日本臨床外科医学会雑誌
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47 巻, 6 号
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  • 山根 正隆, 中川 準平, 高橋 俊二郎, 塩田 邦彦
    1986 年 47 巻 6 号 p. 705-709
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    慢性大動脈弁閉鎖不全症(AR)に対する単弁置換術症例で,術後1年以上経過した22症例を術前NYHA分類I, II度をI群, III, IV度をII群として,術前,術後の心機能をMモード心エコー図を用いて比較検討し,次の結果を得た. (1)手術死亡は両群になかったが,遠隔成績ではII群に3例の死亡例がみられた. (2)左室収縮期径,左室拡張終期径では,両群に改善がみられたが, II群では正常範囲内に到達しない症例や,むしろ増悪する症例がみられた. (3) fractional shorteningでは両群に改善がみられるが, II群に正常域に復さないものがみられた. (4)心筋重量でもIII群に術後1年経ても肥大しているものがみられた.以上からARの手術適応は遠隔成績からみて,たとえ心機能が正常であっても,大動脈弁逆流度がIII度以上あれば,積極的に早期に手術すべきである.
  • 磯崎 博司, 岡島 邦雄, 富士原 彰, 安田 正幸, 山田 真一, 水谷 均, 久保川 学
    1986 年 47 巻 6 号 p. 710-716
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    胃癌リンパ節転移の実態をより正確に把握する目的で,メチレンブルーホルマリン固定法を用いリンパ節転移の検討を行った.対象はR2以上郭清胃癌70例で,方法は手術時通常触診法によりリンパ節を摘出後,残りの組織を0.0002%メチレンブルー加10%ホルマリン液に固定し,青く染色されたリンパ節を再摘出するものである.結果: 1) 通常触診法によるリンパ節摘出個数は1症例平均40.8個で,メチレンブルーホルマリン固定法により,さらに平均16.9個のリンパ節が追加摘出された. 2) メチレンブルーホルマリン固定法により,リンパ節転移程度が変更されたのはn (-) →n1 (+) 2例, n1 (+) →n2 (+) 1例の計3例であった. 3) 転移リンパ節を癌転移巣の形態により大結節型,小結節型,びまん型,微小型の4型に分類しリンパ節の大きさを検討すると,びまん型および微小型の転移様式を示すリンパ節の大きさは,転移のないリンパ節の大きさと近似するため,術中の肉眼判定は困難と思われた. 4) 以上,メチレンブルーホルマリン固定法はリンパ節を標識し,その検討により,リンパ節転移を一層正確に知る点で有用と考えられた.
  • 宅間 哲雄, 炭山 嘉伸, 鈴木 茂, 武田 明芳, 金親 正敏, 鶴見 清彦
    1986 年 47 巻 6 号 p. 717-723
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    1976年より1984年までに経験したPercutaneous transhepatic cholangio-drainage (PTCD) 155件について,合併症とその対策について報告した. PTCDの方法として(1) PTC-PTCD 26例(17%),(2)ERCP-PTCD 77例(50%),(3)US・PTC-PTCD 41例(26%),(4)チューブ造影下-PTCD 7例(4.5%),(5)US-PTCD 4例(2.5%), であった.
    合併症は15例(9.7%)であった.合併症の内別けは,チューブ逸脱5例(3.9%)チューブ逸脱+腹腔内出血+腹腔内胆汁漏出1例(0.6%)腹腔内胆汁漏出3例(1.9%),胆道内出血4例(2.6%),腹腔内出血1例(0.6%),胆道減圧ショック1例(0.6%)であった.
    合併症群と非合併症群の間には,年齢,総ビリルビン値に有意差を認めなかった.
    PTCDの方法別の,合併症発生率は,(1)PTC-PTCD 26例中2例(7.7%),(2)ERCP-PTCD 77例中3例(3.9%),(3)US・PTC-PTCD 41例中5例(12.2%),(4)チューブ造影後-PTCD 7例中2例(28.6%),(5)US-PTCD 4例中3例(75%)であった.超音波は1981年より導入されたため,症例数は少ないが, US・PTC-PTCD, US-PTCD合わせて, 8例(18%)と高い合併症発生を呈しており,理論的には,非常に有用な方法であるにもかかわらず,手技としては,かなり習熟が,必要であると思われた.
