日本臨床外科医学会雑誌
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46 巻, 3 号
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  • 小田 正之, 古賀 成昌, 西村 興亜, 貝原 信明, 日前 敏子
    1985 年 46 巻 3 号 p. 281-286
    発行日: 1985/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    過去23年間に当科で胃癌により胃全摘を受けた70歳以上高齢者43例につき,その臨床的背景を調べ,治癒的全摘後の遠隔時に至る回復状態を39歳以下若年者例と比較し,また高齢者に対する非治癒的全摘の意義についても検討した.治癒的全摘例での術後の血清総蛋白の回復や社会復帰状態は良好であったが,体重や赤血球数の回復は悪く,特に術後5~7年で貧血が悪化する傾向にあった.一方,非治癒的全摘例でも,短期間ではあっても日常生活が可能であった例が約39%にみられた.以上より,高齢者胃癌に対しても適応があれば,術中,術後管理に配慮しつつ,でぎるだけ胃全摘を行うよう努力すべきと思われる.
  • 加辺 純雄, 胡居 郁郎, 柿原 稔, 河野 道弘, 初瀬 一夫, 門田 俊夫, 望月 英隆, 黒川 胤臣, 田巻 国義, 平出 星夫, 三 ...
    1985 年 46 巻 3 号 p. 287-292
    発行日: 1985/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    stage IV胃癌非治癒切除42例,同非切除21例を用い,非治癒切除の意義につき1生率の面から検討を行った.
    非切除の1生率4.8%とくらべ,非治癒切除の1生率は50.0%であり有意にすぐれていた. stage IV非治癒切除における有意な予後規定因子を用い,その因子が切除群と非切除群の予後の差に影響しているかどうかをみると,年齢, S因子, N因子の分布は両群に差がなく予後の差の原因ではなかった.有意差を示したP因子の分布をみると,非切除群には予後不良なP2P3が多かったが,比較的予後良好なP0P1についても非切除の1生率9,1%とくらべ切除群では60.0%と切除効果は著明であった. H因子についても同様な検討を行ったところ,比較的予後良好なH0H1において非切除の1生率6.3%とくらべ切除群では53.8%と切除効果は著明であった.
    以上より, stage IV非治癒例であっても, P0P1, H0H1ならば切除により1生率の向上を期待できる.
  • 西山 裕康, 福田 裕, 内藤 伸三, 八田 敏, 中山 康夫, 藤本 彊
    1985 年 46 巻 3 号 p. 293-298
    発行日: 1985/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    1980年9月より1984年5月までに,私たちの施設で,胃全摘術の際の食道空腸吻合に器械吻合を行った症例は80例であった.術後の吻合部合併症としての出血は1例も認められず,縫合不全,狭窄はそれぞれ4例(5%)に認められた.
    縫合不全例は,従来の治療原則に従い加療し全例治癒した.狭窄例に対しては, 2例に内視鏡による拡張術を施行し, 2例に内視鏡的に高周波電気メスによる切開術を施行し良好な結果を得ている.
    器械吻合による吻合部合併症の原因及びその対策につき,自験例をふまえ若干の文献的考察を加え検討した.
  • 高橋 寿久, 大沢 寛行, 原口 義座, 斉藤 慶一, 若林 利重
    1985 年 46 巻 3 号 p. 299-312
    発行日: 1985/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    膵嚢胞腺腫の臨床所見,上部消化管造影,血管造影, ERP, CT検査,超音波検査等の画像診断所見を,われわれの経験した漿液嚢胞腺腫2例,粘液嚢胞腺腫1例の3例をもとに検討を加えた.
    膵嚢胞腺腫は病理組織学的に,生物学的性状の異なる漿液嚢胞腺腫と粘液嚢胞腺腫の2型に分類される.前者は高齢女性に多く,膵頭部に発生し,小嚢胞の集籏からなる.嚢胞の上皮はglycogenを含む扁平あるいは立方状細胞よりなり, malignant potentialを有さない.後者は膵体尾部に多く,導管上皮由来といわれ,上皮は高円柱状,粘液産生を示し著明なmalignant potentialを有する.
