本研究では,大量施肥流域における溶存亜酸化窒素(N
2O)の不圧地下水中での空間分布特性を明らかにすることを目的とし,瀬戸内海沿岸の果樹園流域を対象として,地下水中のN
2O濃度,硝酸態窒素(NO
3 --N)濃度およびその他の溶存化学成分の地下水流動に伴う濃度変化から,溶存N
2Oの空間分布をもたらす要因についての考察を行った。上流域のN
2O濃度は,深度によらず4μgN L
-1前後を示し,下流域では深度15 m以上の深部で13μgN L
-1の高い濃度を示したにも関わらず,深度15 m以下の浅部ではほとんど検出されないという空間分布が認められた。この空間分布をもたらす要因の一つとして,上流域では硝化の過程でのN
2Oの発生が影響していると示唆された。一方で,下流域の浅部ではDOが2 mgL
-1以下と低く,さらに溶存有機態炭素(DOC)濃度が8 mgL
-1~10 mgL
-1と高い値を示したため,完全な脱窒が起こることによってNO
3 --Nの大部分がN
2の形態に変化しており,反応の途中段階で生じるN
2Oはあまり検出されなかったものと考えられる。一方で,下流域の深部は浅部と比較してDOが若干高かったことから,脱窒反応の副産物であるN
2Oの発生が影響していると示唆された。
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