  • とくにcimetidineの治療効果と予防効果
    熊谷 仁人, 裏川 公章, 中本 光春, 長畑 洋司, 福岡 秀治, 平井 康博, 松井 祥治, 伊藤 あつ子, 安積 靖友, 佐埜 勇, ...
    1986 年 47 巻 6 号 p. 724-730
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    肝胆膵疾患術後のストレス潰瘍21例の治療成績をcimetidine使用以前を前期,以後を後期として比較し,さらにcimetidineの治療効果と予防効果について検討した.手術総数に占めるストレス潰瘍発生率は前期2.3%に対して後期では4.7%と増加傾向を示し,また死亡率は前期55.6%に対して後期でも41.7%と依然として高率であった.肝胆膵疾患術後に本症が発生すると極めて重篤になり, cimetidineの有効率は58.3%と前期の57.1%と差がなかった.とくに黄疸2mg/dl以上の悪性疾患ではPTCDで17.6%と高頻度に本症の発生をみた.術前より重復する合併症,吐血歴,黄疸を有する悪性疾患症例に対して, cimetidineの予防投与は本症の発生防止に有効と思われた.
  • 江上 哲弘, 渡辺 栄二, 金光 敬一郎, 宮内 好正
    1986 年 47 巻 6 号 p. 731-734
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    結節性甲状腺腫に伴う微小副病変(副結節)の発見・遺残防止の目的で, 1984年9月より甲状腺外科において術中超音波検査を導入した.器種はアロカSSD 330,探触子は7.5MHzを用い, 78例の結節性甲状腺腫のうち20例に本法を施行した. 78例中に副病変を認めたものは19例(24.4%)計30病変(施行例15,非施行例15)であった.これらの副病変の発見頻度を術中超音波施行例と非施行例で比較すると,前者が20例中10例,後者が58例中9例と,施行例において発見率が3倍以上高かった.また副病変の大きさで比較すると5mm以下の病変は施行例で15病変中9病変,非施行例中で15病変中5病変と,施行例により微小な病変を発見する機会が増えた.
    以上より甲状腺外科における術中超音波検査は微小副病変の発見,遺残防止に有用と思われた.
  • 木村 忠広, 直江 和彦, 北川 裕章, 真玉 浩一郎, 松本 純夫, 野本 信之助, 吉崎 聰
    1986 年 47 巻 6 号 p. 735-740
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は34歳の女性で右上肢の突然の腫張で発症し,静脈造影では右鎖骨下静脈の完全閉塞を認めPaget-Schroetter症候群と診断された.治療はただちに抗凝固一線溶療法を行い臨床症状の改善および十分な側副血行路の代償を得た. Paget-Schroetter症候群は比較的稀な疾患であり,本邦では自験例を含め29例の報告があった.本邦および欧米の報告例の検討では20~30代の青壮年の男性で右側に発症が多かった.初発症状としては特徴的であり診断は容易で,確定診断としては静脈造影が必要である.治療法に関しては手術療法による完全な血栓の除去は困難であり,合併症としての肺塞栓の可能性もあるため発症後はただちに抗凝固療法併用による線溶療法を開始し,側副血行路の発達に努めることが治療上重要であると考えた.
  • 高崎 英己, 葉玉 哲生, 田中 康一, 一万田 充俊, 森 義顕, 岡 敬二, 内田 雄三, 調 亟治
    1986 年 47 巻 6 号 p. 741-744
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    腹部外傷が原因と考えられる極めて稀な細菌性嚢状腹部大動脈瘤を経験した.腹部大動脈造影では,腎動脈より末梢の腹部大動脈瘤で特徴的な嚢状の像を示していた.抗生物質投与で赤沈値,CRP,血液培養等の検査が正常に復した2カ月後に手術を行った.動脈瘤周囲の癒着は著しく,大動脈内腔よりのパッチ閉鎖は不可能で,下行大動脈と下腸間膜動脈より末梢の腹部大動脈で16mmの人工血管(Dacron double velour)によるバイパスを行い,動脈瘤部の中枢側と末梢側は内腔より閉鎖し空置した.動脈瘤壁よりの細菌培養では, Salmonella arizonaeが同定された.術後1年目の現在,元気に社会復帰をしている.手術方法としては, Extraanatomicalな方法が再感染の問題からも適当な方法であったと考えているが遠隔期の成績については,今後の経過観察が必要と考えられた.さらに,術前術後には十分な化学療法が必要であると考えている.