    腫瘍は大きくなってから発見されることがほとんどで,周囲臓器の圧迫所見が中心となっておこる.したがって臨床所見は腹部腫瘤とともに上部消化管の圧迫症状として出現する.画像診断では,病理組織学的なちがいや腫瘍の発育形式,発生部位のちがいから,それぞれの特長が得られる.血管造影とCT検査にて特に優位な差がみられた.漿液嚢胞腺腫では,血管造影所見はvascularityが高く,腫瘍血管増生と毛細管相での腫瘍濃染を認める.粘液嚢胞腺腫では,膵周囲の血管の圧排が文体となり, hypovascular, ないしはavascularな所見を示す.いずれにおいても炎症所見や血管の侵蝕像はみられない. CT像では漿液嚢胞腺腫では腫瘍の内部は不規則な網状構造を示し,造影剤静注後の造影では腫瘍周囲のstainが著明となる.粘液嚢胞腺腫では,嚢胞部分が主体となり,特長としては腫瘍内に隔壁構造が描出される.これらの特長から比較的正確に両者の診断が可能である.膵嚢胞腺腫の治療は,癌化の問題,膵実質の進行性の変化,他臓器への圧迫による影響を考慮し切除が望ましい.
  • 大西 英胤, 近藤 喬, 井上 慎吾, 津久井 優, 西野 暢彦, 大石 崇, 高浪 厳, 別所 隆, 篠原 央, 宇都宮 利善
    1985 年 46 巻 3 号 p. 313-320
    発行日: 1985/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    胆道疾患(特に悪性腫瘍)早期診断の一助として,各種胆道疾患の胆汁中CEA値について検討を行った. CEAはZ-gel法で測定し血漿CEAの正常値は5.0ng/ml以下である.
    1) リオンB胆汁のCEA値は,胆嚢癌は平均211.5ng/mlで全例100.0ng/ml以上ではあるが,良性疾患の胆石症においても最高556.0ng,最低0.5ng以下,平均125.6ng/mlと非常にばらつきが多く,消化液中のCEA類似物質の混入が考えられ,現状のCEA測定では診断的価値は低いものと思われる.
    2) 術中採取の胆嚢内胆汁は,胆石症で最高213.8ng,最低0.5ng,平均86.8ng/mlとぼらつきを軽度認めるが,胆嚢癌では最高16,238.5ng,最低494.2ng,平均6,291.9ng/mlと著明な高値を示し, stage Iの根治手術可能例でも7,861.6ng/mlであり,胆嚢癌と他疾患との鑑別に有用と思われる.胆管癌,胆嚢ポリープは胆石症とほぼ同じ傾向を示した.又胆石症胆汁のばらつき解明の為の検討では,胆石部位,胆汁中細菌の有無には直接的関係を認めず,術前胆嚢造影陰性例,即ち胆道閉塞が考えられる例に高値を示すものが多かった.
    3) 術中又はPTCDより採取の総胆管胆汁は,胆石症は1例を除いて全例5.0ng/ml以下で,平均3.0ng/mlであり,胆嚢癌は平均34.4ng/mlとやや高いが, 1例を除いて胆石症とほぼ同様の傾向を示したが,胆管癌は最高2,171.2ng/ml,平均346.9ng/mlと有意に高値を示した.閉塞性黄疸を示した症例の検討に於ても,減黄処置を行う以前のPTCD胆汁CEA値は,良性の胆石症は全例5.0ng/ml以下で,平均1.8ng/mlであったが,胆管癌は最高2.171.2ng/ml,平均54.5ng/mlで, 1例を除いて全例5.0ng/ml以上を示し,閉塞性黄疸時の良悪性鑑別,特に胆管癌の診断に有用と思われる.
    腫瘍より分泌される胆汁CEAは非常に微量と思われ,自験肝門部癌の左右胆汁CEA値の不一致よりみて,胆汁CEAが上昇するには或る期間を要するものと思われる.
  • とくに酸素運搬能と細胞障害について
    石山 秀一, 八木 聡, 飯澤 肇, 亀山 仁一, 塚本 長
    1985 年 46 巻 3 号 p. 321-328
    発行日: 1985/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    腹部感染症112例の臓器不全につきretrospectiveに検討した. 112例のうち29例(26%)が多臓器不全(MOF)に陥ったがこれらをMOF群,他を非MOF群として比較した.
    MOFの発生頻度を原疾患の臓器別にみると胃十二指腸,小腸,大腸の間に差はなかった.臓器不全の発生頻度はMOF群では肺,非MOF群では肝が最も多かった. 3臓器以上の機能不全のあるものでは2臓器以下のものに比べ死亡率が高かった. MOF群の初発不全臓器では,肺が最も多かった.
