腹部手術の際に於ける麻痺法としての腰髄麻痺法は, 1) 實施手技比較的簡便にして效果良好なること, 2) 術中術後の副作用の比較的輕微なること, 3) 特に腹部手術に際しては腹壁弛緩竝に腸管收縮により手術操作を容易ならしむること等の長所の爲めに最近廣く一般に採用せられつつあり.
この腰髄麻痺法の欲貼としては麻痺時及び其の後に現はるる血壓降下, 脈搏の細少及び其の数の増減, 悪心, 嘔吐, 呼吸困難或は呼吸停止, 頭痛, 尿閉, 稀には皮膚の限局挫榮養障礙, 或は「シヨツク」症状に依る死亡等が経験せられ, 腰髄麻痺法を非難する學者もなしとし得ざる現状なろも, 當教室に於ては暴に膳所が報告せる如く手術前後の諸處置により之等の諸副作用は輕減し, 特に頭痛に關しては未だ1例も経験出得ざりき.然るに著者は最近手術後7日を経て, 起坐し始むるに至り, 激烈なる頭痛を訴へたる1例を初めて経験せるを以て, 之が症側を報告し, 諸家の御高批を仰がんとするものなり.
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