日本臨床外科医学会雑誌
Online ISSN : 2189-2075
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51 巻, 1 号
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  • 田中 聡一
    1990 年 51 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 1990/01/25
    公開日: 2010/01/21
    ジャーナル フリー
    ヒトのCoenzyme Q (CoQ10と略す)の外科手術おける体内動態の変動と生体反応を究明する目的で,術前術後の血清CoQ10,血清脂質,血清リポ蛋白の変動について検討した.
    術前の低比重リポ蛋白(LDL)-CoQ10は血清CoQ10の中の42.9±8.0%を占め,超低比重リポ蛋白(VLDL)-CoQ10の方が少なかった.術後第1日の血清CoQ10とLDL-CoQ10はともに減少したが,LDL-CoQ10が血清CoQ10全体に占める比率は相対的に上昇した.血清コレステロールは術後第1日が最低で,術後第7日には術前値の93.0±13.2%まで回復した.血清LDLも術後第1日が最低であったが,術後第7日の血清LDLは術前値の112.2±19.1%まで回復した.この結果,外科手術後の回復期にはCoQ10とコレステロールを肝臓から組織細胞へ積極的に供給する生体反応が存レステロールを肝臓から組織細胞へ積極的に供給する生体反応が存在すると考えられた.
  • 知識 鉄郎
    1990 年 51 巻 1 号 p. 9-16
    発行日: 1990/01/25
    公開日: 2010/01/21
    ジャーナル フリー
    近年,数種の意識障害評価法が提唱され,従来の昏睡・昏迷・錯乱等といった,あいまいな用語とともに広く使われるようになった.この研究において,Glasgow Coma Scale (GCS)の転帰からみた有用性が,Edinburgh Coma Scale (E2CS)と比較検討された.E2CSの各レベルは,死亡率・障害率からみた転帰との相関が極めて良いことが証明された.一方GCSの“各スコア”と転帰とは,正の関係を欠く部分の多いことが明らかになった.筆者は,GCSにおいても,言語・開眼・運動の各機能を独立評価すると最終転帰と良い相関があることを示した.しかしながら,価値の異なる各機能の序列に与えられた数値を単に合計する“スコア方式”に頼ることは無益である.E2CSの方が,GCSのスコアより臨床的に妥当性を得,かつ有用な意識障害評価法であると結論される.
  • 野口 昌邦, 谷屋 隆雄, 熊木 健雄, 中野 達夫, 瀬川 正孝, 太田 長義, 岩佐 和典, 宮崎 逸夫
    1990 年 51 巻 1 号 p. 17-22
    発行日: 1990/01/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    私共の教室では,甲状腺分化癌の頸部リンパ節に対して1963年から1972年までは腫脹した頸部リンパ節のみをリンパ節腫脹の有無摘除したが,1973年から1983年までは頸部リンパ節腫脹の有無にかかわらず,ほぼ全例に頸部リンパ節郭清術を施行してきた.そこで,この保存的手術を行った1972年以前の症例(A群)と積極的手術を行った1973年以降の症例(B群)について,術前の頸部リンパ節腫脹の有無別に生存率および再発率を比較検討した.その結果,術前に頸部リンパ節腫脹を認めた症例ではB群で生存率がやや良好であったが,有意の差を認めず,更に全体の生存率および再発率で両群間に有意の差を認めなかった.しかし,両群間の経過観察期間を等しくするため,A群においては1977年末の時点で再発率および生存率を集計したが,それ以降に多数の再発を認めており,両群の比較は更に長期間の経過観察が必要であると考えられた.
  • 浜田 弘巳, 佐々木 文章, 秦 温信, 田村 元, 萩原 良治, 阿部 毅, 佐藤 直樹, 内野 純一
    1990 年 51 巻 1 号 p. 23-28
    発行日: 1990/01/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    喉頭・気管に浸潤した甲状腺分化癌例に対し,喉頭・気管の合併切除術を施行した.これらの症例について検討を行った.
    臨床症状では,前頸部腫瘤が主訴であったものが最も多く,一方,呼吸困難,嗄声等の周囲組織への浸潤を疑わせる症状を示したものは半数にすぎなかった.画像診断では,粘膜まで浸潤した例ではCT,気管支鏡が有用であったが,それ以外の例では手術前の診断は困難であった.
    手術は喉頭全摘1例,円窓切除3例,層状切除8例であった.病理組織学的診断による気管への浸潤の程度は,粘膜まで3例,軟骨および輪状靱帯まで3例,外膜まで3例,浸潤なし3例であった.
    術後の成績は,気管の局所再発をきたした症例は現在までのところ認めず,全例生存中である.
    以上より喉頭ないし気管の合併切除を行うことは局所の再発を防ぐうえで有効な治療法であると考えられた.
