日本臨床外科医学会雑誌
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45 巻, 7 号
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  • 野水 整, 渡辺 岩雄, 遠藤 辰一郎
    1984 年 45 巻 7 号 p. 839-843
    発行日: 1984/07/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    福島県立医科大学第2外科における過去20年間の女性初発乳癌について組織型からみた遠隔成績を検討した.他院で生検を受けたものを除く222例の乳癌取扱い規約分類による組織型別頻度は,乳頭腺管癌64例28.8%,髄様腺管癌66例29.7%,硬癌73例32.9%,特殊型19例8.6%であった.これらのうち通常型乳癌3型の累積実測5年生存率は乳頭腺管癌77.4%,髄様腺管癌72.8%,硬癌66.6%であり, 10年生存率は乳頭腺管癌77.4%,髄様腺管癌61.7%,硬癌51.0%であった.また相対5年生存率は乳頭腺管癌80.7%,髄様腺管癌76.0%,硬癌70.9%, 10年生存率は乳頭腺管癌85.9%,髄様腺管癌68.7%および硬癌58.6%であった.すなわち乳頭腺管癌に比べ髄様腺管癌さらに硬癌の方が予後不良であった.そこで硬癌の予後不良の原因を明確にすべくTnm各因子と組織型との関係を検討した. T因子では乳頭腺管癌に比べ髄様腺管癌,硬癌の方にT3, T4症例が多く, n因子でも髄様腺管癌,硬癌の方にn(+)症例が多かった. m因子は髄様腺管癌,硬癌にのみ遠隔転移が認められた.したがってstageと組織型との関係についてみると乳頭腺管癌ではTISおよびstage Iの占める割合が多く,髄様腺管癌と硬癌ではstage IIIおよびstage IVの占める割合が多かった.また治癒切除率では乳頭腺管癌100.0%に比べ,髄様腺管癌89.4%,硬癌89.0%と低い成績であった.この局所病像における進行性と遠隔転移が他の組織型に比べ多いことが硬癌の予後を不良としている原因であろうと思われた.以上のように乳癌取扱い規約分類による組織型別の予後検討の結果,硬癌は他の組織型の癌に比べより進行性の病像にあたり,生物学的悪性度が高いと言える成績が得られた.
  • 天野 純治, 松林 冨士男, 赤岩 順, 河島 文幸
    1984 年 45 巻 7 号 p. 844-853
    発行日: 1984/07/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    乳房の感染症の中で,乳輪下に出来る難治性の膿瘍がある.これは若い女性や,授乳期以外の中年の女性に見られ,明らかに他の乳房の化膿創と区別されるべきものである.この主症状は, (1) 再発をくり返す乳輪下膿瘍, (2) 間欠的乳輪周囲えの瘻孔形成, (3) 乳頭の陥凹,の3つである.この区別されるべき要因は,その発生母体が乳管の扁平上皮化生にあり,その上皮の剥離物はケラチン様物質となり,乳管が閉塞されるためと云われている.そしてこの硬結乳管部の切除か,瘢絶なしでは治癒をしない.したがって治療法は罹患乳管の切除か,抜去以外にない.即ち膿瘍切除を含む乳頭乳管のLay Open法,瘻孔から異常管腔の完全切除,乳頭基底部を反転露出,拡張乳管洞切除である.近年は殆んどの報告が膿瘍及び乳管切除の術式をとっている.
    我々は, 1979年以来現在まで7例の本疾患を経験した.初めの症例では膿瘍及び乳頭乳管を切開切除の後,再縫合,治癒し得た.然し乳頭の変形は著明で,結婚前の若い女性には不適当な術式である.そこで次の2症例では膿瘍や瘻孔を含む乳頭基底までの罹患乳管の切除を行ない治癒し得た.そして我々は乳頭部乳管の切除範囲とその病態を解明すべく次の4症例について乳管造影を各々,膿瘍形成時,瘻孔形成時, 1時治癒期に行なった.手術操作は乳管造影時に使用した涙洗針を利用した我々独自の方法で行ない,最小限の手術創で乳頭部内乳管の大部分を抜去し,乳頭の変形は殆んどなく治癒させた.抜去した罹患乳管及び瘻孔部の連続切片標本を作製し病理学的に検索し,乳管造影写真と比較検討した.その結果,病因は乳頭基底部から乳頭乳管の一部を含んだ狭い範囲にあり,扁平上皮化生のみで説明出来ず,又本疾患に対する乳管造影の有用性と手術々式の病態別,選択の必要性を述べる.