    各臓器不全の程度を障害の程度が最も著明な時の検査値で比較すると,全ての臓器においてMOF群が非MOF群に比べ著明であった.これらの中で, GOT, LDHなどの逸脱酵素の著明な上昇がみられ,広範な細胞障害があったものと考えられた.
    我々はこのような細胞障害を防ぐためには細胞の代謝に不可欠である酸素の運搬能を維持することが重要と考え, Swan-Ganz catheterによる呼吸循環動態のmonitoringを行ってきた.
    呼吸循環動態を検討し得た19例(MOF群: 10例,非MOF群: 9例)についてみると, Respiratory indexはMOF群で有意に高く,著しい呼吸障害があったものと考えられたが,心指数,分時酸素運搬量には有意差はなく,比較的よく管理されていた.しかしながら,酸素消費量(VO2)および混合静脈血pH (VpH) は有意に低く,末梢組織,細胞での酸素代謝の異常が認められ,組織はacidosisに陥っていたものと考えられた.
    組織の酸素代謝の状態を反映するVpHおよびVO2はMOFの発生を予測する指標となり得るものと考えられた.
    又,感染症を伴うMOFの治療には,感染巣の完全除去が最も重要であることは言うまでもないが,なんらかの細胞蘇生法の開発が急務と考えられた.
  • 青木 洋三, 松本 幸子, 林堂 元紀, 玉置 陽司, 太田 正孝, 堀内 哲也, 村上 浩一, 柏木 秀夫, 殿尾 守弘, 山口 和哉, ...
    1985 年 46 巻 3 号 p. 329-336
    発行日: 1985/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    昭和52年1月から57年12月末までの6年間に経腸栄養を施行した297症例を対象に,経腸栄養に伴う諸問題点を明らかにして,今後の反省の資料とした.対象のうち,経腸栄養のメニューが現行のelemental diet (ED)から開始し, low residue diet (LRD)で維持する方式に定まった55年以降の153症例については,特に合併症の点から分析し考察した.
    原疾患では胃癌手術後の197症例(66%)が最多で,中でも胃全摘例が135症例を占めた.年齢では50歳代が最多で,また術前に併存病変を認めたのは25.5%であった.経腸栄養の開始は第4, 5病日が多く,術後の経過が良好なものでは2, 3週後に終了する症例が多かった.投与熱量は1日1,200Kcal前後のものが多かったが,開始に伴い患者が何らかの症状を自覚したのは約70%に及んだ.これら有症状群では,栄養学的パラメーターは一時的にせよ正常範囲ながら軽度悪化した.術前に存在する併存病変中,慢性腎不全は2.6%に認められた.そこで腎不全用経腸栄養剤を工夫し,腎不全患者に投与したところ血漿アミノグラムの著明な改善をみた.また合併症としての便通異常,とりわけ下痢,軟便の原因としては,注入スピード,術後のガストログラフィンによる上部消化管透視などの要因が考えられ,これに対しては薬剤の投与もさることながら注入スピードの調節が最も重要かつ基本的な対策であると考えられた.
  • 渋谷 哲男, 馬越 正通, 大場 英巳, 吉川 厚, 内山 喜一郎, 坂上 信也, 今井 茂, 西崎 宣, 北浜 秀男, 庄司 佑, 三橋 ...
    1985 年 46 巻 3 号 p. 337-345
    発行日: 1985/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    腸内細菌叢が健康に果す役割は大きく発癌,老化などと関連して研究されている.そこで今回,我々は消化器術後に使用する経腸栄養剤が腸内細菌叢(特にBacteroidaceae, Eubacterium, Bifidobacterimm, Clostoridiun)の変動に及ぽす影響について検討した.症例は胃癌20例, 36~72歳.経管栄養剤はS-185とB剤を使用した.方法は術前,術直後と,使用中,使用後常食に移行するまで週2回糞便を採取して,分析は光岡の方法に従った.術直後は両群とも抗生物質の影響で細菌数が減少した.使用開始後はS-185群でBifidobacterium, Bacteroidaceaeが出現し,以後増加した. B群ではBacteroidaceaeがわずかに出現し,以後順調に増加したが, Bifidofacteriumの出現は遅れ,増加も小さかったが, Bifidofactericmについて両群を比較すると, S-185群はV字型回復を示したのに対し, B群ではその回復が遅れU字型回復を示した.これは両製品に含まれる糖質の違いによるものであると考えられる.又我々は腸内菌叢の変動が患者の病態に与える影響についても検討した.
