日本臨床外科医学会雑誌
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51 巻, 3 号
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  • 児玉 孝也, 福内 敦, 伊藤 悠基夫, 小原 孝男, 藤本 吉秀, 平山 章, 川上 恭子
    1990 年 51 巻 3 号 p. 443-447
    発行日: 1990/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    乳腺穿刺吸引細胞診の有効性と問題点を検討した.Papanicolaouの分類でクラスIII以上を陽性,クラスII以下および不足を陰性とすると,乳癌178病変中159病変は陽性,19病変は陰性,また,良性病変272個中11病変は陽性,261病変は陰性であった.組織型別に細胞診陽性率をみると,充実腺管癌で高く,硬癌や小葉癌で低かった.また,腫瘍が小さくなるほど陽性率は低下した.偽陰性10.7%と偽陽性4.0%が生じた原因の約半分は細胞診判定の誤りにあり,残り半分は病変そのものの性質と穿刺技術の未熟さにあると考えられた.臨床上癌と診断され,かつ細胞診でクラスVかIVの結果を得たときはopen biopsyをせずに手術を施行してよい.また,臨床的に良性で細胞診でもクラスI,IIあるいは不足と出たときは様子をみてよい.しかし,臨床所見と細胞診の結果が異なるときは,open biopsyを行う必要がある.マンモグラフィーや超音波検査の欠点を補う有力な乳癌診断法と言える.
  • 石川 廣記, 川原 英之, 白石 武史, 橋本 光孝, 平尾 大吾, 安川 浩文, 石倉 義弥, 吉松 博
    1990 年 51 巻 3 号 p. 448-453
    発行日: 1990/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    胸筋温存乳癌根治手術では胸筋間リンパ節(Rotter's Node)は郭清が不十分となりやすく,外科治療上重要な意味を持っている.このRotter's Nodeは最近の連続した治癒切除35例では触診法により71.4%(25/35)の症例に,平均1.9個発見された.最近の連続した治癒切除施行109例では9.2%(10例)にRotter's Nodeへの転移を認めた.これは腋窩リンパ節転移35症例に対し28.6%(10/35)の割合であった.Rotter's Node転移症例は全てT2以上で,腫瘍占拠部位は外側半が多く,リンパ節転移もn1β以上が殆どで,予後も有意に不良であった.Rotter's Node単独転移例は1例のみで治癒切除例に対し0.9%,リンパ節転移例に対しては2.9%の発生頻度であった.T1症例ではRotter'sNode郭清を省略しても許されると思われるが,術中にRotter's Nodeの腫大・硬化があり転移が疑われる場合にはリンパ節転移が進行している危険が高く,胸筋温存手術の適応とはならないと考えられた.
  • 腫瘍マーカーE-082とCEAを中心に
    内山 喜一郎
    1990 年 51 巻 3 号 p. 454-460
    発行日: 1990/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    子のう菌の一種Cordyceps Ophioglossoidesが産生するgalactosaminoglycan (E-082)は,癌患者血清との間に凝集反応を生ずる.この反応を胃癌患者61例について応用し,腫瘍マーカーとしての有用性を検討した.術前胃癌患者のE-082反応の平均値は615.2単位,陽性率は62.3%であった.進行度別では,ステージI~IVで,それぞれ41.1%, 62.5%,61.1%, 77.8%と病期が進行するに伴って陽性率が増加した.組織型では,分化型と未分化型との間で陽性率に有意差はなかった.CEAを同時に測定した45例では,CEA陽性率は33.3%でE-082反応の方が有意に高い陽性率を示した.E-082とCEAとの間に相関性は認められなかった.以上から,E-082反応は短時間で容易に結果が得られ,しかも,陽性率が高く,さらに他の腫瘍マーカーとのCombination assayを行えば,胃癌の早期診断に有用であると思われた.
  • 矢川 裕一, 小川 健治, 勝部 隆男, 稲葉 俊三, 小川 智子, 石川 信也, 平井 雅倫, 島川 武, 成高 義彦, 芳賀 駿介, 梶 ...
    1990 年 51 巻 3 号 p. 461-465
    発行日: 1990/03/25
    公開日: 2009/05/26
    ジャーナル フリー
    胃癌の治療,予後の推定にあたり,術前あるいは術中に腹膜播種性転移の有無を正確に把握することは重要と考え,腹腔洗浄細胞診を行い,その結果を臨床病理学的に検討した.洗浄細胞診は,開腹直後に生理食塩水200mlでダグラス窩を洗浄し,回収した液の細胞診判定を行った.
    洗浄細胞診の陽性率は36.5%で,癌の進行にしたがい上昇した.肉眼的腹膜播種性転移との関係をみると,転移陰性例でも46例中12例26.7%に細胞診陽性例がみられた.この12例についてみると,漿膜浸潤癌で大きさが6cm以上のものに多かった.また,組織学的には浸潤型で陽性率が高かったが,組織型では明らかな差がなかった.癌の占居部位をみると,全周性および前壁例で陽性率が高かった.
