日本臨床外科医学会雑誌
Online ISSN : 2189-2075
Print ISSN : 0386-9776
ISSN-L : 0386-9776
45 巻, 2 号
選択された号の論文の16件中1~16を表示しています
  • 第1編:潰瘍患者における血液型分布の統計的観察
    岡村 貞夫, 佐々木 政一, 勝見 正治, 谷口 勝俊, 田伏 洋治
    1984 年 45 巻 2 号 p. 113-118
    発行日: 1984/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    当科及び和歌山県並びに周辺地区の関連16施設において手術を受けた消化性潰瘍患者2,175名について血液型と潰瘍の関係を調査し,和歌山県の昭和56年度献血者69,097名の血液型分布を対照に検討した.
    調査項目は個人的背景に重点をおき,手術適応別,潰瘍家族歴及び初発年齢別に分類し調査した.
    その結果,対照群ではA型37%, B型23%, AB型10%, O型30%であるのに対し,潰瘍2,175例では, A型33%, B型21%, AB型8%, O型38%とA-O型分布の逆転がみられた(p<0.01).
    この傾向は胃潰瘍(GU)及び十二指腸潰瘍(DU)いずれにおいても認められ,手術適応別では出血性GUにおけるO型の頻度が47%と最も著明に増加していた(p<0.01).
    家族歴を有する潰瘍患者は平均初発年齢が約10歳若く, GUでは家族歴のない潰瘍群と異り対照群と殆ど同様のA型優位の分布を示した.
    又初発年齢別の検討でも30歳以下の年齢で発症したGU 116例は家族歴を有するGUと同様にA-O型分布の逆転がみられず,対照群との間に殆ど差を認めなかった.
    O型頻度の有意な増加はDU及び31歳以後に発症するGUのみに明らかであり, early onset typeのGUは血液型以外の因子が発症に関与している事が示唆された.
  • 豊野 充, 星川 匡, 薄場 修, 鈴木 晃, 布施 明, 仁科 盛之, 塚本 長
    1984 年 45 巻 2 号 p. 119-123
    発行日: 1984/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    過去6年間に当科で手術した胃癌症例は401例で,そのうち70歳以上の高齢者は86例(21.4%)であった.高齢者胃癌の臨床病理学的特徴および手術成績と予後を検討するため, 49歳以下の72例および50~69歳の243例を比較対照群とした.
    高齢者における入院時の主訴では,心窩部痛が少なく,上腹部のつかえ感,不快感が多かった.腫瘍の占居部位では,胃下部に多く,胃中部に少なかった.肉眼分類では,早期癌の隆起型が多く,平担・陥凹型が少なかった.組織分類では,高・中分化型(pap, tub1, tub2)が多く,低分化型(por, sig)が少なかった.手術々式では,胃全摘17例,胃切除58例,吻合その他11例であり,他群に比し全摘がやや少なかった.組織学的進行程度では, stage I: 29例, II: 12例, III: 21例, IV: 24例であり,他群との頻度の差はなかった.深達度,リンパ節転移の程度にも差がなかった.根治度では,治癒切除68.6%,非治癒切除18.6%であり,他群との差はなかった.術後合併症は19.8%で他群より高率であった.合併症の内容では縫合不全7例,肺合併症2例,膿瘍2例,創〓開3例などであった.手術直接死亡は5例(5.8%)であった.累積5年生存率では, stage I (24例)は100%, stage II (7例)は63%であるが, stage III, IVでは有効例が少なく十分な成績を得られなかった.膵脾合併切除例には1年以上の生存例はなかった.
    これらの結果より,手術に際して積極的に治癒手術を施行すべきであるが,拡大根治手術の適応決定には年齢上のriskを十分に考慮する必要があると思われた.また術後縫合不全と肺合併症を予防することが重要と考えられた.
  • 加辺 純雄, 大森 幸夫, 本田 一郎, 武藤 輝一
    1984 年 45 巻 2 号 p. 124-129
    発行日: 1984/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    深達度mの癌を除き,治癒切除が施行された胃癌338例,所属リンパ節10,134個(1例平均30.0個)を用い,リンパ節転移度(転移リンパ節個数/摘出リンパ節総数)の臨床病理学的意義につき検討した.