  • 田中 肇, 奥野 匡宥, 大北 日吉, 山下 隆史, 梅山 馨, 須加野 誠治
    1985 年 46 巻 3 号 p. 346-353
    発行日: 1985/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    甲状舌管遺残組織に発生する癌は比較的稀で,本邦報告例は自験例を含め, 23例にすぎない.我々の症例は30歳女性で前頚部腫瘤を主訴とし, CT検査にて腫瘍が不整な嚢胞と一部充実性部分を持つことから悪性が疑われ,穿刺細胞診にて悪性と診断された.手術はSistrunk法および頚部リンパ節郭清術を施行,病理学的に甲状舌管遺残組織に発生した乳頭癌と診断され,頚部リンパ節転移も認められた.
    本症の診断においては甲状舌管嚢腫の1~2%に癌の発生がみられることを考慮し, CT検査,穿刺細胞診などの術前検索が必要と思われ,治療においてはリンパ節転移が少なくないことより腫瘤摘出に加えて頚部リンパ節郭清も併せて施行する必要があると思われた.
  • 悪性例の検討
    米田 紘造, 大加戸 彰彦, 大路 明, 古賀 昭夫, 安宅 啓二, 吉村 雅裕, 脇田 昇, 中村 宏臣, 良河 光一, 岡田 聡
    1985 年 46 巻 3 号 p. 354-361
    発行日: 1985/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    乳癌も他の臓器の癌と同様に,早期発見および早期治療が予後に大きな影響をおよぼすのは,周知の事である.
    近年,一般女性の乳癌への関心が大となり,乳癌検診の普及,自己検診法の啓蒙により,「乳汁の色が異常である」とか「乳頭より出血している」とか「しこりは触れないが,乳頭からの分泌がとまらない」といった,いわゆる乳頭異常分泌を主訴とした患者が増加してきている.
    今回,われわれは, 1974年から1983年までの9年間に, 178例の乳頭異常分泌症に対し, 23例のMicrodochectomyを施行し,そのうち12例の悪性例(non-infiltrating papilotubular carcinoma 4例, non-infiltrating medullarytubular carcinoma 1例, intra ductal papillotubular carcinoma 2例, intra cystic papillotubular carcinoma 2例, infiltrating papillotubular carcinoma 2例, infiltrating medullary tubular carcinoma 1例)を経験したので, Microdochectomy後, Modified Radical MastectomyあるいはStandard Radical Mastectomyを早期に施行した.この悪性例12例を含む178例の無腫瘤性乳頭異常分泌症について,検討し,文献的考察を行なった.
  • 松浦 雄一郎, 田村 陸奥夫, 山科 秀機, 肥後 正徳, 藤井 隆典, 島本 博幸, 福原 敏行
    1985 年 46 巻 3 号 p. 362-368
    発行日: 1985/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    出血性心外膜炎には原因不明で良性な経過をたどる特発性出血性心外膜炎や,原発性あるいは転移性癌性心外膜炎がある.
    この度,出血性心外膜炎の3症例に遭遇,副腎皮質ホルモン等による薬物療法に抵抗を示すということで,心外膜切除,心嚢腔-胸腔開窓術を施行し,術後比較的早期に症状の改善を得た.しかし,この内2症例を各々悪性リンパ腫にて術後1年9カ月目,悪性神経鞘腫にて術後3カ月目に失った.いずれの症例も,初回手術時肉眼的には悪性腫瘍が疑われたが,病理組織学的には悪性腫瘍の診断は下されなかった.他の1例は特発性心外膜炎で術後4年再発もなく元気に生活している.
    以上のことから,出血性心外膜炎においては,心外膜切除,心嚢腔-胸腔開窓術後良好のようにみえても,術後の厳密な経過観察が必要であろうかと考えられた.
  • 加納 宣康, 松原 長樹, 雑賀 俊夫, 松波 英寿, 池田 正見, 酒井 聡, 森 一郎, 本間 光雄, 小山 明宏
    1985 年 46 巻 3 号 p. 369-373
    発行日: 1985/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    腐蝕性食道狭窄に併発する食道癌はきわめてまれな疾患である.われわれは最近,濃硫酸服用後28年を経過した腐蝕性食道狭窄部に腺癌の発生をみた1例を経験したので報告する.
