陸水学雑誌
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77 巻, 2 号
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原著
  • 菅井 隆吉, 溝山 勇, 管原 庄吾, 清家 泰
    2015 年 77 巻 2 号 p. 117-136
    発行日: 2015/10/20
    公開日: 2017/05/30
    ジャーナル フリー

     宍道湖周辺の24河川及び5小水路における,流量と水質負荷量の関係式として,最小二乗法によりべき乗形のL=aQbによる回帰式を求めたが,斐伊川のL= aQb式において,bの値(傾き)が平水時に比べて出水時においてTIN以外は,明らかに大きくなることが分かった。
     斐伊川による宍道湖への流入水量は全体の78%を占めたが,COD,TN,TIN,TP及びPO4-Pの負荷割合はそれぞれ,全体の60%,40%,62%,31%,36%であった。このように,斐伊川以外の河川からの総水量は約20%と小さいにもかかわらず,それらのTN及びTP負荷は高い割合を占めることが明らかになった。宍道湖への流入河川32地区の水質7項目の平均値に対して,クラスター分析を行ったところ,流入水の水質は5つのクラスターに分類されたが,斐伊川を除く宍道湖西岸域地点からの流入水のTIN /PO4-P比は,他の河川に比べ特異的に高いことが分かった。
     また斐伊川からの流入負荷においてリンは,COD,窒素に比べ,平水時,出水時ともに懸濁態の比率が高いことが分かったが,斐伊川の流入負荷におけるTN/TP比は,平水時の29が出水時には6.0に減少し,リンの負荷は相対的に出水時において高まることが明らかになった。

短報
  • 佐竹 潔, 上野 隆平, 松崎 慎一郎, 田中 敦, 高津 文人, 中川 惠, 野原 精一
    2015 年 77 巻 2 号 p. 137-143
    発行日: 2015/09/18
    公開日: 2017/05/30
    ジャーナル フリー

     福島第一原子力発電所事故から約2年後に,霞ヶ浦(西浦)の沖帯3地点(湖心,土浦入,高浜入)において湖水を採水し,併せてエクマンバージ採泥器を用いてユスリカ幼虫を採集した。オオユスリカ(Chironomus plumosus)は調査を行ったすべての地点で測定に必要な個体数が得られたが,オオカスリモンユスリカ(Tanypus nakazatoi)は1地点でのみ測定可能な個体数が得られた。これらのユスリカ幼虫を用いて,放射性セシウム137(137Cs)濃度(単位質量あたりの放射能;Bq wet-kg-1)を測定するとともに,137Csの濃縮係数を算出した。その結果,湖水およびユスリカ幼虫の137Cs濃度は地点間で差があり,同一地点では種間差があった。オオユスリカの137Cs濃度は5.5~20.7 Bq wet-kg-1であり,オオカスリモンユスリカの12.3 Bq wet-kg-1と同じオーダーであったが,土浦入では,オオカスリモンユスリカよりも,オオユスリカの137Cs濃度のほうが高かった。また,濃縮係数を算出したところオオユスリカは380~1060であり,オオカスリモンユスリカの630と同じオーダーであったが,土浦入ではオオユスリカの方が高かった。本研究は,スナップショットではあるが,ユスリカ幼虫の濃縮係数を示したはじめての研究であり,捕食者である魚類などへの餌を通じた移行を考える上でも重要な知見となる。

  • 玉置 泰司, 桟敷 孝浩, 久保田 仁志
    2015 年 77 巻 2 号 p. 145-153
    発行日: 2015/09/07
    公開日: 2017/05/30
    ジャーナル フリー

     日本の渓流における遊漁は,主として,餌釣り,ルアー釣り,フライ釣り,テンカラ釣りの4つに大別される。釣り場における遊漁資源管理の方法に対する遊漁者の志向は釣り方によって異なることが想起されるものの,その差異を明らかにする研究は我が国ではほとんど行われていない。釣り場の管理方策及び遊漁者の集客方策を検討する際には,これらの志向を把握することが重要である。そこで,栃木県鹿沼市の大芦川において,遊漁者へのアンケート調査を実施した。その結果,餌釣りをする人に比べてルアー釣りやフライ釣りをする人は,インターネットや釣り雑誌など,より様々な情報を参考に釣り場を選択していた。禁漁区・輪番禁漁区の設定には,釣り方にかかわらず回答者の約9割が賛同していた。仮想市場評価法(CVM)を用いた支払意志額(WTP)に関するアンケートでは,通常の日釣り券価格よりも餌釣りの人で14.2%,フライ釣りの人で19.4%,ルアー釣りをする人で27.7%高くても輪番禁漁区を解禁した場所での釣りを希望した。また,大芦川で持ち帰り尾数制限を新たに設定することに対しては,フライ釣り,ルアー釣り,餌釣りをする人のそれぞれ75.6%,64.0%,40.3%が賛成した。遊漁資源保護のためには,輪番禁漁区の解禁時に遊漁料の値上げや尾数制限といった遊漁規則を組み合わせることが効果的であると考えられた。

