慢性胃炎に関しては従来多くの検討が行なわれて来たが,その病態に関しては必ずしも明瞭に確定されていない.これまで多くの報告によれば本疾患の本質を,多彩な修飾像を伴う胃腺の萎縮,消失と述べている.しかしながらこれをただ単に胃粘膜の慢性炎症の結果とするには種々の疑問がある.近年精神身体医学的因子,免疫学的因子がその発生に関与するとの意見もあり,更に加令的推移に由来するとの意見も散見される.では胃粘膜の性状は加令に伴いいかなる変遷を示すものであろうか,また正常胃粘膜とはいかなる組織形態を示すものであろうか,慢性胃炎の本態を解明するにはこの問題を検討することが極めて重要である.著者はこの点を検索するために胎児,および小児の胃粘膜について,その厚さの加令的推移,組織発生学的推移ならびに病理組織学的変化を検索し以下の結論を得た.
1. 胃底腺領域の腺層の厚さの粘膜全層の厚さに対する比(腺長比)は,生後数カ月の間に急速に増加するが,これは組織学的には主細胞の増殖を主体とする胃底腺の伸長に依存するものである.
2. 胃底腺は3才,幽門腺は4才で組織学的に成人胃粘膜に類似した構成を示すに到るが,腺の伸長,稠密化はその後も進行し,それに伴い胃粘膜層の厚さは増加しつづけて,胃底腺領域ではほぼ15才,幽門腺領域では8才でほぼ成人値に近い厚さに達する.
3. 胎児および幼若小児に見られた腸上皮化生巣を組織学的に検討した結果,これが小腸粘膜の胃内迷入による可能性の強いことを示唆した.
4. 生長過程にある小児胃粘膜にあつては慢性炎症性変化は少なく,かかる変化は幽門腺領域では8才,胃底膜領域では15才を境として多く現われる様になる.
慢性胃炎胃粘膜の組織学的評価にあたっては,これらの点を充分考慮すべきである.
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