    症例は嚥下困難を主訴とする53歳女性. 28年前に濃硫酸を服用し腐蝕性食道炎として加療を受けた.その後腐蝕性食道狭窄のため軽度の嚥下困難を訴えるも時間をかければ十分量摂取できるため放置していた. 1983年5月になり嚥下困難増悪したため国立東静病院を受診した.食道造影にて下部食道に全周性の狭窄を認め,そのなかに不整の隆起を認めた.内視鏡の挿入は不可能であった.腐蝕性瘢痕による食道狭窄およびそれに併発した食道癌を疑い下部食道切除術を施行した.
    術後の病理組織学的検索にて乳頭状腺癌と診断した.
    本症例では食道下部は腺組織におきかわっており,腐蝕性食道炎およびそれによる食道胃接合部の機能不全による逆流性食道炎が持続したことにより下部食道がBarrett上皮化し,同部に腺癌が発生したものと推測された.
    腐蝕性食道狭窄に併発する食道癌はまれなものであり,またこれまでの報告例はすべて扁平上皮癌であった.自験例は乳頭状腺癌であり,本邦および外国文献を含め腐蝕性食道狭窄に併発した腺癌としては最初の報告例である.
  • 清水 哲朗, 永瀬 敏明, 唐木 芳昭, 伊藤 博, 藤巻 雅夫, 高野 吉行, 藤田 敏雄
    1985 年 46 巻 3 号 p. 374-378
    発行日: 1985/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    成人の肥厚性幽門狭窄症はきわめて稀な疾患であって,現在まで世界で約200例,わが国ではわずか2例の報告をみるのみである.我々は原因不明の幽門狭窄症の診断にて内視鏡的拡張術および手術的幽門形成術を施行し,術後,生検標本の組織学的検索により,肥厚性幽門狭窄症と診断された1例を経験したので報告した.
    本症は1833年, J. Cruveilhierの報告を最初に現在まで約200例が報告されているが,原因はいまだに不明である. 1) 先天性説, 2) 神経・筋異常説などがいわれているが,意見の一致はみていない.
    臨床所見としては,特異的な所見に乏しく,他疾患との鑑別が困難な場合が多い.このため治療は,早期手術をすすめるという意見が強い.
    病理学的には輪状筋の肥大及び過形成が特徴で, Auerbach神経叢の変性をみたとの報告もある.
    治療は前述のごとく,鑑別診断上,術後合併症などの問題により,手術,特に幽門側胃切除術+Billroth I法吻合術または,幽門形成術がよいと思われる.内視鏡的拡張術は我々の症例でみられるように,不十分におわったり,再発しやすいと思われ,積極的にはすすめられない.
  • 本邦報告143例の検討
    小野 隆男, 篠村 達雅, 天野 一之, 別所 啓司, 斉藤 功, 小笠原 武, 及川 慶一, 柏原 紀文, 松谷 富美夫, 猪苗代 盛貞, ...
    1985 年 46 巻 3 号 p. 379-389
    発行日: 1985/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    胃の平滑筋芽細胞腫の1例を経験したので報告するとともに自験例を含めた本邦報告143例の検討を行った.
    症例は集検で偶然発見された59歳男性.胃体部大弯側後壁より半球状に胃内外に発育しており,粘膜下腫瘍の診断のもとに胃切除を行った,腫瘤は2.5×2.5×2.5cmの球形,表面粘膜は平滑で潰瘍はない.術後の組織検索にて核分裂像のない平滑筋芽細胞腫と診断した.術後2年半を経過するが健康に過している.
    自験例を含めた143例を検討すると,本症は50歳代, 60歳代に多く,平均53.7歳であった.男性71例,女性64例で明らかな性差は認めない.臨床症状は腹痛が最も多く,腹部不快感・圧迫感・膨満感,出血症状,腫瘤触知がこれに次いでいる.無症状も15例にみられた.腫瘍の占居部位は胃体部,幽門部で85.8%を占めた.腫瘍の大きさと発育型をみると, 5cm未満の胃内型発育するものが最も多く,腫瘍が増大するに従い胃外型発育する傾向を示した.潰瘍は50%にみられた.多発例は3例にみられた.手術は93.4%に胃切除が行われ,腫瘍摘出,楔状切除は少数例であった.本症の予後は一般に良好であると言われているが, 10例7%に転移があり,肝,腹膜,リンパ節転移などであった.
    本症の悪性度やbiological behaviorを術前に把握することは難しく,また組織学的に良性であっても巨大化したり,出血性ショックで発見される場合もあり,本症が疑われたり,診断し得たら早期に十分な手術と術後の注意深い経過観察が必要であると思われる.
