日本臨床外科医学会雑誌
Online ISSN : 2189-2075
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47 巻, 1 号
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  • 斉藤 貴生, 膳所 憲二, 桑原 亮彦, 掛谷 和俊, 平尾 悦郎, 多田 出, 若杉 健三, 小林 迪夫
    1986 年 47 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 1986/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    食道癌41症例を対象として,末梢血リンパ球数, T細胞・B細胞数, PHA幼若化能, PPD皮内反応を,入院時,術前合併療法(放射線治療および化学療法)後,術後4週, 8週に測定した.入院時における食道癌患者の細胞性免疫能は,どの指標の平均値も対照とした胆石症患者のそれより低く,特にPHA幼若化能は正常値以下であった.そこで,入院時における食道癌患者の細胞性免疫能低下と年齢,癌の進行度,摂食障害の各因子との関連を分析したところ,いずれの因子も細胞性免疫能の低下と関連していた.さらに,食道癌に対する術前合併療法と手術の施行は,リンパ球数, PHA幼若化能, PPD皮内反応を著明に低下させ,明らかな免疫不全をもたらした.以上より,食道癌患者の細胞性免疫能低下の要因として,手術と合併療法による治療侵襲,担癌,飢餓,高齢の各因子があげられ,特に治療侵襲の比重が大きいことが示された.
  • 黒田 吉隆, 辻 政彦, 喜多 一郎, 大戸 司, 上野 桂一
    1986 年 47 巻 1 号 p. 9-16
    発行日: 1986/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    1973年から1983年までの11年間に手術された同時性肝転移を伴う胃癌症例は97例であるが,各種治療法からみた治療成績について検討を加えた.肝転移症例全体の50%生存期間は4.7ヵ月であり,このうちH1(26例)では6ヵ月, H2(24例)では4.2ヵ月, H3(38例)では2.6ヵ月の50%生存期間を得た.腹膜播種を伴う症例は術後早期では播種を認めない症例との間に生存期間で差異はみられなかったが,播種症例の全例が18ヵ月以内に腫瘍死した.組織型からみると, por, tub 1, tub 2に肝転移度の増大が認められた.原発巣切除に加え化学療法施行症例の50%生存期間は2.8ヵ月となり化療非施行例の1.4ヵ月に比し良好であった. 5-FUの持続動注療法施行12例中4例に肝腫の一時的退縮がみられ,最長生存19カ月を得ている.また胃切除に加え8例に肝転移巣合併切除が施行され, 2例に7年10ヵ月, 10年2ヵ月の長期生存を得た.以上より,肝転移巣の合併切除は良好な予後を期待させる結果を得た.
  • 青木 洋三, 中塚 久仁英, 川口 富司, 湯川 裕史, 嶋田 浩介, 尾野 光市, 福永 裕充, 河島 昭隆, 勝見 正治
    1986 年 47 巻 1 号 p. 17-24
    発行日: 1986/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    最近14年間に経験した総胆管十二指腸側側吻合術70例の臨床経過を検討した.適応の80%は胆石症であった.肝機能は血液検査上術後3ヵ月以内に正常域に復し,吻合口径,総胆管径は術後1~3ヵ月で約30%縮小するものが多かった.しかし吻合口は術後10年経過しても術直後と不変の大きさを保持する症例が2例あり,その内の1例に内視鏡的に膵管胆管合流異常を証明した.術後早期合併症は認めなかったが, 4, 11年後に1例づつ肝内結石の発生をみた.前者は術前術中における肝門部胆管狭窄の見落しによる上行感染と胆汁うっ滞に起因するものと推定され,後日再手術により寛解せしめ得たが,後者での成因は不明であり,内科的治療で経過観察中である.術後に生じる総胆管blindpouchは感染源として注目されているが, pouch内への食物残渣の流入のみでは感染は成立せず,これに加えて吻合口の縮小なり他の因子が加味され上行感染が起るものと考えられた.術後定期的に吻合口近傍の胆管壁の変化を生検により追跡すると,臨床的には胆管炎症状は全くないにもかかわらず,粘膜上皮,粘膜固有層への炎症性細胞浸潤が術後3~6ヵ月をピークに出現し, 10年後もなお消失することなく持続していたが,腸上皮化生は終始認められなかった. 7, 10年目に1例づつ胃癌の発生をみた.総胆管十二指腸側側吻合術施行後には胆汁の胃内逆流が高頻度に起るという報告があり,今後こういった観点からも観察する必要がある.
