重度外傷や大きな手術後に複数の主要臓器が機能不全に陥る,いわゆるmultiple organ failureの発生の引き金として感染症が重要視されている.我々は, 1976年1月から1980年12月までの5年間に当科で経験した141例の感染症患者を対象に,肺,肝,腎,消化管を対象臓器として, MOFの発生率およびMOFの予後に影響を与える因子について検討した.また剖検例にて各障害臓器の病理学的検索を行なった.
各臓器障害の判定基準は,肺は喘鳴,呼吸困難があり, FiO
2 0.2の自然呼吸下でPaO
2 70mmHg以下のもの,肝は,血清ビリルビン値が2.0mg/dl以上, GOT, GPTが100U/l以上のもの,腎は乏尿,無尿があり,血清クレアチニン値が1.5mg/dl以上のもの,消化管は吐血,下血,コーヒー残渣物の確認,および内視鏡による出血の確認がなされたものをそれぞれ障害陽性とした.これらの臓器のうち,初発感染巣を除き2臓器以上の機能障害を認めたものをMOFとした.
その結果MOFの発生率は,低アルプミン血症の患者,菌血症およびショックを感染症罹患中に認めた症例で高率であった.またMOFによる死亡率は, 50歳以上の年齢,悪性疾患,低アルブミン血症の患者,感染症罹患中にショックに陥った患者,およびドレナージ非施行例あるいはドレナージ効果不良例で高率であった.このことから,感染巣のドレナージを的確に施行し,綿密な栄養管理を行なうことが, MOFの予後改善のために重要であると考える.
病理学的検索では,肺はうっ血,肺胞壁へのヒアリン膜の形成,肺胞内への蛋白成分の漏出,肝では類洞の開大,肝内胆汁うっ滞,中心性肝細胞壊死が認められ,腎では尿細管細胞の混濁腫脹,変性が,胃,十二指腸では粘膜のうっ血,出血,びらん,潰瘍が認められた.
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