胃診断技術の長足の進歩により,早期癌も容易に発見されるようになつた.しかし,噴門部に関しては,初診時,すでに進行癌であり,根治手術の限界を越えた症例が少なくなく,早期癌はいまだ数少い.依つて本論文の目的を次の二点に絞り検討を試みた.
1) 噴門部進行癌の手術適応決定に関する問題 2) 噴門部癌の早期診断法に関する問題
対象とした症例は,昭和43年1月より昭和44年12月までの2年間に,東京女子医科大学消化器病早期癌センターを訪れた,下部食道噴門部癌患者426例であり,このうち切除手術が施行されたのは236例である.
目的の1)に対しては, X線像上の大きさをフイルム上で計測し,その大きさ,型,および占居部位から,切除率,合併切除率,胃癌取扱い規約のS. P. N. H-Factorを予知すること,穹窿部変形と手術適応,食道浸潤と開胸等について検討した.
目的の2)に対しては,噴門部進行癌の占居部位から,その好発部位を知り,初診時胃X線検査の能率的な病変発見に関する検討である.これより次の結論を得た.
(1) 食道への浸潤の長さが,食道胃接合部より1 cm以下.食道浸潤の高さが,左横隔膜と食道左縁の交点以下の症例は開腹,これを超えた場合,全身状態,開腹所見を考慮の上,可及的開胸すべきこと
(2) 穹窿部変形が1/3以上の症例は,切除率,合併切除率が,それ以下の大略2倍になる.
(3) 陰影欠損の長さが6 cmを境にして,これを超えると, (i) S
3ないしS
2症例が, 6 cm以下の大略2倍に増加する(ii)小弯,後壁にあり,浸潤型ないし潰瘍浸潤型の癌腫は,膵脾合併切除の可能性が大きい. (iii)小弯,前壁にあり,浸潤型ないし潰瘍浸潤型の癌腫は,肝左葉合併切除の可能性が大きい, (iv)大弯,前壁,全周の癌腫は,腹膜播種性転移を起す傾向が強い. (v) N
2以上の転移を起す可能性が, 6 cm以下の2倍近い.
以上の条件,即ち,食道浸潤1 cm以下,穹窿部変形1/3以下,陰影欠損の長さが6 cm以下でS
1, P
0, H
0, N
1を満たす,良い手術適応症例は, 426例中18例(4.2%)にすぎない.
(4) 早期診断法については,小弯,および,これに接した前後壁に癌腫の大略80%が存在していることから,「噴門入口部正面撮影法」が極めて有効なことが実証出来た.
本撮影法は,半立位仰臥位より,ゆつくり右側臥位に体を回転し,穹窿部より噴門部小弯側に沿い造影剤が薄い層となつて流下する瞬間を狙撃撮影する方法である.
抄録全体を表示