昭和57年末までの13年間に,胃及び十二指腸の良性潰瘍性疾患にて開腹手術を行なったのは,新生児例を除いて790例であり,このうち,手術所見及び病理所見により胃の急性潰瘍と診断されたのは63例であった.
急性胃潰瘍につき,我々は,肉眼所見を主に, A: UI II~IIIの不整形潰瘍型, B: UI I~IIのビラン型, C: UI III~IVの急性深潰瘍型に分類したが,教室例ではA: 25例, B: 22例, C: 12例, A+B: 3例, B+C: 1例であった.
この分類にのっとって下記の諸項目の検討をし,その特徴を述べた.
1) 年齢分布, 2) 潰瘍部位, 3) 露出血管, 4) 手術術式と再手術例, 5) 死亡例, 6) 背景, 7) 急性潰瘍くり返し例.
この中で,急性胃潰瘍の主な臨床症状は出血であり,特に緊急開腹手術の適応となった症例の大部分は,ショックレベル以下に到る大量出血を来たしたものである事を述べたが,かかる病状にあっては,救命のために積極的な止血処置が最優先されるべきである.
開腹に際しては,胃切除に先立って出血部位の充分な確認をすべきであり,不整形潰瘍型で大潰瘍例については潰瘍の取り残しをしない事が重要であり,多発ビラン型では,そのうちの1, 2個のビラン面にデュー ラフォイ型の露出血管が存在するのを見逃がさない事が重要であると述べた.
術式決定に際しては,胃状況に目をうばわれる事なく,全身状態,発症の背景,術後消化機能等も充分に考慮し,同時に,救命第1の観点に立って,出血部縫合止血,潰瘍部切除から胃全摘術までの多様な方針のうち,どれに決めるか,症例個々に検討する事が重要である.
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