日本臨床外科医学会雑誌
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51 巻, 5 号
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  • 塩野谷 恵彦
    1990 年 51 巻 5 号 p. 853-860
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    血行再建術が発達する以前では,血管の処理はほとんど止血に限られ,血管はいわば触れてはならない聖域であった.
    血行再建術の普及に伴い,悪性腫瘍に対する手術の根治性を高めるために,血管への浸潤病変を積極的に切除するようになり,血管外科的手技は一般外科医にとっても必須なものになった.血行再建術を成功させるには,安全な血行遮断と確実な血管縫合が前提となる.
    血行遮断による脳・肝の虚血性障害を防止するには,内シャント管使用により血流を維持するのが簡便である.血管縫合の原則は外反法による縫合であるが,大動脈領域では後壁内反法,前壁外反法,あるいは全周内反法のinlay吻合が確実である.血管病変の部位・範囲に応じて端々吻合またはパッチグラフト移植を用い,効果的な血行再建を図らねばならない.
  • 画像解析による核異型度の評価
    宮内 充, 花輪 孝雄, 堀中 悦夫, 石毛 英男, 土屋 俊一, 塚本 剛, 奥井 勝二, 増田 豁, 川上 義弘
    1990 年 51 巻 5 号 p. 861-868
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    乳癌の術前穿刺吸引細胞診材料を用いて細胞形態学的解析を行い,悪性度や予後との関連を検討した.症例はStage II及びIIIの原発性通常型浸潤性乳管癌のうち,5年以上健存例(健存群36例)5年以内の遠隔臓器再発例(再発群29例)を対象とし,画像解析装置を用いて乳癌細胞の核形態を解析した.核面積は予後に関連がなく核面積のばらつきが予後と良い相関を示した.核面積変異係数Coefficiency variant of nuclear area(以下NA. CVとす)は,健存群25.5±4.6%,再発群39.8±7.9%で両群間に有意差を認め,Stage別,組織型別,リンパ節転移個数別に検討しても再発群で有意にNA. CVが高値であった.腫瘤径,組織型,リンパ節転移などの既知の予後因子とNA. CVの間で多変量解析を行うと,NA. CVは独立した良好な予後因子であった.細胞診材料を用いた形量解析を行うと,NA. CVは独立した良好な予後因子であった.細胞診材料を用いた形態学的解析により,乳癌の悪性度や予後を術前に推定し得る可能性が示唆された.
  • 錦見 尚道, 黒柳 裕, 田口 雅勝, 井尾 昭典, 向山 博夫, 桜井 恒久, 矢野 孝, 塩野谷 恵彦
    1990 年 51 巻 5 号 p. 869-874
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    1988年4月から11月までの8ヵ月間に名古屋大学第1外科において,補助手段としてBio-pumpによる部分左心バイパスを用いた下行胸・胸腹大動脈瘤切除症例は6例で,全例待期手術例であった.体重1kgあたり0.5~1.0mgのヘパリンを投与し,ACT値を200秒以上に保ち左房脱血・大腿ないしは腸骨動脈送血で左心バイパスを行った.バイパス時間は90分から240分であり,平均足背動脈圧を60mmHgに保つように調節した結果,流量は平均1,000~2,400ml/minとなった.バイパス中の尿量は40~513ml/hrを維持でき,術後の腎不全はみられなかった.バイパス中の体温低下を防ぐため,ブランケットの加温装置を利用できる簡便な熱交換部分の付属した回路を開発し,有効であった.脊髄麻痺防止のために脊髄誘発電位をモニターし,6例中3例に変化がみられた.2例は手術操作による低血圧に伴う一時的なもので1例では永続的な電位低下がみられたが,術後に脊髄麻痺を生じたものはなかった.
  • 白方 秀二, 丹生 智史, 佐藤 伸一, 相馬 彰, 河内 秀幸, 伊東 正史, 村山 祐一郎, 河合 隆寛, 西山 勝彦, 神吉 豊, 和 ...
    1990 年 51 巻 5 号 p. 875-882
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    過去18年間に教室で扱った腹部大動脈瘤を手術例と非手術例に分け,手術直接死亡と遠隔期死亡原因につき検討した.手術した112例のうち非破裂例は96例,破裂16例で,手術時の平均年齢は非破裂例68歳,破裂例72歳であった.手術死は非破裂例4.2%,破裂例62.5%であった.待機手術の遠隔期死亡は17例で,死亡時期は術後3ヵ月から4年目,平均1年11ヵ月目であった.破裂例の遠隔期死亡は2例あった.High riskと手術拒否のため適応から除外した非手術例は23例,平均年齢は74.1歳であった.遠隔期死亡は15例,このうち7例,47%が破裂死した.初診から破裂までの期間は平均1.76年目であった.累積生存率をみると5年生存率は非破裂例76%,非手術例22%と非手術例の予後は極めて不良であった.したがって,腹部大動脈瘤はhigh riskとなる前に積極的に手術すべきである.
