日本臨床外科医学会雑誌
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45 巻, 11 号
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  • 伊藤 隆夫, 田中 千凱, 操 厚, 松村 幸次郎, 竹腰 知治, 坂井 直司, 梶間 敏彦, 国井 康彦, 加地 秀樹
    1984 年 45 巻 11 号 p. 1385-1391
    発行日: 1984/11/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    乳癌の診断は各種補助的診断法の進歩によって向上してきたが,最終的には組織学的診断におうところが多い.そこで手術生検法の前段階に位置するものとして,われわれは穿刺吸引細胞診(fine needle aspiration biopsy以下f. n. a. b. と略す)を行ってきたが,乳癌の診断に好結果を得たので報告する.
    最近2年間に乳腺外来をおとずれた患者のうち230例, 251回のf. n. a. b.を行った結果, class I, II 183例(79.6%)で, class IIの中に3例(1.6%)の乳癌があった. class IIIa, IIIb 12例(5.2%)のうちIIIbに3例(25.0%)の乳癌があった. class IV, Vは35例(15.2%)で32例の乳癌と3例(8.6%)の良性疾患(intraductal papilloma 1例, fibroadenoma 2例)があった.再度f. n. a. b.を行ったものが21例ありclass IIの2例でclass Vと再診断された.この期間の乳癌症例は52例で,そのうち, f. n. a. b.の結果から根治術を行なったもの32例(61.5%), f. n. a. b.から手術生検を経て根治術を行ったもの6例(11.5%)があった.腫瘤の大きさと乳癌の関係では2cm以下10例(9.2%), 2.1~5.0cm 21例(19.4%), 5.1cm以上7例(53.8%)と大きくなるにつれて乳癌症例も増加した. f. n. a. b.による乳癌の正診率は92.1%で,年齢では40~59歳に89.7%,腫瘤の大きさでは2cm以下が90%,組織学的には乳頭腺管癌が88.0%とそれぞれ低率であった.専門家の間でもその取扱いに議論の多いclass IIIを除いたf. n. a. b.の正診率は97.2% (212/218),組織学的に確診されたclass IV, Vの正診率は91.4% (32/35), false negativeは1.6% (3/183), false positiveは8.6% (3/35)で,誤診例では核クロマチン量,核の大小不同,核の重積性などによる誤判定によるものであった.誤診率を減少させるためには検体採取にあたって慎重であることはもちろん,疑わしい場合は再検または手術生検を行うことを考慮すれば, f. n. a. b.は乳癌の診断において安全かつ有用な方法と考える.
  • 寺部 啓介, 長谷川 泰久, 大倉 国利, 亀井 秀雄, 近藤 達平
    1984 年 45 巻 11 号 p. 1392-1396
    発行日: 1984/11/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    経静脈栄養,経腸栄養の発達に伴い,術前術後の栄養管理は容易となった.今回我々は縫合不全,消化管瘻を有する患者の栄養管理を施行し,他の疾患と異なり,種々の問題点が明らかとなった.縫合不全,消化管瘻を有する患者は重症感染症を合併し,耐糖能の低下,免疫能の低下などがあり,またhigh output fistulaでは電解質等の喪失等もあり,栄養管理に,難渋する場合が多い.当教室での栄養管理のあらましは,平均投与エネルギーは1,908kcal/day, kcal/Nは169.2であった.縫合不全,消化管瘻のうちhigh output fistulaでの自然閉鎖率はTPN, EN導入以前は20%であったのに対しTPN, EN導入後は84%と著明に改善した.耐糖能は低下しており,インシュリンを必要とし,当教室では18例(46.2%)にインシュリンを投与した.平均インシュリン量は25.4U/dayであった. IVHによる合併症としては,気胸2例,カテーテル熱5例, Zn欠乏9例,必須脂肪酸欠乏1例,肝障害8例,高血糖10例,低血糖1例,電解質異常3例,非ケトン性高浸透圧性昏睡2例で, EDによる合併症は,下痢9例,腹痛3例,嘔気2例であった. Zn欠乏症例の原因はZn投与不足によることが多いが, high output fistulaでは,短期間にZn欠乏症状が発現するので注意を要する.非ケトン性高浸透圧性昏睡は重篤な合併症で,大手術後,縫合不全等による重症感染症の後に発症することが多く,毎日の水分出納,血糖のコントロールが必要と思われる.以上,縫合不全,消化管瘻を有する患者の栄養管理は容易ではないが,毎日の慎重な管理により合併症の発生率を減少させ,栄養管理の目的が果せるものと思われる.
  • 第II編:潰瘍発生因子の検討
    岡村 貞夫, 佐々木 政一, 勝見 正治, 谷口 勝俊, 岡 統三
    1984 年 45 巻 11 号 p. 1397-1402
    発行日: 1984/11/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    血液型と消化性潰瘍の間には明らかな相関がみられる.そこでこれら両者間に介在すると思われる潰瘍発生要因を究明するために,消化性潰瘍手術患者2,175例及び消化性潰瘍以外の疾患による一般入院患者172例について胃粘膜攻撃因子,防御因子各3項目の検討を行った.
