腹腔内遊離ガスの存在は,消化管穿孔の決定的診断を下しうる重要な所見としてとりあげられ,これに関する業績も数多くみられている.
筆者は外傷性腸管穿孔例に重点を置いて検討したのであるが,これらの症例は合併損傷などのため,体位変換が不能であることが多く,しばしば適格なX線像は得難い.このため,腹部の局所々見をもって開腹の重要な根拠としているのが現状である.しかし遊離ガスは確認されれば決定的な開腹の診断であることから,これの早期確認が治療成績の向上につながるものと考え,腹部外傷272例のうち, X線学的に証明されるガス像を巡って,臨床および実験の両面より,観察,研究を重ね,得られた結果の要旨を述べる.
(1) 腹腔内腸管穿孔26例において,遊離ガス像が認められたものは11例(42.3%)であった.ガス像の出現には受傷後の経過時間や受傷直前の食餌摂取が密接な関係にあった.
また腹膜炎が進展して重篤な予後を示唆する所見と考えてよい. (2) 一般に開腹に併なう腹腔内ガスは, 28例中23例(82.1%)は1週間以内に消失した.術後腹腔内ガスの減少は患者の年令,麻酔方法,手術の軽重,術式,時間などに影響される. (3) 消化管穿孔40例,腹部外傷不手術50例および対象50例の腹部単純撮影像において,遊離ガス像以外の諸所見の何れによっても,開腹の確実な根拠を把握することは困難であった. (4) 腸管損傷における開腹決定の最有力根拠を提供するものは一般的な局所々見である. 26穿孔例の殆んど全部は臨床的に診断されたが,単純撮影による遊離ガスは,わづかにその半数に証明されたにすぎなかった. (5) 腹部外傷例のX線撮影のため,体位変換はしばしば困難である(42.2%).仰臥位D-V撮影法(筆者創案の撮影台による)は極めて容易であり,かつガス証明率は著しく高揚した.すなわち,最近の13例では従来の方法によるときは8例(61.5%)で,本法によると11例(84.4%)となった(6) 犬の腹腔内に空気を送入し, X線学的に証明される限界と体位による変動を調べた.証明可能なガス容量限界は立位(立上り位)で3ml以上,仰臥位および腹臥位で20ml以上であった.ただし,仰臥位D-V撮影によると10mlに減量した. (7) 仰臥位より立位(立上り位)に体位変換を行ない,横隔膜下に遊離ガスを集積するに要した時間は50ml送気群では1分30秒~2分であった. (8) 犬の腹腔内腸管穿孔の実験において,食餌摂取群では明らかに遊離ガス像の発生は高率に,かつ早期にみられ,また生存期間は著しく短縮された. (9) 後腹膜腸管穿孔の術前診断は極めて困難とされているが,筆者は臨床例8例の経験により,後腹膜組織内ガス像は極めて有力な参考資料と考えられた. (10) 後腹膜組織内に空気を送入し,その拡散による影像を検討し, 4型に分類した.
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