    このように,腹腔洗浄細胞診陽性例すなわち潜在的腹膜播種性転移例の臨床病理学的特徴を捉えることは,腹膜播腫性転移の予防的治療や再発予知の指針になると思われた.
  • アンケート調査より
    小玉 雅志, 小山 裕文, 曽根 純之, 作左部 大, 成沢 富雄, 小山 研二
    1990 年 51 巻 3 号 p. 466-471
    発行日: 1990/03/25
    公開日: 2009/05/26
    ジャーナル フリー
    胃癌術後患者に対するアンケート調査から胃切除後のQuality of Lifeを検討した.術後愁訴および術後罹患疾患は,胃全摘術後で胃亜全摘術後よりも高頻度にみられ,また,胃切除後胆石の発生率はリンパ節郭清が高度なほど高く,Quality of Lifeは手術侵襲の程度に影響をうけた.一方,術前後の体重・食事摂取量の変化,食物嗜好の変化や術後牛乳不耐症の出現率は,術後経過年数,胃癌進行度および術式間で差がなかった.とくに,進行度別,すなわち早期癌と進行癌の比較では両者の術後愁訴・罹患疾患の頻度にもまったく差がなかった.これは,進行度に係わらず両者に同様の術式を採用してきたことに起因すると考えられる.したがって,早期胃癌においては,根治性を損なわない条件下で手術を縮小,合理化し,侵襲をより軽減できるならば,術後のQuality of Lifeをさらに向上させる余地があるものと思われる.
  • 永瀬 浩喜, 長尾 和治, 松田 正和, 馬場 憲一郎, 西村 令喜, 松岡 由紀夫, 上野 洋一, 森永 博史
    1990 年 51 巻 3 号 p. 472-477
    発行日: 1990/03/25
    公開日: 2009/05/26
    ジャーナル フリー
    大腸癌手術症例における術後創感染およびその発生要因の1つである縫合不全について検討を行った.昭和57年から昭和63年の大腸癌切除症例317例について見ると,創感染は48例(15.1%)にみられ,結腸手術に比べ直腸手術,とくにMiles, Hartmann手術に高頻度にみられた.術前抗生剤としてPolymyxin B sulfateとMetronidazoleを併用した症例においては,Polymyxin B sulfate単独例,抗生物質無使用例に比べ有意に創感染率が低かった.一方,縫合不全は吻合例227例中10例(4.4%)にみられ,そのほとんどが直腸癌に対する低位前方切除術施行例であった.さらに環周率の高い例,あるいは術前栄養がより残渣を多く作るもので縫合不全が多くみられた.このように創感染および縫合不全においては,術前抗生剤投与を含めたColon preparationの重要性があらためて示唆された.
  • 林 隆志, 安村 忠樹, 岡 隆宏
    1990 年 51 巻 3 号 p. 478-481
    発行日: 1990/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    T0乳癌7症例について,発見の契機,確定診断までの経過,病理組織学的所見を検討した.7例中4例の主訴は血性乳頭異常分泌であり,2例は乳腺痛であった.また1例は乳癌検診のために来院した.血性分泌を認めた4例中2例は,乳管造影及び乳管区分切除により癌の診断が得られ,1例は乳管造影中,乳頭から小腫瘍組織塊が排出され,この組織の病理組織検査によって診断された.残る1例は病理塗抹検査で癌細胞陽性であり,乳腺撮影で微細石灰化像を認めたため,生検は行っていない.他の3例はいずれも,乳腺撮影で微細石灰化像を認めたため,生検を行い癌と診断した.病理組織学的には血性分泌で発見された4例中3例は浸潤癌であったが,微細石灰化像だけで発見された3例は,全例非浸潤癌であった.このように,微細石灰化像のみで発見された症例は,血性分泌で発見されたものより,早期であると考えられた.
  • 縄田 純彦, 久我 貴之, 秋本 文一, 江里 健輔, 西田 健一
    1990 年 51 巻 3 号 p. 482-486
    発行日: 1990/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    症例は56歳,女性で約9年前に乳癌のため左定型的乳房切断術,術後放射線療法を受けていた.1986年5月,リンパ浮腫のある左上腕に腫瘤出現し,次第に潰瘍化した.腫瘤は切除され,組織学的診断はangiosarcomaであった.術前からAFP高値があり,術後も持続した.5ヵ月後下腹部腫瘤出現し,切除され,卵巣embryonal carcinomaと診断された.Postmastectomy lymphangiosarcomaの報告は欧米では比較的多いが,本邦では稀である.Stewart-Treves症候群は第3の悪性腫瘍として卵巣embryonal carcinomaなどを合併するので,乳癌術後リンパ浮腫をきたした患者には厳重なfollow upが必要である.
  • 甲谷 孝史, 石川 正志, 小笠原 悦男
    1990 年 51 巻 3 号 p. 487-492
    発行日: 1990/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    Marfan症候群に合併したDeBakey IIIb型の解離性大動脈瘤で切迫破裂を伴い腹部大動脈嚢状拡張をきたした症例を経験したので報告する.症例は,48歳の女性で突然の側腹部から背部への激痛があり当院を受診し,腹部大動脈瘤切迫破裂と診断され当科に入院した.胸腹部大動脈造影で,Marfan症候群に合併したDeBakey IIIb型の解離性大動脈瘤の切迫破裂と診断され,胸部大動脈開窓術と腹部大動脈入工血管置換術・内臓動脈全血行再建術を施行した.術後経過は良好であった.
