開腹術後の腸管麻痺は近年麻酔,抗生物質,輸血輸液などの進歩及び診療技術の向上により日常遭遇する機会が少なくなつて来た.しかしその本態に関する研究は少なく,大腸の機能回復が小腸より極めて遅いという以外には余り論じられていない.われわれは腸管麻痺の回復は腸管内容の移送を第一義と考え,その実態を明らかにするため,臨床的にレ線観察法及び腹音図法を用いて調査研究し,以下の結論を得た.
1) 開腹術後の腸管運動をみると,小腸は術後早期より内容移送を開始するが,大腸でははるかに遅れ,腸管運動障害の主体をなす.しかも口側腸管より順次機能を回復することにより腸管麻痺を3段階に区分した.
2) 種々の腸管運動促進剤の効果は腸管麻痺の段階により差がある.いずれにせよ効果の持続時間は60分以内であり,蠕動促進剤投与は麻痺回復に本質的影響を及ぼすものではない.
3) 脊椎麻酔は,大小内臓神経を遮断するTh
6以上の高位脊麻では強力な腸管運動促進作用を発揮する.
4) 硬膜外麻酔にも腸管運動促進作用を認めるが,小腸への影響が主であり,大腸への影響は脊麻に比較して弱い.しかし臨床的に鎮痛目的をも果たせ,偶発症の懸念が少ないので,特に持続硬膜外麻酔は開腹術後に好適である.
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