外科領域における手術患者の術前・術後管理の問題はきわめて重要であり,近年この方面への関心はとみに亢まりつつある.患者管理のなかでも栄養管理はその基盤となるものであるが,その重要性は認めながらも実際臨床にあたつては必ずしも容易ではない.しかし近年は栄養輸液の面では画期的な進歩がみられ,臨床的にもその応用がすぐれた効果を現わしている.その一つは中心静脈栄養という補給方法の進歩であり,もう一つは静脈内に大量補給できる脂肪乳剤の開発されたことである.これらに伴つて従来行なわれていた臨床面あるいは研究面での考え方や成績はかなり変化してくるのは当然のことである.
わたくしは手術後の静脈内栄養施行時に脂肪を添加補給することが,血中のアミノ酸はじめ,アミノ酸の代謝面にどの様な影響を及ぼすかについて,開腹手術例63例について,主に術後の変動を微生物定量法で観察した.術後における必須アミノ酸,個々のアミノ酸変動については,種々の複雑な条件の下でその傾向をとらえるのは甚だ困難であるが,補給栄養の量並びに質によつて群別し,対比を試みた.観察したものは,血中の必須アミノ酸の推移,血清遊離アミノ酸比,必須アミノ酸比及びα-アミノ酸窒素の変動などであるが,これらの結果からみると,脂質補給による熱量増加の影響のほかに,脂質のもつ代謝上の特異性からアミノ酸代謝に影響すると思われるものも認められた.今後脂質は糖質やアミノ酸剤と共に併用されることが多くなると考えられ,代謝面での脂質の影響を考慮する必要があろう.
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