陸水学雑誌
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78 巻, 1 号
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特集:ユスリカ多様性研究をDNAバーコーディングにより進化させる
  • 2017 年 78 巻 1 号 p. 1
    発行日: 2017/01/31
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー
  • 平林 公男, 宮原 裕一, 花里 孝幸, 今藤 夏子, 上野 隆平, 高村 健二
    2016 年 78 巻 1 号 p. 3-11
    発行日: 2016/06/27
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

     長野県の諏訪湖では,湖水の浄化に伴って1990年代の終わりから生物群集が大きく変化し,湖内におけるユスリカ類の幼虫の分布や密度にも大きな変化が予想された。本研究では,その実態を明らかにするために,湖の沖帯全域でユスリカ類の分布と密度を調べた。また,沖帯における優占種の一つであるオオユスリカについて,遺伝的構造の解明を試みた。2013年3月に,沖合の17地点で調査を行った結果,オオユスリカとアカムシユスリカの幼虫の平均密度は,それぞれ600個体m-2,および900個体m-2であった。諏訪湖における現在のユスリカ類幼虫の生息密度は,湖の水質が改善し始めた2000年代初頭に比べるとやや増加していると推定された。中でもオオユスリカ幼虫の増加は顕著であった。諏訪湖沖帯のオオユスリカ幼虫についてミトコンドリアCOI(658bp)の塩基配列を解読した結果, 8つのハプロタイプが検出され,水深が深い地点ほど多くのハプロタイプが見られた。諏訪湖産オオユスリカでの配列は,茨城県産や琵琶湖産を含む他の日本産のオオユスリカとは極めて類似していたが,ロシア産のオオユスリカとは大きく異なっていた。

  • 今藤 夏子, 奥田 しおり, 大林 夏湖, 上野 隆平, 高村 健二
    2016 年 78 巻 1 号 p. 13-26
    発行日: 2016/10/03
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

     ユスリカは広範な分布域とその種多様性から,陸水生態系における主要な環境指標種として用いられる。しかし,形態による分類・同定が難しく,塩基配列情報に基づくDNAバーコーディングの併用が有用であると考えられる。我々は様々な保存状態のユスリカ標本について,複数の方法でDNAバーコーディングを進め,塩基配列の取得率が標本の保存状態やDNA抽出方法によってどのように影響されたかについて比較を行った。シリカメンブレンフィルターを用いた精製は,保存状態に拠らず取得率が高く,特に貴重な標本や保存状態の悪い標本に適していると考えられた。一方,粗抽出や安価なキットによる抽出も,保存状態が良い標本や大量の標本を扱う際には有用であることが示された。ただし,室温で乾燥した標本や古い標本などに対しては,粗抽出法は有意に塩基配列の取得率が低くなったことから注意が必要である。古い標本などDNAの断片化により塩基配列が取得できないことが想定される場合は,シークエンス領域を短くすることで,取得率が回復できる場合もあった。また,翅の乾燥プレパラート標本や,水面から採集される羽化殻についてもDNA抽出とシークエンスを行った。成功率はそれぞれ18.0 %と41.7 %と決して高くはなかったが,目的に合致すれば,乾燥した翅標本や羽化殻も,DNAバーコーディングにおいて有用な試料となり得ると考えられた。

  • 上野 隆平, 高村 健二, 今藤 夏子, 奥田 しおり, 大林 夏湖
    2016 年 78 巻 1 号 p. 27-34
    発行日: 2016/10/05
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

     ユスリカは陸水環境において底生動物相の主要な構成員であり,現在までに形態に基づいて日本国内から少なくとも1206種が記録されている。しかし,形態の違いが種の違いを反映しているかどうか疑わしい例もあり,DNAバーコーディングの活用が望まれている。我々は74形態種のCOI DNA 塩基配列を決定し,その内,分析した標本が1個体のみの13種を除く61形態種のユスリカについて分子系統関係との一致を調べた。その結果,57形態種では一致したが,4形態種では不一致が見られた。その中には多くの水域で優占種となる種が含まれているため,これらの水域での多様性観測に誤差をもたらしている可能性がある。これらの種については,形態的特徴と分子系統学的特徴にもとづいて種を再記載する必要がある。

  • 高村 健二, 上野 隆平, 今藤 夏子, 大林 夏湖
    2016 年 78 巻 1 号 p. 35-43
    発行日: 2016/10/03
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

     兵庫県南部のため池20面から採集したユスリカ幼虫標本についてミトコンドリアDNA COI領域の塩基配列から標本の属する種を区分した。すなわち,陸水域ユスリカ群集に対するDNAバーコーディングの初めての試みとして,ため池毎のユスリカ種数を求めた。池により0~21種,底質からは0~15種,水草からは3~16種が確認された。標本数が多いほど種数が多い傾向が認められた。全確認種数は72種であり,学名が確定されたのは31種であった。