    その結果O型の胃潰瘍(GU)ではA型のGUに比し最大塩酸分泌量(MAO)が有意に高値(p<0.01)であり,空腹時血清ガストリン値(FSG)は有意に低値(p<0.05)を示したが,十二指腸潰瘍(DU)についてはMAO, FSG共にO型に特徴的な所見は得られなかった.胃内容の排出はDUに比しGUが緩除であり特にO型GUでは排出遅延傾向がみられた(N. S.).
    一般入院患者における胃液ヘキソサミン濃度,血清リゾチーム活性及び血清プロスタグランディンE値はいずれもA型に比しO型で低値を示したが推計学的に有意な差は認められなかった.
    潰瘍発生と血液型の間に介在する因子は単一のものではなく攻撃防御各因子のある種の組合せによってulcer diathesisが形成されるものと思われるが,今回の研究によって成人期以後に発症するO型GUには少くとも胃酸とガストリンが関与している事が示唆された.
  • 鈴木 忠, 織畑 秀夫, 倉光 秀麿, 中川 隆夫, 西 純一, 小野田 万丈, 安部 龍一, 李 志成, 斉藤 道顕, 井原 寛, 久米川 ...
    1984 年 45 巻 11 号 p. 1403-1411
    発行日: 1984/11/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    最近の15年間に当科で経験した胃穿孔患者は51例で,その内訳は胃潰瘍穿孔35例,胃癌穿孔16例であった.
    これら教室例を述べ,さらに多少の文献的検討も加え,本症についての発症の背景と治療上の問題点につき報告した.
    従来より,上部消化管穿孔については,潰瘍性穿孔と癌性穿孔に分け,潰瘍性穿孔については,胃潰瘍穿孔と十二指腸穿孔を一緒にして,胃十二指腸穿孔として報告される場合が大部分である.
    我々は,胃潰瘍と十二指腸潰瘍は様々な点で異なり,特に原因と治療を考えた場合は区別して考えなければならないと考えているが,これは穿孔性潰瘍についても同様であると考えている.
    さらに,通常の胃潰瘍では,その発生や病態に関して,急性潰瘍と慢性潰瘍に分けて検討するのが一般的であるが,穿孔性潰瘍に関しても同様立場で検討すべきである.
    一方,癌穿孔については,進行癌の壊死穿孔によるものと,癌病巣内潰瘍の穿孔によるものとがあり,前者では胃潰瘍その他の良性疾患との診断で非手術治療をしているうちの穿孔が多く,後者は突発的穿孔が多い.
    これらのことを考慮しつつ実際の臨床上の問題点につき検討したのだが,本症については, 1) 一部に胃内容を持続吸引しつつ非手術治療を第一選択とする考えもあるが,病態と発症機転を考えると本症はやはり緊急手術の絶対的適応とすべきであり, 2) 開腹したら,潰瘍穿孔なのか癌穿孔なのかを適確に判定すべきであり, 3) 全身状態又は局所状態が不良でなければ,最初から胃切除の方針で臨むべきであり, 4) 死亡率を減すためには,早期診断と早期からの積極的な治療,合併症対策が必要であると思われた.
  • 加辺 純雄, 西田 正之, 胡居 郁郎, 柿原 稔, 河野 道弘, 初瀬 一夫, 門田 俊夫, 黒川 胤臣, 田義 国義, 平出 星夫, 三 ...
    1984 年 45 巻 11 号 p. 1412-1415
    発行日: 1984/11/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    噴門部癌の形態学的特徴をみるため,噴門部癌23例(うち治癒切除14例),胃下部癌157例(うち治癒切除96例)を比較し,次の結果を得た.
    1) 下部癌の頻度(41.6%)とくらべ噴門部癌は6.1%と少なく, C領域全体を集めても45例(11.9%)にすぎなかった. 2) 切除率,治癒切除率とも両者間に差はなかった.以下治癒切除例について比較すると, 3) 男女比は噴門部癌3.7:1,下部癌1.7:1であった. 4) 71歳以上の高齢者の頻度は噴門部癌で35.7%,下部癌で17.7%であった. 5) 組織型では乳頭腺癌が噴門部癌(35.7%)において下部癌(10.4%)より有意に(0.01>p>0.005)多かった. 6) 深達度で早期癌(m, sm)とse癌の比が,噴門部癌2:5,下部癌39:12と有意に(0.01>p>0.005)逆転した. 7) リンパ節転移陽性率は噴門部癌で62.3%,下部癌で49.0%であった. 8) 粘膜面からの肉眼型で0型と2型の比をみると,噴門部癌には0型が少なく2型が多い傾向(0.1>p>0.05)を示した.さらに割面肉眼分類でも表在型が少なく限局型が多い傾向を示した. 9) 噴門部癌には早期癌自体が少ないが, IIa:IIc=1:1で下部癌の2:17とくらべIIcが少なかった(0.01>p>0.005). 10) 浸潤増殖様式INF αは噴門部癌で57.1%,下部癌で25.0%と噴門部癌で有意に(0.025αpα0.01)高頻度であった.
    噴門部癌の特徴と考えられている: a) 低頻度, b) 男に多い, c) 早期癌が少ない, d) 限局型が多い, e) 分化型が多いといった所見が,下部癌と比較する事により,全国的な集計をまつまでもなく,単一施設の統計のみでも有意差を示す因子が少なくない事から,噴門部癌の特徴がより一層明確にされた.