  • 中口 和則, 中野 陽典, 北原 健志, 尾上 謙三, 福田 弘, 長嶺 春利, 黒川 英司
    1990 年 51 巻 3 号 p. 493-497
    発行日: 1990/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    石灰化を伴う肺葉外肺分画症の1例を経験した.症例は42歳の男性,検診の胸部レントゲン検査で右下肺野に腫瘤陰影を指摘された.CT検査で石灰化を示し,胸腹部大動脈造影で異常血管を確認できなかった.切除後の組織学的検討にて肺分画症と診断しえた.石灰化を伴う肺分画症の4例を文献的に検討したところ,平均年齢は45歳,男性に多く,分離形式は肺葉内と外は同数であり,全例が左側に生じ,肺葉外型の2例はいずれも異常血管が大動脈以外から分布していた.
  • 明平 圭司, 中根 恭司, 吉永 康照, 岡村 成雄, 笠松 聡, 朴 常秀, 大草 世雄, 広実 伸郎, 稲田 吉昭, 日置 紘士郎, 山 ...
    1990 年 51 巻 3 号 p. 498-502
    発行日: 1990/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    早期胃癌の胃切除術により判明した肺癌の腹腔内リンパ節転移の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.症例は62歳の男性で1.5年前に左肺癌(S8)にて左下肺葉切除術の既往があり,心窩部痛を主訴として来院.胃透視・胃内視鏡生検で胃癌と診断された.手術所見はA領域小弯側に3.0cm×2.4cmのIIc病変を認め,組織学的には一部にSignet-ring cellの混在を認めるpoorly differentiated adenocarcinomaで,深達度はmであった.郭清リンパ節のほとんどに転移を認め,胃癌組織と異なり,高分化型の腺癌であった.一方肺癌病理組織は,高分化型の腺癌であり,CT・Echo・Gaシン等で血行性転移は認められず,本症例は,肺癌からのリンバ行性による腹腔内リンパ節への転移であると考えられた.
  • 小矢崎 直博, 草島 義徳, 小西 一朗, 広野 禎介, 高柳 伊立, 重田 浩一, 八木 雅夫, 宮崎 逸夫
    1990 年 51 巻 3 号 p. 503-507
    発行日: 1990/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    人工気胸,若しくは結核性胸膜炎より数十年経過後に胸壁悪性腫瘍,とりわけ悪性リンパ腫の発生をみたという報告が散見される様になってきた.しかし,その病因については推論の域を出ず,またその診断は既往病変と重複するため困難な場合が少なくない.今回著者らは結核性胸膜炎罹患後48年目に胸壁悪性リンパ腫の発生をみた症例を経験た.ここに本症例の概要を述べるとともに自験例を含む本邦報告例32例を集計し,若干の考察を加える.
  • 遠近 裕宣, 村岡 昌司, 辻 博治, 岡 忠之, 原 信介, 謝 家明, 君野 孝二, 草野 裕幸, 田川 泰, 川原 克信, 綾部 公懿 ...
    1990 年 51 巻 3 号 p. 508-512
    発行日: 1990/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    症例は46歳,男性.昭和62年7月頃より嚥下時の背部痛,嚥下障害が出現.昭和62年12月,某医にてMDL, GTFを施行され,食道腺癌の診断を得,手術目的で当科入院.中部食道に,長径11cm,螺旋型,境界明瞭な陰影欠損を認め,胸部断層撮影,CTなどで,左主気管支,下行大動脈への浸潤が疑われた.左開胸で手術を施行した.左主気管支より可及的に腫瘤を削除し,下行大動脈を長さ11cmにわたって胸部食道と共に切除し,人工血管で置換,再建し,頸部食道皮膚瘻を造設した.A3N3M0Pl0, Stage IVであった.腫瘤は8.5×4.0cm,境界明瞭な腫瘤型で,大動脈壁全周にわたって浸潤していた.病理組織学的には,癌巣の大部分は中分化型腺癌で占められているが,一部扁平上皮癌がみられ,adenoacanthomaと診断された.INFγ, ie(+), ly(+), v(+)で大動脈壁外膜に浸潤していた.術後6ヵ月目に再発死亡し,剖検を行った.
  • 河原 邦光, 高塚 雄一, 赤木 謙三, 河原 勉
    1990 年 51 巻 3 号 p. 513-515
    発行日: 1990/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    頸部食道癌穿孔部からの感染のため,短期間のうちに急激な経過で死亡した症例を報告する.患者は,嚥下障害を主訴とした59歳の男性で,既往歴として未治療の糖尿病があった.
    穿孔部の感染は,嫌気性菌によるものであったが,それを意識した病原菌検索および外科処置は行われず,Necrotizing fascitisから敗血症へと進展した.