    要はこの手術の適応を厳格に守り,術後も長期,かつ定期的にfollow upすることにより,術後成績を向上せしめ得るものと考える.
  • 大久保 憲, 小谷 彦蔵, 宇佐見 詞津夫, 林 周作, 李 武志, 上岡 克彦, 山中 雄二, 南 宗人, 加藤 克己, 稲垣 宏, 加藤 ...
    1986 年 47 巻 1 号 p. 25-35
    発行日: 1986/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    日常外科臨床において複数菌感染を経験する事が多く,その場合,いかなる細菌が感染の主役を演じ,感染の場を構成しているかを見きわめるのは重要な課題である.外科臨床上頻度の高い各疾患をとり上げ検討してみた.
    今回は,胆汁,虫垂内容,腹膜炎腹水,腹腔ドレーンそして感染創よりの分離菌1,093株を対象とした.複数菌感染を示したものは全体の42.3%に達し,特に腹膜炎では65.5%であった.菌の組合せでは, Escherichia coliBacteroides fragilisの組合せが一番多く,逆にB. fragilisは,その98.1%が,他の菌とともに検出された.複数菌感染による感染菌力の変動をみた実験では,明らかに複数菌感染での感染菌力の増強がみられた.そして,複数菌感染に対する抗菌薬の投与では,高いMIC値を示す菌を対象として,化学療法を行なうべきである事が示唆された.
  • 板岡 俊成, 田原 士朗, 貝塚 秀樹, 斉藤 真知子, 横山 正義, 和田 寿郎
    1986 年 47 巻 1 号 p. 36-39
    発行日: 1986/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    機能不全を呈する僧帽弁疾患に対しての僧帽弁形成術は,患者の自己弁を温存し血栓塞栓の危険を減少させ,抗凝固療法も不要な点より有用な手術法とされているが実際術中の僧帽弁下部組織評価は充分に施行することが不可能であったため,腱索切断などによる術後の弁機能不全がみとめられる場合もあった.今回,僧帽弁狭窄症の1症例に術中僧帽弁形態検索目的にて内視鏡を使用し,弁下部組織を詳細に観察しつつ僧帽弁形成術を施行し良好な結果を得たので報告する.
  • 藤原 巍, 勝村 達喜, 土光 荘六, 稲田 洋, 木曽 昭光, 野上 厚志, 正木 久男, 中井 正信, 山根 尚慶, 山本 尚, 金沢 ...
    1986 年 47 巻 1 号 p. 40-45
    発行日: 1986/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    昭和50年から昭和60年7月までの10年間に,当科で施行した虚血性心疾患の手術例は181例で手術死亡は12例6.6%, 169例にACバイパスを単独あるいは合併して行った.手術死亡はすべてACバイパス術単独施行例にみられ,心臓死は8例,心臓外の死亡は4例であった. ACバイパス症例を生存群,死亡群に分け,手術死亡に関与する因子について検討した.死亡群の年齢は生存群より高く(p<0.05),安定型狭心症の5.3%に対し不安定狭心症では21%と高い死亡率を示した(p<0.01).心筋梗塞の既往,糖尿病の合併は両群に差がなく.術前の左室機能およびバイパス本数も手術の危険因子とはならなかった.1および2枝病変例の1.1%に対して,左冠動脈主幹部および3枝病変例では13.8%が死亡し(p<0.01),完全再建の1.4%,不完全再建の34% (p<0.01)と重症冠動脈病変を有し,不完全再建例の手術死亡率が極めて高い事を示した.
  • 清水 康廣, 久保 義郎, 岡野 和雄, 松前 大, 今脇 節朗, 今吉 英介, 金藤 悟, 清水 信義, 内田 發三, 寺本 滋, Hid ...
    1986 年 47 巻 1 号 p. 46-51
    発行日: 1986/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    胸部大動脈に浸潤を有する進行性肺癌に対して,一時的バイパス下に大動脈合併切除と血行再建を行い,良好な手術成績をえた2症例と経験したので報告する.