  • 石橋 宏之, 蜂須賀 喜多男, 山口 晃弘, 堀 明洋, 広瀬 省吾, 宮地 正彦, 深田 伸二, 碓氷 章彦, 渡辺 英世, 加藤 純爾, ...
    1985 年 46 巻 3 号 p. 390-393
    発行日: 1985/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    近年,回虫症の減少とともに胆道回虫症は減少してきている.一方,診断学の進歩とともに胆道回虫症の診断は容易となり,治療法も内視鏡により摘出できる症例もあり,変遷してきた.内視鏡的に虫体を完全に摘出できず,虫体の一部が胆道内に遺残した時には,後に回虫結石が形成される可能性がある.われわれは, 2回の胆道回虫症後,総胆管に遺残した虫体を核として回虫結石を形成し, 8年後に手術により摘出した症例を経験したので報告する.
    症例は44歳,男性. 8年前に総胆管に回虫が迷入し自然排出した. 1カ月後,再び回虫が迷入した.内視鏡的に摘出を試みたが摘出でぎず,やがて回虫は総胆管内で死滅し,虫体が一部遺残した.今回,患者は総胆管結石症で入院し手術を施行した.総胆管内にピリルビンーカルシウム石を2個認め,摘出した.結石を検索したところ,内部に虫体を認め, 8年前に遺残した虫体を核とした回虫結石と考えられた.
    胆道への回虫の迷入,虫体の死滅,そして回虫結石の形成と経過を観察できた報告はまだなく,興味ある症例と思われた.
  • 本邦25年間の症例検討
    佐藤 太一郎, 七野 滋彦, 秋田 幸彦, 山本 英夫, 加藤 庄次, 宮田 美智也
    1985 年 46 巻 3 号 p. 394-398
    発行日: 1985/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    後腹膜の炎症は十二指腸,大腸および腎に起因する或種の疾患や手術後に発生し,後腹膜の鬆粗な結合織のゆえに炎症は拡大し易く,起炎菌がグラム陰性桿菌や嫌気性菌の場合は治療が困難で予後不良である.最近,経験した2例を報告し,国内で報告された39例と合せて検討した.
    症例1. 36歳.男.急性胆嚢炎・胆嚢総胆管結石に対して胆嚢摘出および乳頭形成術を行った.術後4日目,右側腹部のドレーンから汚穢,暗赤色の排液をみた.腹部の炎症症状が拡大したので12日目に再開腹した.後腹膜腔はフレグモーネ状であったので4カ所からドレナージした.起炎菌はKlebsiellaであった. 60日目にDICで死亡した.
    症例2. 54歳.男.前上膵十二指腸動脈瘤破裂による後腹膜血腫に対し,動脈瘤および大腸に接する小児頭大の血腫を切除した.術後5日目に右上腹部ドレーンから悪臭ある暗赤色の排液をみた.起炎菌はPs. aeruginosaやSt. aureusなどの混合感染であった.術後46日目に敗血症で死亡した.
    検討した41例は0歳から78歳の広い範囲にあり,原因は消化管穿孔・破裂,腎.腎盂疾患,手術後,結核性膿瘍,新生児・乳児などに分類することができた.予後の記載されたものでは治癒28例,死亡7例であった.
  • 池澤 輝男, 仲田 幸文, 中神 一人, 前田 正司, 長谷川 洋, 川村 光雄
    1985 年 46 巻 3 号 p. 399-405
    発行日: 1985/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    孤立性腸骨動脈瘤はまれな疾患であり,その発生頻度は,腹部大動脈瘤の0.9~1.9%程度である.しかしこの動脈瘤は破裂の頻度が高く,また破裂例の予後は良くない.最近我々は脳梗塞後の重度身体障害者で両側孤立性腸骨動脈瘤を右する症例に,瘤空置, Y型人工血管による血行再建術を行い良好な結果を得たので症例を報告し,本邦報告例とあわせて,本疾患の病態,診断,治療について考察を加える.
    症例は71歳男性で,肺結核,脳梗塞の既往があり,最近はほとんど寝たきりの状態である.脱水及び貧血のため入院中,下腹部の拍動性腫瘤を指摘され,手術を勧められ当科へ入院した.腹部エコー,腹部CTにより,両側孤立性腸骨動脈瘤と診断し,手術を施行した.動脈瘤は両側総腸骨動脈,左内腸骨動脈にあり,その径は右側4cm, 左側7cmであった.瘤の剥離は癒着のため困難で,これ以上剥離することは,多量の出血をもたらし,時間を消費するのみと判断し,瘤を空置し, Y型人工血管にて血行再建術を行った.術後経過は良好で,術後のCTで瘤内は血栓で充満されていることがわかった.