  • 宮崎 勝, 宇田川 郁夫, 飯沼 克博, 伊藤 博, 神野 弥生, 海保 隆, 木村 文夫, 松本 潤, 奥井 勝二, 諏訪 敏一, 橋場 ...
    1990 年 51 巻 1 号 p. 29-34
    発行日: 1990/01/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    胃癌肝転移60例に対し原発巣切除+肝切除(肝切群)12例,原発巣切除+制癌剤持続+制癌剤持続肝動脈注入(持動注群)11例,原発巣切除+全身化学療法(原切群)9例,原発巣・転移巣共に非切除(非切群)28例を施行した成績を検討した.肝切群が1年,3年,5年生存率33.3%, 25.0%, 16.7%と他3群に比し良好な予後を得た(p<0.05).持動注群は原切群,非切群に比べ明らかな延命効果を得られなかった.肝切群においては肝転移多発例や両葉に少数散在性の肝転移を認めるもの(H2)例においても,非切群に比較し,非切群に比較しが肝切後の予後に大きく関与した.肝切除術式では楔状切除より区域以上切除群に予後の良い傾向を示した.肝切除後の再発様式では再発例10例中9例(90%)に残肝再発を認めた.以上の様に,胃癌肝転移に対する肝切除はH2や肝転移多発例と雖も積極的に施行すべき治療選択と考えられた.
  • 瀬川 徹, 井沢 邦英, 山本 正幸, 門原 留雄, 岩田 享, 佐々木 誠, 矢次 孝, 元島 幸一, 山口 孝, 角田 司, 土屋 凉一
    1990 年 51 巻 1 号 p. 35-41
    発行日: 1990/01/25
    公開日: 2009/05/26
    ジャーナル フリー
    切除不能原発性肝細胞癌103例に付いて検討した.治療法別では肝動脈結紮術9例,門脈枝結紮術3例,肝動脈カニュレーション16例,TAE 23例,試験開腹その他52例であった.TAEの累積3年生存率は20%と比較的良好であったが,全症例の累積1年生存率は14%, 2生率は9%, 3生率は4%であった.肝癌取扱い規約による肉眼的進行程度の分類と臨床病期分類はある程度予後判定の指標となることがわかった.しかしHBs-Ag陽性の有無,肝硬変合併の有無,治療前のAFP値の高低による累積生存率の比較ではいずれも差を認めなかった.さらに全身的化学療法の有用性も認められなかったので,最近では肝動脈および門脈から抗癌剤などを注入するなどの集学的治療を採用し遠隔成績の向上に努めている.
  • 湯ノ谷 誠二, 原田 貞美, 伊山 明宏, 久次 武晴
    1990 年 51 巻 1 号 p. 42-48
    発行日: 1990/01/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    無症状胆石の治療方針決定の一助とするために,胆石症手術症例220例を無症状群32例(14.5%),有症状群188例(85.5%)に分け,各種臨床事項について統計学的に両群間の比較,検討を行い,さらに無症状群では超音波および胆嚢造影所見についても検討した.無症状群は有症状群に比し,有意に結石が胆嚢内のみに存在する症例が多く,また高齢者に多かったが,性別,結石の種類,大きさ,数,胆汁中細菌培養陽性率,胆道奇形合併率,および胆嚢癌,adenomyomatosis,壁内結石,cholesterosis, cholesterol polyp,白色胆汁などの胆嚢合併病変出現率については有意差はなかった.無症状群32例中30例(93.8%)において,超音波,胆嚢造影所見で胆嚢,胆管の形態あるいは機能異常が存在した.したがって胆石症では無症状群と有症状群との間に臨床的には本質的な差異はほとんどなく,現時点では無症状胆石に対し,基本的には手術を行うことが妥当であろうと考えられた.
  • 小島 靖彦, 木村 俊久, 安川 ひろ美, 片山 寛次, 野手 雅幸, 藤田 秀春, 中川原 儀三, 中津川 重一, 白石 泰三
    1990 年 51 巻 1 号 p. 49-55
    発行日: 1990/01/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    開院(1983年10月)以来,福井医科大学第1外科で経験した膵癌は45例で,28例は術前あるいは,術中に切除不能と判定された.切除不能と判定された28症例は全てStageIV進行癌であり,この内最近の10症例を対象に集学的治療を行った.集学的治療は高エネルギー電子線を用いた術中照射を主とし,これに超高圧X線による外部照射,化学療法,温熱療法を適宜組み合わせて行った.その結果,80%に疼痛の軽減と3例に著明な腫瘍縮小効果がみられた.また生存日数の中央値の検討では,集学的治療群は250.0日,非集学的治療群は85.4日と集学的治療群に生存日数の延長がみられ,1年を越える症例もえられた.放射線療法の副作用については,重篤なものはみられなかった.