  • 炭山 嘉伸, 宅間 哲雄, 鈴木 茂, 武田 明芳, 鶴見 清彦
    1984 年 45 巻 11 号 p. 1416-1422
    発行日: 1984/11/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    我々は胆汁中CEA測定が肝胆道系疾患の診断に有用であるかを調べるため, PTCDを施行した43例の患者より胆管胆汁を採取し胆汁CEAを測定した.
    胆汁CEA値は総胆管結石9.62ng/ml, 胆のう総胆管結石19.02ng/ml,肝内結石29.31ng/mlと3者の間に有意差を認めた.また良性疾患で21.49±2.03ng/ml,悪性疾患で23.28±2.18ng/mlと両者の間に有意差は認められなかった.
    胆汁CEAの変動を見るため血清CEA,肝機能検査,血中白血球,胆汁細菌培養, PTCDよりの胆汁量等と比較検討を加えた.しかしいずれを見ても明らかな関係は見い出せなかった.
    胆汁CEA値の時間的経過を見ると悪性疾患においてPTCD後急減するが,その後上昇,減少を繰り返す傾向を認め,良性疾患では上昇傾向を認める例はなかった.
  • 斉藤 敏明, 横山 勲, 新井 健之, 山田 良成
    1984 年 45 巻 11 号 p. 1423-1428
    発行日: 1984/11/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    切除22例,剖検46例の胆道癌について検討を行った.
    切除例については胆管癌7例,胆嚢癌12例,乳頭部癌3例で,胆管癌では非治癒切除となったのは3例で,癌の進展がHinf, Vによるものであった.リンパ節転移は比較的少なくn2は1例であった. 6年以上生存は治癒切除の2例のみであった.胆嚢癌では治癒切除9例,非治癒切除は3例で,癌の進展はHinf,術中診断の誤りなどであり,またリンパ節転移ではn3が3例に認められた. 3年生存は1例, 6年生存の1例は早期癌であった,乳頭部癌については3例とも治癒切除であったが2例にPancが認められ再発死亡した.
    剖検例について癌の進展をみると,胆管癌17例ではHinf (50%), H (50%),肺転移(15%),リンパ節転移は肝門,膵周囲に15%程度に認められた.胆嚢癌25例においてはHinf (89%), H (26%), P (52%),肺転移(36%),リンパ節転移は肝門,膵周囲に多く,旁大動脈にも36%に認められた.乳頭部癌3例については1例を除き,肝,肺,膵周囲リンパ節転移が認められた.
    組織像との関連をみると,胆管癌では高分化腺癌76%,中・低分化腺癌24%で,肝転移は高分化型の30%に対し,中・低分化型では100%に認められた.胆嚢癌では高分化腺癌52%,中・低分化腺癌40%で胆管癌より低分化の傾向にある.中・低分化型では肝転移50%,肺転移60%,旁大動脈リンパ節転移70%に認められ,高分化型より多い.
    以上の所見から胆管癌においては遠隔転移,リンパ節転移は比較的少なく,拡大手術により局所を完全に切除出来ればその予後は比較的期待出来るものと考えられる.これに反し胆嚢癌においては癌の進展は高度で,早期発見,早期手術の必要性が痛感される.
  • 熊本 吉一, 小泉 博義, 黒沢 輝司, 山本 裕司, 呉 吉煥, 鈴木 章, 松本 昭彦, 近藤 治郎, 清水 哲, 梶原 博一
    1984 年 45 巻 11 号 p. 1429-1434
    発行日: 1984/11/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    急性腸間膜血管閉塞症は,絞扼性イレウスと共に腸管の血行障害をきたす代表的な疾患である.最近我々は塞栓摘除術のみで救命せしめた上腸間膜動脈塞栓症の1例を経験したが発症より手術による血流再開に至るまで3時間40分と短時間であったため腸切除を免れた.また横浜市立大学第1外科のイレウス症例中,術前に動脈血ガス分析をおこなった33例を検討したところ,腸切除を免れた.すなわち腸管が壊死に陥らなかった症例ではbase excessはすべて-2.8mEq/l以上であった.このことより絞扼性イレウスの手術適応決定の指標としてbase excess測定が有用であるとの結論を得たが,本来イレウスにおける手術適応の決定は遅くとも腸管の可逆的な血行障害の時点でなければならず,この点よりbase excessのみでの適応決定は慎重でなければならないと考えられた.
    これらの経験をもとに,腸管の血行障害における有用な補助診断法としての的確な指標を検討するために犬を用いて上腸間膜動脈を結紮する実験をおこなった.その結果,早期診断の一助として, total CPK, base excessが有用であるとの結論を得た.
  • 田沢 賢次, 永瀬 敏明, 笠木 徳三, 吉田 眞佐人, 島崎 邦彦, 加藤 博, 坂本 隆, 小田切 治世, 新井 英樹, 竹森 繁, 眞 ...