  • 河合 幸一郎, 斉藤 英俊, 阿武 択磨
    2016 年 78 巻 1 号 p. 45-50
    発行日: 2016/09/08
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

     エリユスリカ亜科昆虫は多くの属からなり,様々な環境に適応し,多様な生活様式を獲得しているが,これらがどのような過程で分化し,生息域を拡大してきたのかは未だ明らかになっていない。そこで,本研究では,日本各地で採集したエリユスリカ亜科33属の遺伝子系統樹を作成し,形態的・遺伝的関係を考察した。その結果,形態的に近縁な属が遺伝的にも近い傾向が窺える一方,形態的に同じグループに属する属でも遺伝的には遠い場合もあり,これは平行進化による収斂が起こった可能性を示唆する。さらに,本亜科の海域への進出は一度ではなかったことが示唆された。

  • 山本 優
    2016 年 78 巻 1 号 p. 51-58
    発行日: 2016/09/05
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

     この30年間で日本のユスリカの分類学的な知見は飛躍的に増大し,現時点で1206種の分布が確認されている。しかし,日本列島の多様な環境から,おそらく2000を超える種が分布するものと推測される。
     形態分類学の立場からユスリカの系統関係を推定するとき,正確な形態理解は必須条件である。しかし,特に雄生殖器の付属器や幼虫頭部の頭楯・上唇域は亜科や属間で形質状態に大きな相違が見られ,同一の名称が付けられていても,それらが相同器官であると判断するのは必ずしも容易ではない。Sther(1980)は雄生殖器基節上の三つの付属肢をvolsellaと判断し,それぞれsuperior volsella,median volsellaおよびinferior volsellaという形態述語(ターム)を与えている。この述語自体の使用はSnodgrass (1957)の解釈に基づけば形態学的には問題はないと判断されるが,各々の器官がユスリカ科全体を通して相同であると捉えることについては疑問が残る。現時点では雄生殖器に関してChironominaeについてはTokunaga(1938)あるいはEdwards(1929)に,OrthocladiinaeではSoponis(1977)の解釈に従っておく。幼虫頭部の形態についてはTokunaga(1935)の解釈を採用する。

短報
  • 佐藤 紗知子, 嵯峨 友樹, 江角 敏明, 野尻 由香里, 崎 幸子, 嘉藤 健二, 管原 庄吾, 神谷 宏
    2016 年 78 巻 1 号 p. 59-65
    発行日: 2016/06/22
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

     公共用水域の有機物指標として日本ではCOD(Mn)が採用されている。COD(Mn)は,分析方法が比較的簡単であるが,酸化率が一定でないなど様々な問題点が指摘されており,水中の有機物の指標としての適性が疑問視されている。本研究では糖及びアミノ酸についてCODとTOCを分析し,水中の有機物をどの程度分解できるのかを比較,解析した。TOCの測定値はいずれの化合物においても理論値に近い値が得られ,各溶液中の有機炭素がほぼすべてTOC計で検出された。一方で,CODは糖及びアミノ酸ともに溶液濃度が上がるにつれて酸化率は減少し,また,分解率も化合物によって大きく異なっていた。また,宍道湖・中海のフィールドデータを解析したところ,関係式は二次式で近似でき,その近似曲線は原点を通らなかったことから,TOCとしては検出されるがCODでは検出できない有機物が存在することを意味した。また,高濃度の有機物を含む環境水では,CODは分解が不十分になり,過小値を与えることがわかった。よって,水中の有機物量の指標としてTOCを用いるべきだと考えられた。

  • 荒居 博之, 福島 武彦, 恩田 裕一
    2016 年 78 巻 1 号 p. 67-74
    発行日: 2016/05/25
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

     湖沼に沈着した福島原発事故起源の放射性セシウムを指標として利用することで,底質採取における撹乱・採り逃しを評価できる可能性に注目し,2つの手法によって採取された底質コアの比較を試みた。対象湖沼は底質の性状が異なる2湖沼(霞ヶ浦,中沼)とし,離合社製不撹乱柱状採泥器(HR型)を用いて得られた底質コアを,スキューバダイバーにより採取された底質コアと比較した。両湖沼ともに,底質中の放射性セシウム濃度はおよそ深度0~20 cmにかけて大きく変化しており,底質採取に係る評価に利用できると考えられる。柱状採泥器によって得られた放射性セシウム濃度の鉛直分布および単位面積当たりの放射性セシウム放射能量(インベントリー)は,ダイバーによって得られた結果と非常に近いことから,柱状採泥器による採取時の撹乱・採り逃しはダイバーによる採取と比べて大きくないと推察された。以上より,柱状採泥器でダイバーとほぼ同様な底質コアを採取可能であることが検証され,湖沼採泥評価に係る放射性セシウムの指標としての有用性が示唆された。