    切除不能膵癌に対しては積極的に集学的治療を行い,quality of lifeの向上に努めるべきである.
  • 小野 隆男, 高橋 博義, 大野 勝之, 小嶋 信博, 鈴木 快輔, 佐川 文明
    1990 年 51 巻 1 号 p. 56-59
    発行日: 1990/01/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    症例は23歳男性.右胸鎖乳突筋前縁に境界明瞭な鶏卵大の腫瘤を触知した.頸部CTでは内部構造が比較的均一でlow densityな腫瘤として認められた.摘出標本は6×4×4cmの表面平滑な腫瘤で,黄土色のパテ状の内容物が充満していた.病理組織学的には嚢胞壁は重層扁平上皮で被覆され,上皮下には胚中心を伴うリンパ組織が発達していた.
    本症を診断するには腫瘤が前頸三角,特に胸鎖乳突筋前縁に存在する事,濃厚粘稠液あるいはパテ状の内容を有し,コレステロール結晶が存在する事,病理組織学的に嚢胞壁にリンパ組織が存在する事などが重要である.
    本症例ではコレステロール結晶の確認は行われなかったが,その他の所見より側頸嚢胞と診断した.手術に際しては瘻孔,瘻管の有無の確認が重要である.
  • 中原 英樹, 小川 喜輝, 先本 秀人, 伊藤 敬, 池田 政宣, 黒田 義則, 梶原 四郎, 渡辺 憲治, 松山 敏哉, 米原 修治
    1990 年 51 巻 1 号 p. 60-63
    発行日: 1990/01/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    頸動脈小体腫瘍はその発生部位が内外頸動脈分岐部であるため,容易に内外頸動脈を巻き込み,切除に際して大量出血を来たしやすいばかりでなく,時に内外頸動脈を合併切除しなければならない場合もある.
    今回,術前にバルーンカテーテルを用いたMatas'testを施行することにより,対側内頸動脈よりのCross circulationの有無を確認し,さらに術中もバルーンカテーテルを用いることにより出血量を減少させ安全な手術を施行しえた.
    片側頸動脈に対する結紮・切除の可能性が考えられる場合,この方法は術中・術後の合併症を予防する上で,非常に有用であると考えられた.
  • 佐藤 太一郎, 秋田 幸彦, 河村 健雄, 水野 伸一, 鵜飼 克行, 太田 淳, 森岡 淳, 小川 明男, 七野 滋彦
    1990 年 51 巻 1 号 p. 64-68
    発行日: 1990/01/25
    公開日: 2010/01/21
    ジャーナル フリー
    腺様嚢胞癌の2例を報告する.
    第1例は56歳,女.20年前から頬部に腫瘤があった.腫瘤を切除し,頸部の廓清を行った.頬部の再建は前額部からの側頭皮弁を用いた.腫瘍は3×3×2cmであり,病理組織学的には腺様嚢胞癌cribriformであった.
    第2例は62歳,女.1年前から頬部に無痛の腫瘍を認めた.腫瘍を周囲組織と共に切除したが,margine positiveであった.追加切除を勧めたが同意が得られなかったので,やむなくcisplatinを投与した.本症例もcribriformであった.
    最近,わが国で報告された頬部の腺様嚢胞癌は5例に過ぎない.この腫瘍の予後は病理組織型に関係し,治療法は注意深い外科的切除が最良であると思われる.
  • 神崎 正夫, 中谷 雄三, 町田 浩道, 鳥羽山 滋生, 戸田 央, 藤本 栄四郎, 小島 幸次朗, 小助川 克次, 小林 寛
    1990 年 51 巻 1 号 p. 69-74
    発行日: 1990/01/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    嚢胞内乳癌は,その発生過程において嚢胞を形成する点で乳癌の特殊型とされ,その発生頻度は0.5~3.5%といわれている.われわれは過去12年間の乳癌症例581例中2例(1.7%)の嚢胞内乳癌を経験した.
    本症の診断には嚢胞充気撮影法,超音波検査,嚢胞液細胞診が行われているが,最近では嚢胞内腫瘍部への超音波ガイド下の穿刺吸引細胞診の有効性も報告されている.しかし何れの方法にても診断が困難な場合は,積極的に摘出生検を行うべきである.
    本症は,通常型乳癌の一亜型であり,壁外浸潤の有無に関連をもちながら,病変の進展過程において嚢胞形成を有するものと考えられる.一般に発育速度は緩慢で予後良好とされているが,転移の可能性を有しているため,腋窩リンパ節郭清を含む非定型的乳房切断術は必要であると考えられる.