    1984 年 45 巻 11 号 p. 1435-1440
    発行日: 1984/11/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    肛門疾患の術後疼痛の鎮静を目的として,経肛門的に坐剤が投与されるが我々はこの坐剤の有効成分がどのように吸収されているかを経時的に測定し,臨床症状と合わせて検討した.用いた坐剤はゼラチンカプセルよりなるケトプロフェン100mgである.我々が先に報告した50mg投与例とも比較検討し適量を推定した.手術直後に投与し,血中ケトプロフェン濃度を2時間, 4時間, 6時間, 24時間に採血測定した.局麻,非麻酔,健常人での最高血中濃度到達時間(T max)は投与後2時間にあるが腰椎麻酔症例ではT maxは4時間から6時間となる傾向が得られた.即ち2時間の遅延をみた(p<0.01).また血中濃度曲線下面積(AUC)でも腰椎麻酔症例で有意に高い値を示しその危険率はp<0.01であった.このことは排泄速度が遅延していることを示唆しているかもしれない.また一方では腰椎麻酔症例では吸収開始が2時間遅れて始まる可能性も示唆された. 50mgとの比較では肛門部手術後では疼痛緩和からみると100mgの方に改善率が高く,その適量は100mg前後であると考えられた.
  • 南 寛行, 内山 貴堯, 山岡 憲夫, 山内 秀人, 本田 裕崇
    1984 年 45 巻 11 号 p. 1441-1445
    発行日: 1984/11/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    最近8年間に大分県立病院胸部外科で治療した自然気胸手術81症例の手術成績を報告する.男女比は男71例,女10例と男性が圧倒的に多く,年齢は16歳から73歳であった. 81症例に施行した88回の開胸所見は,肺尖部へ限局した小嚢胞69,びまん性気腫性嚢胞13,右横隔膜の小裂孔1,原因不明5であり,全体の93%が明らかな器質性肺病変を有していた. 10歳台, 20歳台の若年者に対しては初回より積極的に手術を行って良好な結果を得たが, 60歳を越す高齢者は何らかの閉塞性肺疾患を合併しておりその手術適応には慎重を要する.術後再発,手術合併症は各々1例(1.1%)であった. 81例中7例は一側気胸手術後2年以内の対側発症例であり,手術後数年は対側気胸にも留意すべきと考える.手術術式は腋窩切開法による嚢胞を含めた肺部分切除が主であるが,嚢胞が多発した症例,肺気腫の合併や広基性の嚢胞を有するものなど嚢胞切除のみでは不安の残る症例には部分胸膜剥皮術を併用した.胸膜剥皮術の併用は気胸再発予防に有効と思われた.また症例中比較的稀とされているRe-expansion pulmonary edemaの1例, Catamenial pneumothoraxの1例を経験したので症例を供覧した.
  • 真田 正雄, 松本 京一, 石川 隆一, 鈴木 亮二, 野口 照義
    1984 年 45 巻 11 号 p. 1446-1452
    発行日: 1984/11/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    昭和55年4月より昭和58年10月までに,千葉県救急医療センターに入院した外傷性横隔膜損傷13例について検討し,加えて受傷後10年目にして,胸腔内へ小腸のみが脱出し穿孔した右側外傷性横隔膜ヘルニアと脊髄損傷を伴い,人工呼吸器離脱後,腹腔内臓器の胸腔内への脱出が著明となり発見された右側外傷性横隔膜ヘルニアの症例を呈示した.
    外傷性横隔膜損傷は全外傷の1.05%,胸腹部外傷の3.9%に発生していた.鈍的損傷8例は全例とも交通事故によるものであり,左側例3例,右側例5例であった.鋭的損傷5例は全例とも刺創によるものであり,左側例4例,右側例1例であった.鈍的外傷によるものは多発外傷のものがほとんどで,特に肋骨骨折の合併率が高く,鋭的外傷によるものは,気胸または血胸の合併率が高かった.病期分類では急性期型12例,絞扼期型1例であった.鈍的損傷では胸部写真により3例,試験開腹,胃管造影により各2例づつ,人工気腹により1例が,外傷性横隔膜ヘルニアの診断が下された.鋭的損傷では2例が消化管造影, 2例が試験開胸, 1例が胸腔造影により診断が下された.右側鈍的損傷で手術施行した4例中2例は開胸開腹術,残りの1例づつは開胸術,開腹術を施行し,左側鈍的損傷3例は全例とも開腹術を施行した.鋭的損傷5例中4例は開胸開腹術, 1例は開胸術を施行した.右側鈍的損傷のうち手術施行した4例とも正中部における損傷であり,左側鈍的損傷3例中2例は後正中部, 1例は後外側部の損傷であり,鋭的損傷では一定の決まりを見い出せなかった.胸腔内脱出臓器は右側鈍的損傷では,肝臓のみが3例,小腸のみが1例,肝臓と胆嚢と小腸が共に脱出してたもの1例であり,左側鈍的損傷では全例とも胃,大網,脾臓であった.また鋭的損傷では左側例の1例のみに胃,大網の脱出が認められた.死亡した3例の死因は, 2例が脳挫傷, 1例が大量出血によるものであった.
  • 稲岡 正己, 鎌田 幸一, 千葉 廸夫, 田中 利明, 山本 直樹
    1984 年 45 巻 11 号 p. 1453-1457
    発行日: 1984/11/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    重症心伝導障害を呈し,生前に心サルコイドーシスと診断された2症例に対する体内ペースメーカー植込み術について報告する.