  • 倉田 悟, 中村 丘, 本郷 碩, 島田 正, 阿比留 浩佳, 篠崎 卓雄, 中安 清, 近藤 直嗣, 大藤 芳
    1986 年 47 巻 6 号 p. 745-749
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    過去2.5年間に手術を行った腹部大動脈瘤16例中,悪性腫瘍を合併したものは胃癌3例,肺癌1例の計4例であった.胃癌,肺癌の各1例は術前に両疾患が同時に発見され,残りの胃癌2例は術後それぞれ1年7カ月, 4年経過してから動脈瘤が発見された.
    手術は,同時発見の2症例中胃癌の1例は胃出血を伴っており,まず胃切除を行い,術後38日目に動脈瘤に対し人工血管置換術を施行した.肺癌の1例は動脈瘤の大きさが6cm大と破裂の危険が高く,まずwrappingを行い, 19日後に左上葉切除を行った.残りの胃癌術後2症例はいずれも再発の所見を認めず,早期癌症例に人工血管置換術,進行癌症例にwrappingを施行した.
    肺癌合併例は術後3カ月に心筋梗塞のため死亡したが胃癌合併例はいずれも健在である.
    両疾患に対する手術適応,術式,手術の優先順位は慎重に決定されなければならない.
  • 鈴木 達也, 村田 行孝, 上岡 克彦, 由良 二郎
    1986 年 47 巻 6 号 p. 750-753
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    腋窩リンパ節転移により発見されたoccult Cancerを経験したので,文献的考察を加え報告する.
    症例は65歳女性で,右腋窩部の鶏卵大の無痛性腫瘤を主訴として来院す.腋窩部腫瘤の病理組織学的検査により,乳腺組織を原発とする腺癌の腋窩リンパ節転移が強く疑われた.右乳房に弾性硬で境界不鮮明な小指頭大の硬結を触知したため,右乳房を原発とする腺癌の同側腋窩リンパ節転移と考え,右側乳房切断術を施行す.詳細な病理組織学的検索により,わずかな切片にのみ微小な悪性所見が認められた.病理組織学的最終診断は, ductal papillotubular adenocarcinomaのoccult breast cancerで, TMN分類ではT0, N2, M0, stage IIIaであった.
    乳癌は,たとえ原発巣が微小であってもリンパ節転移をきたす可能性をもつ.また,腋窩リンパ節転移をきたした乳癌の10年生存率は,乳房に腫瘤を触知される症例よりもoccult cancerの方がすぐれているという報告もあり,積極的な外科的処置が望まれる.
  • 東郷 杏一, 金 義哲, 西野 裕二, 豊原 雅司, 山本 時忠, 永井 裕司, 中河 宏治, 吉川 和彦, 山下 隆史, 梅山 馨
    1986 年 47 巻 6 号 p. 754-759
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    肝硬変症,特発性門脈圧亢進症などの門脈圧亢進症では門脈循環に異常を来たし多様な副血行路が生じる.その中で最も多いのは左胃静脈,短胃静脈,後胃静脈(無名静脈)を介して食道・胃静脈瘤を形成する副血行路である.肝内門脈枝よりの副血行路としては,肝内門脈臍部より臍静脈を介し浅腹壁静脈が拡張蛇行を示すCruveilhier-Baumgarten症候群がよく知られている.しかし,肝内門脈枝より直接食道・胃静脈瘤へ行く副血行路の報告は極めて少ない.当教室において1979年2月から1985年8月までの, PTP施行例中,食道・胃静脈瘤への副血行路を同定できた36例を検討すると, 2例に肝内門脈枝が食道・胃静脈瘤の副血行路に関与していることを証明しえた.これまでに報告されている肝内門脈枝より食道・胃静脈瘤への短絡例は自験例を含めて20例にすぎず,比較的稀と思われるので報告した.
