静注用脂肪乳剤の開発により,脂肪の避腸的補給が可能となつたことは,術前・術後の栄養管理において,単に熱量の補給の面からばかりでなく,必須脂酸の補給という面からも注目すべきものがあるが,著者はこの脂肪乳剤を長期間に亘つて補給した症例の剖検例の中に,肝のKupffer星細胞に黄褐色調のpigmentが存在している例を経験した.そこで脂肪乳剤長期補給臨床例について主に病理組織学的に検討を加えると共に,このpigmentの問題を中心に,脂肪乳剤を長期間経静脈的に補給した場合の生体の臓器・組織に及ぼされる影響を更に詳細に検索するため,家兎を用いて実験を行なつた.
結果:
1) 肝機能,網内系機能(Congo red法)には明らかな変動はみられない.
2) 血清,肝臓および脾臓の脂質は輸注された脂肪乳剤の影響を受け変動するが,補給休止後は徐々に補給前値に復する傾向を認める.
3) 脂肪乳剤の長期連用により,肝Kupffer星細胞内へのi. v. fat pigmentの取り込み, Kupffer星細胞の腫脹,肝小葉内のmicrogranuloma,脾臓の網内系細胞へのi. v. fat pigmentの取り込みが認められるが,これらは全て脂肪乳剤の連用期間が長期になるほど増強し,補給休止により減少または消失する.
4) 静注用脂肪乳剤(Intrafat)の長期連用により網内系細胞に観察されるi. v. fat pigmentは,中性脂肪,燐脂質および過酸化脂肪を微量に含有し,恐らく脂肪酸の重合によつて生じたpigment‐lipoid complexであると考えられる.
5) 脂肪乳剤長期連用後休止した家兎の,肝臓のGlisson鞘域に観察されるi. v. fat pigmentを取り込んだ“黄色を帯び明るく腫大した細胞”および脾臓の濾胞周囲に観察される明るく腫大した細胞について検討した結果,肝臓および脾臓におけるi. v. fat pigmentの処理にリンパ系が密接に関与しているものと推論される.
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