陸水学雑誌
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63 巻, 3 号
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  • 田中 明広, 浅枝 隆
    2002 年 63 巻 3 号 p. 189-199
    発行日: 2002/12/20
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    水生植物群落が発達した浅い池沼において,栄養塩濃度,植物プランクトン,動物プランクトン,魚の調査を1997年と1999年に実施した。1997年と1999年の水質及び各生物群集を比較すると,1999年は1997年にほとんど見られなかった大型の枝角類のDaphnia galeataが多く出現し,4月から5月にかけて植物プランクトンのCyclotella spp.やMelosira distans等が減少し,高い透明度が維持された。栄養塩濃度については,1999年の方が1997年よりも全般的に高かったことから,植物プランクトンの減少はDaphniaの摂食によるものであると考えられた。その後,Daphniaは餌不足やオオクチバス当歳魚の捕食等が原因となって見られなくなった。またオオクチバス当歳魚による捕食が確認された日では,Daphniaは水生植物群落の内部において,池心部よりも体長の大きな個体が生息していた。このことは水生植物群落の内部は,Daphniaにとって魚の捕食効率が低下する隠れ場となっていたものと考えられた。これらの結果から,高次の栄養段階にある生物群集が低次の生物群集に影響を与えるトップダウン効果が確認され,また今後の湖沼環境管理において高次の生物群集の役割も考慮する必要性を示唆するものであると考えられた。
  • 中井 智司, 井上 豊, 李 炳大, 細見 正明
    2002 年 63 巻 3 号 p. 201-207
    発行日: 2002/12/20
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    植物が生産するフェノール類;カフェー酸(CFA),p-クマル酸(CA),フェルラ酸(FA),プロトカテキュ酸(PCA),シナピン酸(SIA),シリンガ酸(SYA),バニリン酸(VA),カテコール(CAT),ヒドロキノン(HQ),キナ酸(QA),シキミ酸(SA),この他,フェノール(PHE),レソルシノール(RES),ヒドロキシヒドロキノン(HHQ),フロログルシノール(PHL)の藍藻類Microcystis aeruginosaに対する増殖抑制効果を評価した。上記物質の中では,多価フェノールCFA,PCA,CAT,HQ,HHQ,PHL,メトキシ基を有するフェノールSIA,SYAがM.aeruginosaの増殖を抑制した。これらの物質の構造と増殖抑制効果とを比較した結果,多価フェノールの中でも水酸基が互いにo-位やp-位にあるものの抑制効果は,m-位にのみ水酸基を有するものよりも強かった。また,多価フェノールの自動酸化挙動を評価した結果,自動酸化する多価フェノールのみがM.aeruginosaに対して顕著な効果を示すことが明らかとなり,多価フェノールの自動酸化が増殖抑制効果を誘導していることが示唆された。さらに,自動酸化により生成するラジカルの存在時間や多価フェノールの自動酸化の進行と増殖抑制効果との関係を評価した結果,多価フェノールによるM.aeruginosaの増殖抑制機構として「ラジカルや他の自動酸化生成物がM.aeruginosaの細胞に直接的なダメージを与えたり,代謝活動を阻害する」が提案された。但し,増殖抑制効果の主な要因となる物質はラジカル以外の自動酸化生成物であることが示唆された。
  • 阿部 信一郎, 南雲 保, 田中 次郎
    2002 年 63 巻 3 号 p. 209-213
    発行日: 2002/12/20
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    流速39,67および137cm s-1に調節した屋外人工水路に発達した付着藻類群落の動態を,ロジスティックモデルを使って解析した。赤池情報量基準を用いてモデルの適合性を比較した結果,ロジスティックモデルは,指数増殖モデルおよびゴンペルツモデルに比べ,付着藻類群落の現存量の時間変化を良く近似した。現存量に対する単位現存量当たりの増加率の回帰式より環境収容力および内的自然増加率を推定しロジスティックモデルに当てはめた結果,モデルはいずれの流速条件においても全現存量データの変動の80%以上を説明した。環境収容力は流速67cm s-1で,内的自然増加率は流速39cm s-1で,それぞれ最大になった。ロジスティックモデルへの近似は簡易であるため,十分に良い近似が得られる場合には,河川付着藻類群落の量的動態を把握するために有効であると考えられる。
  • 佐々木 琢, 原田 宏, 滝田 聖親
    2002 年 63 巻 3 号 p. 215-219
    発行日: 2002/12/20
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    河川水を利用した遊水場を有する5箇所の都市公園ならびに河川上流の2箇所の水浴場としての利用地点において,2001年夏期の一般細菌数,大腸菌群数,および緑膿菌数を調査した。すべての調査施設,地点において,緑膿菌が検出された。緑膿菌数は、一般細菌数(r=0.788)・大腸菌群数(r=0.802)との間に正の相関を示した。さらに,市街地を流下する河川を利用した2箇所の都市公園では,河川上流と比較すると高い緑膿菌数・大腸菌群数が認められた。また,夏期に定期清掃管理が強められる前後で,各細菌群の検出が大きく異なる施設がみられた。しかし,同施設では清掃作業の強化前から幼児の水浴利用がなされていた。本調査結果から,河川水を利用した遊水場を有する都市公園には,施設管理方策の早急な改善の必要性が示唆された。
