本症例は32歳の2兒の經産婦に於て, 直腸壁に接して發生せる腫瘤にして, 手術により直腸壁の一部と共に剔出され, 組織學的に淋巴管轉位に依りて發育せるものと思惟さるる「アデノミオージス」なることを證明されしものにして比較的稀有なるものなり.本腫瘍は性成熟期の婦人にありて子宮内膜様腺性筋組織が異所的非生理的部位に浸潤性發育をなし多くは子宮壁, 卵巣及び卵管等に發育するものなるも稀には臍窩, 膀胱壁, 直腸壁, 鼠蹊部, 上肢竝に手術部瘢痕等にも見られたりどの報告あり.
本症の發生原因に關しては革新的諸説相次ぎて起り未だ確定されざるも, 近時「ホルモン性代謝刺戟」論有力となり, 少くも「内性アデノミオージス」の發生原因を説明するに足る.然れども未だ「外性アデノミオージス」の總ての場合を通じて説明するに足る説なきを以て, 其の各症例を個々の場合に就て考慮すべきものならん.
本腫瘍の組織學的所見は極めて子宮内膜腺性筋組織に類似し, 更年期に入りて卵巣機能消失すれば萎縮退化し初むるものなるも, 中には共の上皮細胞が癌腫に變性し, 又本症が癌腫或は結核性腫瘍と同時に併發せることあり.併しながら本腫瘍が肉腫樣變性を來たすことは甚だ稀なり.
又現在普通に行はれつつある治療法としては腫瘤の剔出なるも特殊の場合には, 「卵巣ホルモン性代謝刺戟」説に從ひて卵巣及び局所に對し「レントゲン線」及び「ラヂウム線照射」も亦有效なりとさる.
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