  • 森 匡, 小川 法次, 竹内 幸康, 水谷 伸, 宗田 滋夫, 横井 浩
    1990 年 51 巻 1 号 p. 75-79
    発行日: 1990/01/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    乳癌の組織学的分類において粘液癌は比較的稀で,他の組織型の乳癌に比し予後良好と言われている.1983年から1988年までに当院にて手術を施行した乳癌134例中,粘液癌は6例で4.5%に過ぎなかった.全例ともリンパ節転移,遠隔転移はなく,現在まで再発を認めていない.しかし,すべての粘液癌が予後良好なのではなく,通常の乳管癌を伴う併存型はリンパ節転移率も高く,他の組織型の乳癌の予後と差を認めないとの報告もみられる.従って,術前に亜型まで診断することは予後の判定および術式の決定に有用と考え,超音波検査にて粘液癌の亜型分類を試み検討を行った.
  • 石川 進, 安斉 徹男, 上原 克昌, 茂木 弘道, 細村 泰夫, 城下 尚
    1990 年 51 巻 1 号 p. 80-83
    発行日: 1990/01/25
    公開日: 2010/01/21
    ジャーナル フリー
    胸腔内出血の原因としては種々のものが考えられるが,肺絨毛腺腫によるものは稀と思われる.
    42歳女性が,妊娠中絶後80日目に,胸痛,呼吸困難,嘔気にて緊急入院した.胸部X線像では,腫瘍陰影は明らかでなく左胸腔内の液体の存在を示していた.胸腔穿刺排液は血性であった.その後,液体の増加および貧血の増悪を認めたため,止血目的にて開胸術を施行した.区域8に示指頭大にて先端がカリフラワー状を呈する腫瘍よりの出血を認め,肺部分切除を行った.組織学的には肺絨毛腺腫であった.中絶時の絨毛の転送によるものと思われ,胸腔内出血の原因としては稀なものと考え報告した.
  • 森 和弘, 草島 義徳, 小西 一朗, 広野 禎介, 中村 裕行, 水上 陽真, 杉原 政美, 島崎 栄一, 高柳 尹立, 八木 雅夫, 宮 ...
    1990 年 51 巻 1 号 p. 84-90
    発行日: 1990/01/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    過去4年間に当科において経験した神経原性胸壁腫瘍4例について報告する.胸腔内原発の神経原性腫瘍の大半は後縦隔発生例であり,胸壁発生例は比較的まれである.本邦では自験例4例を含めこれまで38例の報告をみるに過ぎない.胸部単純写真や胸部CT検査は本疾患の存在診断には有効で自験例4例でも全例に胸部単純写真にて異常陰影を認めた.また,胸部CT検査は,肺内病変か肺外病変かの鑑別に有用であり,また周囲組織との関係を知る上でも有効な方法であると考えられた.しかし,悪性例との鑑別は経皮的針生検や術中迅速病理診断などでも満足する結果は得られないことがあり,胸壁原発の神経原性腫瘍に対しては積極的な外科的切除が第一であると考えられた.
  • 竹吉 泉, 鈴木 章一, 石川 仁, 関根 毅, 須田 雍夫, 上原 敏敬
    1990 年 51 巻 1 号 p. 91-97
    発行日: 1990/01/25
    公開日: 2009/05/26
    ジャーナル フリー
    肺癌の多発小腸転移による腸重積手術症例を経験したので,本邦手術例の文献的考察を加え報告した.
    患者は43歳男性で精査の結果,右肺・両側副腎・小腸に腫瘍を認め,下血及び通過障害が生じたため開腹した.開腹所見ではTreitz靱帯から20cmの部位の胡桃大の腫瘤を先行とする腸重積状態を呈し,これより肛門側約2mにわたり34個の腫瘤を認め,広範小腸切除術をおこなった.術後36病日に多臓器不全で死亡したが,手術・剖検の結果から肺癌の多発小腸転移と診断した.文献上検索しえた肺癌の小腸転移巣を手術した症例は自験例を含め78例であった.これらの症例を集計し臨床病理学的に検討を加えた.
  • 鷲澤 尚宏, 平野 敬八郎, 渡邊 聖, 中村 博志, 町田 啓一
    1990 年 51 巻 1 号 p. 98-103
    発行日: 1990/01/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    A型先天性食道閉鎖症の術式を選択するにあたって,従来は上下盲端に圧を加えたX線透視により間接的に判断されてきたが,自然の状態で盲端を観察できるdirectsagittal CT scanは,正確な情報が得られる上に侵襲が少なく有用であった.
    X線透視上で重なりが進んでいた盲端は,CTでは重なっておらず,上部盲端の拡張と壁の肥厚が認められた.さらに長期に亘る延長術では先端よりも,むしろやや口側よりの壁が伸展することが示唆され,根治手術でCTと一致した所見が確認された.また下部盲端はCTで描出されず,横隔膜下にあることが術前に推定されたが,これも手術所見と一致していた.