    症例1は53歳,男性.心電図所見でII型の洞房ブロック,第1度房室ブロック,完全右脚ブロックおよび心室性期外収縮を認めたため,直視下に心外膜心筋電極によるペースメーカー植え込み術を施行した際,偶然心サルコイド病変が発見された.術後長期間にわたりステロイド内服を行ったが,術後6年目に進行性の心不全で死亡した.
    症例2は51歳,女性.胸部X線像で典型的な両側肺門部リンパ節腫脹を認め,左下腿腫瘤および右前斜角筋リンパ節の病理組織検査でサルコイドーシスの所見が得られた.数回の失神発作を繰り返し,心電図所見で第2度房室ブロック,完全右脚ブロックおよび左脚前枝ブロックを認めたため,心サルコイドーシスと診断し,心内膜電極によるペースメーカー植込み術を施行した.現在,術後約1年目で経過良好である.
  • 小林 哲, 伊藤 勝朗, 小川 正男, 田中 孝一, 浜崎 尚文, 岡野 一廣, 原 宏, 森 透
    1984 年 45 巻 11 号 p. 1458-1460
    発行日: 1984/11/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    末梢動脈の解離性動脈瘤は極めて稀な疾患であり,その発症起転についてといまだ定説がない.最近,われわれは特異的な動脈造影所見を呈した原発性解離性腸骨動脈瘤の1治験例を経験したので報告する.
    症例は59歳,男性で左下肢間歇性跛行を主訴に当科を紹介された.動脈造影にて左総腸骨動脈から外腸骨動脈に及ぶラセン状の陰影欠損が認められた.摘出標本において腸骨動脈内膜面には亀裂もピンホールも認められなかった.これらの所見と発症機転について若干の文献考察を加えて検討した.
  • 奥田 康一, 小坂 昭夫, 和爾 隆政
    1984 年 45 巻 11 号 p. 1461-1465
    発行日: 1984/11/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    いわゆる乳腺葉状嚢胞肉腫(cystosarcoma phyllodes)は,全乳腺腫瘍の1%以下の頻度で比較的稀な腫瘍であるが,その2.5~42.5%に悪性型が存在するとされている.悪性型では急速な増大傾向を示すことが多く,初診時巨大な腫瘤として発見されることが多い.われわれは最近腫瘍最大径3.0cmの比較的小さな悪性葉状嚢胞肉腫の1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.
    症例は35歳女性で,左側乳房腫瘤を主訴に来院し,摘出生検を行ない病理組織学的に悪性葉状嚢胞肉腫と診断され,非定型的乳房切断術を施行した.腫瘍の大きさは3.0×2.4×1.6cmで, Hormorne receptor測定ではEstrogen receptor陽性であった.術後補助療法としてTegafur 800mg/日, Tamoxifen 20mg/日経口投与し,術後22カ月経過した現在再発徴候なく健在である.
    本腫瘍は多彩な臨床像を示し,今まで多くの同義語が使用されてきたが,病理組織学的所見と臨床像との関係も研究され,良性,境界病変,悪性に分類する基準も示され,用語も統一されつつある.悪性例では遠隔転移がしばしばみられるが,現時点では術式・補助療法に定説はない.術式は時代とともに縮小傾向にあり,これは本腫瘍の転移が主に血行性によるためである.全身療法としての化学療法は現在のところ有効例は少ない.最近本腫瘍のHormone receptorに関する研究が進み,その陽性例も多いことから内分泌療法に期待がかけられる.
  • 藤田 博正, 川原 英之, 吉松 博, 馬場 謙介, 橋本 敏夫, 前田 耕太郎, 野田 辰男, 西田 一己
    1984 年 45 巻 11 号 p. 1466-1475
    発行日: 1984/11/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    2例の食道平滑筋肉腫切除例を報告するとともに,本邦の切除例35例を集計した.
    症例1は33歳の男性.下部食道噴門部に平滑筋肉腫があり,右開胸開腹下部食道噴門切除,胸腔内食道胃吻合術を施行.腫瘍が後縦隔から再発し,胃管に浸潤したため,第1回手術より4年2カ月で,右開胸開腹胸腔内食道胃管切除,胸壁前食道空腸Roux Y吻合術を施行した.術後1年(第1回手術より5年2カ月)で死亡.剖検により,後縦隔と横隔膜における局所再発と肝転移が確認された.
    症例2は58歳の男性.下部食道噴門部に平滑筋肉腫があり,肝右葉全体を占める転移も認められた.まず,右開胸開腹拡大肝右葉切除術を施行.続いてその2カ月後に,左開胸開腹下部食道噴門切除,胸腔内空腸間置術を施行した.術後10カ月(第1手術より1年)で死亡した.剖検で肝,骨,大胸筋,腸間膜,腹壁に血行性の転移が認められた.
