われわれは,非寄生虫性肝嚢胞に対して, PTCDの手技を応用した経皮経肝嚢胞ドレナージを行ない,その後嚢胞壁切除にて治癒せしめた2症例を経験したので報告する.
症例1. 69歳,女.腹部腫瘤を主訴として,手術の目的で名古屋大学第1外科へ入院した.超音波検査,腹腔動脈造影にて肝左葉の嚢胞と診断された.腫瘤の増大のため呼吸障害が出現したので,経皮経肝嚢胞ドレナージを行なった.ドレナージ後,呼吸障害は著明に改善された.嚢胞造影にて,胆道系との交通のない,表面平滑な孤立性単胞性肝嚢胞と診断された.嚢胞壁前壁切除にて治癒した.
症例2. 82歳,女.腹痛を主訴として尾張病院を受診.腹部超音波検査,腹腔動脈遣影にて肝左葉の嚢胞と診断された.経皮経肝嚢胞ドレナージにて自覚症状は消失した.嚢胞造影では,尾側よりの圧迫を認める表面平滑な嚢胞像が得られ,多発性肝嚢胞が示唆された.なお,嚢胞と胆道系との交通はなかった. 1月後,嘔吐が再発し,手術の目的で再入院した. CTにて多発性肝嚢胞と診断された.開腹すると,肝左葉に内容液400mlの大きな嚢胞と近接した所に3個の小嚢胞があり,有窓術を行なった.
症例1, 2ともドレナージ液は無色透明で血清成分と近似しており,細菌検査は陰性であった.
嚢胞ドレナージの有用性は次の如くである. 1) 応急的処置として治療的意義がある. 2) 嚢胞内容液が得られるので,胆汁成分混入の有無および感染の有無がわかる. 3) 内容液の色調・細胞診にて良悪性の鑑別の一助となる.嚢胞ドレナージにひき続き嚢胞造影を行なうと, 4) 胆道系と嚢胞との交通の有無がわかる. 5) 嚢胞の形態的特徴がわかる.以上,手術々式,特に嚢胞壁切除の術式選択に際し,多くの有益な情報が得られる.なお,経皮経肝嚢胞ドレナージによる合併症は認められなかった.
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