  • 減酸と固有胃腺層の厚さおよび壁細胞面積について
    伊藤 正秀
    1984 年 45 巻 7 号 p. 854-858
    発行日: 1984/07/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    目的:十二指腸潰瘍に対する迷走神経切離術(迷切)が胃粘膜動態に与える影響を最長5年間にわたり観察し検討した.対象:選択的近位側迷走神経切離術(SPV) 20例と選択的迷走神経切離兼幽門洞切除術(SV+Ant.) 30例である.方法:内視鏡胃生検の佐野の4点法と筆者らの残胃8点法を定期的に施行した.採取標本を筆者ら独自の病理学基準から4 stageにわけ,そのうちstage I(安定固有期)で粘膜筋板まで採取された標本切片の胃体部固有胃腺層の厚さと,個々の壁細胞面積を測定した.一方histimine負荷による胃液酸度と, insulin負荷後のgastrin反応(insulin integrated gastrin response: I-IGR)を迷切前後で測定した.成績:体部腺領域の固有胃腺層の厚さと壁細胞面積はSV+Ant.例では術前それぞれ685.7±203.3μmと218.2±45.5μm2が術後36ヵ月で360.5±78.7μm(p<0.001)と167.1±56.4μm2(p<0.001)へとそれぞれ減少した. SPV後十二指腸潰瘍再発例で酸分泌が増加した時期では術後42ヵ月の750.0±175.3μmと220.0±44.2μm2が術後57ヵ月では1028.6±193.3μm(p<0.1)と265.7±78.6μm2(p<0.01)へと増加した. SPV後潰瘍非再発例の固有胃腺層の厚さと壁細胞面積はともに迷切前後の変化に有意差はなかった. I-IGRはSV+Ant.では術前218.9±237.3pg/h・mlが術後36ヵ月の時点で60.5±51.4pg/h・ml(p<0.02)へと減少し,その時の減酸率は92.3%(p<0.05)だった. SPV後再発例では術前410.3±28.2pg/h・mlが術後36ヵ月で847.7±313.1pg/h・mlへと増加し,その時期の減酸率は40%でともに有意差はなかった. SPV後非再発例では術前275.5±295.3pg/h・mlが術後36ヵ月で平均713.5±370.5pg/h・ml(p<0.1)と増加し同時期の減酸率は67.2%(p<0.05)だった.まとめ:迷切後壁細胞面積は胃液酸度の増減にしたがって増減し,その変動は固有胃腺層の厚さに反映した. SV+Ant.例ではI-IGRと酸分泌および壁細胞面積はともに有意に減少し, I-IGRと壁細胞面積の間には相関(r=0.81)があった.
  • 大塚 明夫, 高橋 宣胖, 平井 勝也, 千葉 秀明, 高橋 正人, 加藤 信夫, 木村 明, 山口 重二, 石井 義之, 吉田 忍, 黒田 ...
    1984 年 45 巻 7 号 p. 859-865
    発行日: 1984/07/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    教室では1971年以来,胃癌,大腸癌患者の術後に, 5-FU 250~500mg又はFT 207, 600~800mg, PSK 3gを連日長期経口投与している.(原則的に2年間)投与をうけた症例の免疫能をPHA, Con-Aによるリンパ球幼若化反応, PPD, Su-PS, PHA皮内反応, T, B cell百分率,免疫グロプリンなどの各種パラメーターでしらべ, FT (FU)群, FT-PSK群,非投与群にわけ比較検討した結果,
    1) 胃癌症例の免疫能は,抗癌剤投与中は低下しており,投与終了後は上昇する特徴的な経過がリンパ球幼若化反応,皮内反応より示された.
    2) PSK併用により,胃癌非治癒切除例では免疫能の上昇傾向がみられた.しかし治癒切除例では上昇はなかった.
    3) 大腸癌においては,抗癌剤投与例は若干の免疫能の低下傾向がみられた.
    4) T cell, B cell百分率,免疫ブロブリンは経過中特に変化はなく,各群間でも差はなかった.
  • 田村 利和, 武原 正夫, 芳川 博哉, 郷 正宏, 国友 一史, 宇高 英憲, 古味 信彦, 広瀬 隆則, 嘉悦 勲, 吉田 勝
    1984 年 45 巻 7 号 p. 866-871
    発行日: 1984/07/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    切除不能癌15例に対して,徐放性MMCカプセル留置療法を試み,その臨床効果,副作用,組織学的効果について検討を加えた.
