湖の水位は,湖への流入と湖からの流出の収支によって長期的にはバランスしている。一方,短期的な水位変化は,表面波動(静振, 風波), 流入(降水,河川流入,地下水流入), 流出(蒸発, 河川流出)などによって常に変化しており,それぞれが異なる時間的・空間的スケールを有している。それらの中で,短時間に大きな水位変化を引き起こすのは強雨である。湖面への降水は,水位上昇に直接的に寄与し,集水域への降水は河川や地下水を通して湖へと流入する。しかしながら,短時間の強雨によって湖の水位がどの程度上昇するのかということは,これまでに十分議論されてこなかった。本研究では,湖の水位変動が支配する物理現象によってそれぞれ異なる時間スケールをもつことに着目した。すなわち,琵琶湖で測定した水位データを時間スケールに基づいて分離することによって,集水域に降った強雨が湖に流入する割合を評価することを試みた。具体的には,琵琶湖の南湖において2010年から2012年まで水位と降水量の連続観測を行った。抽出された強雨事象について,合計59回の琵琶湖の水位に寄与する割合を計算した。平均寄与率
âは,降水の特徴や降水前の地表面状態の影響も受けると考えられるが,積算降水量の増加に伴い増加することが示された。また,積算降水量が増大するに伴って水位が定常に達する時間も長くなることが分かった。積算降水量(
P)に対する平均寄与率(
â)を評価したところ,
â = 100 (1 -
e -P/100) (R
2=0.95, n = 42,p < 0.001)という有意な関係がみられた。このことから,琵琶湖のような大型湖において,多時間スケールを用いた水位変動の解析が有効であることが示された。
抄録全体を表示