近年,検査法の進歩により数多くの腫瘍マーカーが報告されているが,胃癌に対しては満足すべきものはない.一方,最近注目されてきた腫瘍マーカーの1つに1957年Björklundらが発見したTPAがあるが,その臨床的意義や免疫学的作用はいまだ充分に解明されていない.そこで,これらの点を明らかにすべく,胃癌患者80症例を対象に血清TPA値を測定し,胃癌の進行程度やそれを規定する諸因子との関係,他の腫瘍マーカーとの関係,免疫学的指標との関係,さらに生体内に及ぼす免疫学的作用について検索し,次のような結果を得た.胃癌患者の血清TPA値および陽性率は良性疾患,健常人に比較して有意に高値を示した.胃癌の進行にしたがい,血清TPA値および陽性率は上昇した.非切除例は切除例に比較して有意に高値を示し,再発例は最高値を示した.深達度,リンパ球転移度,脈管侵襲,肝転移の進行にしたがい,血清TPA値および陽性率は有意に上昇した.腹膜転移の有無および組織型の違いによる有意差を認めなかった.他の腫瘍マーカーであるCEA, IAPとの間には正の相関を認め, AFPとは相関を認めなかった.免疫学的指標であるPPD皮膚反応,末梢血リンパ球数, T細胞比,リンパ球PHA幼若化反応, NK細胞活性などとの間に負の相関を認めた. TPA高値群の血清はTPA低値群の血清に比較して,より強くリンパ球PHA幼若化反応を抑制する傾向を認めた.標準TPA液添加によるリンパ球PHA幼若化反応では, TPA濃度依存性の幼若化反応抑制を認めた.以上の検討から,血清TPAは胃癌に対する鋭敏なマーカーとして,癌腫の進行程度,切除可能性,再発の有無の判定など臨床上有用であると考えられ,また,細胞性免疫能に強く関与し,生体内では免疫抑制的な作用をもつことが示唆された.
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