    本疾患の本邦例は40例の報告がみられるが,詳細の明らかな21例及び欧米例から本疾患の病態をみると, 60歳後半に好発し男性が圧倒的に多い.総腸骨動脈に好発し,以下内腸骨動脈,外腸骨動脈の順に多い.動脈瘤径は2~20cm程で平均7~8cmであり,破裂の頻度は40~60%と高率である.原因としては,ほとんど動脈硬化によるものである.
    本疾患の診断は,腹部エコー, CT,動脈撮影で確定する.治療は,破裂の頻度が高いことを考慮すると,診断がつき次第すみやかに手術を行うべきである.通常は瘤摘除, Y型もしくは単管人工血管移植でよいが,瘤の形態や原因により適宣手術方法を考慮しなければならない.
  • 須江 秀一, 原 宏
    1985 年 46 巻 3 号 p. 406-409
    発行日: 1985/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は4歳男児.左股関節痛,炎症性所見, RA陽性, ASLO陽性などから他院小児科でリウマチ熱,または若年性関節リウマチの疑いで加療されていた.来院時,軽度のpsoas肢位を呈し,左腸骨窩に腫瘤,圧痛を認めた. CT検査では腫瘤に一致したlow densityのareaを認めた.急性化膿性腸腰筋炎と診断し,腹膜外に切開排膿を施行したが,ドレナージ不十分のため再手術を行ない,局所の持続灌流を試み,急速に治癒した.
    本疾患は近年非常に稀なものとなっている.〓,外傷,疲労などを誘因とした原発性のものと,隣接臓器の炎症の波及などにより, 2次的に膿瘍を形成するものとがある.最近Crohn氏病との合併が比較的多いとの報告もあるが,本症例ではその所見はなかった.
    外科医が本疾患に遭遇する機会は少なくなったものの,その存在を認識しておくことが早期診断上必要であることは論を待たない.
    診断に際しては,炎症症状,患側腸骨窩腫瘤の存在,患側psoas肢位などの所見が重要である.
  • 倉山 英生, 岡崎 正巳, 多島 直衛, 武藤 邦彦, 池口 祥一, 信田 重光, 宮尾 雅之, 吉村 正治
    1985 年 46 巻 3 号 p. 410-415
    発行日: 1985/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    昭和57年11月,インスリノーマの診断にて,膵体尾部切除を施行した症例を報告する. 54歳,女性.主訴は,低血糖発作,意識消失である.
    入院2, 3カ月前より頭痛,悪心,嘔吐が出現しており,時々左上肢,両下肢の麻痺が2時間程度出現したことがあった.
    入院後も,低血糖発作を起こしており,特に夜中に認められた.
    血液,生化学検査によりインスリノーマの診断,又, Angio-CT, Echo, 及び腹部血管造影において,膵体部尾部に腫瘤を認めた.
    ERCP検査では,膵管に特に異常を認めなかった.
    術中,膵体部よりやや尾側に約1×1cmのやや硬い腫瘤を触れたため,腫瘤を含み膵体尾部切除を施行した.
    組織像では, Islet cell adenomaで特染によりTumor cellはβ-cellから構成されており,又,パラフィン切片における酵素抗体(Peroxidase-antiperoxidase: PAP)法の検索も行い, β cell tumor(いわゆるインスリノーマ)と考えられた.
    術後の経過も良好であり,低血糖症状は全く消失している.
  • 原 和人, 横山 隆
    1985 年 46 巻 3 号 p. 416-421
    発行日: 1985/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    腸アニサキス症は,急性腹症として開腹される場合も少なくないが,多くは外科的療法を必要としない.従って,腸アニサキス症と臨床的に診断することは,不必要な手術を避ける意味からも重要である.今回, 1980年1月より1983年3月までに,当院でイレウス症状にて来院し,腸アニサキス症疑と診断した26例について,その臨床的特徴について検討した.