    Necrotizing fascitisは,致命率が高く,早期診断,治療が不可欠である.対策としては,まず第1に本症例のようなcompromised hostの感染に際しては,起炎菌として嫌気性菌を念頭に入れておくこと,ついでNecrotizing fascitisが発症した際には,早期から開放創とし,壊死組織の充分なsurgical debridementが必要である.
  • 橋本 哲, 田淵 純宏, 高橋 孝郎, 吉田 彰, 小川 敏幸, 宿輪 三郎, 関根 一郎
    1990 年 51 巻 3 号 p. 516-519
    発行日: 1990/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    症例は,32歳,女性,心窩部痛を主訴とし来院し,胃X線検査,胃内視鏡検査を行い,胃癌の診断にて入院.入院後,乳腺に腫瘤を認めるために吸引針生検を行い悪性腫瘍と診断された.胃,乳腺の同時重複癌の診断で胃全摘術及び非定型的乳房切断術を一期的に行った.術後の病理組織学的検査にて胃,乳腺ともに印環細胞癌であり,胃癌の乳腺転移と診断された.転移性乳腺腫瘍は稀であり調べえた範囲では,80例が報告され,胃癌よりの転移は本症例を含め16例である.本症の如く,同時発見例の場合には,重複癌との鑑別は困難であるが転移性腫瘍の可能性を念頭におき,診断,治療することが必要と思われた.
  • 勝木 茂美, 小田切 治世, 麓 耕平, 榊原 年宏, 能澤 明宏, 土田 敏博, 川崎 聡, 中野 護, 唐木 芳昭, 藤巻 雅夫, 増田 ...
    1990 年 51 巻 3 号 p. 520-526
    発行日: 1990/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    胃の小細胞癌は稀な疾患であるが,われわれは本症の1例を経験したので報告する.症例は59歳の男性で,心窩部痛・タール便を主訴として来院した.胃内視鏡で体上部後壁大弯側寄りにBorrmann 1型様病変を認め,生検で小細胞癌と診断され,膵脾合併胃全摘術を施行した.肉眼所見はP0H0N1(+)S3, stage IV, 5型(Borrmann 3型を土台として1型がのった形)の胃癌で,組織学的には一部扁平上皮癌への分化を伴った小細胞癌で,med, INFβ, ssβ, ly1, v3, n1(+), ow(-), aw(-)であった.免疫化学療法を施行したが,術後7ヵ月に皮膚転移,10ヵ月後に肝転移を認め,11ヵ月後,突然の呼吸および心停止のため死亡した.
    胃小細胞癌は現在まで本症例を含め16例の報告があるが,治療に対する反応性は低く,早期に肝転移をきたし予後不良である.
  • 向井 友一郎, 安岡 俊介, 寺師 弘泰
    1990 年 51 巻 3 号 p. 527-530
    発行日: 1990/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    特発性小腸部分拡張症は,現在まで文献的には43例の報告が認められたに過ぎず,特に成人例は5例の報告が認められるに過ぎないきわめて稀な疾患である.われわれは急性腹症にて発症し,乳糜腹水を来した特発性小腸部分拡張症を経験したので報告する.
    症例は右下腹部痛で来院した18歳の男性である.急性虫垂炎を疑い開腹したところ,虫垂の炎症は乏しく,乳糜腹水,及び回腸の拡張を認めた.回腸は拡張部で捻転しており,同部の腸管壁,及び腸間膜のリンパ管内に透見されるリンパ液の鬱滞と漏出が認められ,乳糜腹水の原因と考えられた.手術では,虫垂切除と腸管の捻転の整復を行った.術後腸透視にて拡張腸管は認められるものの,特に症状なく経過している.
  • 中村 昭博, 小武 康徳, 野川 辰彦, 遠近 裕宣, 円城寺 しづか, 関根 一郎
    1990 年 51 巻 3 号 p. 531-534
    発行日: 1990/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    メッケル憩室の合併症の中でmesodiverticular bandによる絞扼性イレウスは稀である.今回われわれは,本症の1手術例を経験し,病理組織学的にもmesodiverticular bandであることを確認できたので若干の文献的考察を加え報告する.
    症例は13歳男子,強度の腹痛出現し来院した.defenceが出現し,腹部単純写真でniveauを認め,WBC 20,900, CRP(++)と強い炎症所見を認めた.絞扼性イレウスの診断で,開腹術を施行した.
    回腸末端から約50cmの部にメッケル憩室があり,憩室の先端から出た約5cmの索状物が小腸間膜の根部付近に付着し,その間に小腸が入り込んで絞扼されていた.小腸を約50cm切除し端々吻合を行った.索状物は内部に血管を確認でき,mesodiverticular bandと判定した.術後経過良好で術後22日目に軽快退院した.