    臨床効果については,小山・斉藤班の判定基準では, 15例中PD 7例, NC 8例と明らかな腫瘍縮小効果を認めなかった.発熱,消化器症状等の全身性の副作用はなく,検血一般,肝・腎機能検査値への影響も認められなかった.また,著しい癌性疼痛改善効果が膵癌再発例で認められた.
    組織学的には, 4例で剖検あるいは試験切除にて組織学的効果を検索した.徐放性MMCカプセルの組織学的効果は留置局所の壊死,線維化が主体であった. MMC針ではMMC針に隣接する部位よりむしろ少し離れた部位で組織障害が強く,その薬剤到達距離はMMC針より5~10mm程度と考えられた.また, MMC針に隣接する部位に癌細胞の残存を認めたが,この所見はほとんどすべてのMMC針で認めた.
    切除不能癌に対する徐放性MMCカプセル留置療法は,東京女子医大が中心となりその臨床試験が全国各大学,施設で行われており,現時点では遠隔成績を改善させるに至っていないが, (1) 全身性の副作用がないこと, (2) 膵癌での頑固な癌性疼痛を改善すること, (3) 組織学的には留置局所に一定範囲の癌細胞壊死をおこすこと等から,剤型,至適用量,放出率の諸条件を改良することにより,有力な局所化学療法剤として従来の治療法に比べ十分な臨床効果を期待できると考えられる.
  • 緊急手術例,経過観察例の超音波所見を中心に
    安田 秀喜, 高田 忠敬, 内山 勝弘
    1984 年 45 巻 7 号 p. 872-878
    発行日: 1984/07/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    急性胆嚢炎の診断には,これまで臨床症状や臨床所見を総合的に判断し行なわれてきたが,最近では超音波診断装置の利用により急性胆嚢炎の画像診断のみならずその病勢まで把握できるようになってきた.しかしいかなる所見をもって緊急手術の適応とすべきか,及び待期手術とすべきか不明な点が多い.
    今回我々は,緊急手術5例,待期手術18例合計23例の急性胆嚢炎の超音波所見を入院時および経過に伴なう推移を検討した.
    (1) 急性胆嚢炎の入院時超音波所見としては胆嚢走査時圧痛(100%),胆嚢腫大(86%),胆嚢壁肥厚(91%), sonolucent layer (74%),胆嚢内debris (52%)が認められた.
    (2) 緊急手術5例では,急性胆嚢炎の所見として,胆嚢走査時圧痛(100%),胆嚢腫大(100%),胆嚢壁肥厚(100%), sonolucent layer (100%),胆嚢内debris (80%)にみられ腹腔内のfluid collectionが1例(20%)にみられた.
    待期手術18例では,炎症消褪に伴い,胆嚢部走査時圧痛の消失,胆嚢腫大の軽快,胆嚢壁肥厚消失, sonolucent layer消失が全例にみられた.胆嚢内debrisも鎮静化した.
  • 吉永 圭吾, 松峯 敬夫
    1984 年 45 巻 7 号 p. 879-885
    発行日: 1984/07/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    非外傷性小腸穿孔21例について,臨床的検討を行なった.年齢は巾広い層にみられ,男女比は1:0.62でやや男性に多かった,特定の好発疾患というものは認められず,原因疾患は種々様々であった.検査所見では,白血球数がさほど増加しないことが多く,腹腔内遊離ガス像の検出率は62%であった.腹膜炎は汎発性18例(86%),限局性3例(14%)であり,ショックを伴ったものは5例(24%)であった.予後大きく左右するものは,原疾患の重篤度,ショックの有無であり,単に時間的な因子だけで予後は判断できない.術式については,腸瘻を造設した減圧手術群と造設しなかった非減圧手術群との間に,生存率において有意差は認めなかった.死亡率は1975年以降減少してはいるものの, 38.1%と高く,これは胃,十二指腸穿孔及び大腸穿孔の死亡率の間に位置している.
  • 真島 吉也, 木村 信良, 長尾 房大
    1984 年 45 巻 7 号 p. 886-909
    発行日: 1984/07/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    わが国で高カロリー輸液に広く用いられている総合ビタミン剤MVI注「エスエス」(9種のビタミンを含む)と米国ではMVI注と同様良く用いられているMVI-12 (12種のビタミンを含む)を高カロリー輸液に使用した場合の血中ビタミン値の推移を全国13施設の協力をえて検討した.ビタミンC,ビタミンB1,ニコチン酸,パントテン酸はMVI-12使用時は正常範囲を,またMVI注では正常上限を上回る値で経過した. B1の酵素添加効果(TPP添加効果)はMVI注の方が良好であった.ビタミンAは一時的に低下し正常範囲に間もなく復帰する. VD2は正常範囲を経過した. B2, B6の酵素添加効果は両剤とも正常範囲を示した. VEは両剤とも正常下限附近を経過した.手術により血中VA, B1, Eが低下するので充分量の投与が必要と思われた.さらに縫合不全となると一般に大量のビタミンが必要であった.