    転移度を0%.陽性で25%以下, 25%を超え50%以下, 50%を超えるものの4群に分け, 5年生存率ならびに他の予後規定因子との関係を調べ次の結果を得た.転移度の上昇にともない: 1) 5年生存率は73.0%, 43.4%, 22.6%, 7.4%と減少した; 2) n番号が上昇した; 3) 転移リンパ節個数が増加した; 4) sinus histiocytosisが減少した; 5)肉眼型でO型, 1型, 2型が減少し, 3型, 4型が増加した; 6) 組織型でtub1,とtub2が減少し, porが増加した; 7) 予後的漿膜面因子でps(-)が減少し, ps(+)が増加した; 8) 間質リンパ球浸潤が減少した; 9) stage IVの頻度が増加した.
    以上より,リンパ節転移度による定量的検討方法は,他の予後規定因子ともよく相関する優秀な予後規定因子であり,胃癌の生物学的特性をよく表現するものと思われる.
  • 黒須 康彦, 森田 建
    1984 年 45 巻 2 号 p. 130-135
    発行日: 1984/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    教室で経験した大腸癌イレウス症例21例について検討した.
    大腸癌イレウスの発生頻度は,全大腸癌の13%であった.年齢分布では60歳以上に,また性別では男性に多くみられた.大腸癌イレウスの癌の占居部位については,絶対数ではS状結腸および直腸が最高を示したが,部位別発生頻度では上行結腸および横行結腸が最高を示した.臨床症状としては腹痛,嘔気・嘔吐,便通異常などが多くみられたが,血便,便柱の狭小化などは少なかった.病悩期間は右大腸癌で長く,診断根拠としては腹部単純レ腺撮影でイレウスと診断され,注腸造影でその原因が大腸癌と診断された症例が最も多かった.切除率,治癒切除率ともに76%であり,切除例の手術術式としては,一期的手術は5例,二期的手術は10例,三期的手術は1例に,行われた.術後合併症としては創感染が最も多く,その起因菌としてE. coliやPseudomonas aeruginosaが多く認められ,嫌気性培養が行われるようになった最近ではこれらに加えてBacterioidesが検出されている.予後については非切除例には5年以上生存例はなく,切除例の5生率は25%であった.癌の肉眼形態では2型,占居範囲では全周,組織型では高分化腺癌,壁深達度ではssの症例が最も多くみられ,組織学的リンパ節転位は半数以上の症例にみられた.
    最後に,教室での最近の大腸癌イレウスの治療方針について簡単に述べた.
  • 有茎大網移植による再建
    伊藤 寿記, 中尾 量保, 小関 万里, 竹中 博昭, 宮田 正彦, 川島 康生, 前田 求, 松本 維明, 長岡 真希夫, 北川 晃, 長 ...
    1984 年 45 巻 2 号 p. 136-141
    発行日: 1984/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    我々の教室では,以前より原発進行乳癌及び局所再発乳癌症例に対しても,局在根治を得るべく積極的に局所を広範囲に切除し,同時に術前後のadjuvant chemo-endocrine therapyを併用する方針をとっている.しかし,広範囲の皮膚切除創に対して胸壁を母床としたmesh skin graftによる再建にはおのずと限度があり,新たな母床が必要となる.今回,我々は,進行・再発乳癌に対する広範囲皮膚切除6例において,有茎大網移植片を母床としたmesh skin graftを行い良好な成績を得たので報告する.
    対象は,原発進行乳癌3例,局所再発乳癌3例であり,全例遠隔転移を伴うM1症例であった.術後の植皮の状態は, 6例中5例は,完全に生着し,他の1例は一部壊死に陥ったが, Thiersch法による皮膚移植を行い寛快した.又, 6例中2例は1年以内に肺・胸膜転移にて死亡したが,残りの4例は,術後9カ月~1年11カ月と生存中であり,一般状態良好にて,外来で経過観察中である.術前後のperformance statusの変化においては, 6例中4例に改善(2→1)を認め, 2例は不変(2→2)であった.
    大網は豊富な血流及びリンパ流を有し,虚血組織の側副血行を促し,局所の免疫能を保持するといった特徴を有する.又,組織修復力も旺盛で,組織の浮腫も軽減させる.従って,乳癌症例においては,難治性の胸壁放射線潰瘍,同時両側乳癌,炎症性乳癌,広範な局所再発例,胸壁合併切除例などが,本術成の適応と考える.