  • 手塚 秀夫, 宮川 晋爾, 遠藤 健, 林 和彦, 武藤 晴臣
    1990 年 51 巻 3 号 p. 535-537
    発行日: 1990/03/25
    公開日: 2009/05/26
    ジャーナル フリー
    腸間膜裂孔ヘルニアは稀な疾患で,裂孔への腸管の嵌入による絞扼性イレウスとして発症するものが多い.最近,本症の1例を経験したので報告する.症例は9歳の女児で,小腸間膜裂孔部に回腸が嵌入したため絞扼性イレウスを併発し,小腸切除を行って救命しえた.本症の発症は急激であり,頻度も少なく,術前診断は困難を極める場合が多い.イレウスの診断の際には,発症年齢,既往歴や手術の有無,発症の経過などから本症を充分に考慮し,かつ,本症は絞扼性イレウスの診断がつき次第,早期に外科的治療を開始する必要があることを強調した.
  • 上山 直人, 今川 敦史, 安田 慎治, 小沢 利博, 八倉 萬之助, 堤 雅弘, 小西 陽一, 中野 博重
    1990 年 51 巻 3 号 p. 538-542
    発行日: 1990/03/25
    公開日: 2009/05/26
    ジャーナル フリー
    原発性空腸癌は,稀な疾患である.その術前診断は困難で,イレウスにて手術を施行されることが多い.今回その1治験例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.患者は51歳の女性で主訴は〓吐.体重減少(20kg/2ヵ月)である.来院時るいそうが顕著であった.上部消化管透視にて空腸腫瘍と診断し緊急手術を施行した.トライツ靱帯より5cmの空腸に潰瘍を伴う壁外発育型の腫瘍(中分化腺癌)を認め全周性の狭窄を呈していた.遠隔転移や播種性転移を認めなかった.所属リンパ節を郭清し,十二指腸,空腸吻合術を施行した.胃,十二指腸,大腸に異常を認めないのに腹部症状が続くならば積極的に小腸(特にトライツ靱帯,バウヒン弁付近)を検索し早期発見,早期手術を施行することが肝要である.
  • 下田 直史, 千見寺 徹, 水谷 正彦, 古川 斎, 土屋 信, 橘川 征夫, 柏木 福和, 長尾 孝一
    1990 年 51 巻 3 号 p. 543-547
    発行日: 1990/03/25
    公開日: 2009/05/26
    ジャーナル フリー
    症例は71歳,男性.主訴は右側腹部の激痛.経過観察中に疼痛部に一致して腫瘤出現,腹部CT,エコーにて後腹膜血腫を疑い,選択的上腸間膜動脈造影にて右結腸動脈瘤破裂による血腫形成と診断した.手術は約1.5cmの破裂した瘤を含めた血腫摘出をおこなった.病理組織学的検索では動脈硬化が瘤の成因と考えられ,また高血圧が瘤破裂の誘因になったものと推察された.右結腸動脈瘤破裂例はぎわめて稀で,本症は,本邦報告第2例目と思われ,文献的考察を加えて報告した.
  • 本邦大腸重複症54例の検討
    内山 雅之, 団野 誠, 斉藤 幸夫, 尾野 雅哉, 光井 洋, 三輪 正彦
    1990 年 51 巻 3 号 p. 548-551
    発行日: 1990/03/25
    公開日: 2009/05/26
    ジャーナル フリー
    症例は18歳男性.2年前より腹部腫瘤を自覚しており,腫瘤の大きさは時々変化した.上腹部に15×10cmの弾性硬,境界明瞭な腫瘤が触知された.胃透視上,胃は上方へ圧排されており,数日後の腹部単純X線写真にて,腹部正中に15×10cm大の嚢状のバリウムの遺残が認められた.注腸造影で,この嚢状陰影と横行結腸脾弯曲部との交通が明らかにされた.以上より横行結腸重複症の診断のもとに開腹術を施行した.重複腸管は横行結腸脾弯曲部付近から出ており,横行結腸間膜前葉と後葉の間に存在.栄養動脈は上腸間膜動脈より直接分岐していた.嚢状の重複腸管を切除,切離断端部を縫合閉鎖した.組織学的には正常の大腸の壁構造を持っていた.横行結腸重複症について,若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 石井 敏勤, 岡本 安弘, 野々下 頼之
    1990 年 51 巻 3 号 p. 552-556
    発行日: 1990/03/25
    公開日: 2009/05/26
    ジャーナル フリー
    大腸脂肪腫は,大腸検査法の進歩に伴い,その報告例も増加してきた.今回2例の横行結腸脂肪腫を経験したので報告した.1例は結腸癌を合併した症例であり,他の1例は術前に診断がついた症例であった.
    症例1は82歳男性.イレウスをおこしたS状結腸癌で横行結腸に人工肛門を造設したが,人工肛門肛門側粘膜下に1cm大の腫瘍を認めた.人工肛門閉鎖時に腫瘍を含めた結腸部分切除術施行.病理学的に脂肪腫と判明した.
    症例2は53歳男性.注腸造影にて横行結腸に4cm大の有茎性腫瘍を認め,X線透過性が高く,squeeze signを示した.腫瘍のCT値は,low densityであったので,脂肪腫と診断し腫瘍のみの摘出を行った.
    大腸脂肪腫と大腸癌の合併の本邦報告例は自験例を含めて17例にすぎない.今後,両病変の合併を念頭において,注腸造影やCT検査など慎重な検査が必要と思われる.
