乳癌,乳腺症,女性化乳房という本質的に異なる乳腺疾患に対してAndrogen療法が古くから行なわれている事は興味深い.そこで,乳腺に影響力が強いと考えられているプロラクチン(以下PRL)とエストロゲンの中で最も作用の強いエストラジオール(以下E
2)をAndrogen (エナント酸テストステロン・デポ,プロピオン酸テストステロン水性懸濁)の投与前後に測り,それらの乳腺疾患への影響及び反応がいかなるものであるかをしらベた.
その結果,女性疾患群(乳癌,乳腺症,他疾患女性)においてはどちらのテストステロン剤投与でもE
2は上昇し, PRLはエナント酸テストステロン・デポ投与により上昇したが,プロピオン酸テストステロン水性懸濁投与では上昇しなかった.乳癌にとってPRL, E
2の上昇は好ましくなく,又乳腺症にとってE
2上昇は好ましくない.それゆえテストステロン療法に抗エストロゲン剤を併用する事は有効と考えられる.女性化乳房においてはエナント酸テストステロン・デポ投与によりPRLは上昇したが,他疾患男性においては上昇しなかった.これは女性化乳房のE
2基礎分泌値が高かったためと思われるが,女性化乳房に対してもテストステロン療法に抗エストロゲン剤を併用する事は有効と考えられる.他疾患男性ではエナント酸テストステロン・デポ投与によりE
2の上昇を示したが,女性化乳房においては上昇しなかったので,テストステロン代謝の異常が考えられた.E
2上昇は性別や閉経前後により異なり, PRLもほとんど同様に対応しているようであった.従って, PRLの上昇はテストステロンの直接作用以外に変換されたE
2によるものも考えられる.乳癌,乳腺症,女性化乳房のPRL基礎分泌値は他疾患々者と差はなかつた.乳癌,乳腺症のE
2基礎分泌値は他疾患女性と差はなかった.女性化乳房のE
2基礎分泌値は他疾患男性より有意に高かった.
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