    症例1は62歳男性,左肺門部腫瘤で主気管支狭窄と下葉の無気肺を有し,胸部CT上大動脈への浸潤が強く疑われた.左肺全葉切除とともに大動脈合併切除を行い,ダクロングラフト移植を行った.病理組織所見は,扁平上皮癌で,中膜までの浸潤を認めた.術後経過は良好であったが,術後12ヵ月目に急性肺炎で死亡した.
    症例2は64歳男性,左上葉に腫瘤を有し,胸部CT上大動脈浸潤が疑われた.左上葉切除とともに大動脈と左鎖骨下動脈の基始部を合併切除し,大動脈は直接端々吻合により血行再建した.病理組織所見は,腺癌で浸潤は外膜に限定していた.術後経過は良好で,9ヵ月経過した現在も元気で日常生活を送っている.
    進行性肺癌で大動脈に浸潤があっても,根治性が期待でき準治癒切除が可能な症例に対しては,積極的に大動脈合併切除を試みてもいいと考える.
  • 安斉 徹男, 川辺 昌道, 飯島 哲夫, 加藤 盛人
    1986 年 47 巻 1 号 p. 52-56
    発行日: 1986/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    腹部大動脈瘤26例中, 8例が破裂性であった.年齢は37~78歳で,全て男性であった. 6例に根治手術が行われ,全例救命し得たが,非手術の2例は死亡した.根治手術施行6例中2例は,定型的な後腹膜腔への破裂であったが,他の4例は特異な形態を示していた.すなわち, 1) 大動脈-下大静脈瘻, 2) 閉塞性血栓血管炎にて両下肢切断後29年目の破裂で,腎動脈直下における大動脈離断例, 3) 大動脈後壁のパンチアウト孔で通じたのう状瘤破裂, 4) 腎動脈以下にエントリーを有する解離瘤である.非手術の例とは, 1) 腹腔と後腹膜腔破裂の当日死亡, 2) 総腸骨動脈で後腹膜腔に破裂したIII型で,試験開腹に終り2ヵ月後に死亡した.
    破裂性腹部大動脈瘤は手術侵襲も大きく,ことにショック例では死亡率も高いが,耐術例の予後は非破裂のそれと同様良好であるので,積極的手術を行う必要がある.
  • 白方 秀二, 橋本 宇史, 戸田 省吾, 村山 祐一郎, 河合 隆寛, 西山 勝彦, 北浦 一弘, 門脇 政治, 神吉 豊, 和田 行雄, ...
    1986 年 47 巻 1 号 p. 57-62
    発行日: 1986/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    腹部大動脈瘤術後の重篤な腸管虚血は比較的頻度が少ないものとされている.しかし,腹部大動脈瘤手術に際しては一般に下腸間膜動脈(以下IMAと略す)はその起始部で切離されることが多く,上腸間膜動脈からの側副血行が不良な場合に加え,内腸骨動脈の動脈硬化性変化の強い場合には結腸虚血の発生頻度は高くなる.さらに破裂性腹部大動脈瘤にあっては出血性ショック及び低血圧により全身状態が不良で腸管循環の術前評価がほとんど不可能に近いことから,虚血性大腸炎を発症する頻度は待期手術例と比較して高いことが予想される.
    腹部大動脈瘤術後にひとたび虚血性大腸炎が発症すると死亡率は17~75%,平均50%と極めて高率である.
    われわれは74歳,男で破裂性腹部大動脈瘤術後3日目より下痢を認あるようになったため大腸ファイバーにて粘膜病変を経時的に観察しながら保存的治療を行っていたが,術後19日目に大量新鮮血下血を認め出血の制御が不能となったため虚血性大腸炎と診断し再手術を行った.手術は下行結腸及びS状結腸を切除し,横行結腸による人工肛門造設術を行い救命し得ることができた.
