山陰地方の沿岸部に位置する汽水湖の中海において,干拓予定地だった本庄水域を取り囲む2つの堤防のうち,森山堤防の一部開削が2009年5月に行われた。この開削が本庄水域の水質と魚介類相に与えた影響を,2004年から2014年にかけての毎月1回の定期水質調査と小型定置網捕獲物調査結果を用いて統計解析を行った。水質に関しては,開削により海水が流入しやすくなり,塩分成層が発達した。同時に底層の貧酸素化が強まり,かつその持続期間の長期化が進んだ。定置網捕獲物に関しては,開削後に海産魚の種数が大きく増加したが,1網あたりの全捕獲量の有意な増加はなかった。魚介類別に見ると,マアジ及びタイワンガザミの有意な増加が確認された。これは森山堤防の開削によって日本海から本庄水域に進入しやすくなったためと考えられた。クロソイ及びマハゼの捕獲量は減少した。これらは底生生活を好むため,本庄水域の底層の貧酸素化の影響を受けたものと考えられた。
森山堤防の開削が本庄水域の水質に与えた影響を調べるため,2004年から2014年にかけて月1回ずつの調査結果を用いて統計解析を行った。森山堤防開削前後の5年間ずつの塩分のMann-WhitneyのU検定から,森山堤防の開削によって本庄水域下層の塩分濃度が上昇したことが明らかとなった。DOについては開削後の夏季に本庄工区南西部の測点の下層で貧酸素化が進行した。その影響を受け全窒素・全リンが有意に上昇していた。この原因は森山堤防の開削によって測点下層において貧酸素化が進行し,堆積物からの溶出が増加したためと考えられた。
山陰地方の中海と宍道湖には晩秋に多数の渡り鳥が飛来し早春まで滞在する。大多数を占める潜水性カモ類ホシハジロ,キンクロハジロ,スズガモの,中海本湖,干拓堤防で分離された中海本庄水域,宍道湖における1999~2015年16越冬季の観測羽数を集計した。10月から3月までの月毎の羽数変動より12月と1月の平均羽数を越冬数とし,それぞれの水域における3種の潜水性カモ類の16季の越冬数を求めた。この16季の間に,中海本湖と本庄水域ではホシハジロとキンクロハジロが減少傾向を示した。宍道湖ではキンクロハジロは減少傾向だったが,スズガモは増加傾向を示した。これらの3種は,中海本湖と本庄水域ではホトトギスガイを,宍道湖ではヤマトシジミを主要な餌としている。越冬数の長期的な変動について,それぞれの水域における餌環境の変動から推察した。