    本邦における切除例の集計から,食道平滑筋肉腫の治療方針を検討した.診断はできる限り術前の組織学的検索で決定すべきであるが,それが不可能な場合は術中の肉眼所見や迅速病理標本の組織学的検索で判定する.悪性像があれば食道切除を行うが,それがなければ腫瘤摘出術を行い,術後の永久病理標本で良悪性を判定する.腫瘤摘出術の後,悪性の診断を得ても, low malignancyと判定されたものは経過観察でよいが,悪性所見の明瞭な症例では再手術によって食道も切除すべきである.術後の合併療法は,再発形式からみて,肝への抗腫瘍剤動注療法が有効であろうと推測される.
    また,手術時すでに遠隔転移を有する症例や術後の再発例に対しては,たとえ姑息的であっても可能な除り病巣を切除する方が延命効果があると考えられる.
  • 菊池 学, 太田 博俊, 渡辺 進, 大橋 一郎, 高木 国夫, 久野 敬二郎, 馬場 保昌, 大城 宏之
    1984 年 45 巻 11 号 p. 1476-1481
    発行日: 1984/11/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    内臓逆位症は3,000~10,000人に1人の割合で発見される比較的稀なものである.本症には内臓に位置異常のない人に比べて心血管系の合併奇形が約10倍もあるといわれている.又,急性虫垂炎などの外科的疾患の手術の際,皮膚切開の位置,手術操作の困難性など臨床的に問題となることがある.癌研病院外科では1980年までの17年間に胃癌を合併した全内臓逆位症を4例経験し胃癌手術例の0.096% (4/4171)に相当した. 4例の内訳は39~60歳で全て男性であり,進行癌3例,早期癌1例であった.本症の胃癌合併例の報告は本邦では本例も含めて28例であり,男16例,女11例,不明1例で,進行癌は19例,早期癌は3例,不明6例であった.以上,全内臓逆位症に胃癌を伴った4症例を報告すると共に若干の文献的考察を加えた.
  • 松原 長樹, 加納 宣康, 雑賀 俊夫, 酒井 聡, 原 俊介, 本間 光雄, 福田 正則, 小山 登
    1984 年 45 巻 11 号 p. 1482-1484
    発行日: 1984/11/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    十二指腸潰瘍による胃切除術後19年目に発見された残胃の早期胃癌(IIa型)の1例を報告する.
    患者は55歳男性.胃切除後の経過は順調であったが,昭和56年3月の集団検診で残胃の隆起性病変を指摘され,生検で悪性と判明し手術を施行した.残胃の亜全剔出術を施行した.腫瘍は残胃吻合口近くの前壁寄りに示指頭大の隆起性病変で,病理組織学的に管状腺癌であった.
    胃切除後の残胃に発生する癌についての報告は100余例である.しかし残胃癌の名称,定義は一定しておらず,残胃癌,断端癌,吻合部癌等などと呼ばれている.著者らはこれをすべて残胃癌と総称する事に賛成である.又原疾患が悪性であった場合は,残胃再発あるいは重復癌といった関点から検討する必要があると考えている.
  • 安田 雄司, 山本 明, 藤村 昌樹, 肥後 昌五郎, 森 渥視, 岡田 慶夫
    1984 年 45 巻 11 号 p. 1485-1489
    発行日: 1984/11/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    非寄生虫性孤立性巨大肝嚢胞と胃癌との1合併例を経験し,これに対して手術を行ない治癒せしめえたので,文献的考察を加えて報告した.
    症例は65歳の男性.主訴は上腹部痛および両足浮腫.精査の結果,胃癌と孤立性巨大肝嚢胞との合併例と診断された.肝嚢胞は成人頭大で,肝右葉のほぽ全体を占め,胃癌はStage IIであった.手術は外,内瘻造設術および肝嚢胞壁縫縮術を行なうとともに,胃癌に対しては胃亜全摘術を行ない, Billroth II法, Roux-Y吻合法にて再建した.術後経過は順調で,術後1年7ヵ月目なお健在である.
    肝嚢胞に対する外科的療法では,肝切除術,嚢胞摘出術,嚢胞壁切除術などが主流であるが,症例によっては瘻造設術なども行なわれている.今回われわれの行なった術式は侵襲が少なく,また開窓術などにみられる腹部諸臓器の嵌頓の危険性もなく,外瘻造設によって術後経過を精査することも可能であった.
  • 岸本 秀雄, 二村 雄次, 岡本 勝司, 土江 健嗣, 山瀬 博史, 前田 正司, 神谷 順一, 大塚 光二郎, 長谷川 洋, 豊田 澄男, ...