  • 山川 真, 三浦 馥, 川瀬 恭平, 宮川 秀一, 岩瀬 克巳, 中村 従之, 堀口 明彦, 肌附 敏, 鵜飼 泰光, 花井 恒一, 小倉 ...
    1990 年 51 巻 1 号 p. 104-110
    発行日: 1990/01/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    症例は70歳,女性.食道透視により特発性食道破裂の診断,発症7時間後に緊急手術を施行した.横隔膜直上の食道の左側前壁側に破裂部を認め,同部を一期的に2層縫合し2本の胸腔ドレナージを施行した.術後,縫合不全,膿胸を認め持続洗浄,低圧持続吸引を行い膿瘍は瘻孔化し,縮小傾向を認めたが瘻孔気管支瘻も存在したため,消化液に加え唾液等の汚染のため治療に難渋した.この難治性瘻孔に対し内視鏡を用いて瘻孔内を観察後,2本のバルーンを用いて瘻孔内の汚染を予防しフィブリン糊製剤を瘻孔内に充満したところ,充満後比較的短期間で瘻孔閉鎖に成功した.
  • 大和 幸保, 北郷 邦昭, 三島 好雄, 川村 展弘
    1990 年 51 巻 1 号 p. 111-115
    発行日: 1990/01/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    アミロイドーシスはアミロイドと呼ぼれる異常蛋白が全身に沈着する代謝性疾患である.剖検によって初めて診断されることが多かったが,胃生検を初めとする生前診断の報告例が増えてきている.今回われわれは胃生検にて確診し得たアミロイドーシスによる幽門狭窄症例を経験したので報告する.
    症例は68歳女性.うっ血性心不全にて内科入院.次第に腹部膨満,食欲不振高度となり外科転科となった.胃生検にて胃アミロイドーシスと診断され,胃亜全摘術を施行した.幽門前庭部の全周性の壁肥厚を認め,病理組織では粘膜下および固有筋層にアミロイドの沈着を認めた.アミロイドーシスの生前報告例は年間100例を越えており,その内,外科受診が約10%と言われている.今後消化器領域での生前診断が増えるにつれ,幽門狭窄の鑑別診断として胃アミロイドーシスを一考する必要があると考えたので報告する.
  • 武田 智博, 田中 聰, 前場 隆志, 山本 眞也, 橋本 哲明, 小林 省二, 石合 省三
    1990 年 51 巻 1 号 p. 116-121
    発行日: 1990/01/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    消化器癌とカルチノイドの重複した3症例を経験したので報告する.症例1は早期胃癌と横行結腸カルチノイドの重複例であり,ともに根治手術が施行された.症例2は,進行胃癌と膵カルチノイドの重複例であり,胃・横行結腸の姑息的切除を施行した.術後6ヵ月目に腫瘍死したが,剖検の結果多発性内分泌腺腫症1型(MEN 1型)を合併していることが判明した.症例3は,S状結腸癌根治手術時に発見された大網の血腫様の腫瘤がカルチノイドと判明したものであるが,術後2年の現在,原発巣の発見にはいたらず,患者は,無症状に経過している.3例のカルチノイド組織には,PAP法により,それぞれセロトニン,ソマトスタチンとガストリン,セロトニンが証明されたが,いずれの癌組織からも同物質は証明されなかった.
  • 石田 秀行, 岩間 毅夫, 三島 好雄, 松本 俊一, 市川 敏郎, 永山 隆一, 宮川 昭平, 蛭田 啓之, 秋間 道夫
    1990 年 51 巻 1 号 p. 122-127
    発行日: 1990/01/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    症例は59歳男性で,前庭部大弯のBorrmann 3型胃癌を疑われ入院した.入院時血清AFP値は高値(2,651ng/ml)であった.開腹時の肉眼的進行度はH0P0N4(+), S3(横行結腸),Stage VIで,姑息的幽門側胃切除術および横行結腸合併切除術を施行した.病理組織学的検索では,腫瘍の大部分はyolk sac tumorの構成成分をともなった胎児性癌に酷似した組織像を呈し,免疫組織学的染色(PAP法)およびRadioimmunoassayによって腫瘍のAFP産生が証明された.術後,残存転移リンパ節に対する化学療法として,PVB変法を施行し,血清AFP値の著明な低下を認めたが,白血球減少症にイレウスを併発して死亡した.
    胎児性癌に酷似した組織像を呈した極めて稀なAFP産生胃癌の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
  • 下妻 晃二郎, 高見 元敞, 木村 正治, 竹内 直司, 藤本 高義, 清水 宏, 太田 俊行, 高田 俊明, 奥村 幸康, 堂野 恵三, ...
    1990 年 51 巻 1 号 p. 128-132
    発行日: 1990/01/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    胆嚢摘除後の頑固な腹痛を契機として発見された十二指腸第4部の癌を1例経験したので報告する.