  • 本邦報告43例の検討
    福田 宏嗣, 荻野 信夫, 松宮 護郎, 仲原 正明, 大口 善郎, 大下 征夫, 高尾 哲人, 山根 哲実, 桐本 孝次
    1990 年 51 巻 3 号 p. 557-561
    発行日: 1990/03/25
    公開日: 2009/05/26
    ジャーナル フリー
    症例は,75歳の女性.下腹部腫瘤と摂食後の下痢を主訴として来診した.注腸検査で横行結腸に潰瘍性病変と同部位から空腸への瘻孔の形成を認めた.空腸結腸瘻を形成した横行結腸癌と診断し,横行結腸切除及び瘻孔部を含む空腸部分切除術を施行した.病理組織学的には粘液癌を含む高分化腺癌で,stage III [si, n (-), HO, PO, M (-)]であった.術後1年6ヵ月経た現在,再発の徴候は認めない.
    結腸癌による空腸結腸瘻形成例は,非常に稀である.現在まで,本邦では自験例を含めて僅かに5例の報告があるに過ぎない.結腸癌による消化管内瘻形成例は,隣接臓器への浸潤型であるにもかかわらず,肝転移,腹膜播種,リンパ節転移を呈することが少ない.従って,内瘻を形成した消化管を含め広範囲に切除を行うことにより,結腸癌の治癒的切除が期待される.
  • 森 匡, 小川 法次, 竹内 幸康, 水谷 伸, 宗田 滋夫
    1990 年 51 巻 3 号 p. 562-566
    発行日: 1990/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    症例は48歳,男性で右側腹部から背部の腫脹感を主訴に来院した.各種画像診断にて,肝・脾に限局した悪性リンパ腫または,原発巣不明の転移性腫瘍と診断し,確定診断のため摘脾術を施行した.病理学的検索により,悪性リンパ腫と診断され術後化学療法を開始したが,肝不全および腎不全にて死亡した.剖検所見では病巣は肝と脾のみに限局しており,いずれかの臓器原発の悪性リンパ腫と考えられた.肝および脾原発の悪性リンパ腫はまれで1988年までに本邦で,それぞれ20例,101例のみである.これらの集計も含め文献的考察を行った.
  • 今分 茂, 西村 正, 谷口 英治, 高山 実, 板倉 丈夫
    1990 年 51 巻 3 号 p. 567-572
    発行日: 1990/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    症例は,31歳男性で,黄褐色尿を主訴に来院し,腹部CT, PTC等により,肝十二指腸靱帯付近の腫瘤の圧迫による総胆管狭窄を疑い,開腹術を受けた.肉眼的手術所見は,総胆管癌で,胆管頸部,膵頭部,門脈の浸潤がみられ,手術不能と判断した.PTCD tubeを挿入したまま,同部位に5,000rad照射し,退院したが,3年後両肺尖部に結核性空洞がみられ,抗結核剤の投与にて消失した.retrospectiveな検討の結果,総胆管狭窄は胆道リンパ節結核によるものと思われ,試験開腹術後4年目に,Regifilex balloon catheter, PTCS tubeにて狭窄部位を拡張させた後,20FrのPTCD tube植え込み術を施行し,現在経過良好である.結核性リンパ節炎による総胆管狭窄は稀であり,自験例を含め本邦7例につき考察を加えて報告した.
  • 小島 靖彦, 安川 ひろ美, 野手 雅幸, 新本 修一, 藤田 秀春, 中川原 儀三, 三宅 敏彦, 石黒 信彦
    1990 年 51 巻 3 号 p. 573-577
    発行日: 1990/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    腫瘤形成型膵炎は,常に膵癌との鑑別が問題である.今回,十二指腸狭窄を伴った腫瘤形成型膵炎の1例を経験したので報告する.
    症例は49歳男性で,急性膵炎様の発作後,膵頭部の腫大と全周性の十二指腸狭窄を指摘され来院した.入院後のUSでは膵頭部は腫大し,その辺縁は不整で内部エコーも不均一であった.CTでは膵頭部に辺縁不整,境界不鮮明な腫瘤像を認め,内部に低吸収域をみた.造影CTでは,この低吸収域は不均一に染まり,また十二指腸壁は全周性の肥厚をみ,腫瘤との境界は不鮮明であった.血管造影では異常はみられなかったが,悪性病変を完全に否定しえず,膵頭十二指腸切除を施行した.摘出標本の肉眼所見で,膵頭部に5×4×2cmの腫瘤が存在したが,病理組織検索では多数の単核炎症細胞浸潤を伴った線維化をみるのみで,悪性所見はえられず限局性慢性膵炎と診断された.