  • 秋丸 琥甫, 日置 正文, 松山 謙, 小山 寿雄, 佐久間 俊行, 原田 厚, 曽我 龍紀, 庄司 佑, 久保 信子, 横山 和子
    1984 年 45 巻 2 号 p. 142-146
    発行日: 1984/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    胸壁手術創の術後疼痛に対して,運動神経を温存し疼痛のみを除去する硬膜外ブロックは,患者の呼吸運動低下の予防および早期離床という点で,術後肺合併症の防止に役立つと思われる.
    当教室において1982年2月より10月迄に行なわれた開胸あるいは胸骨縦切開症例を対象とし,術後,硬膜外腔にbupivacaineを投与し術創の鎮痛を図り,その呼吸機能への影響について,コントロール群(術創疼痛にpentazocine筋注)と比較検討した.
    硬膜外ブロック群10例は男6人,女4人で平均50.6歳,疾患各は自然気胸2例,肺癌5例,食道癌,食動静脈瘤,胸腺腫が各々1例であった.麻酔は全例が全麻で,硬膜外麻酔を2例に併用した.術後の鎮痛に0.25% bupivacaineを硬膜外腔に1回平均5.7ml,術後3日間で総使用量平均61.7ml注入した.コントロール群10例は男9人,女1人,平均47.6歳で自然気胸2例,肺癌3例,食道癌2例,肺結核,肺動静脈瘻及び食道静脈瘤が各々1例であった.手術は全例,全麻で行われた.術後鎮痛にpentazocine 30mg筋注を行ない,平均総使用量は71.3mgであった.両群は帰室後24時間迄3時間毎,以後72時間までは6時間毎に肺活量測定と動脈血ガス分析を施行した.術前肺機能に差のなかった両群であったが,術後では硬膜外ブロック群がコントロール群に比較し, PaCO2値が術後3日間低く,特に72時間後では有意(P<0.02)の差が認められた.また術後肺活量対術前肺活量比についても,硬膜外ブロック群は術後48時間以後で,より高値であった.更に,術後酸素マスクはコントロール群で,より長期間使用された.尚,合併症はコントロール群に,術後PaO2値が低下し膿胸併発の後, MOFで死亡した1例が認められた.
    胸壁手術創の術後疼痛に対する硬膜外ブロックの応用と肺機能への効果を報告し,術後肺合併症に対する,その有用性を述べた.
  • 中野 秀麿, 大原 正己, 倉田 悟, 江里 健輔, 毛利 平
    1984 年 45 巻 2 号 p. 147-150
    発行日: 1984/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    SLEの経過中に,右膝窩動脈の閉塞を来たした32歳の女性に, 2度にわたり自家大伏在静脈を用いてバイパス術を行った.再手術10カ月後の現在,バイパス血管は良く開存している.
    膠原病に併発した動脈閉塞に対する血行再建後のバイパス血管の閉塞予防の為,術後,強力な抗凝固療法と基礎疾患の進行予防のために,ステロイドの持続投与が大切だと思われた.
  • 三好 信和, 児玉 節, 中光 篤志, 松島 毅, 横山 隆
    1984 年 45 巻 2 号 p. 151-155
    発行日: 1984/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    外傷性横隔膜断裂の急性型5例を経験したので,文献的考察を加えて報告した.
    症例は鈍的外傷によるもの4例,鋭的外傷によるもの1例であり,右側損傷1例,左側損傷4例であった.鈍的損傷4例全例に骨盤骨折をはじめとする骨折を認め,受傷した横隔膜より反対側に集中していた.血液ガス分析では5例中2例に過換気を伴う強い呼吸障害を, 3例にPaCO2の上昇を伴う換気不全を認めた.術前胸部レ線にて5例中3例に確診し, 1例疑診, 1例は全く異常がなかった. 4例に緊急手術を施行, 1例に準緊急手術を施行した.手術中のアプローチは左側では開腹,次いで必要に応じて開胸を加えた.右側では腹部に損傷所見が乏しかったので,開胸法によった.断裂部は非吸収性の糸にて縫合閉鎖した. 5例とも全治退院した.
    本症の診断の鍵は,本損傷を疑って胸部X-rayを読影することにある.又X-ray上異常がなくても術中に腹腔内精査中みつかる場合があるので,他の臓器損傷に目をうばわれて本症を見逃してはならない.