    症例は45歳女性.上腹部痛および背部痛を主訴として来院し,上部消化管造影検査および胃内視鏡検査で胃潰瘍疲痕と診断された.その後症状の改善を認めないため施行された腹部超音波検査で胆嚢結石が発見され,胆嚢摘除術が施行された.しかし術後も症状の改善を認めず,胆嚢摘除術症候群と診断され,繰り返し施行された諸検査で十二指腸第4部の癌と診断されたのは胆石術後8ヵ月目であった.膵頭十二指腸切除術が施行された.
    十二指腸遠位側の癌は特徴的な臨床症状もなく,上部消化管造影を行っても見逃される可能性がある.胃や胆道系に病変を持つ症例でも,それのみでは症状に納得のいく説明がつかない場合,十二指腸を含めた小腸病変の存在を一応疑って検索を進める必要があると考えられた.
  • 本邦報告例4例の検討
    遠藤 俊吾, 中田 一也, 石川 信也, 中島 久元, 飯田 富雄, 成高 義彦, 菊池 友允, 芳賀 駿介, 梶原 哲郎
    1990 年 51 巻 1 号 p. 133-138
    発行日: 1990/01/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    われわれは術後の癒着性イレウスに対して,イレウス管挿入後,小腸腸重積を来たし,緊急手術を行った症例を経験したので報告する.
    症例は91歳の女性,10年前に胆石症で開腹術を受けた既往がある.イレウスの診断で入院,イレウス管にて吸引療法を施行し,一旦は症状の軽快をみたが,第10病日より腹痛,発熱,腸管内出血が出現したため,絞扼性イレウスの併発を考え,手術を施行した.
    手術所見では,空腸,回腸のそれぞれに順行性3筒性腸重積を認め,イレウス管先端は,回腸腸重積の肛門側に位置していた.回腸腸重積は用手的に整復し得たが,空腸腸重積は,壊死性変化が強いため,小腸部分切除術を施行した.
    イレウス管が誘因となり腸重積を来したものと考えられ,イレウス管を吸引療法や術後イレウスの防止の目的で使用する場合,症状や排液の性状の変化には,充分注意する必要があると考えられた.
  • 和泉 裕一, 石川 雅彦, 大谷 則史, 小野 裕之, 後藤 幹雄, 久保 良彦
    1990 年 51 巻 1 号 p. 139-142
    発行日: 1990/01/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    広範な下行結腸狭窄をきたした虚血性大腸炎の1例を経験した.症例は66歳の男性で,上腹部痛と下血を主訴に来院し,腹部単純写真にて腸管麻痺を呈していたことから入院となった.注腸造影では,下行結腸全体の全周性狭窄とthumb printing signを認め,大腸ファイバースコープでは一面に白苔を伴う粘膜のびらんと潰瘍であった.生検の組織像で悪性所見はなく,保存的治療にて経過観察をおこなったが高度の下行結腸狭窄をきたしたことから,発症後70日目に左半結腸切除術を施行した.摘出標本では,内腔の高度狭窄と腸管壁の肥厚と硬化が著明であるとともに,粘膜面には凹凸不整の潰瘍が認められ,組織学的に虚血性大腸炎と診断された.
  • 原 春久, 金子 健一朗, 浅井 秀司, 野垣 敬
    1990 年 51 巻 1 号 p. 143-147
    発行日: 1990/01/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    左大腸癌イレウス症例に対して保存的イレウス解除後,一期的手術を行うため,大腸ファイバースコープを用いて,減圧チューブを挿入する方法を試みた.
    減圧チューブ挿入法は,大腸ファイバースコピー施行時,病変確認後,ガイドワイアーを用い,閉塞部を越えて減圧チューブを挿入する方法であり,7例に対しこの方法を試み,4例が成功,3例が失敗であった.成功例は,S状結腸癌2例,下行結腸癌1例,S状結腸再発癌1例であり,高カロリー輸液を併用しながら,術前検査,大腸の術前準備を十分行い,待機手術を施行した.
    大腸癌イレウス症例は,保存的にイレウス解除をはかり,可能な限り一期的手術を行うことが望ましいが,左大腸癌イレウス症例に対しては,大腸ファイバースコープを用いて,経肛門的に減圧チューブを挿入する方法が有効である.
  • 本邦報告例の検討
    大田 準二, 藤政 篤志, 鶴 知光, 溝口 実, 神代 正道
    1990 年 51 巻 1 号 p. 148-153
    発行日: 1990/01/25
    公開日: 2010/01/21
    ジャーナル フリー
    虫垂原発悪性リンパ腫の1例を経験したので,その概略と併わせて,本邦報告16例の文献的考察を行った.