  • 久保 正二, 酒井 克治, 木下 博明, 広橋 一裕, 街 保敏, 李 光春, 掘 哲也, 塚本 忠司
    1990 年 51 巻 3 号 p. 578-583
    発行日: 1990/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    症例は意識消失発作を主訴とする36歳,女性.内分泌学的検査上,インスリノーマ(本症)が疑われ,経皮経肝門脈カテーテル法(PTPC)によると,膵尾部でのimmunoreactive insulin (IRI)値とC-ペプタイド値が高値を示した.術中膵尾部に膨隆がみられ,超音波像上,腫瘤像が描出された.そこで腫瘤核出術を施したが,術中血糖値とIRI値の経時的測定により腫瘤の完全摘出を確認しえた.病理組織学的検査上,本症と診断された.術後膵液瘻が発生したが,主膵管に損傷がなかったため抗生剤とアプロチニン製剤の投与,高カロリー輸液など保存的治療をおこなったところ膵液漏出は術14週後に消失した.本症の局在診断にはPTPCおよび術中超音波検査が,その完全摘出の確認には術中血糖値とIRI値測定が有用である.術後膵液瘻に対して,主膵管に損傷がなく,十分なドレナージが施されていれば,瘻の自然閉鎖を待つべきであると考えられた.
  • 猪口 寛, 磯辺 眞, 梅谷 博史, 藤政 浩志, 矢野 正二郎, 中野 聡子, 板野 哲
    1990 年 51 巻 3 号 p. 584-588
    発行日: 1990/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    インスリノーマに早期胃癌を合併した1例を経験した.患者は65歳男性.空腹時の異インスリノーマに早期胃癌を合併した1例を経験した.患者は65歳男性.空腹時の異ノーマの存在診断は疑診にとどまった.また部位診断でも,PTPCで膵頭部のインスリノーマを疑うのみで,その他の画像診断では膵にインスリノーマは描出されず確診には至らなかった.従って異所性インスリノーマの可能性を考え上部消化管造影を行らた所,早期胃癌が発見された.開腹手術において,インスリノーマは術中超音波検査で膵頭部に確認された.幽門側胃切除,R2郭清術の後インスリノーマの核出術を行った.胃癌はリンパ節転移を認めず,深達度も粘膜にとどまる早期胃癌であった.術後経過は順調である.本症例に関し若干の文献的考察を加え報告した.
  • 塩見 精朗, 朝蔭 直樹, 村石 世志野, 森岡 新, 小林 滋, 滝沢 直樹, 小出 真, 中島 研郎, 宮沢 龍一, 駿河 敬次郎
    1990 年 51 巻 3 号 p. 589-593
    発行日: 1990/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    非機能性膵ラ氏島腫瘍は特有の症状を呈さないため,診断は困難で報告例は少ない.
    症例は47歳の女性.上腹部不快感を主訴に当院入院.心窩部に手拳大弾性硬の腫瘤を触知した.超音波検査およびCT検査で膵体尾部および肝右葉に腫瘤を認め,腹部血管造影では腫瘍濃染像をしめした.血液学的には内分泌ホルモンの高値は認めなかった.非機能性膵ラ氏島腫瘍と診断し手術を行った.病理学的および免疫組織学的にも,悪性非機能性膵ラ氏島腫瘍と診断した.
    肝転移を伴った悪性非機能性膵ラ氏島腫瘍の1例を報告するとともに,若干の文献的考察を行った.
  • 佐々木 明, 岩藤 浩典, 後藤 精俊, 小長 英二, 間野 正平
    1990 年 51 巻 3 号 p. 594-598
    発行日: 1990/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    副腎嚢胞は比較的稀な疾患である.症例は54歳の男性で主訴は臍部腫瘤であった.腹部単純X線写真,腹部超音波検査,CTスキャン,腹部血管造影にて巨大な後腹膜嚢胞の診断にて手術を施行,嚢胞は後腹膜に位置し肝臓,右腎臓,結腸を圧排していた.嚢胞とこれに連続性に移行する右副腎を一塊にして切除した.病理組織学的診断はFosterらの分類上,上皮性嚢胞であり免疫組織学的にも証明できた.嚢胞内には赤ワイン色の漿液が約3,000ml貯留していた.内容液の成分は生化学的にはほぼ血液成分と一致していたが,cortisol値,aldosterone値は高値を示した.本邦で報告された副腎嚢胞91例のうち上皮性嚢胞は自験例を含めてわずか7例である.
  • 国崎 主税, 杉山 貢, 土屋 周二
    1990 年 51 巻 3 号 p. 599-605
    発行日: 1990/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    症例は50歳の女性で,腹部単純X線像上の異常石灰化を指摘され当科に入院した.腫瘤は第11胸椎から第2腰椎の左側に約7×6cmのegg shell calcificationを伴う像として存在し,静脈性腎盂造影では左腎の圧排所見を認めた.血管撮影像では,脾動脈および上腸間膜動脈の分枝の圧排伸展像のみであった.超音波下の穿刺吸引では悪性所見は認められなかった.仮性膵嚢胞の診断で昭和60年9月26日に手術を施行し,手術時所見で副腎原発腫瘤と判断した.病理組織学的所見では副腎偽嚢胞と診断した.
    副腎偽嚢胞は,正常副腎組織や副腎腫瘍内の出血が病因と考えられており,病理組織学的にはコレステリン結晶を含む出血壊死組織を内容物とし,内皮細胞のない厚い結合組織をもつのが特徴とされている.
