研究目的
教室では1961年以来Mikulicz-牧野縫合(以下M-M縫合)による各種消化管吻合を行ってきた.本縫合法は全て結節縫合で,後壁は全層一層縫合の所謂through and through sutureのみであるが,前壁の操作に特徴があり,漿膜側より断端の層々なる接合を意図している.著者は本縫合法の吻合形態と癒合過程を明らかにする目的にて臨床的並びに実験的研究を行った.
研究対象および方法
臨床的研究として過去17年間(1961~1977年)の胃全摘症例442例を対象として,縫合不全発生因子に関しての検索を行い, Albert-Lembert縫合(以下A-L縫合)を対照として, M-M縫合の有用性を検討した.さらに実験的研究によりその裏付けを行った.すなわち犬を用いて,胃十二指腸吻合並びに結腸結腸吻合を行い,経時的に肉眼所見, microangiography,組織学的検索を行った.
結語
1) 胃全摘縫合不全率は4.5% (20/442)であった.
2) 縫合不全発生因子として,年齢,術前の赤血球数,血清蛋白量は関連性は少く,性,原疾患の良悪性,胃癌進行度,合併切除の有無に関連性を認めた.
3) 手術時間,出血量,再建術式等手術手技は縫合不全発生の重要因子であった.
4) 食道空腸吻合部縫合不全率はM-M縫合, 1.3% (3/235), A-L縫合3.1% (6/196)であった.
5) 実験的にM-M, A-L縫合共に縫合不全は認めず,癒着にも差はみられなかったが,瘻形成,狭窄はM-M縫合が少なかった.
6) Microangiography所見でM-M縫合では5日でvascular communicationが認められたが, A-L縫合では2日以上遅延した.
7) 組織学的にみてM-M縫合はA-L縫合より断端接合状態が良好であった.
以上により臨床的,実験的に, M-M縫合は有用なる縫合法の一つであると言える.
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