    以上の諸点より高カロリー輸液時のビタミン剤として維持期にMVI-12が,また手術あるいは外科的侵襲下ではMVI注が適当と考えられた.
  • 坪田 紀明, 麻田 達郎, 中村 和夫, 武田 義敬, 橋本 行, 笹田 明徳, 西海 長平
    1984 年 45 巻 7 号 p. 910-919
    発行日: 1984/07/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    過去15年間に異物摘出の行なわれた35症例(観血的除去27,非観血的除去8)に検討を加えた,異物の種類及び頻度は,魚骨5,義歯5,針4,弾丸3,碁石2,ピーナッツ2,釘,鉛筆,歯ブラシ,カミソリ,ヘアピン,すじ肉,つまようじ,茶柱,おもちゃの弾丸各1,及び医原性のカテーテル3,鋼線,ガーゼ各1であった.部位別では気道6(2例は非観血的に摘出された.以下同じ),食道8 (4),胃5,縦隔4,血管3 (2),腸管6,心1,脾1,胸郭1であった.異物摘出に際し,注意すべき点は以下の如く考えられた.非観血的摘出を試みる場合;異物にはX線透過部分が付随していることを念頭に入れ,原則として全身麻酔を行なって気道確保,安静,筋弛緩を得て行うことが肝要である.しかしそれが困難な場合には,いたずらに時間を費して患者を疲弊させることなく,観血的除去を考慮することが大切である,とくに食道異物の非麻酔下,非観血的摘出には食道穿孔の危険が常に潜んでいる事を銘記すべきである.観血的摘出を試みる場合;全身麻酔下の体位の変換,筋弛緩などにより異物の位置が変る可能性があるので,手術直前に異物の位置を再確認することが重要である.陳旧例では異物進入の自覚がない場合が多く,他疾患と誤まられて治療を受けていることが多いので入念な病歴の聴取が必要である.
  • 福島 久喜, 花岡 建夫, 皆川 浩, 大倉 聡, 鍋谷 欣市, 相馬 智
    1984 年 45 巻 7 号 p. 920-924
    発行日: 1984/07/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    炎症性乳癌は,乳癌の中でも稀な疾患ではあるが,悪性で予後の不良なタイプとして注目されている乳癌のひとつである.
    定義も単に臨床的に乳房の炎症症状を伴う広義の乳癌から,病理組織所見で皮下リンパ管内に癌細胞の塞栓を認める乳癌まで必ずしも一定していない.我々は,臨床的に乳房の炎症症状を伴い,異なる病理組織所見を示す乳癌の3例について検討したところ, (1) 臨床的かつ病理組織学的な炎症性乳癌, (2) すでに進行した乳癌で乳房の炎症症状を伴った二次的炎症性の末期乳癌, (3) 乳癌にたまたま乳房の炎症症状が合併したリンパ球浸潤性髄様癌に分けることができると考えられた.
  • 山根 正隆, 津田 弘純, 中川 準平, 高橋 俊二郎, 塩田 邦彦, 寺本 滋
    1984 年 45 巻 7 号 p. 925-930
    発行日: 1984/07/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    当院において過去14年間に経験した動脈硬化性血管病変は,年齢44歳から88歳までの107例であった.これらを動脈瘤群(I群),大動脈・腸骨動脈領域閉塞群(II群),大腿・膝窩動脈領域閉塞群(III群)の3群に分け,術後早期および遠隔予後,またcoronary riskfactorである高血圧,糖尿病,高脂血症,心電図異常の頻度を検討し,虚血性心疾患との関連を検討した.
    1) 107例中77例に手術施行し, 11例が死亡した.虚血性心疾患が関連していたものは3例(27%)で,術後心筋梗塞はI群にのみみられた.遠隔死は21例で,このうち心筋梗塞は6例(29%)で,各群での差はみられなかった.
