胃の運動機能を内圧曲線波形からみた研究は,古くよりバルーン法で試みられてきたが, 1) 挿管による苦痛, 2) 大きなバルーン自体の胃壁への刺激による期外の収縮を引き起す可能性, 3) 2局所に生じた影響の重加, 4) 1局所の収縮が他部位の弛緩により殺される可能性があるなどの欠点がある.私は,より生理的な胃運動の把握を目的とし,カプセル内に超小型発振器を内蔵させ遠隔装作により被検者に苦痛を与えることなく,ごく自然の状態で消化管の内圧測定を可能にせしめた次のような装置を新たに開発した. 1) カプセルは長径17.5mm,短径9.5mm,アルカリ電池を内蔵し重量1.8gの超小型である. 2) 厚さ10数ミクロンの金属膜で内圧を感受し発振周波数に変換して送信する. 3) ループ状アンテナを3個使用し,完全に受信する. 4) 受信機は二重のフィルターで他電波の混入を防ぐ. 5) 検査前,較正機により+100cmH
2Oから20cmH
2Oごとに-100cmH
2Oまでの水柱圧と発振周波数との相関関係を記憶させる.
胃切除後の残胃の運動機能に関しては種々の論議がありなお不明の点が残されている.そこで私は,当教室において開発した遠隔圧力測定装置を用いて,内圧曲線から残胃の運動機能の検討を行った.
対象:胃切除後14日目から最高12年目までの20症例に本検査を行った.年齢は27歳から75歳までで平均48.9歳,術式はBillroth I法およびII法に別け比較検討した,なお健康者24例をその対象群とした.
成績:健康者において, 1) 胃底部は収縮運動はなく呼吸曲線のみである, 2) 胃体部は波高値平均8.7cmH
2O, 1分間の収縮波数平均3.04回の規則正しい20秒律動波を示し, 3) その律動は幽門部でも同一で平均3.25回であり,波高値のみが平均46.6cmH
2Oの高値を示し, 4) 幽門洞部ではその20秒律動波中に波高値100cmH
2Oにも達する大収縮波を認め,そのとき胃内容が十二指腸へ移送されるのを確認した. 5) 胃壁筋の緊張変動と考えられる緩慢なうねりのような波形を認めた.
残胃では, 1) 胃底部は呼吸曲線のみである. 2) 残存の胃体部においては,最も早期に検査を行った術後2週目の症例では,すでに波高値平均10.2cmH
2O, 1分間の収縮波数平均2.60回の規則正しい律動収縮波形を示し, 2) 術後1カ月目ではそれが平均2.80回, 1年以上を経過したものでは,平均3.12回と増加する傾向を示した, 3) 術後1カ月を経過するとカプセルが吻合口より腸管へと移送されるとき,残胃の強い収縮を認めた.
結果:従来諸家がバルーン法により報告した所見と比較し,有意の差があり,より生理的状態における胃運動曲線を認めえた.
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