遺伝性球状赤血球症はメンデルの法則にもとづく常染色体優性遺伝により家族性に発生する疾患で,臨床的には貧血,黄疸,脾腫を主症状とし,血液検査では末梢血中への球状赤血球出現,赤血球浸透圧抵抗減弱,赤血球寿命短縮及び網状赤血球数増加を特徴とする.
教室では最近10年間に,本症の4例に対して脾摘を施行した. 4例のうち遣伝関係が証明されたのは1例(25%),胆石を合併していたもの1例(25%)であった.脾摘により,貧血及び黄疸は全例とも1~2週間後にはほぼ正常に改善された.一方,末梢血中の球状赤血球数も減少し,そのうち1例で消失を見たし,赤血球寿命は1例で著明な回復が得られた.しかし赤血球浸透圧抵抗は脾摘後も改善は見られなかった.
本症の成因に関しては,現在では赤血球膜の異常を一次原因とする疾患とされているが,臨床的には脾摘により,貧血,黄疸等の症状はすみやかに改善され,血液学的にも球状赤血球数の激減,赤血球寿命の改善等の報告はしばしば見られる.
本症の脾内では,球状赤血球の髄質から脾洞への通過が困難とされ,髄質内にうっ滞し,それゆえに赤血球の代謝に必要なグルコースが十分に供給されにくくなり,赤血球の球状化及び脆弱性の亢進等の異常が増強されると考えられる.
したがって,本症に対する脾摘の施行は,このような病態生理の改善にはきわめて有効な手段であり,われわれの4例の経験からも,臨床的にも,血液学的にも,その効果は確認された.
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