  • 野崎 健太郎, 村瀬 潤, 山田 佳裕
    2002 年 63 巻 3 号 p. 221-223
    発行日: 2002/12/20
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
  • 野崎 健太郎
    2002 年 63 巻 3 号 p. 225-231
    発行日: 2002/12/20
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    湖沼沿岸帯の特性として,基礎生産構造が,生活型の異なる底生植物(水草・底生藻)および浮遊藻群落によって構成されていることを挙げ,沿岸帯の下限部は,底生植物の日補償深度と湖底の接点であるとした。しかしながら,水深が浅く最深部でも,湖底の光強度が,底生植物群落の日補償点を上回る湖では,それは当てはまらないことを指摘した。沿岸帯の基礎生産は,その密度を考慮すると,沖帯に比べて,狭い空間に密集している。植物群落による有機物生産が,高い密度で存在することは,湖沼沿岸帯が持つ1つの重要な特性であることを提案した
  • 後藤 直成
    2002 年 63 巻 3 号 p. 233-239
    発行日: 2002/12/20
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    干潟の主要な一次生産者である底生微小藻類と植物プランクトンによる有機物生産の特徴を比較し,干潟底生系と浮遊系における微小藻類―細菌間の関係について考察した。沿岸域における底生微小藻類と植物プランクトンは,それぞれ,羽状目珪藻と円心目珪藻が優占するが,これらの珪藻の大きな特徴の一つに多糖類を主成分とする細胞外有機物の生産がある。底生微小藻類の細胞外有機物生産は,植物プランクトンと比較してかなり高く,生産した有機物の約30-70%を細胞外に分泌する。底生微小藻類によって分泌される細胞外有機物の大部分は細菌起源の細胞外加水分解酵素によって速やかに低分子化され,細菌に対して利用可能な基質となる。また,底生系は栄養段階の数が少ないため,効率の良いエネルギー転送が行われていると考えられる。これらは,底生系における微小藻類―細菌間の物質・エネルギー輸送が浮遊系と比較してかなり大きく,微生物食物連鎖を通じた物質・エネルギー輸送が干潟生態系において重要な経路になっていることを示している。干潟生態系は,沖合生態系と比較すると,底生系と浮遊系が限られた空間に密接に存在していること,外系からの有機物供給が大きいこと,生産量/現存量比が低いことなどから,生食連鎖よりも微生物食物連鎖と腐食食物連鎖を通じた物質とエネルギーの輸送が卓越する環境であると考えられる。
  • 山口 一岩, 門谷 茂
    2002 年 63 巻 3 号 p. 241-248
    発行日: 2002/12/20
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    内湾・沿岸域は水深が浅いこと,底生生物の現存量が高いことから,物質循環過程を理解するにあたっては,浮遊生態系だけでなく底生生態系を介在した諸現象の把握が必要である。生物海洋学な視点からの既往の研究では,浮遊生態系には詳細な検討が加えられてきたが,底生生態系の役割が論じられることは少なかった。近年,沿岸海洋における底生微細藻類の一次生産への寄与や,浮遊生態系と底生生態系の関連が無視できないことなど,具体的な研究事例を通じて底生生物の重要性が示唆されるようになってきた。しかしその一方で,未だに底生生態系自体が一つのブラックボックスとして扱われることが多いのも事実である。本稿では,議論の対象範囲を水深数10m程度までの潮下帯および内湾や内海に定めたうえで,底生生物が関わる既往の研究を紹介し,沿岸海洋研究における底生生態系の理解の重要性ならびに研究の必要性を論じた。
  • 村瀬 潤
    2002 年 63 巻 3 号 p. 249-254
    発行日: 2002/12/20
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    大型湖沼の沿岸帯・亜沿岸帯・沖帯を,湖水の水温構造に基づいて,それぞれ「湖底を表水層が覆っている地域」「湖底を水温躍層が覆っている地域」「湖底を深水層が覆っている地域」であると定義し,琵琶湖を例に沿岸帯・亜沿岸帯の湖底表層における物質代謝の特徴を考察した。沿岸域では堆積有機物含量は低いものの水温が高く沖帯堆積物に比べて微生物活性が高い。そのため通常十分に溶存酸素が存在する表水層が覆っていても湖底直上では一時的に貧酸素化が進行する可能性が考えられる。一方,亜沿岸帯は内部波による水温躍層の振動によって湖底泥の巻き上げが起こる場であり,リンやメタンが湖底から湖水へ供給される可能性があることを指摘した。また,水温構造の季節的変化に伴って沿岸帯・亜沿岸帯の範囲が変化し,それぞれ湖水の動態に対し季節的に異なったインパクトを持つと予想された。
    以上のことから,特に大型湖沼において湖底の物質動態が湖沼生態系に及ぼす影響を明らかにするためには,沿岸帯から沖帯までを含んだ包括的研究が重要であることを議論した。
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