水草群集はこの軸に強く関係して存在していた。また,水草群集は酸化・還元を示すと考えられる第二軸と関係していたが,付着ケイ藻群集と第二軸との関係は明確ではなかった。これらの結果から水質環境の不均一性が生物の分布に影響を与えており,今後の湿地の生物相の保全を考える上で水質環境の保全を図ることが重要であると考えられた。
  • 角野 敦子, 竹門 康弘, 渡慶次 睦範
    1999 年 60 巻 2 号 p. 215-222
    発行日: 1999/06/01
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    1997年7月初旬に,奈良県吉野川支流高見川の砂地において,流下ネット・落下トラップ・自然基質入りトラップ(ギャップありトレイ,ギャップなしトレイ)・コアサンプラーを用いて野外実験を行い,河川底生動物における移動性について調べた。各採集手法によってサンプルのタクサ組成にばらつきがあり,ギャップありトレイとギャップなしトレイ間では差が見られなかったものの,それ以外のすべてにおいて,有意な差が見られた。タクサごとに解析すると,それぞれのトラップについて特徴的なタクサが存在した。ユスリカ以外の双翅目は流下ネットに多く,その逆にミズダニ類は少なかった。トビケラ目とChironominaeは落下トラップで多く,Tanypodinaeは自然基質入りトラップにおいて多く採集された。自然河床においてはカゲロウ目が大きな割合を占め,ユスリカ以外の双翅目が少なかった。これらの結果から,様々な行動パターンが推測された。また種問競争の可能性も示唆された。
  • 遠藤 修一, 山下 修平, 川上 委子, 奥村 康昭
    1999 年 60 巻 2 号 p. 223-228
    発行日: 1999/06/01
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    過去約30年間のびわ湖における水温記録を調べた結果,特に最近の10年間での水温上昇が顕著であることが判明した。このような水温上昇は地球温暖化の影響であろうが,特に底層水温は約2℃上昇しており,冬季における冷却が弱まっていることを反映している。びわ湖のような1回循環湖においては,冬季の冷却による鉛直循環によって年間の最低水温が生成され,これがその後の成層期における底層水温として保存される。通常なら冬季に全層一様となる水温分布が,最近の暖冬の影響で2月や3月においても弱い成層が残る傾向にあることは,いわゆる「びわ湖の深呼吸」を妨げていることになり,びわ湖の物質循環や生態系に悪影響を及ぼすものとして危惧される。
  • 1999 年 60 巻 2 号 p. 235-243
    発行日: 1999/06/01
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
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