    1984 年 45 巻 11 号 p. 1490-1494
    発行日: 1984/11/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    膵管癌の中には,稀ではあるが,扁平上皮癌成分の混在するものが知られている.最近われわれは,膵の腺扁平上皮癌の1切除例を経験し,経皮経肝胆道鏡検査並びに,胆道鏡直視下生検が,術前診断に有効であったので若干の考察を加え報告する.症例は, 47歳,男性で,主訴は,上腹部膨満感と黄疸である.経皮経肝胆道造影にて,総胆管の閉塞をみとめた.諸検査にて,膵頭部癌と診断した. PTCD瘻孔を徐々に拡大し,瘻孔より経皮経肝胆道鏡検査(PTCS)を施行した.総胆管は三管合流部直下で,ドーム様の圧排性の閉塞像を認め,閉塞部の粘膜面には,びらん,出血斑,毛細血管の怒張が観察された.この部位より胆道鏡観察下に,直視下生検を施行した.生検組織所見としては,腺管を形成する部分に乏しく,大小不同の多彩な細胞群から成り,特殊な組織型の癌の所見が認められた.以上より,特殊な組織型の膵癌と診断し,門脈合併切除膵全摘術を施行した.術後の検索の結果,腫瘍は膵頭部にあり, 45×40×35mm,球形で,割面は灰白色,一部褐色調で,境界不明瞭であった.組織所見としては,腫瘍は腺管を形成する部と,扁平上皮様の部が混在し,腺扁平上皮癌と診断した.膵の腺扁平上皮癌の本邦報告例は,全例,剖検あるいは,切除後の病理組織学的検索にて,組織診断し得た症例であり,術前に組織診断まで行なうことは難しい.結果的には,本症例でも,術前の確定診断は出来なかったが,術前のPTCSが,組織型を決定する上で,有効な手段であった.
  • 小野 仁志, 佐藤 元通, 酒井 堅, 木村 茂, 吉田 愛知, 植田 規史
    1984 年 45 巻 11 号 p. 1495-1499
    発行日: 1984/11/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    術前局在診断の困難であったインスリノーマを経験した. 43歳,女性で両手のしびれと意識消失発作を主訴に来院した.生化学,内分泌検査によりインスリノーマの存在診断は容易であったが,局在診断は, CT, angiography, angio CT, PTPCにても困難であった.開復手術によりソラ豆大の膵尾部腫瘤を確認し,術中islet cell tumorと診断され,膵尾切除を施行した.術後経過は良好である.
  • 羽井佐 実, 佐々木 明, 榎本 正満, 荒田 敦, 小長 英二, 井出 愛邦
    1984 年 45 巻 11 号 p. 1500-1503
    発行日: 1984/11/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    Trichobezoar (毛髪胃石)は,比較的稀な疾患で,本邦では,松岡の報告以来,現在まで自験例を含め34例の報告をみるにすぎない.報告例の大部分は,腹部腫瘤を触知され,胃内異物として胃切開による摘出をうけている.さらに少数の腸閉塞合併例では,いずれも胃内と小腸内に重複して存在した症例であった.
    本症例は, 17歳の女性で,腹痛,嘔吐を主訴として来院した.腹部単純X線にて腸閉塞と診断し,開腹手術を施行したところ,回盲弁から約100cm口側の回腸に鶏卵大の異物,毛塊を認め,切開摘出により治癒せしめた.
    以上,自験例を中心に,本邦報告例34例について,若干の検討を加え報告する.
  • 大浜 和憲, 住田 亮, 浅野 周二
    1984 年 45 巻 11 号 p. 1504-1509
    発行日: 1984/11/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    腸管部分拡張症は非常にまれな疾患であり, 1959年Swensonの報告以来,わずか48例を文献から集めることができるのみである.今回私達は新生児期にイレウス症状で発症した回腸部分拡張症を経験した.患児は生後2日の男児で,腹部膨満・嘔吐を主訴として来院した.ヒルシュスプルング病を疑い,生後3日手術を施行した.開腹すると回腸末端より25cm中枢側回腸に23cmにわたる紡錘形の拡張を認め,この拡張部を切除し回腸瘻を造設した.拡張部筋層は肥厚し,筋間神経叢および神経節細胞に異常なく,異所性組織は認められなかった.また肛門内圧検査で直腸肛門反射は陽性であり,回腸部分拡張症と診断され,生後21日回腸瘻閉鎖・回腸端々吻合を行い,治癒した.
    自験例を含む48例の腸管部分拡張症を検討した結果,次のようなことが判明した.
    (1) 新生児期に発見されやすく,異所性組織の迷入・合併奇形を伴うことが多く,本疾患は先天性のものであると考えられる.
    (2) 性差はなく,発生部位は小腸36例,結腸12例である.
    (3) 拡張部の筋層の配列,神経節細胞にはほとんど異常が認められないが,発見が遅れるほど,また消化管通過障害の強いほど壁の肥厚が目立ち,これは労作性肥大と考えられる.
    (4) 必ずしも消化管通過障害をひきおこさない症例もあり,拡張部腸管の蠕動障害は形態学的異常により二次的に生ずるものと推測される.しかしその病因は未だ解明されていない.
    (5) 鑑別診断としてはヒルシュスプルング病が最も重要であり,治療法としては拡張部腸管の切除・前後腸管の端々吻合が推奨される.
  • 冨田 隆, 矢野 隆嗣, 日高 直昭, 岡田 喜克, 岩崎 誠, 五嶋 博道
    1984 年 45 巻 11 号 p. 1510-1514
    発行日: 1984/11/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    放射線照射による晩期消化管障害10例を経験した.胃十二指腸潰瘍2例,腸閉塞4例,直腸出血4例で,全例に保存的治療や局所安静のため人工肛門造設が施行された.しかしこれらの方法では治癒傾向に乏しく,その後障害消化管の切除された4例は良好な経過をたどっているのに対し,非切除例では長期間各症状の持続が認められている.