    症例は60歳男性.右下腹部痛を主訴として来院し,急性虫垂炎の診断で,開腹術を行った.虫垂は7×4×3cmと著明に腫大しており,術後の病理組織学的検索で,虫垂原発悪性リンパ腫,LSG分類ではnon-Hodgkin's lymphma, diffuse, large cell typeと診断された.術後14日目に,根治術を目的とした所属リンパ節郭清を伴う右半結腸切除術を施行した.
    虫垂原発悪性リンパ腫はきわめて稀な疾患で,本邦報告例は文献を収集し得た範囲では自験例を含め16例であった.多くは急性虫垂炎の診断で手術が行われ,術後の病理診断で確診を得ていた.治療は癌腫同様,所属リンパ節郭清を伴う病巣の広範囲な切除が必要で,症例により後療法も行われているが,予後は一般に不良であった.
  • 酒井 章男, 清松 瑤一郎, 岩田 正一朗, 落合 治海, 垣花 昌彦
    1990 年 51 巻 1 号 p. 154-158
    発行日: 1990/01/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    今回直腸肛門部悪性黒色腫の2例を経験したので報告する.症例1は62歳の男性で肛門痛を主訴に来院した.直腸癌の診断にて腹会陰式直腸切断術を施行し,術後悪性黒色腫と確定診断された.絶対治癒切除であったが,4ヵ月後腎不全で死亡した.症例2は79歳女性,肛門出血で来院した.生検及び擦過細胞診にて直腸肛門部悪性黒色腫と診断し,腹会陰式直腸切断術を施行した.絶対治癒切除であったが,急性腎不全で1週間後死亡した.
    直腸肛門部悪性黒色腫は現在のところ有効な治療法が確立されておらず,極めて予後不良なことから早期発見・早期手術が重要である.擦過細胞診は症例によりかなりの情報が得られ,また生検に比べて安全かつ容易に行えるため,一つの指標として推奨されるべき診断法と考える.
  • 野坂 俊壽, 杉原 国扶, 竹村 克二, 山際 明暢, 村瀬 尚哉, 波多野 誠, 毛受 松寿
    1990 年 51 巻 1 号 p. 159-164
    発行日: 1990/01/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    昭和57年より62年までの6年間における肝膿瘍自験例10例を対象に,肝膿瘍の診断・治療・予後等の問題点について検討を行なった.
    10例の男女比は3:2,平均年齢は57.7歳で,原因は化膿性が9例,アメーバ性が1例であった.化膿性9例の感染経路は,不明3例を除く6例がいずれも胆道系感染であった.また単発性,多発性がそれぞれ5例であり,7例が左葉,3例が右葉に生じていた.治療は,肝切除を6例に,ドレナージ術を4例に施行した.
    予後に関しては,良性の肝膿瘍7例はいずれも軽快・治癒したのに対し,悪性疾患に合併した3例は全例死亡している.
    肝膿瘍はかつては死亡率の高い疾患であったが,診断・治療法の発達により良性の場合は良好な予後が期待できる.しかし悪性疾患が原因の場合は予後が悪く,また診断が困難な場合もある.肝膿瘍の診断・治療時には悪性疾患合併の可能性に対し注意が必要である
  • 佐藤 幹則, 神谷 保廣, 松本 幸三, 小林 建司, 西脇 慶治, 三島 晃, 竹内 寧, 大久保 憲, 宇佐見 詞津夫, 小谷 彦蔵, ...
    1990 年 51 巻 1 号 p. 165-170
    発行日: 1990/01/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    巨大な右副腎転移を認めた肝細胞癌の1例を報告する.
    症例は,53歳男性,腰背部痛,食欲不振を来し近医にて右上腹部腫瘤を指摘され当院に入院した.入院時,栄養状態良好で,腫瘤は触知せず,肝機能異常,AFP値529.5ng/ml,ノルアドレナリン値の軽度上昇を認めた.腹部超音波検査,CT検査にて,右肝下部腎上極に比較的境界明瞭な腫瘤陰影があり,血管造影で新生血管の増生が認められた.また,肝右葉にも数個の腫瘍像が認められた.右副腎腫瘍の肝転移と診断し手術を施行した.腫瘤は被膜を有し副腎に相当し,肝,腎を部分切除し摘出した.病理組織検査で,肝細胞癌の右副腎転移と診断された.術後10ヵ月を経過するが健常な日常生活を営んでいる.診断および治療上の問題点について症例を呈示すると共に文献的考察を加えた.