    2) Coronary risk factorの頻度では,高血圧は51%,糖尿病13%,コレステロール値上昇18%,心電図異常は66%にあり,このうち虚血性心疾患に関係する心筋障害と心筋梗塞は37%にみられた.高血圧はII群に多く,糖尿病とコレステロール値上昇はIII群に少なかった.心電図異常はII群に多く,心筋障害もそれに伴って多かった.
    3) 術前冠動脈造影施行例10症例中,狭心症又は心筋梗塞の既往のある4症例全例に狭窄病変がみられ,症状のみられなかった6例中2例に75%以上の狭窄所見があった.
    冠動脈造影が安全に行われるようになった現在,動脈硬化性血管病変に対する待期手術の症例には,術前選択的冠動脈造影を施行し,病変の有無,程度を適確にとらえることによって,症例によってはextra-anatomic bypass手術を含めた手術手技および左室造影にて,心室壁運動にakinesisなどの収縮不全のある症例には,術前からスワンガンツカテーテルを挿入して,術中術後管理にも細心の注意を払う必要がある.
  • 佐藤 徹, 入沢 敬夫, 小林 稔, 大田 政廣, 中村 千春, 礎田 昇, 鷲尾 正彦, 清水 博志
    1984 年 45 巻 7 号 p. 931-935
    発行日: 1984/07/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    慢性の腸間膜動脈閉塞によるAbdominal anginaは比較的稀な疾患であり,血行再建術を行った本邦報告例は数例を数えるにすぎない.今回我々は原因として閉塞性血栓血管炎が疑われた1例を経験し, Gore-Tex人工血管によるバイパスグラフトにより症状の劇的改善を認めたので報告した.
    症例は37歳女性で食後の腹痛を主訴に来院した.消化器系の精査では異常所見を認めず,選択的血管造影にて,腹腔動脈起始部閉塞,上腸間膜動脈起始部狭窄及び膵十二指腸動脈分岐直後の完全閉塞所見を認めAbdominal anginaと診断し昭和58年2月8日血行再建術を行った.手術は6mm Gore-Tex人工血管にて腹腔動脈上部大動脈-総肝動脈,腎動脈上部大動脈-上腸間膜動脈にバイパスグラフトをそれぞれ行った.術後経過は順調で第21病日の血管造影ではグラフトの開存は良好で,食後の腹痛も全く消失した.また採取した腹腔動脈の病理診断では閉塞性血栓血管炎が疑われた.
    Abdominal anginaの血行再建術の方法としては,血栓内膜摘除パッチ形成術,バイパス術等の方法があるが,バイパス術が手技も容易で侵襲も少ないと考えられる.今回我々は代用血管としてGore-Texを使用したが,手術時間の短縮,ねじれや圧迫を受けにくいなどの利点があり有用と思われた.
  • 1治験例と本邦報告例の検討
    小坂 篤, 下野 高嗣, 長沼 達史, 青木 大五, 赤坂 義和, 安藤 芳之, 清水 武, 岡林 義弘, 竹内 藤吉, 石原 明徳
    1984 年 45 巻 7 号 p. 936-940
    発行日: 1984/07/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    肺癌の腸管転移は稀であり,その報告例は少なく,手術治療例は更に限られている.著者らは肺癌の小腸転移により腸重積をきたした症例を経験したので本邦手術報告例の文献的考察を加え報告した.
    患者は57歳の男性で左肺上葉の原発性肺癌に対し,左上葉切除術が施行された.術後3ヵ月目頃より腹痛,嘔吐をきたすようになり来院.腹部レントゲン写真でイレウスと診断し,開腹術を施行したところ, Treitz靱帯より30cm肛門側の空腸に手拳大の腫瘤を先進部とした逆行性腸重積がみられ,この部を含め空腸を切除し端々吻合を施行した.切除標本の組織所見にて肺癌の空腸転移と診断された.肺癌の小腸転移にて生存中に治療が行われた症例は稀であり,文献上検索しえた本邦手術報告例は18例であった.自験例を加えた19例を検討すると,平均年齢は61歳,男女比は5.3:1で男性に多くみられ,組織型別には未分化癌,低分化腺癌,扁平上皮癌の順に多かった.手術理由は腸閉塞11例,腸穿孔6例,下血2例であった.手術々式は腸閉塞に対しバイパス手術がなされた1例以外は全例に腫瘍を含めた腸管切除,吻合が施行されている.術後30日以内の手術直接死亡例は5例(26%)であり,耐術者で消息の明らかな9例の術後生存期間をみると33日から最長32週,平均約148日であった.肺癌腸管転移に対する治療は姑息的なものであり,長期の予後は望むべくもないが保存的治療による回復は期待できず,診断が決定しだい速やかに手術を施行することが重要と考えられた.
