南部フォッサマグナ地域の二つの主要河川であるとともに,地質学的特徴が極端に異なる岩石種が分布する富士川及び相模川水系河川水中の多元素濃度の特徴について,その流域に分布する岩石種を知ることのできるV濃度を指標として地球化学的に解析した。V濃度には,両水系沿い及び上流域に分布する岩石・土壌の化学的組成に対応して,明瞭な地域差が認められた。V以外の測定した全元素(Na, Mg, Al, K, Ca, Cr, Mn, Co, Cu, Zn, Ga, Sr, Mo, Cd, Cs, Ba, W, Pb)は,岩石種による濃度変動がVのそれと比べて著しく小さいため,地質を反映した結果であっても岩石中濃度の大小関係を河川水中では鋭敏に反映していない場合が多かった。しかし,これら元素のV濃度との関係図における分布域の違いから,測定した全元素がそれぞれ概ね3グループ(A:花崗岩類・安山岩類・堆積岩類の複合的影響を反映;B:主に花崗岩類の影響を反映;C:主に玄武岩類の影響を反映)に分類でき,V濃度を指標とすることで,多元素についても地質の違いを明瞭に反映した地域性を読みとる事が可能となった。その結果,従来指摘されてきたVだけでなく,多元素の河川水中濃度が地質により大きく支配されていることを明らかにできた。Cu, Zn, Cd, Pb等の従来岩石以外(人為的寄与)からの寄与が大きいと考えられる元素でさえも,この分類に概ね当てはまり,従来の環境汚染調査においては,これら重金属汚染を過大評価してきた可能性が示唆された。環境汚染調査に当たっては,本研究のように地質を反映したバックグラウンド濃度の把握が重要と考えられる。
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