胸壁手術創の術後疼痛に対して,運動神経を温存し疼痛のみを除去する硬膜外ブロックは,患者の呼吸運動低下の予防および早期離床という点で,術後肺合併症の防止に役立つと思われる.
当教室において1982年2月より10月迄に行なわれた開胸あるいは胸骨縦切開症例を対象とし,術後,硬膜外腔にbupivacaineを投与し術創の鎮痛を図り,その呼吸機能への影響について,コントロール群(術創疼痛にpentazocine筋注)と比較検討した.
硬膜外ブロック群10例は男6人,女4人で平均50.6歳,疾患各は自然気胸2例,肺癌5例,食道癌,食動静脈瘤,胸腺腫が各々1例であった.麻酔は全例が全麻で,硬膜外麻酔を2例に併用した.術後の鎮痛に0.25% bupivacaineを硬膜外腔に1回平均5.7ml,術後3日間で総使用量平均61.7ml注入した.コントロール群10例は男9人,女1人,平均47.6歳で自然気胸2例,肺癌3例,食道癌2例,肺結核,肺動静脈瘻及び食道静脈瘤が各々1例であった.手術は全例,全麻で行われた.術後鎮痛にpentazocine 30mg筋注を行ない,平均総使用量は71.3mgであった.両群は帰室後24時間迄3時間毎,以後72時間までは6時間毎に肺活量測定と動脈血ガス分析を施行した.術前肺機能に差のなかった両群であったが,術後では硬膜外ブロック群がコントロール群に比較し, PaCO
2値が術後3日間低く,特に72時間後では有意(P<0.02)の差が認められた.また術後肺活量対術前肺活量比についても,硬膜外ブロック群は術後48時間以後で,より高値であった.更に,術後酸素マスクはコントロール群で,より長期間使用された.尚,合併症はコントロール群に,術後PaO
2値が低下し膿胸併発の後, MOFで死亡した1例が認められた.
胸壁手術創の術後疼痛に対する硬膜外ブロックの応用と肺機能への効果を報告し,術後肺合併症に対する,その有用性を述べた.
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