  • 渡会 伸治, 大木 繁男, 杉田 昭, 鈴木 良人, 小沢 尚男子
    1984 年 45 巻 7 号 p. 941-944
    発行日: 1984/07/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    われわれは腐蝕性食道炎に合併した食道癌症例を経験したので報告する.
    症例は嚥下困難を主訴とする75歳の男性で, 51年前自殺目的で硫酸を飲み,食道に広汎なる瘢痕狭窄を残す. 4年前の上部消化管造影では狭窄がみられるのみであったが,入院時は漏斗型の完全閉塞であり,生検にて扁平上皮癌と診断された.術前60Co 3,000rad照射し,胸部食道切除術を施行したが,術中所見はN0 Pl0 M0 H0 A1であった.組織所見は粘膜下層より筋層にかけて広汎な線維化・炎症細胞浸潤があり,その中に中分化型扁平上皮癌が散在していた.取扱い規約上mp(+), a0, n0, ly(+) であった.
    腐蝕性食道炎より癌が発生する機序として, (1) 瘢痕癌説, (2) 刺激説, (3) 栄養障害説などがあげられる.本邦報告例ではいずれも刺激が重要なる発生原因と考えられるが,本症例ではその発生部位より考えて,瘢痕癌とも考えられうる症例である.
    このように腐蝕性食道炎は種々の機序により食道癌の発生母地と考えられるので,十分なるfollow upが必要であり,高度の狭窄例に対して積極的な食道切除が必要と考えられる.
  • 岡本 幹司, 三輪 恕昭, 飯島 崇史, 松三 彰, 市川 純一, 合地 明, 由井 治郎, 角南 昌隆, 遠迫 克昭, 折田 薫三
    1984 年 45 巻 7 号 p. 945-951
    発行日: 1984/07/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    比較的稀な噴門部胃カルチノイド2例を経験したので,その特殊性を知るため現在までの報告例4例をあわせた6例とこれまでの全胃のカルチノイド144例の報告例の集計結果とを比較検討した.噴門部胃カルチノイドは部位的特殊性のためか発見時に腫瘍径が大きく転移率が高く,特に血行転移が多かった.しかし潰瘍形成があるにもかかわらず術前診断し得たものはなく,銀反応陽性率も高かった.
  • 野間 史仁, 田中 章一, 安武 俊輔, 藤井 康宏
    1984 年 45 巻 7 号 p. 952-955
    発行日: 1984/07/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    近年交通事故の増加に伴ない,腹部外傷症例は年々増加傾向にあるが,単独の十二指腸破裂の頻度は,腹部外傷中5%前後と決して高くはない.しかし十二指腸の後腹膜部破裂の場合,その解剖学的位置関係から,特有な臨床症状に乏しく,検査でも特有な症状が必ずしも得られない.特に小児では,本人よりの問診が充分行なえないことから,早期診断が困難とされている.
    われわれは最近遊戯中に受傷した幼児の十二指腸後腹膜部破裂を経験し,手術により治療せしめたので報告する.
    症例は1歳11ヵ月の女児で,遊戯中40~50kgの機械が腹部に倒れ下敷きなった.腹痛は訴えなかったが,活気がないために来院した.
    入院時,身体的所見で異常なく,胸腹部単純X線写真でも異常認めなかった.入院後高熱,白血球数23,800mm2と白血球増多を認めたので受傷後29時間後に緊急手術を行なった.
    開腹するとTreiz靱帯より約1cm口側の十二指腸が約2/3周にわたり破裂していた.
    損傷部を単純閉鎖し,空腸瘻造設,減圧のために,幽門輪を越えて胃管を挿入し,充分に腹腔内ドレナージを行なった.
    術後ドレーン及び腸瘻部より胆汁様腸液の流出を認め,術後17日目には711mlに達したが, 19日目より液の排出量は急激に減少し, 25日目以後はほとんど排出は認められなくなり,術後36日目に軽快退院した.
    小児の十二指腸後腹膜部破裂の際には,破裂部の浮腫や重篤な感染をきたさないうちに診断し,最も生理的である単純閉塞法を用いることが望ましい.
  • 遠藤 昭穂, 金森 弘明, 東儀 公哲, 中村 輝久
    1984 年 45 巻 7 号 p. 956-960
    発行日: 1984/07/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    完全直腸脱を有する高齢者女性の4例にTeflon meshを用いたRipstein手術(新法)を行い,術前後の直腸肛門内圧を測定した.