資料
  • 植田 真司, 長谷川 英尚, 久松 俊一
    2016 年 78 巻 1 号 p. 75-85
    発行日: 2016/02/26
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

     青森県六ヶ所村に点在する淡水湖の田面木沼および市柳沼,汽水湖の鷹架沼および尾駮沼における水質の現状と変遷を明らかにすることを目的に,2004年4月~2015年3月の期間,月一回の水質調査を行った。田面木沼,市柳沼および鷹架沼において全窒素(TN),全リン(TP)および化学的酸素要求量(COD)濃度は高く,富栄養化レベルであった。田面木沼および市柳沼においては,毎年8~10月の期間,アオコの発生が観察され,水質汚濁が顕在化していた。しかしながら,11年間を通してみると汚濁の進行は止まっており,ほぼ横ばいに推移していた。また,鷹架沼は,湖盆の真中を縦断する防潮堤を挟んで水質が異なり,防潮堤の西(奥)側の水質が,東(海)側よりも富栄養化が進んでいた。一方,尾駮沼は年間を通してTN,TPおよびCOD濃度は低く,水質は良好であり,中栄養化レベルであった。尾駮沼が水質を良好に保っている要因は海水交換が大きいことが考えられる。いずれの湖沼の水質も長期間の観測を通してほぼ横ばいに推移していたが,40年前の水質と比較して概ね改善方向にあることが認められた。

  • 伊藤 寿茂, 柿野 亘, 北野 忠, 河野 裕美
    2016 年 78 巻 1 号 p. 87-96
    発行日: 2016/07/20
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

     イシガイ科の淡水二枚貝6種(ヨコハマシジラガイInversiunio jokohamensis,イケチョウガイHyriopsis schlegeli,マツカサガイPronodularia japanensis,カラスガイCristaria plicata,ドブガイモドキCristaria tenuis,ドブガイ類Sinanodonta sp.)の塩分耐性を実験水槽内で調べた。
     まず,各種成貝の塩分耐性を判断するために,様々な塩分に調整した水槽に各種成貝を種別に収容して,経時的に生残率を記録した。様々な塩分に保った飼育水にヨコハマシジラガイの成貝を収容したところ,6 psu以上の環境下では全ての個体が斃死した。低い塩分(3~6 psu)の飼育水に各種成貝を収容してから,徐々に塩分を上昇させたところ,6~8 psuの時点でヨコハマシジラガイとイケチョウガイ,ドブガイモドキ,ドブガイ類は,ほとんど全ての個体が斃死した。生存個体のあったマツカサガイとカラスガイは,さらに塩分を10 psuまで上昇させたところ,全ての個体が斃死した。
     次に,幼生の塩分耐性を判断するために,カラスガイとドブガイモドキの幼生を寄生させた宿主魚類を水槽内で継続飼育し,魚体からの幼生と稚貝の出現状況を確認した。魚体に寄生した幼生が稚貝へと変態する期間(186~236時間)より前に,飼育水の塩分を0~3 psuから11~33 psuまで上昇させて再び0 psuまで下げる操作を行ったところ,全ての実験区で変態を完了した稚貝が生きた状態で出現した。
     イシガイ類の成貝は6~8 psu以上の塩水中で生残することが出来なくなるが,幼生は宿主に寄生中であれば,11~33 psuの塩水にさらされても生存し続けることが示された。イシガイ類は幼生期に汽水域や海域を介して分散する可能性がある。

  • 管原 庄吾, 田林 雄, 神谷 宏, 清家 泰
    2016 年 78 巻 1 号 p. 97-103
    発行日: 2016/05/30
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

     洪水によってもたらされる栄養塩の負荷が年間の総負荷量に対してどの程度の割合になるのかを調べるため,2010年7月1日から2011年6月30日までの1年間,斐伊川の神立橋において毎日採水を行った。降水量と流量の関係を調べたところ,貯留関数法による1降水と流出高の良い関係式(R2=0.87)が得られた。調査を行った1年間に200 mmを超える降水が3回あり,これら3回によってもたらされた降水量は年間降水量の41.3%であった。流量は年間流量の34.8%であった。全窒素及び全リンの負荷量は年間の総負荷量の40.7%及び62.2%であった。全リンの負荷量が全窒素のそれよりも大きい理由は全リンの方が流量依存性が高いためであった。

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