    そこで虚血性大腸炎の発生要因,診断と治療法,予防法などについて,われわれの治験例に若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 今脇 節朗, 岡野 和雄, 栗原 英樹, 松前 大, 今吉 英介, 清水 康廣, 内田 發三, 寺本 滋
    1986 年 47 巻 1 号 p. 63-67
    発行日: 1986/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    腹部大動脈瘤の閉塞症例は慢性閉塞,急性閉塞のいずれも稀である.慢性閉塞症例の臨床症状は次第に増悪する間歇性跛行,陰萎など典型的なLeriche症候群の症状を呈し,術前に血管造影で正確な診断を得ることは困難である.最近,当科において腹部大動脈瘤の内腔が慢性に閉塞し,その閉塞部位は腎動脈直下に及ぶ所謂高位腹部大動脈閉塞症で,典型的なLeriche症候群の症状を呈した症例を経験したので報告する.この患者は61歳の男性で,間歇性跛行,下肢の萎縮,陰萎を主訴として入院した.術中に腹部大動脈瘤の存在に気付き処理した後Y型人工血管を移植した.本例の概要を述べ若干の文献的考察を試みた.
  • 志田 力, 良原 久雄, 西脇 正美, 太田 稔明, 石井 昇, 小沢 修一, 岡田 昌義, 中村 和夫, 安岡 俊介
    1986 年 47 巻 1 号 p. 68-71
    発行日: 1986/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    最近の2年間に経験した80歳以上の高齢者の腹部大動脈瘤の5手術治験例を報告した.症例は全例男性で,年齢は80歳から85歳,平均82歳であった.主訴は腹部拍動性腫瘤が4例,腹痛及びショックが1例であり,この例は瘤破裂例であった.手術は定期手術が4例,緊急手術が1例に行われた.大動脈瘤は全例腎動脈以下の腹部大動脈にあり,その直径は7~10cmであった.その他,腸骨動脈瘤が3例に,大腿動脈瘤が1例に合併していた. 3例にY型人工血管を, 2例にI型人工血管を用いて動脈置換を行った.手術時間は3時間から9時間50分,平均6時間であり,術中出血量は1,300mlから5,500ml,平均3,600mlであった.手術死亡はなく,術後合併症として難治性の下痢を1例に認めた.現在術後6カ月~1年半であるが,全例元気に日常生活を営んでいる.
    われわれは,腹部大動脈瘤患者に対しては直径が7cm以上であれば年齢のいかんをとわず,積極的に手術を行う方針である.
  • 檜山 英三, 市川 徹, 辻 勝三, 横山 隆
    1986 年 47 巻 1 号 p. 72-77
    発行日: 1986/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は吐下血にて来院した11歳の男児である.内視鏡にてR-Csign陽性の食道静脈瘤を認め,血管造影で肝前性門脈閉塞とspontaneons sphenorenal shuntが認められ,小児門脈圧亢進症と診断した.また,胸写上左第2弓の突出・心電図上右室肥大の所見があり.心臓カテーテル検査にて肺高血圧症と診断した.手術は経胸的食道離断及び二期的に胃静脈瘤郭清・摘脾を行なった.
    肺高血圧症を合併した小児門脈圧亢進症は,本例を含め12例の報告がある.このうち8例にシャント術が施行された既往があり, 2例にspontaneous porto-systemic shuntがあり,肺高血圧症の成因にporto-systemic shuntが関与していることが推察された.おそらく,門脈血中の何らかの物質が肝を通らずにシャントをへて直接肺に作用するために肺高血圧症が招来されるのであろう.肺高血圧症を合併した門脈圧亢進症の予後は極めて不良であり,今後,肺高血圧症の成因解明が必要と考えられた.
  • 秋本 文一, 小林 修, 新谷 清, 守田 知明, 兼行 俊博
    1986 年 47 巻 1 号 p. 78-81
    発行日: 1986/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    比較的まれな末梢動脈瘤の3例を経験した.
    第1例は左経骨動脈瘤の診断のもとに切除,血行再建を行ったが,組織学的に平滑筋腫であった.本例では血管造影上hypervascularな組織が瘤を包み込んだ像を示したのが特徴的であった.血管に発生した平滑筋腫の報告は極めてまれでありそのほとんどのものは悪性腫瘍である.
    第2例は下腹部痛を訴えてショック状態で来院した.緊急開腹したところ.左内腸骨動脈瘤の破裂であったので,内腸骨動脈の分岐部で結紮を行った.腸骨動脈領域の動脈瘤は破裂頻度が高いがまれなものであり,診断が困難な疾患である.我々の症例では,動脈瘤中枢側の結紮術を行ったが,動脈瘤が大きく術後周囲臓器への圧迫症状が残る可能性のある症例では,瘤切除やendoaneurysmorraphyの必要があろう.