    腸アニサキス症疑症例は, 11月から3月の冬期に21例(80.8%)発生し,魚介類摂取から48時間以内に21例に症状が出現した.摂取魚介類は,ホンサバ16例,マイカ9例,ブリ3例,イワシ・サワラ・スケソウダラ各1例であった.その症状は,主として強い間歇的腹痛を訴えるわりには,嘔吐した症例は9例と少なく, 37°Cをこえる発熱を認めたものは4例であった.検査結果では,軽度の白血球増加を示す症例が多く,末梢血液像における好酸球数は,発症より2週間までの間にピークを示し,以後漸減する症例が多かった.腹部単純X-pでは.いずれも小腸の拡張像を認めめたが,比較的限局しているものが多かった.その治療は,胃管を挿入して減圧を行ったものは3例のみであった.絶食期間は, 1日5例, 2日7例, 3日6例, 4日以上3例で,絶食せずに経過をみたものは3例であった.
    従って,イレウス症状を呈する腸アニサキス症疑は,強い腹痛を訴えるわりには全身状態はよく,数日間の保存的療法にて軽快することが多く,不必要な開腹術はさけるべきである.
    腸アニサキス症の確定診断は,虫体が確認されない場合困難で,腸アニサキス症が強く疑われる場合は,腸アニサキス症疑とすべきである.最近免疫学的な診断法も用いられているが,いまだ一般的ではなく,問診と臨床経過に加えて,末梢血液像で好酸球が発症2週間以内に上昇することが,診断上重要である.
  • 日裏 彰人, 吉川 和彦, 大平 雅一, 朴 利敦, 坂口 茂, 曽和 融生, 紙野 建人, 梅山 馨, 小野 時雄
    1985 年 46 巻 3 号 p. 422-427
    発行日: 1985/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    小腸癌は他の消化管癌に比べ発生頻度ははるかに低い.著者らは術前生検により診断しえた空腸癌を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告するとともに,十二指腸癌,回盲部癌を除く小腸癌の本邦報告例の集計を試みた.
    症例は貧血のみを主訴とした57歳の女性で,消化管造影にて空腸腫瘍を疑い,内視鏡下生検及び血管造影にて空腸癌と確定診断した.
    過去15年間の本邦報告例は310例で, 2.2:1で空腸が回腸に比べ多く,いずれもTreitz靭帯, Bauhin弁近くに集中していた.術前診断は54例(7.4%)にすぎなかった.検査法として,消化管造影,内視鏡,血管造影が施行されていた.診断率は消化管造影のみが19.4%, 内視鏡は生検非施行50.0%, 生検施行100%, 血管造影31.0%であり,内視鏡が最もすぐれていた.しかし内視鏡施行例はTreitz靭帯, Bauhin弁に近い部位に限られていた.
  • 金子 弘真, 柴 忠明, 竹内 節夫, 斉藤 徹
    1985 年 46 巻 3 号 p. 428-434
    発行日: 1985/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    エンドトキシンシヨック患者管理中に, MOFやDIC等の致命的合併症を来たすことはしばしば経験するところである.そして, DICとMOFは病像の上で類似する点も多く, MOFがDICを発生または増悪せしめる重要因子であると同時に,逆にDICがMOFの増悪因子であるとも考えられている.そこで,我々はエンドトキシンショックにおけるDICとMOFの実態を明らかにする目的で血液凝固系の変化と臓器不全を中心に検討を行った.
    エンドトキシンショック14例全例にMOFを認めた.その臓器不全のうちわけは,肺不全13例,腎不全12例, DIC 10例,心不全5例,肝不全5例,消化管出血4例であった.各臓器不全例におけるDIC併発例数は,肺不全13例中10例,心不全5例中3例,腎不全12例中10例,肝不全5例中3例,消化管出血4例中3例であった.そして, DIC 10例中9例は死亡し,その9例の不全臓器数はいずれも3臓器以上であった.エンドトキシンショック時に認められた初発臓器不全は,肺不全が最も多く,これはDIC発症時とほぼ一致していた.血液凝固学的には,肺不全に先行して,凝固亢進状態が観察された.とくに,血小板の変動する以前に認められた凝血学的変化はAntithrombin III値の低下であった.
    エンドトキシンショック患者においては, MOFとDICが密接な関連を示した.これは,エンドトキシン自体により,凝固線溶系,補体系,キニン系の活性化などが連鎖反応的に作用し,臓器不全を併発し連続的にMOFに陥いるものと考えられた.そして,凝血学的検討では, Anstithrombin III値の変動は, MOFの発生及び予後に関して鋭敏に反映している様に思われた.
    MOFの対策として, DICの予知と早期治療がMOFの発生防上,予後改善の重要な一手段になるものと思われた.
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