  • 橋本 哲, 伊藤 重彦, 原 信介, 佐藤 哲也, 川渕 孝明, 白石 円樹, 古川 泰蔵, 中尾 治彦, 柴田 隆一郎
    1986 年 47 巻 6 号 p. 760-763
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    横隔膜ヘルニアのなかでも,比較的稀とされているMorgagniヘルニア4例の自験例について検討した.
    自験例はすべて女性で高齢者であった点,本症発生要因としては,先天性病因以外に後天性病因を示唆した.ヘルニア内容が大網である限り無症状のことが多いが,診断には腹腔動脈造影も有力であった.手術は経腹法で行なわれたが,手術侵襲や予後良好なことを考えると手術適応は拡大できる.
  • 安部 雅夫, 阿部 静夫, 小林 理, 麻賀 太郎, 西連寺 意勲, 杉政 征夫, 武宮 省治, 増沢 千尋, 河原 悟, 石橋 信, 本橋 ...
    1986 年 47 巻 6 号 p. 764-769
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    胃癌において組織学的に石灰沈着を認めることはそれほど稀なことではないが,腹部単純X線像において石灰沈着が認められる症例はきわめて稀と思われる.今回われわれは嚥下困難を主訴とし,術前腹部単純X線像において著明な石灰化を認めた43歳の女性の胃癌症例を経験したので報告し,さらに本邦報告例を集計して文献的考察を行った.
    腹部X線像にて石灰沈着を認めた胃癌症例は本邦で自験例を含めて31例であり,平均年齢は45.2歳で比較的若年者に多く,性別は男性9例女性22例と女性に多かった.腹部単純X線像における石灰化像の特徴は径数mm内外の小斑点状陰影であった.全例が進行癌であり2領域以上にまたがる病巣の大きな症例が多かった.組織学的には全例が膠様癌であった.胃癌における石灰沈着の機序はdystrophic calcification及びontogenic calcificationが中心的役割を占めていると考えられた.
  • 渡辺 義二, 巴 雅弘, 入江 氏康, 中郡 聡夫, 佐藤 裕俊
    1986 年 47 巻 6 号 p. 770-774
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    腎血管筋脂肪腫は比較的稀な良性腫瘍でてんかん,知能障害,顔面皮脂腺腫をtriasとする結節性硬化症を合併し多発傾向を有するものと結節性硬化症を合併しない単発性のものの2つの型がある.最近我々は後者の型に胃輔捻症を合併した症例を経験したので両者の因果関係を中心に若干の文献的考察を加え報告する.
    症例. 49歳,女性.右側腹部痛,嘔吐を主訴として来院.腹部超音波検査にて右腎下極にhyperechoicな部とhypoechoicな部が混在する腫瘤を認めた.また上部消化管透視にて短軸性胃軸捻症を認めた.胃軸捻症は透視下にて胃内に大量の空気を送りこむことにより解除し得たが右腎下極の腫瘤は原因不明の後腹膜血腫と診断し緊急手術を施行した.開復時,右後腹膜下極を中心に手拳大の血腫を認め,血腫を除去し,右腎を検索したところ腎下極より発生した腫瘍を認めた.腫瘍破裂による出血と診断し悪性腫瘍を疑い右腎摘出術を施行した.摘出標本の組織学的検索ではlipomaとleiomyoma patternが混在して認められ,所々に結節性に筋性血管の集合性の形成が認められた.悪性所見はなく腎血管筋脂肪腫と診断された.
    胃軸捻症を病因から分類すると, (1)横隔膜の異常による場合, (2)胃内及び胃周囲の症変によるもの, (3)胃周囲臓器の影響によるものに分類され,本症例は(3)に属すると考えられる.即ち腎血管筋脂肪腫破裂による後腹膜血腫に影響を受けて胃軸捻症を併発したと考えられる.
  • 滝口 伸浩, 谷山 新次, 更科 広実, 斉藤 典男, 新井 竜夫, 布村 正夫, 高橋 一昭, 横山 正之, 鈴木 秀, 奥井 勝二, 古 ...