    外科治療上のポイントは,急性期のものでは左側では腹部外傷に準じて開腹法に,右側ではその視野の良さから開胸法にてアプローチすべきであり,必要に応じて開胸,開腹を加えるべきである.術後の予後は合併損傷臓器の程度で決定されることが多いと思われる.
  • 恵谷 敏, 諸富 直文, 橋本 敏和, 宮下 史郎, 岡 利一郎
    1984 年 45 巻 2 号 p. 156-161
    発行日: 1984/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    63歳,男性,当科入院の約半年前より,嚥下困難を訴える.食道レ線透視にて頚部食道(Ce)より胸部食道(Iu)にかけて約9cmの隆起病変を認めた.内視鏡検査では,この病変部での強い食道狭窄のため,腫瘍肛側の精査は困難であった.この隆起性腫瘍は,殆ど正常粘膜に被われており,生検ではhyperplastic squamous cellの他著変なしの診断であった.以上の所見などから,術後,粘膜下腫瘍で,しかも悪性のものであろうと考えた.
    治療は,開胸,開腹による食道全摘後,後縦隔経路,大弯側胃管,咽頭胃吻合による食道再建を施行し,リンパ節郭清はR3,手術が施行された.手術時の腫瘍所見はA2, N1, M0, Pl0であった.
    切除標本では,腫瘍は,ほぽ,食道全周に及ぶ隆起病変として認められ,肛側に,小さな浅い潰瘍形成がみられた.さらに,胸部中部食道(Im)と腹部食道(Ea)に壁内転移巣(skip lesion)を認めた.腫瘍の粘膜面は,殆ど粘膜上皮によって被われ,粘膜下を膨脹性に発育していた.腫瘍組織はpolygonalな細胞からなり,高度の多形性を示し,巨核細胞や多核細胞がみられた.また,細胞は未分化で肉腫腺癌が強く疑われた.細胞構築からみても,腺様構造の部分, signet cell typeの部分,さらに, individual cell keratinizationの強い部分などが混在していた.転移巣も同様の組織であった,これらの所見では,種々の組織診断が考えられ,確診が得られなかったので,電顕による精査を行なった.電顕では,腫瘍細胞の中に,扁平上皮にみられるdesmosomeやtonofilamentが認められたこと,これは腫瘍が扁平上皮癌であることを示唆するものであり,扁平上皮癌の確定診断がなされた.
    以上,電顕によって始めて診断のついた稀有な発育パターンを示した食道扁平上皮癌の1例を報告した.
  • 猪苗代 盛貞, 森 昌造, 籏福 哲彦, 佐藤 雅夫, 小高 庸一郎, 大津 友見, 大森 英俊, 安部 彦満, 菊地 信太郎, 新津 頼一
    1984 年 45 巻 2 号 p. 162-166
    発行日: 1984/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    悪性リンパ腫を除く胃粘膜下腫瘍39例の自験例について,頻度,局在,大きさ,合併病変,癌との合併頻度などを報告した.胃粘膜下腫瘍は教室での切除胃腫瘍の3.8%を占め, 61.3%が40歳台であった.男女比に差はないが,平滑筋肉腫は6例中5例が男性であった.平滑筋腫,平滑筋肉腫はC領域大弯に多く,迷入膵はこの領域にはみられなかった.切除胃癌症例991例中0.8%に胃粘膜下腫瘍の合併をみた,さらに,平滑筋肉腫の穿孔例,高単位のアミラーゼ含有嚢胞を伴う迷入膵例,早期胃癌と併存した巨大平滑筋肉腫でリンパ節転移が早期胃癌からであった例の興味ある3例を報告し,これらの症例の検討からも胃粘膜下腫瘍は早期から手術適応であることを述べた.また,手術成績についても述べ,手術術式についても若干の知見を加えた.
