開腹手術後に腹痛,悪心,腹部膨満,腹鳴,嘔吐,便秘などを主訴とする時,すみやかに腸管の術後癒着と考えられる場合は多い.
1回以上の開腹歴を有し,多分に術後癒着の疑いを持たれた159例について,開腹手術後の癒着の発生状況とその後の推移を知ろうとした.著者は数室において腸管癒着を知るために開発された「腸紐診断法」を利用したが,その的中率は85.7%の高いものであった.
癒着症状と思われるものを有したものは108例(67.9%),無症状のものは51例(32.1%)である.このうち検査によって腸管癒着ありと認められたものは有症状のうちの63.9% (69例)無症状のうちの29.4% (15例)である.有症状108例について,開腹術後より癒着症状の発現するまでの期間をみると,術後2カ月までの症例に50%, 12カ月以内とすると63%, 10年以上例には約6%である.
開腹された56例のうち50例は癒着症状を有し, 6例は無症状であつて,前者のうちの37例(74.0%)に,また後者のうちの1例(16.7%)に腸管癒着の実在が確認された.腸管癒着の実在した38例中の12例(31.6%)に大網の癒着が併存した.術後腸管癒着と思われる症状を呈したもののなかに,腸管は無関係で大網のみの癒着の証明されたものが(10.0%)あった.
腸管癒着外の原因で初めて開腹手術が行なわれた後に癒着症状が発現し,腸管癒着のため再開腹された19例では,その後の再癒着発生をみたものは,その36.8%であった.
2回以上の癒着に関連した手術歴を有する22例に腸管癒着の手術が行なわれたが,その50.0%に再癒着が認められた.他施設例を通算すると63.6%となった.
術後腸管癒着のために癒着に関連した手術が行なわれその後に2回以上にわたって検査された25例において,再癒着ありと認められたものは11例(44.0%)であった,開腹術後の腸管癒着の発生率は,その後癒着関連手術の重なるとき再癒着発生率は高くなると考えられる.術後検査期間と再癒着証明との関係を調査するに,術後1カ月以内では再癒着率は60.0%であつたが,その後術後1カ年までは36.8%であった.すなわち術後早期における証明率は高い.また自然剥離は否定できない.しかし術後長年にわたる残存もまた否定できない.
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