陸水学雑誌
Online ISSN : 1882-4897
Print ISSN : 0021-5104
ISSN-L : 0021-5104
74 巻, 3 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
原著
  • 小林 草平, 赤松 史一, 中西 哲, 矢島 良紀, 三輪 準二, 天野 邦彦
    2013 年 74 巻 3 号 p. 129-152
    発行日: 2013/04/01
    公開日: 2014/10/07
    ジャーナル フリー
     「河川水辺の国勢調査」で得られている底生無脊椎動物(底生動物)データの中から解析可能な108水系-724地点の定量調査データを選別し,「瀬」の全底生動物現存量(全現存量)について国内の頻度分布を求めるとともに,地点を河床勾配,底質,地方を基に区分し,全現存量の空間パターンを調べた。全地点を対象とした全現存量(湿重)の中央値は冬春期が19.56 g m-2,夏秋期が10.04 g m-2であった。こうした値は,瀬に限定すると国内で過去に示された値と大きな違いはない一方で,海外の値に比べて数倍大きかった。全現存量は小さい河床勾配(<1/1600)や底質の区分(泥や砂:<2 mm)の地点で最小で,中ほどの河床勾配(1/800-1/400)や底質(粗礫:5-10 cm)の区分までは区分が上がるとともに増加した。また,全現存量は北東日本(特に東北,関東,北陸)に比べて西南日本(特に中国,四国,九州)で大きく,これらの間には中央値で2.7-6.6倍の違いがあった。底生動物の多くの属が,全現存量が高い河床勾配や底質の区分に対して高い選好度(出現や生息密度を基に評価)を示し,またその生息密度と全現存量の間に正の相関を示した。造網性トビケラは,こうした傾向が最も顕著であり,また重量推定により全現存量に対する寄与が大きいと考えられた。全現存量と正の関係にあるこうした底生動物の生態を踏まえ,空隙量や安定性といった河床条件が瀬の全現存量に影響する重要な要因と考えられた。また,全現存量と属数の正の相関から,全現存量の大きい瀬では,特定の少数属が優占するのではなく,多くの属が共存している状態であることが示された。
総説
  • 新山 優子, 辻 彰洋
    2012 年 74 巻 3 号 p. 153-164
    発行日: 2012/12/18
    公開日: 2014/10/07
    ジャーナル フリー
     藍藻ネンジュモ目の浮遊性種,特に従来のAnabaena属とAphanizomenon属は,形態的・生態的特徴に基づく分類に最新の遺伝情報解析に基づく研究結果が加味され,新属名が提唱されて種名の変更が行われた。これまでAnabaena属として一括りされていた種は着生のAnabaena属とTrichormus属,および浮遊性のDolichospermum属とSphaerospermopsis属に再分類されている。従来のAphanizomenon属についても同様にAphanizomenon属とCuspidothrix属とに再分類されている。Anabaena属,Trichormus属,Dolichospermum属,Sphaerospermopsis属,Aphanizomenon属およびCuspidothrix属それぞれの特徴を簡単に述べる。これらに類似の形態をもつ属について,その特徴も略述する。また,Dolichospermum属とSphaerospermopsis属の種について,形態的に類似する種毎に解説する。
短報
  • 阿部 信一郎, 桟敷 孝浩, 玉置 泰司, 安房田 智司, 井口 恵一朗
    2012 年 74 巻 3 号 p. 165-171
    発行日: 2012/12/13
    公開日: 2014/10/07
    ジャーナル フリー
     日本各地の河川では,内水面漁業者が,子ども達と一緒に魚の放流,魚の産卵場造成,川の清掃,魚釣り教室および自然観察会を行い,子ども達に自然とふれあい遊ぶ機会を提供している。本研究では,2010年8月に行われた中央水産研究所日光庁舎一般公開に来場した満20才以上の男女を対象にアンケート調査を行い,内水面漁業者による親水活動がもたらす教育的効果を評価した。調査の結果,自然との係わりおよび精神的な成長の面での教育的効果については,70 %以上の回答者が肯定的に評価し,男性よりも女性の方が高く評価する傾向にあった。社会生活との係わりでは,内水面漁業の担い手になるおよび地域に定住する意欲を高めることについて効果があると答えた回答者は50 %未満であったが,70 %以上の回答者が内水面漁業や地域社会への理解および労働の喜びや協働の意識を抱く効果を肯定的に評価した。本研究の結果は,内水面漁業者による親水活動が子どもの教育に役立つものとして多くの人に期待されていることを示唆している。
  • 太田 洋平, 後藤 直成, 伴 修平
    2013 年 74 巻 3 号 p. 173-181
    発行日: 2013/05/21
    公開日: 2014/10/07
    ジャーナル フリー
     クロロフィル励起蛍光に基づいた方法(CF法)により,琵琶湖における植物プランクトン一次生産力(g O2 m-2 d-1)を測定し,その有効性を確かめるために酸素法(ボトル培養法)で求めた一次生産力と比較した。その結果,CF法と酸素法で測定した日間一次生産力(それぞれ,P CFP O2)の間にはP O2= 0.91P CFの直線関係が認められ(n = 7, r 2 = 0.876, p < 0.01),その傾きと1との間に有意差はなかった。また,2012年4月17日~12月17日の期間,P CFは0.28~6.59 g O2 m-2 d-1(0.09~2.01 g C m-2 d-1)の範囲で大きく変動した。これらの値は,これまでに求められた日間一次生産力の範囲内に収まったが,観測された日変動は月間あるいは年間の一次生産力を求める際により正確な値を与えられることを示唆した。
  • 田林 雄, 山室 真澄
    2013 年 74 巻 3 号 p. 183-189
    発行日: 2013/05/28
    公開日: 2014/10/07
    ジャーナル フリー
     霞ヶ浦流域では,福島第一原子力発電所の事故によって一部の地域に高濃度の放射性セシウム(134Csおよび137Cs)が沈着した。本研究では134+137Csの沈着量が異なる河川で河床堆積物を採取し,シルト・粘土,砂,礫に分画して,134+137Cs濃度を比較した。同地点での134+137Csをシルト・粘土,砂,礫で比較すると,シルト・粘土の分画が全地点において最も高い値を示し,137Cs濃度は比表面積が大きいほど高くなるという既報の見解と一致した。しかし砂と礫の分画で比較した場合,砂よりも礫の方が高かった地点もあり,比表面積だけで堆積物中の134+137Cs濃度を説明できない例もあった。シルト・粘土の分画での濃度は,砂の分画での濃度より1.4~4.0倍高かった。全粒径でみた河床堆積物の134+137Csは,サンプリング地点よりも上流の平均沈着量と正の相関が確認された。このことから河床堆積物中の134+137Cs濃度は,流域の134+137Csの沈着量と対応していると推定された。
feedback
Top