  • 田中 道宣, 田辺 大朗, 外山 裕二, 佐田 英信, 上村 邦紀
    1990 年 51 巻 1 号 p. 171-176
    発行日: 1990/01/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    脾原発悪性リンパ腫の2例について報告する.第1例は86歳の女性で全身倦怠感と発熱があり受診,脾膿瘍の術前診断で脾摘除術を行った.脾は横隔膜・胃・大綱に癒着し,大きさ15×13×6cm,重さ580gでそのほとんどが黄白色の腫瘍で占められ中心壊死を伴っていた.組織診断はmalignant lymphoma, diffuse large cell typeであり,脾摘後3ヵ月目に死亡した.第2例は66歳の女性で集団検診時の腹部超音波検査で脾腫瘍を発見された.術前に脾悪性リンパ腫と診断し脾摘除術を行ったが,脾の重さは168gでその内部に直径6cmの腫瘍が認められた.組織検査の結果はmalignant lymphoma,diffuse small cell typeであった.この例は現在までの本邦報告例中最小重量例である.摘脾および化学療法を行い,術後1年2ヵ月目の現在,再発症状はなく健在である.
  • 橋本 雅司, 西 常博, 久保 琢自, 大谷 五良, 広瀬 敏樹, 小原 孝男
    1990 年 51 巻 1 号 p. 177-183
    発行日: 1990/01/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    副腎myelolipomaは副腎の希な良性腫瘍と考えられており,腫瘍自体には内分泌活性はないとされている.われわれは腫瘍内出血によると考えられる急性腹症で発症し,一過性に血中ノルアドレナリンが軽度高値を呈した症例を経験した.症例は,高血圧・高脂血症・肥満を指摘されている46歳の男性で,左上腹部の激痛発作で発症した.CT検査などで脾臓と左腎臓の間で膵尾部と連続するようにして存在する直径12cmの腫瘤が認められた.内部は低吸収値を呈し不均一であった.褐色細胞腫も疑い内分泌学的検査を施行した.その結果,血中・尿中ノルアドレナリンが一過性に軽度高値をしめした.経過とともに症状及び内分泌学的検査値も正常化した.手術所見では,腫瘤は副腎に接しており,大きさは18×11×11cmで重量は620g,内部には陳旧性の血液があった.病理組織学的に髄外造血が認められ,Myelolipomaの診断がついた.
  • 門田 今日子, 和田 富雄, 大和 宗久, 中村 哲彦, 尾崎 公俊, 松並 展輝, 北條 敏也, 安富 正幸, 杉島 裕美子
    1990 年 51 巻 1 号 p. 184-190
    発行日: 1990/01/25
    公開日: 2009/05/26
    ジャーナル フリー
    両側性内分泌非活性副腎皮質癌は極めて稀な腫瘍である.われわれは本症に肺腺癌を合併した1例を経験したので報告する.
    症例は45歳,男性.主訴は左季肋部-背部痛.CTによる腹部精査の結果,左後腹膜腔に直径約7cm,右肝下部に直径約3cmの腫瘤陰影が認められたため両側性副腎腫瘍の疑いで当科に紹介された.ホルモン学的検査では非活性であり18LI-Aldosterolによる副腎シンチでは副腎への取り込みは認められなかった.CT施行後約1ヵ月目に腹部MRIを施行したところ左側腫瘤は直径約9cm,右側腫瘤は直径約5cmと増大していた.両側性内分泌非活性副腎皮質癌と診断し,手術を施行した.開腹時腫瘍はすでに大血管に直接浸潤し,摘出は不可能であった.術後90日目に死亡し,病理解剖を行ったところ原発性肺腺癌の合併を発見された.
  • 松田 成人, 応儀 成二, 伊藤 勝朗, 原 宏, 森 透, 飯島 憲司, 見尾 保幸
    1990 年 51 巻 1 号 p. 191-195
    発行日: 1990/01/25
    公開日: 2009/05/26
    ジャーナル フリー
    排卵誘発療法後に下肢深部静脈血栓症(DVT)を発症し,精査の結果,lupus anticoagulant (LA)を認めた非SLEの1例を経験したので報告する.症例は26歳の女性.原発性不妊症の治療目的でgonadotropin (HMG-HCG)による排卵誘発療法を施行後4ヵ月ののちにDVTを発症した.血液凝固線溶系検査の異常から,循環抗凝血素の存在を疑い,精査を進めた結果,LA陽性を確認した.本症例は非SLEであり,LA陽性となるような基礎疾患も認められず,gonadotropin療法に先立つ凝固系検査では,異常所見を認めなかったことからgonadotropin投与がLA陽性化の原因になったと考えられた.また,その後2回の排卵誘発療法が施行され,いずれも1ヵ月以内に下肢DVTを再発した.このことからLA存在下でのgonadotropin療法はDVT発症のtriggerになる可能性が推測された.DVTは外科領域のみならず日常臨床でしばしば遭遇する疾患であり,適切な治療方針の決定のためにも,凝固線溶系の異常の一つとしてLAの存在を疑う必要がある.
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