    第3例は右側深部大腿動脈に発生した動脈瘤で,瘤切除と血行再建を行った.深部大腿動脈瘤の発生率は,大腿動脈瘤のうち0.1~0.5%にしかすぎず,非常にまれである.この理由として深部大腿動脈瘤が解剖学的に,筋肉に保護されるために外傷を受け難いこと,筋肉のmilkingで動脈硬化性病変が生じ難いこと等が理由として考えられる.深部大腿動脈は浅大腿動脈が閉塞した場合に,下肢の側副血行路として重要であり,動脈瘤摘除術は血行再建することが望ましい.
  • 自験例および本邦集計例の検討と膝窩動脈第二部における閉塞性病変の鑑別診断について
    桜井 恒久, 山田 育男, 太田 敬, 塩野谷 恵彦
    1986 年 47 巻 1 号 p. 82-91
    発行日: 1986/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    Popliteal Artery Entrapment Syndromeとは膝窩動脈が先天性の走行異常などにより腓腹筋などに捕捉され狭窄および閉塞をきたす疾患である.ここに本疾患の3症例を報告し,本邦における報告例を集計,検討するとともに同時に膝窩動脈閉塞性疾患の鑑別診断についても考察を加える.症例は21歳男子(症例1), 45歳女子(症例2)および18歳男子(症例3)であり全例間歇性跛行を主訴としていた.全例に動脈造影にて膝窩動脈第二部の分節状閉塞を認め,症例1, 3は両側発症のEntrapment syndromeの術前診断がなされ,症例2は術中所見により診断が確定された.症例1, 2ではVein bypassが行なわれ,症例3においては1肢にはVein bypassが,もう1肢には腓腹筋内側頭の切離術のみが行なわれた. Delaneyの病型分類に従えぽ,症例1は両側ともType I型であり,症例2はType III型,症例3は1肢がType IV型,もう1肢がType II型であった.集計し得た本邦報告例は今回報告した3症例を併せて40例であった.その集計結果では,本症は平均25歳と若年男子に多く,両側発症は約25%に認められた.動脈造影所見では,動脈閉塞を示したものは31例34肢であり,狭窄または圧痕を示したものは9例11肢,正常とされたものは1例1肢であった.本疾患の特徴とされる膝窩動脈の偏位は28例36肢に報告されていた.もうひとつの特徴とされるpoststenotic dilatationは8例9肢に報告されているが,そのほとんどは圧痕または狭窄の症例であった.また,下腿動脈の閉塞が8例8肢に報告されているが,これは変化した膝窩動脈からのembolismの可能性もあり今後の詳細な検討を要する. Entrapmentの病型はDelaneyの分類に従えばI型: 11例12肢, II型: 10例12肢, III型: 6例6肢, IV型: 1例1肢,分類不能のものが5例5肢であった.
  • 羽田野 隆, 霞 富士雄, 北川 知行
    1986 年 47 巻 1 号 p. 92-96
    発行日: 1986/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    組織学的には非定型的であるが血管外皮腫の骨盤内腹膜後隙発生例の1治験例を経験し若干の教訓を得たので報告する.本腫瘍は血管のあるところならどこにでも発生しうる血管原性腫瘍で比較的稀なものである.更に腹膜後隙発生例は腫瘍自体がかなり大きくならないと発見されにくく,また豊富な血管を有する為完全摘出が手技的に難しいこと,そして局所再発,肝,肺転移をきたしやすく臨床的に悪性である点など診断,治療上問題の多い腫瘍である.症状としては腫瘍の触知ないしは周辺臓器の圧迫症状として発見されることが多い.層診断には他の後腹膜腫瘍と同様に超音波検査, CT, 腎盂造影,注腸等を施行するが,特徴的な所見を得るには血管造影が特に有用である.治療は当然のことながら完全摘出を原則とするが腫瘍の性格上大出血をきたしやすいとの報告が多い.我々は術前にゼロフォームによるエンボリゼーションを行い術中の出血をコントロールするとともに,積極的に癒着した尿管と膀胱の一部を合併切除し完全摘出を行い得た.しかし本腫瘍は組織学的には良性でなおかつ完全摘出術が行いえた症例でも肝.肺への遠隔転移を起こすものがある.原因として術中操作による腫瘍の血行転移も考えられるので,この点からも術前のエンボリゼーションは必要であり,手術に際してはいち早く血行を可及的に遮断し悪性腫瘍として細心の注意をはらい愛護的に摘出すぺきものと考えられる.
