後腹膜奇形腫は,乳幼児から小児期に好発し,神経芽腫,腎芽腫と共に小児悪性腫瘍の代表的な腫瘍の一つであるが,成人に於ける報告は少なく, Mecray等(1937年)の報告以来, 1982年4月までに35例の欧米報告例及び1例の本邦例のみである.更に,後腹膜原発の悪性奇形腫はBruneton等の8例の集計報告のみである.今回,我々はこの様な一例を経験したので,文献的考察を加え,報告する.
症例は55歳女性,腹部腫瘤を主訴として来院,卵巣癌の疑いで手術を行なった結果,腫瘤は,後腹膜を原発とし,小児頭大,硬く,多胞性,後面は下大静脈と強固に癒着し,これを含めて切除した.その割面にて嚢胞内に多量の黄土色混状物及び粘土状の壊死分質があり,壁の一部に結節状の充実した腫瘍組織を認め,更に組織学的にその部位に扁平上皮の癌化が認められ,後腹膜原発の悪性奇形腫と診断した.術後, 39°Cの間欠熱が持続し,全身状態の改善もみられず, 8週後に死亡した.
剖検所見では,肝に広範な腫瘍の転移があり,更に下大静脈及び周囲組織内に腫瘍の残存が組織学的に認められた.また,副病変として肺に結核性乾酪性肺炎像を認め,術後の発熱の原因と判明した.
本疾患の診断には,腹部単純レ線像が有用であり,更に血管及び尿路造影,超音波断層, CT等の検査法の活用が望まれる.
しかしながら,現在,術前の良・悪性の鑑別は非常に困難である.
治療法は,外科的切除以外はなく,その予後は,良性例では当然良好だが,悪性例の報告では,非常に悪く,症状発現後18カ月,切除後6カ月以内に全例死亡している.
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