陸水学雑誌
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75 巻, 1 号
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原著
  • 大西 晃輝, 小野寺 真一, 齋藤 光代, 清水 裕太, 吉川 昌志
    2012 年 75 巻 1 号 p. 1-11
    発行日: 2012/09/08
    公開日: 2015/02/25
    ジャーナル フリー
     本研究では,大量施肥流域における溶存亜酸化窒素(N2O)の不圧地下水中での空間分布特性を明らかにすることを目的とし,瀬戸内海沿岸の果樹園流域を対象として,地下水中のN2O濃度,硝酸態窒素(NO3 --N)濃度およびその他の溶存化学成分の地下水流動に伴う濃度変化から,溶存N2Oの空間分布をもたらす要因についての考察を行った。上流域のN2O濃度は,深度によらず4μgN L-1前後を示し,下流域では深度15 m以上の深部で13μgN L-1の高い濃度を示したにも関わらず,深度15 m以下の浅部ではほとんど検出されないという空間分布が認められた。この空間分布をもたらす要因の一つとして,上流域では硝化の過程でのN2Oの発生が影響していると示唆された。一方で,下流域の浅部ではDOが2 mgL-1以下と低く,さらに溶存有機態炭素(DOC)濃度が8 mgL-1~10 mgL-1と高い値を示したため,完全な脱窒が起こることによってNO3 --Nの大部分がN2の形態に変化しており,反応の途中段階で生じるN2Oはあまり検出されなかったものと考えられる。一方で,下流域の深部は浅部と比較してDOが若干高かったことから,脱窒反応の副産物であるN2Oの発生が影響していると示唆された。
  • 和 吾郎, 藤田 真二, 東 健作, 平賀 洋之
    2013 年 75 巻 1 号 p. 13-26
    発行日: 2013/07/10
    公開日: 2015/02/25
    ジャーナル フリー
     2004年8月と2005年9月に物部川上流域で発生した大規模山腹崩壊に伴う濁質の流出特性の変化を明らかにするため,2001~2011年における下流部の濁質負荷量,濁度と流量との関係(C-Q関係),アユ河川定着期(6~9月)の濁水(濁度10度以上)の発生日数の経年変化を調べた。山腹崩壊が発生した2004年以降,物部川の濁質負荷量,出水時の濁度上昇率(C-Q式の傾き),濁度10度以上の日数は山腹崩壊前(2001~2003年)に比べて増加し,その状況は2007年まで認められた。近年の濁質流出の動向について,2010年と2011年の濁質負荷量は,これら2ヶ年より降水量が少なかった2006年の50%以下まで減少した。一方,2009年以降,濁度10度以上の日数は再び増加傾向を示し,2011年では2006年の70日間に次ぐ54日間を記録した。以上のように,物部川の濁質の流出特性は大規模山腹崩壊を契機として高濃度濁水の発生及び濁水長期化が認められる状況に変化した。近年では高濃度濁水の発生は抑制されつつも,アユへの影響が懸念される水準の濁水は依然として高頻度で発生し,濁水長期化が継続している。
  • 宮廻 隆洋, 田林 雄, 大城 等, 小山 維尊, 中島 結衣, 佐藤 紗知子, 野尻 由香里, 岸 真司, 藤原 敦夫, 神谷  宏
    2013 年 75 巻 1 号 p. 27-34
    発行日: 2013/12/02
    公開日: 2015/02/25
    ジャーナル フリー
     日本海側を流れる斐伊川において2010年7月1日から2011年6月30日まで毎日採水を行った。期間内の総流量は1.51×109 m3であった。TNの平均値,最小値及び最大値はそれぞれ0.60mg L-1,0.24 mg L-1,1.34 mg L-1であった。NO3-Nはそれぞれ0.50 mg L-1,0.14 mg L-1,1.06 mg L-1であった。河川水中の窒素のほとんどをDINが占めており,そのうちの90%以上がNO3-Nであった。12月から3月にかけてNO3-N濃度の上昇がみられた。
     2001-2002年に行った同様の調査と比較したところ,硝酸態窒素の平均値が0.38 mg L-1から0.50 mg L-1に増加していた。斐伊川集水域において人為的汚染の増加は考えられないことから,中国大陸からの越境窒素汚染の影響がさらに大きくなったと考えられた。
総説
  • 戸田 孝
    2013 年 75 巻 1 号 p. 35-48
    発行日: 2013/07/09
    公開日: 2015/02/25
    ジャーナル フリー
     琵琶湖全体をめぐる定常的な流れである「環流」は1926年に発見された。発見当初は夏の季節風に単純に反応して生ずる流れと考えられた。しかし,1960年にこれが概ね地衡流であることが確認され,1980年代まで観測および理論的検討が精力的に進められた。環流の主体は,北湖に描ける最大の円を占める反時計回りの第1環流であると考えられ,毎年5月ごろから12月ごろまで継続的に確認できる。冬季に見出せないのは,環流の存在に成層構造が必要であるからと考えられる。運動エネルギーと有効位置エネルギーが結合した形でエネルギーを蓄積できる構造になっているため,理論的には風のベクトル場の回転および地形性貯熱効果のいずれによっても成因を説明可能であり,成因の特定にはエネルギー収支の量的評価が不可欠である。環流の全体像は概ね解明されたと考えられるが,生成維持機構の詳細や他の現象との相互関係などで,未解明の課題が残されている。
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