    Ripstein手術の特徴は,骨盤底の補強が十分に行え,直腸が後上方に確実に吊り上げられて固定され十分な後方への弯曲がえられ, anorectal angleをより生理的に近い状態にしうるなどであり, Teflon meshを用いた新法は,広筋膜利用の原法にくらべて生体固定膜採取の必要がなく,人工膜なので十分な強度と必要な大きさ,形がえられるという利点がある.私どもがRisptein新法の仙骨前面固定に加えるに弛緩せる肛門挙筋を直腸の後方で3~4針縫縮しPuborectal slingの補強をはかったことは直腸脱再発防止に役立つとともに,術後の直腸肛門内圧反射の出現,増強や排便機能にも良い影響を与えたものと考えられる.
    自験例4例は術後3ヵ月から3年10ヵ月を経過するが,いずれも再発の徴候や排便障害もなく順調に経過しており,術前にはほとんど認められなかった直腸肛門内圧反射波も,術後症状の改善,消失とともに規則正しい,大きい波形と肛門律動波を認めるようになり,本手術法の有効性は直腸肛門内圧曲線の上からも確認された.
    本術式について若干の文献的考察を加えて報告した.
  • 長谷川 洋, 前田 正司, 中神 一人, 池沢 輝男, 仲田 幸文, 二村 雄次, 弥政 洋太郎
    1984 年 45 巻 7 号 p. 961-966
    発行日: 1984/07/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    重複胆嚢は胆嚢の形態異常に属する疾患で,人では比較的まれである.症例は59歳の女性で, 8年前に急性胆嚢炎・胆石症にて胆嚢摘出術を受けている.黄疸および上腹部痛を主訴として来院し,腹部超音波検査にて肝内胆管の拡張とstrong echoを指摘された. PTCDを施行したところ肝門部付近の嚢胞状拡張部と総胆管末端に嵌頓した結石が発見された.
    PTCD瘻孔を漸次拡大し経皮経肝胆道鏡検査(PTCS)を行って,嚢状拡張部が右肝管と交通を有することを診断し得た.術前には,重複胆嚢と胆管憩室の鑑別が問題となったが,術後の病理組織学的検索で嚢胞壁に明瞭な筋層が認められたので重複胆嚢と診断した.
    本邦では自験例を含め31例の報告があり,これら31例を集計し若干の検討を加えた.年齢は6~69歳で比較的若年者に多く,性比は差を認めなかった.症状として特徴的なものはなく,腹痛が最も多かった.診断は手術時に偶然に発見された例が多いが,最近ではPTC, ERCにより術前診断される例が増加している.本例では経皮経肝胆道鏡検査(PTCS)を行って嚢状拡張部と胆管との交通部を確認し,適切な治療方針を選択することができた.重複の型としてはH型15例, Y型10例とH型が多くを占めていた.胆石の合併は13例(42%)と高頻度であったが,胆石合併例の多くは2個の胆嚢の両方に結石を認めた.治療は大多数に手術が施行され,手術例では2個の胆嚢摘出術が行われた例が多かった.
  • 本邦報告181例の文献的考察
    渡橋 和政, 佐々木 襄, 井上 邦典, 川口 正晴, 武藤 寛, 平田 俊治
    1984 年 45 巻 7 号 p. 967-973
    発行日: 1984/07/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    閉鎖孔ヘルニアの2症例を報告し,本邦報告179例と共に181例の文献的考察を行なう.
    〔症例1〕83歳女性.分娩歴なし.嘔吐及び左大腿部痛にて来院.腹部膨満し鼓音を呈し腹部単純撮影でイレウスの像あり, Howship-Romberg徴候(+)のため閉鎖孔ヘルニア嵌頓によるイレウスと診断し,手術施行した.回腸末端より60cm口側の回腸が左閉鎖孔に陥入し(全係蹄型嵌頓)腸切除後,ヘルニア嚢を翻転切除,結節縫合した.
    〔症例2〕75歳女性.分娩歴6回.元来便秘ぎみであったが,排便困難,イレウスとなり来院.意識混濁,ショック状態で,腹部単純撮影にてイレウス像を認めた. Howship-Romberg徴候(+)であり,閉鎖孔ヘルニア嵌頓によるイレウスの診断にて手術施行した. Treitz靱帯より130cmの空腸が左閉鎖孔に陥入し(腸壁ヘルニア)腸管を楔状切除したのち,ヘルニア嚢を切除し,連続縫合後,タバコ縫合を行なった.