    1986 年 47 巻 6 号 p. 775-780
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    最近われわれは,十二指腸狭窄,肛門狭窄, S状結腸狭窄にひきつづき, S状結腸膀胱瘻を合併したCrokm病症例にたいし,外科的に空置術を施行し症状の寛解がみられた症例を経験したので若干の文献的考察を加え報告した.症例は27歳男性で,主訴は嘔吐,腹痛,尿混濁である.昭和57年よりCrohn病と診断され保存的療法が行なわれていたが, 58年11月にイレウス症状出現し,横行-S状結腸吻合術が行なわれた. 59年5月頃より,上記の主訴が出現し,当科を紹介され入院となった. Crohn病によるS状結腸膀胱瘻の診断で,保存的治療を試みたが寛解しないため外科的に左側結腸空置術を行なった.術後順調に経過し, S状結腸膀胱瘻は閉鎖し術後12病日より経口摂取可能となり社会復帰した.
  • 濱頭 憲一郎, 黒岩 延男, 高橋 玲比古, 門谷 洋一, 山谷 和則, 鳥山 紀彦
    1986 年 47 巻 6 号 p. 781-787
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    バリウムによる上下部消化管造影は消化器疾患には必須の検査であり,広く行なわれているが,時に穿孔によるバリウム腹膜炎の発生を招くことがある.最近われわれは,注腸造影時のバリウム腹膜炎の1例を経験し手術的に救命し得たので報告する.
    症例は85歳の男性で,下痢と肛門出血を訴え来院した.精査の為注腸造影施行したところ,腹腔内へのバリウムの流出を認めたため,約7時間後に開腹術施行し救命した.
    本症はバリウムによる消化管造影の合併症の中でも最も重篤で予後も不良とされているが,社会的問題もあり報告例は41例と少ない.穿孔部位は下部消化管が全体の83%と多くを占めている.
    原因としての胃透視と注腸造影の頻度に大差なく,実際胃透視後に発生した大腸穿孔は32%あり,胃透視でも腸穿孔の危険を有するものと注意が必要である.
    診断はバリウムの腹腔内漏出や腸管外脱出を認めれば容易であるが検査施行から穿孔が起こるまでの時間が経ているものや,バリウム漏出が軽度の場合は診断が困難な事がある.
    治療としては,早期の手術,腹膜炎に対する処置,適切な術式が要求される.本症の予後としては,最近の抗生剤の普及と全身管理の向上で,死亡率の低下を促したが,報告例では22%と依然良好とは言えない.
    本症を予防するには検査施行時の愛護的操作と病変のある患者や老人においては,腸管内圧を急激に上昇させない様に注意すること,胃透視のあとは下剤を投与しバリウム塊の停滞を防ぐことが必要である.
  • 佐埜 勇, 内藤 伸三, 福田 裕, 中山 康夫, 安積 靖友, 藤本 彊, 春井 正資, 山室 隆夫
    1986 年 47 巻 6 号 p. 788-792
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    先天性胆嚢欠損症に複数の胆道奇型を合併した1例を経験したので報告する.
    症例は27歳の女性,右季肋部痛を主訴として来院.超音波検査にて胆嚢は描出しえず,総胆管結石と診断し手術を行ったところ,胆嚢はなく,術中胆道造影にても胆嚢陰影は欠損し,さらに肝内胆管拡張,膵管胆管合流異常及び肝内結石を認めた.肝内胆管は両葉の末梢分枝まで狭窄・拡張が多発性にみられ,右葉胆管内に結石像を認めた.総胆管は胆管型の合流異常を呈し,合流部より4cmに渡り径2mmと細かった.ドレナージ手術は逆行性胆道感染を起こす可能性が高いため施行せず総胆管切石術, T-tubeドレナージにとどめた. 1年5カ月後の現在経過順調である.本症例のごとく胆嚢欠損症に複数の胆道奇型を合併した症例では外科治療上諸種の問題点が存在する.本症例を集計し文献的検討を加えた.