  • 若杉 純一, 塩谷 陽介, 池田 典次, 安田 三弥
    1984 年 45 巻 2 号 p. 167-170
    発行日: 1984/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    旁十二指腸ヘルニアは腹腔内ヘルニアの一種で,内容が十二指腸空腸陥凹をヘルニア門として後腹腔に進入する内ヘルニアである.このうち,ヘルニア内容が右方に向い,上行結腸後方に嵌入する右旁十二指腸ヘルニアは極めて稀な疾患である.最近,著者らは術前診断不明で急性腹症として開腹し,右旁十二指腸ヘルニアを発見,根治的処置を行った1例を経験したので報告する,症例は16歳,男で学童期以来反復する腹痛の既往があり,腹部激痛,嘔吐を主訴として受診したが,診断を確定できないまま急性腹症として緊急開腹術を受けた.開腹時にTreitz靱帯の下後方にある鶏卵大のヘルニア門から小腸の大部分が右側の後腹膜腔に進入しているのがみとめられ,上行結腸側方には著明に膨隆した壁側腹膜をとおして後腹膜腔内に嵌入した小腸塊が透見された.腹腔から壁側腹膜を介して嵌入小腸を圧迫しつつ,これをヘルニア門から順次引き出し,腹腔内に還納した.ヘルニア嚢は翻転してヘルニア門のレベルで切除し,ヘルニア門を縫合閉鎖した.経過は良好で術後9日目に退院した.旁十二指腸ヘルニアのうち,右旁十二指腸ヘルニアは左旁十二指腸に比して極めて稀なもので,著者らが調査しえた限りでは,本邦における報告例は1980年までに14例にすぎない.本症は他の腹腔内ヘルニアにおけると同様,術前にそれと診断されることは例外的とされているものの,反復する腹痛の既往をもち,腸通過障害を示す症例の診療にあたっては,他にその原因を見出しがたい場合,常に本症の存在を念頭においておく必要のあることを強調したい.
  • 守田 信義, 宮下 洋, 鳥枝 道雄, 平岡 博, 江里 健輔, 毛利 平
    1984 年 45 巻 2 号 p. 171-175
    発行日: 1984/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は62歳の男性で慢性肝炎の経過観察中持続性の右季肋部痛が出現したため,腹部エコー検査,腹腔動脈造影を行い,右後下区域に存在する5×5cm原発性肝癌と診断された.術中の検索で,慢性肝炎が存在し,且つ左葉の萎縮が認められ,術中エコーにて娘腫瘍が認められないことより区域切除が行われた.切除線の決定には術中エコーで腫瘍支配門脈を固定した後同血管に色素(カルディオグリーン0.5mg/kg)を注入し肝実質の染色を行い比較的容易に後下区域切除を行う事が出来たので本法の有用性について文献的考察を加え報告した.
  • 宇野 武治, 内村 正幸, 脇 慎治, 木田 栄郎, 神田 和弘, 水町 信行, 山田 護, 矢次 孝, 閨谷 洋, 鈴木 昌八, 岡田 朋 ...
    1984 年 45 巻 2 号 p. 176-180
    発行日: 1984/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    胆嚢捻転症は急激な胆嚢の捻転によって,血行の遮断と胆嚢の壊疽性変化をきたす胆道系のうちでは比較的稀な疾患である.したがって緊急手術が絶対適応となる.最近われわれは本症の1例を経験した. 87歳,女性で腰椎側弯を有し,突然の右上腹部激痛,黄疸のない右上腹部腫瘤触知など,その臨床経過および超音波検査により急性胆嚢炎を疑った.直ちに経皮的に胆嚢穿刺をおこなったところ,胆汁は血性で胆嚢内出血と診断し,緊急手術を施行した.術中本症と判明し,胆摘術をおこなった.術後は一時期麻痺性イレウスを呈したが,術後6週間で全治退院した症例である.
    文献的に集計した本邦125例についてみると,術前に本症と診断しえた症例は2例のみで,超音波検査,経皮的胆嚢穿刺造影等の補助診断法によって術前に診断しえた例である.したがって術前診断に際しては,本症の存在を念頭におくと共に,上記の補助診断法を有効に利用すべきである.また好発年齢が高齢であるにもかかわらず,手術による予後が良好でしかも胆摘術が容易であることからも積極的に手術がなされるべきと考える.
  • 笠原 洋, 山田 幸和, 中尾 稀一, 田中 茂, 浅川 隆, 園部 鳴海, 須藤 峻章, 久山 健
    1984 年 45 巻 2 号 p. 181-186
    発行日: 1984/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    後腹膜腫瘍のうちで神経原性腫瘍の頻度は少なく,そのなかでも神経鞘腫が後腹膜に原発することは極めて稀と思われる.左上腹部腫瘍を主訴とした79歳の男性で,膵嚢胞腺癌を疑って開腹,多数の嚢胞を有する腫瘤で胃大弯側に浸潤しており,脾,膵尾,胃の一部とともに合併切除した.腫瘤最長径は15cm,重量960gで,後腹膜原発の悪性神経鞘腫と診断された.術後1年余の現在,患者は再発の徴なく元気で過している.