    晩期障害はvasculo connective tissueの障害が主役をなすため進行性の病変で,保存的療法による完全治癒は望めない.したがって障害消化管の積極的切除が推奨されているが,現実には切除困難な症例が多い.
    今後,放射線照射による障害発生の予防対策については十分な検討が必要であると思われた.
  • 川口 富司, 森 一成, 野口 博志, 佐々木 政一, 山本 達夫, 青木 洋三, 河野 暢之, 勝見 正治
    1984 年 45 巻 11 号 p. 1515-1519
    発行日: 1984/11/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    腹壁結核は比較的稀な疾患であり,好発部位は上腹部かつ右側である.我々はこの3年間に,右下腹部に腫瘤を形成した腹壁結核の2症例を経験した.症例1は59歳の男性で,回盲部の違和感と同部の軽度の疼痛を主訴として来院し,同部に鶏卵大の腫瘤を触知した.症例2は59歳の女性で,症例1と同じ部の腫瘤を主訴として当科に紹介され,両者ともツベルクリン反応は陽性であり,前者は肺結核と結核性胸膜炎および腹膜炎の,また,後者は胸囲結核の既往があった.手術により両者とも結核性腹膜炎より直接腹壁に波及した病変であることが判明した.病理組織標本では典型的な結核の組織像を呈し,病変部より得られた膿汁より結核菌が証明され確診を得た.
    文献的に腹壁結核の本邦での報告例103例を集計し検討したところ,約3/4が上腹部に発生し,右側は左側よりも約3倍多く,これは木原の研究による前腹壁深部リンパ節が右上腹部に多く存在するという事実と合致し,発生機序としてリンパ行性説が有力であると推察された.しかし,今回我々の経験した2例は双方とも発生部位的に稀な右下腹部に腫瘤を形成していたこと,ならびに癒着型結核性腹膜炎が基礎にあり,しかも腹壁結核の部に大網および小腸が癒着していた事実より,腹膜との癒着部より直接腹壁に波及して病変を形成したと考えるのが妥当ではないかと思われた.
  • 津森 孝生, 中尾 量保, 宮田 正彦, 浜路 政靖, 川島 康生, 桜井 幹己
    1984 年 45 巻 11 号 p. 1520-1527
    発行日: 1984/11/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    我々の経験した悪性線維性組織球腫(Malignant Fibrous Histiocytoma, MFH)の8例の発症年齢は, 20~72歳,男性5例,女性3例,原発部位は四肢5例,腋窩1例,背部1例,後腹膜1例であった. 7例には腫瘍摘出術または広範囲切除術を行ない, 1例に姑息的切除を施行した.
    切除標本の組織像ではStoriform-pleomorphic type 6例, Myxoid type 1例, Inflammatory type 1例であった.
    全例術後にアドリアマイシン,ビンクリスチン,メソトレキセートによる多剤併用化学療法を行なった.
    術後経過は3ヵ月~4年の間で生存6例,死亡2例(初診時腹腔内転移がみられ術後8ヵ月で肝転移にて死亡したStage IV症例と,術後48ヵ月で肺転移により死亡したStage III症例)であった.またStage IIIの4例のうち広範囲切除術の行なわれなかった3例に局所再発(平均再発期間20ヵ月)がみられた.再発時点において所属リンパ節郭清を伴う広範囲切除術を施行した2例は,それぞれ再手術後3ヵ月,再々手術後15ヵ月の現在再発の徴候はみられない. Stage I, IIの3例は現時点において再発の徴候なく(術後3ヵ月~35ヵ月)健在である.
    以上8例を詳細に検討した結果,腫瘤の切除のみでは再発率が高いことが判明した.リンパ節郭清を含む広範囲切除ならびに補助化学療法が有効な治療法であると考えられた.
  • 喜多 良孝, 矢野 嘉朗, 森本 重利, 田中 直臣, 斉藤 恒雄, 佐々木 真人, 住友 正幸, 原田 雅光, 吉田 明義, 大西 範生, ...
    1984 年 45 巻 11 号 p. 1528-1531
    発行日: 1984/11/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    von Recklinghausen病に合併する消化管病変としては,神経線維腫が多く平滑筋腫は少ない.今回我々は,本邦3例目と思われるvon Recklinghausen病に合併した多発性小腸平滑筋腫の1例を経験したので報告する.
    症例は64歳の男性で,下血を主訴として来院した.胃内視鏡,大腸内視鏡,血管造影にても出血源を確認できず,小腸からの出血を疑い開腹術を施行した. Treitz靱帯より80cmの空腸に,出血源と思われた管外性に発育した30×45×20mmの腫瘍を認めた.又,小豆大からそら豆大の同様の腫瘍を7個認めた. Treitz靱帯より80cmの部位の腫瘍を含めて小腸部分切除を行ない,他の腫瘍も3個切除した.組織学的診断は,すべて平滑筋腫であった.
    小腸腫瘍で管外性に発育するものは,小腸X線透視では発見が困難な事が多い.最近,血管撮影にて,小腸腫瘍が発見された報告が多くなり,その有用性が強調されている.
    von Recklinghausen病で消化管出血を呈する症例では,小腸腫瘍を考慮し,血管撮影を行なうことが必要であると思われる.
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