    本邦では63例が報告されており,比較的稀な疾患であると思われた.
  • 安田 慎治, 中野 博重, 吉川 周作, 畑 芳樹, 村上 浩二, 八木 正躬
    1990 年 51 巻 3 号 p. 606-610
    発行日: 1990/03/25
    公開日: 2010/01/21
    ジャーナル フリー
    回腸子宮内膜症の1症例を報告した.患者は42歳の女性で,約2年前から月経時臍周囲囲部痛,腹鳴を認め,嘔気,嘔吐も出現し,産婦人科にて子宮内膜症と診断され,投薬により軽快していたが,再度入院し,外科紹介となった.手術時回腸末端から約15cmの所に炎症性腫瘤を認め,虫垂にも炎症所見がみられた.虫垂切除,回腸20cm切除及び端々吻合を施行後,左付属器切除及び右卵巣嚢腫内容除去術を行った.回腸子宮内膜症の本邦報告例は12例であり,平均年齢36.3歳,記載のあった主訴の内腹痛が40%,嘔吐が25%と多く,下血は10%で大腸子宮内膜症に比べ少数であった.既往歴は87.5%に認め,術前診断は腸閉塞が30.7%,術中診断は子宮内膜症が40%であった.回腸以外の病変はS状結腸が50.2%,直腸,盲腸,虫垂がそれぞれ16.6%であった.子宮,卵巣,卵管に病変を認めた症例は66.7%であった.悪性腫瘍との鑑別,骨盤内病変に対する治療にも留意すべきである.
  • 藤本 三喜夫, 横山 隆, 児玉 節, 竹末 芳生, 沖田 光昭, 村上 義昭, 瀬分 均, 今村 祐司, 津村 裕昭
    1990 年 51 巻 3 号 p. 611-615
    発行日: 1990/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    後腹膜に原発する腫瘍は非常に多彩であるが,その中でParagangliomaは稀な疾患であり,良・悪性の問題以外に,カテコラミン(CA)分泌能を有するものとそうでないものとがあり,臨床的に複雑な面を有している.今回我々は,画像診断及び吸引組織細胞診から膵頭部嚢胞腺癌を疑い手術を施行,腫瘍の発生部位及び術中操作による著明な血圧上昇により本症と気づいた症例を経験したので報告する.
    症例は73歳男性で腹部膨満感を主訴に来院.上部消化管造影・体部CT・血管造影・ERCP・Echo下穿刺細胞診の結果より膵頭部嚢胞腺癌を疑い手術を行った.腫瘍は腹部大動脈と下大静脈の間から発生しており,術中腫瘍に接触するたび毎に著明な血圧上昇を来したことより本症を強く疑った.術中の血中・尿中カテコラミンは極めて高値を示したが,術後は速やかに正常値まで低下した.病理組織学的検査にても本症との診断を得た.
  • 横井 隆志, 佐藤 芳樹, 久保 章, 鈴木 良人, 松井 考輔
    1990 年 51 巻 3 号 p. 616-620
    発行日: 1990/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    40歳女性,発熱,貧血,黄疸を主訴として受診した.精査の結果胆石症を合併した遺伝性球状赤血球症と診断し,脾臓及び胆嚢摘出術を施行した.脾は大きさ17×10×7cm,重さ630gあり,胆嚢内に0.5cmから1.1cmのビ系石と直径1cm長さ4.5cmの粘性ゴム状の石灰乳胆汁を認めた.術後経過は良好だった.遺伝性球状赤血球症は貧血,黄疸,脾腫を3主徴とし,高率に胆石を合併することが知られている.一方,石灰乳胆汁は胆嚢管の閉塞と胆嚢の慢性炎症が関与すると言われ,発生頻度は胆石手術例の1~3%と比較的稀な疾患である.
    本邦における石灰乳胆汁を合併した遺伝性球状赤血球症は本症例を含めて4例の報告例がある.
    両者の合併例を報告するとともに,胆石および石灰乳胆汁の形成の成因について考察を加えた.
  • 菊地 洋一, 土屋 敦雄, 阿部 力哉
    1990 年 51 巻 3 号 p. 621-626
    発行日: 1990/03/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    悪性線維性組織球腫は(MFH)成人の軟部悪性腫瘍の内で,最も頻度の高いもので,また,その予後は不良である.今回われわれは,躯幹に発生した予後の異なるMFHの2症例を経験した.
    症例1は,82歳女性で,鼠径部腹壁筋層に発生し,7cm大であった.腫瘍摘出後7ヵ月目に局所再発にて死亡した.症例2は,31歳男性で,背部皮下組織に発生し大きさは2cm大であった.術後1年8ヵ月を経過し,現在再発の兆候はない.
    2症例において予後を左右したのは腫瘍の大きさと,発生部位の深さと考えられた.MFHの治療は,化学療法,放射線療法が余り期待出来ないこと,局所再発を起こす例が多いことから,初回手術治療が,最も大切であり,腫瘍縁より3~5cm離して切除し,可能であれば隣接する筋膜等を合併切除すべきである.今後,進行再発症例に対しての集学的治療法の開発が望まれる.
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