  • 安田 慎治, 堀田 敦夫, 深井 泰俊, 白鳥 常男
    1986 年 47 巻 6 号 p. 793-799
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    最近著者らは68歳の女性で,無症状に経過した胆嚢・総胆管結石に合併した,自発性外胆嚢瘻の1治験例を経験したので報告する.自発性外胆嚢瘻は,腹壁全層にわたる瘻孔形成を伴った胆嚢破裂であり,胆道外傷及び胆道系に対する手術歴のない場合と定義されている.胆石症からみた発性頻度は0.1-1.1%とされ稀な病態と考えられる.自験例を含めた本邦報告症例27例のうち,男性は9例で女性は15例であり,平均年齢は55.6歳であった.基礎疾患としては胆嚢結石20例(76.9%),胆嚢癌4例(15.4%)胆嚢・総胆管結石2例(7.7%)であり,主訴は疼痛が8例(30.8%)腫瘤形成10例(38.4%)瘻孔形成8例(30.8%)であった.診断は超音波検査および瘻孔造影が決め手になると考えられる.鑑別すべき疾患としては流注膿瘍があげられる.治療法は胆嚢.瘻孔摘出術を第1選択術式とすべきである.予後は良好で,胆嚢癌症例でも3例中2例が治癒している.
  • 稲吉 厚, 豊永 政和, 山崎 謙治, 平田 稔彦, 池田 恒紀, 明石 隆吉, 山辺 博, 外村 政憲, 服部 正裕
    1986 年 47 巻 6 号 p. 800-803
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は, 71歳の女性で,上腹部痛を主訴に本院に入院となった.入院時検査所見では,軽度の貧血を認める以外,異常所見を認めなかった.
    低緊張性十二指腸造影および上部消化管の内視鏡検査で,Vater乳頭部に腫瘤を認め,生検を施行したところ,中等度のdysplasiaという診断であった.
    膵頭十二指腸切除術を施行し,その後の病理組織学的検査で, Vater乳頭部の腺管腺腫の診断であった.
    今回は, Vater乳頭部腺腫の診断と治療上の問題について,前癌病変という面で検討した.
  • 高野 靖悟, 幕内 雅敏, 太田 恵一朗, 高安 賢一, 山崎 晋, 長谷川 博, 野口 雅之, 井口 孝伯
    1986 年 47 巻 6 号 p. 804-808
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は71歳の男性,他院にて肝門部胆管癌の診断を受けRadiation (1,400 rad)施行後手術目的にて当院を受診した.門脈圧を上昇させ残存予定の左葉の代償性肥大を計る目的にて,エコーガイド下に門脈左枝を穿刺し,ゼルフォームで門脈右枝を塞栓した.塞栓後軽度の肝機能障害を認めるも第7病日目には正常範囲内になり,第16病日目に手術を施行した.左葉の代償性肥大,肝硬変を認め拡大右葉切除施行した,術後は肝不全,縫合不全等を認めず経過良好であった.病理学的診断は管状乳頭腺癌であり,肝は日本住血吸虫症による肝硬変であった.肝門部胆管癌のような非癌部の肝切除量が多い症例では,門脈枝塞栓による残存肝の代償性肥大を計ることは術後重篤な合併症を減少させるのに有効であり,非常に稀な日本住血吸虫症による肝硬変に肝門部胆管癌を合併した本症例に対してもこの方法は有効であった.今後もこの方法が大いに普及するものと思われる.
  • 加藤 真史, 米村 豊, 杉山 和夫, 伊藤 雅之, 橋本 哲夫, 嶋 裕一, 宮崎 逸夫, 杉浦 仁, 八尾 直志
    1986 年 47 巻 6 号 p. 809-815
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    最近,我々は極めてまれな胆嚢カルチノイドの1例を経験したので報告する.
    症例は45歳の男性で,胆嚢ポリープの診断で胆嚢摘出術を施行した.胆嚢頚部に6×4×2mmの小隆起性病変を認め,病理組織学的検索にて漿膜下層まで浸潤するカルチノイドと診断された.腫瘍細胞はGrimelius染色陽性, Masson-Fontana染色陰性で,免疫組織染色ではsomatostatin, pancreatic polypeptide, neuron-specific enolaseが陽性であった.術後約2年経過した現在,再発の徴候なく健在である.
    胆嚢カルチノイドの報告は欧米で17例,本報では自験例を含めて12例の計29例である.これらの報告例について臨床的に検討した結果,胆嚢カルチノイドは腫瘍径が小さくともその組織学的深達度は高度であることが多く,リンパ節転移,肝転移も高率に認められ,予後は決して楽観できないものと考えられた.
