本研究では,北京郊外と東京郊外における大気汚染の実態,降水の化学組成を把握し,物質収支の差異を明らかにするために,1995年から1996年まで北京郊外の北京市林業局付属十三陵森林公園(以下十三陵と略記)と東京郊外の東京農工大学農学部波丘地付属実験実習施設(以下波丘地と略記)の2カ所の小流域で,調査を行った。この研究によって,以下のことが明らかになった。(1)1995年6月~1996年5月の降水の年間平均pH値は,十三陵で6.7,波丘地で4.7であった。pH値は北京郊外で東京郊外より高かった。(2)両地点の降水の化学組成はかなり異なり,十三陵ではSO
42-濃度は平均325μeql
-1で,陰イオンのおよそ70%を占め,酸性化には硫酸イオンの寄与が大きいと考えられた。波丘地で最大値を示したのはNO
3-(平均46.5μeql
-1)であり,全ての陰イオンの38%を占め,酸性化の原因は硝酸イオンの寄与が大きいと認められた。(3)両小流域の物質収支については,著しい差異が認められた。十三陵では,1995年6月~1996年5月の間に全ての可溶性無機物F
-,Cl
-,NO
2--N,NO
3--N,SO
42--S,Na
+,K
+,Ca
2+,Mg
2+,H
+,NH
4+-Nの合計97.5kg ha
-1 yr
-1が集水域に蓄積した。波丘地では,Mg
2+,Na
+,F
-が集水域から流出し,その他のイオンが蓄積する傾向が認められた。一方,フッ化物イオンについては著しい差異が認められた。十三陵では,フッ化物イオンの濃度および降下量は大きく,その約81%が小流域に蓄積したが,波丘地ではその濃度は小さく,インプットの約105%が流出した。フッ化物イオンは他の陰イオンに比べると著しく毒性が高いと言われており,十三陵で現在と同じレベルのフッ化物イオンが降下し続けると将来,地下水や植物に直接的な被害を与えることが考えられる。
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