    閉鎖孔ヘルニアは比較的稀な疾患であり,医学中央雑誌より本邦報告179例を渉猟し,自験例2例を加え181例の文献的考察を行なった.本症は,その病態上腸壁ヘルニアが多く,しかも二次的に通過障害をきたしてイレウスとなりやすい.ヘルニア内容は小腸,特に回腸末端部が多い.嵌頓の左右を比較すると左方に空腸の嵌頓が幾分多い.本症はやせた多産の老婦人に多く,便秘等の腹圧上昇因子が関係する.またHowship-Romberg徴候は本症に特異的であり,イレウスとして緊急手術となる症例が多い本症の性格上,術前に正診するための重要な徴候である.治療は,腹腔法による進入,壁側腹膜結節縫合によるヘルニア嚢の処理がもっとも一般的であるが,再発も数例で認められている.予後は決して楽観的でなく,高齢化社会の到来と共に,本症の重要性は増大するものと考えられる.
  • 倉田 悟, 田中 秀信, 永島 浩, 藤井 政昭, 篠崎 卓雄, 中安 清, 近藤 直嗣, 大藤 芳, 本郷 碩
    1984 年 45 巻 7 号 p. 974-977
    発行日: 1984/07/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    完全静脈栄養により患者の長期栄養管理は容易となって来たが,反面これに伴う種々の合併症が報告されるようになった.
    われわれは最近, 58歳男子の食道癌術後に3カ月に及ぶ完全静脈栄養を行ったところ,胆嚢内に結石が形成された1例を経験した.本症は長期間絶食による胆汁うっ滞,長期抗生剤投与による腸内細菌相の変化,さらには手術時の全幹迷走神経切離術が重要な因子になったと考えられる.
    これまでかかる合併症の報告は稀であったが,完全静脈栄養を施行する患者が増加しているので今後大きい問題となると思われる.
  • 渡辺 寛, 矢野 好弘, 田辺 博, 堀谷 喜公, 鬼束 惇義
    1984 年 45 巻 7 号 p. 978-982
    発行日: 1984/07/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    岐阜大学第1外科で最近5年間に経験したHyperosmolar hyperglycemic nonketotic dehydration (HHND)は8例である.年齢は18歳より80歳(平均56.6歳)であり,性別では男性2例,女性6例と女性に多くみられ,糖尿病の既往を有するものは8例中2例のみであった. 8例中6例に意識混濁,多弁,興奮状態等の精神症状がみられ,他の2例は挿管レスピレーター管理中に発症しており,精神症状については不明である.
    全例尿糖強陽性で,尿ケトン体陰性であった.血糖値は最高945mg/dlを示し全例400mg/dl以上,血漿浸透圧は1例では検索されていないが,残り7例の平均は392.4mOsm/lであった.血清Na値は全例160mEq/l以上の高値を示し最高では182mEq/lであり,血清Cl値は平均129.3mEq/lであった.また尿素窒素も平均62.2mg/dlと高値を示した.血清K値,動脈血ガス分析結果は一定の傾向は示さなかった.
    治療は, 5%糖液大量輸液,早効性インスリン投与を原則としている. 8例中2例が死亡したが,いづれも原疾患によるものであり, HHNDは直接原因ではないが増悪因子となったと考えられる.心不全,呼吸不全等の重篤な合併症を有する症例では,注意がそちらに向けられHHNDの診断が遅れがちとなり,治療に難渋することとなる.早期発見,早期治療の必要性が痛感された.
  • 島貫 公義, 笠原 小五郎, 青柳 豊, 小西 文雄, 金澤 暁太郎, 広田 紀男
    1984 年 45 巻 7 号 p. 983-986
    発行日: 1984/07/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    成人例前仙骨部腫瘤はまれであり,特に類表皮嚢胞例は本例を含めて,本邦では4例の報告のみと思われる.症例は30歳女性て,三度の分娩に,すべて分娩進行遅延がみられ,吸引分娩の処置を受けた既往があり.第3子妊娠経過中に直腸腫瘤を指摘された.直腸指診,注腸造影,腹部CTスキャン,腹部及び経直腸的超音波検査にて,肛門縁より1cmの部位から約15cmのRbからRsにおよぶ前仙骨部腫瘤を認めた.経腹的に腫瘤を摘出するに,腫瘤壁内層は扁平上皮で覆われ,汗腺,毛嚢を認めず,類表皮嚢胞と診断した.
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