  • 赤堀 由佳, 高木 俊, 西廣 淳, 鏡味 麻衣子
    2015 年 77 巻 2 号 p. 155-166
    発行日: 2015/12/10
    公開日: 2017/05/30
    ジャーナル フリー

     近年国内の浅い富栄養湖のいくつかでヒシ属植物の増加が報告されている。本研究では,オニビシの繁茂が水質に与える影響を明らかにするために,印旛沼においてオニビシが繁茂する地点(オニビシ帯)としない地点(開放水面)の水質を比較した。繁茂期(7月から9月)のオニビシ帯は,開放水面に比べ溶存酸素濃度および濁度が有意に低かった。溶存酸素濃度の低下は夜間と底層で顕著であり,無酸素状態になることもあった。濁度はオニビシが繁茂している時期にオニビシ帯の表層と底層両方で低くなった。オニビシ帯では,浮葉が水面を覆うことにより,水の流動は減少し,遮光により水中での光合成量は低下するため,溶存酸素濃度や濁度が低くなったと考えられる。栄養塩濃度に関してはいずれもオニビシ帯と開放水面の間で有意な差は認められなかったが,8月と9月に,アンモニア態窒素濃度が高くなった。オニビシの枯死分解に伴い無機態窒素が放出されるとともに,貧酸素により底泥から溶出した可能性がある。一方,オニビシが繁茂しない時期には,地点間でこれらの水質項目に明瞭な差は見られなかった。栄養塩濃度の差は,地点間の差よりもむしろ季節による差のほうが顕著で,オニビシ帯と開放水面共に,7月から9月は全リン濃度が高く,それ以外の時期は亜硝酸態窒素及び硝酸態窒素濃度が高かった。印旛沼では,このような栄養塩濃度の季節変動は毎年確認されており,栄養塩濃度の季節変動に与える複数の効果に比べオニビシの効果は小さいと考えられる。

  • 高野 敬志, 内野 栄治, 青柳 直樹
    2015 年 77 巻 2 号 p. 167-174
    発行日: 2015/09/29
    公開日: 2017/05/30
    ジャーナル フリー

     北海道中央部に湧出する温泉水のフミン酸濃度を鉱泉分析法指針による塩酸酸性沈殿-重量測定法により分析した。この分析過程のメンブランフィルター水洗時に,沈殿物がフィルターを通じて溶出したため,フミン酸を検出できなかった。メンブランフィルターを2 %塩酸溶液で洗浄した場合,フィルター上に沈殿が残り,フミン酸濃度を求めることができた。この値は塩酸酸性-沈殿形成前後の有機炭素濃度の差から推定したフミン酸濃度と比較すると,低く見積もられていることが示唆された。そこで,沈殿を洗浄する媒体およびメンブランフィルターの孔径の条件を変えて,フィルターから溶出する有機炭素濃度を調べた。その結果,2 %塩酸溶液でメンブランフィルターを洗浄した場合に孔径0.6 µm以下のメンブランフィルターを使用すること,Milli-Q水でメンブランフィルターを洗浄した場合に0.2 µm以下のメンブランフィルターを使用することで,分析時のフミン酸の損失が少なくなることが明らかとなった。DAX-8樹脂を用いた分析では,フミン酸とフルボ酸双方合わせた濃度は,測定された有機炭素濃度全体の59.7 %占め,これまでの報告例と比較してフルボ酸に対するフミン酸の割合が高かった。更に,温泉水に含有するフミン酸の分子サイズ分布を,限外ろ過により分画して有機炭素濃度を測定することによって推定したところ,比較的大きな分子サイズのフミン酸が優占することが示唆された。これらのことから,本研究における温泉水中のフミン酸の特徴は,地表水と比較して異なることが示唆された。

  • 山室 真澄, 神谷 宏
    2015 年 77 巻 2 号 p. 175-181
    発行日: 2015/08/27
    公開日: 2017/05/30
    ジャーナル フリー

     宍道湖のヤマトシジミ漁獲量が夏季の水温・塩分によってどのような影響を受けているかを推定するために,月毎の水温・塩分(=電気伝導度)データと年間漁獲量(翌年と2年後)との相関関係を検討した。検討した項目は6月の水温・塩分,7月の水温・塩分,8月の水温,6・7月の平均水温,6・7月の平均塩分,7・8月の平均水温,7・8月の平均塩分,6~9月の平均塩分,6~9月の最低塩分,6~9月の最高塩分である。地点間で差異があるかを検討するために,淡水河川流入地付近,湖心,高塩分水流入地付近の3地点について,1984年から2012年までのデータを使用して解析を行った。その結果,6月の水温と翌年の漁獲量との間に,最も高い正の相関関係が認められた。また6月の水温の地点間の差は有意ではなかった。次に1972年~1983年6月の湖心部表層の水温データを加えて,翌年の漁獲量との相関関係を解析した結果,有意な正の相関が得られた(r = 0.52, p < 0.001)。宍道湖のヤマトシジミは,6月の水温が低いと成長速度が減少すると考えられた。

特集『沖縄の陸水環境』
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