  • 特に酵素抗体法による腫瘍組織CA 19-9の局在証明について
    滝藤 克也, 福永 裕充, 浅江 正純, 小林 康人, 青木 洋三, 勝見 正治, 山内 高円
    1986 年 47 巻 6 号 p. 816-822
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    最近2例の膵嚢胞腺腫を経験し,いずれも膵尾側切除術を施行し,腫瘍を完全に摘出した. 2症例とも病理学的には粘液性膵嚢胞腺腫であった.
    膵嚢胞腺腫はまれな疾患で,1984年末までに本邦では91例が報告されているにすぎない.そこで自験例2例を含む93例中serous typeとmucinous typeの分類可能な69例について集計し,諸因子別に分析した. 40歳代,女性に多く,大きさは5~10cm大のものが最も多かった.主訴としては腹部腫瘤,続いて腹痛が多く,超音波検査およびX線CTではserous typeは充実性腫瘤像, mucinous typeは嚢胞性腫瘤像を示す傾向にあった.
    自験例2例中の1例では血清および嚢胞内容液中のcarbohydrate antigen 19-9(以下CA 19-9)活性が高値を示し,抗CA 19-9抗体を用いて嚢胞組織を染色し,嚢胞内膜細胞にCA 19-9の局在が証明された.以上の結果より,内膜細胞においてCA 19-9が産生,分泌され,内容液ひいては末梢血中のCA 19-9活性が高値を示したと考えられる.
  • 辻 毅, 森 一成, 山上 裕機, 永井 祐吾, 小林 康人, 江川 博, 福永 裕充, 田伏 洋治, 田伏 克惇, 勝見 正治
    1986 年 47 巻 6 号 p. 823-829
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    患者は67歳の男性で,左季肋部痛を主訴とし,発症後1ヵ月間で,左上腹部腫瘤が小児頭大となった.腹部CTscan,腹腔動脈撮影から, hypovascularな腫瘤であり,脾原発性悪性リンパ腫と診断した.開腹すると脾腫瘍は,胃大弯,結腸脾弯曲部,膵尾部,左腎上極へ浸潤しており,これらを一塊として切除した.術後,組織学的検査では, LSG分類のdiffuse lymphoma, large cell typeであった.
    脾破裂又は,他臓器浸潤に関して記載のある本邦の30年間の報告例は,本例を含めて20例あった.急激に腫瘍が増大する為に,初発症状出現から手術までの期間は平均4.6カ月と短かった.術後,化学療法についての記載は少なく,単剤か2剤併用で行われていたが,術後6カ月以内の死亡が55%であり,予後は悪かった.脾破裂,他臓器浸潤を伴う脾原発悪性リンパ腫について,病理組織型と予後の関係,術後治療法には十分な注意を要すると考えた.
  • 能登 啓光, 樟本 賢首, 白戸 博志, 米山 重人, 高橋 雅俊, 今野 哲朗, 西田 修, 中西 昌美, 内野 純一, 宮田 睦彦, 井 ...
    1986 年 47 巻 6 号 p. 830-836
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    悪性線維性組織球腫は軟部組織悪性腫瘍の約20%を占めるが,その70%は四肢軟部組織に発生し,後腹膜由来のものは10%前後である.自験例を含めた本邦報告例は24例,それらの画像診断についてみると,尿路系X線検査の行われた13例の全てになんらかの異常所見をみとめた. CTは10例に施行され,肝転移1例の他, 9例に腫瘤と隣接臓器の圧排がみられた.超音波は2例にのみ記載があるが,腫瘍の診断上有用と思われた.血管造影は13例に施行されており原発部位推定の最終診断法となっていた.治療は,摘出のみ7例,摘出と放射線または化学療法併用11例,放射線または化学療法のみ3例であった.症例: 28歳女性.超音波, CTでは,頭側は嚢腫性,尾側は実質性であった.血管造影では,右副腎は正常形態を示し,後腹膜または腎被膜由来の腫瘍と考えられた.右腎とともに腫瘍摘出,リンパ節郭清,術後化学療法を施行した.術後12カ月健在で再発転移はない.
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