    本症例は術後2年経た現在半年毎の定期検査をうけ再発,転移の徴候なく元気に働いている.
  • 薦田 烈, 篠崎 洋二, 柳 英清, 横山 伸二, 曽我 浩之, 小松原 正吉, 寺本 滋, 永谷 伊佐男, 穐山 隆男, 平木 祥夫, 松 ...
    1986 年 47 巻 1 号 p. 97-104
    発行日: 1986/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    悪性線維性組織球腫(MFH)は,四肢への発生例が多いとされ, wide local excisionに加えてさまざまな方式による放射線療法・化学療法が試みられている.しかし,腹壁に発生したMFHに関しては,発生頻度は少ないものではあるが,四肢原発例に対して行われるwide local excisionは適用し難く,また,有効な放射線療法・化学療法がのぞめないところから,予後は不良と言わざるを得ない.このたび腹壁再発を来たしたMFH症例に対して,単純摘出術に加えて, Adriamycin, cyclophosphamide, vindesineによるadjuvant chemotherapyを行ったが,再発し, disease free intervalは8カ月であった.
    術前に, 201T1シンチグラフィを用いてMFHの描画を試みたが, 67Gaシンチグラフィ同様腫瘤は陽性に描画され,そのヒストグラムにおいても,排出遅延が認められた.しかし, 201T1シンチグラフィは, 67Gaシンチグラフィと同様,躯幹のスキャンでは,腫瘍以外にも陽性像を呈することがあり.本例ではヒストグラムによる良性・悪性の鑑別は困難であった.しかし, 201T1シンチグラフィは被曝線量・所要時間に関して67Gaシンチグラフィより優れており,今後follow upを目的とした使用が検討されてよいものと考える.
  • 稲吉 厚, 山崎 謙治, 豊永 和政, 平田 稔彦, 池田 恒紀, 山辺 博, 外村 政憲, 服部 正裕
    1986 年 47 巻 1 号 p. 105-109
    発行日: 1986/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    われわれは,最近の3年間に超音波検査で検出できた膵嚢胞症例4例に対し,手術を施行し治癒させることができたので報告する. 1例は膵真性嚢胞で, 3例は膵仮性嚢胞である.膵仮性嚢胞3例中1例は石灰化膵嚢胞であり, 1例は膵仮性嚢胞内出血例であった.超音波検査において4例とも腫瘤像を検出し,石灰化膵嚢胞の1例は,腫瘤前面のstrong echoと後方のacoustic shadowとして検出され,残り3例は,膵と連続した低エコー領域として検出された.また,出血性膵仮性嚢胞の1例に対し,エコーガイド下穿刺を施行し診断上有用であった.膵仮性嚢胞3例中2例に嚢胞空腸吻合術を施行し,石灰化膵仮性嚢胞例は嚢胞摘出術を施行した.膵真性嚢胞の1例は嚢胞摘出術を施行した.
  • 大嶋 隆, 高木 雄二, 猪野 睦征, 橋口 勝敏
    1986 年 47 巻 1 号 p. 110-113
    発行日: 1986/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は74歳の女性で, 45年前腸チフスの既往があり,今回家族内に腸チフスが発生したため検査をうけ保菌者と判明した.胆嚢結石症との診断を得たので,除菌の目的で胆嚢摘出術を行ったところ,粘膜内に限局する早期胆嚢癌を合併していた.病理学的には,炎症細胞浸潤にあわせ,胆嚢の癌部・非癌部には,腸上皮化生が認められた.チフスで,長期にわたり排菌がみられる保菌者の多くは,胆道系に結石を有しているといわれている.これらチフス保菌者と,胆嚢癌の合併例について検討してみると,除菌の目的で胆嚢摘出術を行った症例の9.4%に胆嚢癌が発見されている.また胆道系癌による死亡例は保菌者の死亡例の5.9%を占め,更に保菌者死亡例に占める癌死の比率は有意に高値であった.チフス菌保菌者に胆石症の合併をみた場合には,胆嚢癌を含む肝胆道系癌の合併率が高い事を考えて,診断・治療方針をたてる必要があると考えられる.
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