    本邦報告例に自験例を加えた,後腹膜原発神経鞘腫117例についてみると,良性86例(男女比43:41,平均年齢,男45.7歳,女40.0歳),悪性31例(男女比21:10,平均年齢,男52.8歳,女43.8歳)であった.良性,悪性間には男女の平均年齢,臨床症状発現から神経鞘腫と確診されるまでの期間については有意の差が無いが,腫瘍の最長径と重量には有意の差がみられた.
    特定の腫瘍を除くと,術前に後腹膜腫瘍の種類の判別は困難である.しかし,後腹膜腫瘍との診断は腹部超音波検査,腹部CT,腹部血管造影などの駆使により良好であり,神経鞘腫についても術前診断に言及の85例中64例(75.3%)と高い後腹膜腫瘍の確認率であった.
    後腹膜原発神経鞘腫は良,悪性を問わず切除後の再発傾向が強く,また化学療法や放射線療法はほぼ無効とされる.従って完全な摘出が要求され,他臓器の合併切除も止むを得ないと思われる.再発をみた場合でも,腫瘍の発育傾向が比較的緩徐な例もみられることから,再切除や減量手術にも意義はあると思われる.腫瘤触知以外にさしたる臨床症状もなく経過の例が多くみられたが,後腹膜腫瘍の診断がつけぱ早期に手術を施行し,神経鞘腫と判明すれば,完全摘出,長期経過観察が必要のことを強調したい.
  • 手術症例の検討
    吉川 澄, 長谷川 利路, 山口 時雄, 宮川 周士, 中場 寛行, 高尾 哲人
    1984 年 45 巻 2 号 p. 187-192
    発行日: 1984/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    最近2年半の間に,合併症を有した7例の結腸憩室手術症例を経験した.
    7例の内訳は,男5例,女2例で,年齢は39歳から76歳までであった.
    7例中4例は,右側結腸憩室症例で, 3例は左側結腸憩室症例である.
    主訴は,憩室炎2例及び膿瘍形成の1例が右下腹部痛で,他の憩室炎の1例は,イレウスであった.結腸膀胱瘻の1例では,気尿,糞尿を,結腸癌合併例の1例及び憩室炎の1例では,下血及び血便を主訴とした.
    7例中2例は,急性虫垂炎の術前診断で緊急手術を施行した.残り5例は待期的に手術を施行しており,内4例は術前に確定診断をし得たが,イレウスの1例は,開腹時に診断した.全例,略治退院せしめた.
  • 特にMicrofibrillar Collagen Hemostatの使用
    杉山 貢, 林 秀徳, 戸塚 貴雅, 城戸 泰洋, 渡辺 桂一, 山中 研, 土屋 周二, 諸橋 正仁
    1984 年 45 巻 2 号 p. 193-200
    発行日: 1984/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    われわれは主に開腹手術中の止血しにくい出血33症例に対して,近年米国で新たに局所止血剤として開発された微線維性コラーゲン止血剤(Microfibrillar Collagen Hemostat: 以下MCH)を使用し,以下の結果を得た.
    1. 出血部位は肝臓9例,脾臓4例,膵臓7例を含む実質臓器からの出血20例,直腸癌手術時の仙骨前面よりの出血4例,前立腺からの出血2例,その他の7例であった.
    2. 止血効果は33例中,「著効」: 11例,「有効」: 20例,「不明」:なし,「無効」: 2例であり,いわゆる有効率は93.9%と良好であった.
    「無効」: 2例の内1例は巨大胃潰瘍の血管露出例に胃切開を加えて使用したものであり,他の1例は悪性胸腺腫の腫瘍端からの出血で末梢血液の血小板数が23,000/mm3と減少していた.
    3. 手術後の観察では,後出血およびMCH使用による副作用は認められなかった.
    4. MCHは出血面に強い付着力があり,また止血後にも剥離しにくく,余剰のMCHは洗浄除去でき,出血面に付着したものは剥れないなどの特徴がある.
    今回の結果から総合すると, MCHの使用法の要領を会得すればこれまで止血が難かしいとされた肝臓切除面,脾臓,膵臓からの出血に対して有用であり,今後は臨床的に広く応用する価値があるものと思われる.
feedback
Top