  • 鈴木 力, 石崎 悦郎, 田中 陽一, 武田 信夫, 田中 申介, 植木 秀任, 片柳 憲雄, 藍沢 喜久雄, 西巻 正, 田中 乙雄, 武 ...
    1990 年 51 巻 5 号 p. 883-892
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    胃癌胃全摘術(全摘)施行例の術後長期にわたるquality of lifeを検討するため,アンケート調査(対象78例)および臨床成績の追跡調査(対象28例)を行った.アンケート調査では90%以上の症例が手術を受けたことに満足感をいただいており,ほぼ満足できる結果であったが,一方では術後5年以上の長期経過例も含め,種々の愁訴・不満を訴えた症例が過半数を占めていることも明らかになった.臨床成績の追跡調査結果では訴えた症例が過半数を占めていることも明らかになった.臨床成績の追跡調査結果では貧血の発生が重要な問題と考えられた.全摘例のquality of life向上のためには,種々の胃切除後障害が患者の日常生活に影響を及ぼしていることを念頭におき,患者一人,一人の状態に即した適切な対策を施しつつ,術後も長期にわたり経過観察を行うことが重要と考えられた.
  • 花立 史香, 片田 正一, 森 善裕, 林 外史英, 山田 哲司, 北川 晋, 中川 正昭
    1990 年 51 巻 5 号 p. 893-897
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2010/01/21
    ジャーナル フリー
    過去8年間に,大腸ポリープにたいして内視鏡的ポリペクトミーを施行した127例,180病変について検討した.ポリープの組織像は,腺管腺腫(66.1%)が最も多く,以下,腺管絨毛腺腫(17.8%),過形成ポリープ(6.7%),腺癌(5.6%)で,多発例は19.0%にみられた.ポリープの大きさと癌化の関係は,1.0cm以上となると癌化率は急に高くなり,1.5cm以上では約半数が癌であった.癌(m, sm)の肉眼性状は,色調変化(発赤),粘膜構造の破壊などが認められたが,良性のものでも,径の増大につれ,粘膜に異常をきたしており,鑑別は困難であった.癌症例では,m癌に対しては1例が局所切除,4例がポリペクトミーで経過観察,sm癌に対しては1例がポリペクトミーのみ,4例が腸切除の適応となったが,全例再発を認めていない.
  • 裏川 公章, 磯 篤典, 山口 俊昌, 中本 光春, 田中 宏明, 五百蔵 昭夫, 川北 直人, 西尾 幸男, 植松 清, 安積 靖友
    1990 年 51 巻 5 号 p. 898-903
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    40歳未満の若年者大腸癌の臨床・病理学的特徴,予後などについて検討した.昭和62年12月までの過去12年間に経験した40歳未満の若年者大腸癌は272例中9例(3.3%)と40歳以上から75歳未満の壮年者79.5%, 75歳以上の高齢者17.2%より低率であった.男女比は1.3:1,平均病悩期間は4.5ヵ月であった.3等親以内の家族内癌発生頻度は66.7%と高齢者群の29.2%より高率であった(p<0.05).若年者に特徴的な臨床症状はなく,組織型は低分化腺癌と粘液癌が計44.4%と壮年・高齢者群より高率であった(p<0.05).壁深達度はs以上が3群ともに65%以上あり,リンパ節転移率,ly陽性率,v陽性率は各群で差がなかった.DukesのA分類が若年者で33.3%と壮年者の11.4%より高率であった(p<0.05).治癒切除例の5年生存率は若年者で66.6%と高齢者より高率であった(p<0.5).以上,若年者大腸癌の進行度は対照群より軽度で,予後も高齢者群より良好であった.
  • risk factorと遠隔成績を中心に
    関根 毅, 竹吉 泉, 須田 雍夫
    1990 年 51 巻 5 号 p. 904-911
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2010/01/21
    ジャーナル フリー
    70歳以上の高齢者大腸癌手術症例122例について,risk factorと遠隔成績を中心に69歳以下の症例358例と対比,検討した.術前合併症では腫瘍によるイレウスは26.2%,全身性疾患としての高血圧症は41.0%で最も多く,ついで,心血管疾患は32.8%,糖尿病は18.0%,呼吸器疾患は9.8%にみられた.術前検査による術前全身状態では赤血球数350万以下,Hb 10.0g/dl以下は24.6%, 35.2%,クレアチニン・クリアランス70ml/min以下は58.2%で,いずれも69歳以下に比べて高率にみられた.肺機能検査では閉塞性障害は30.4%で69歳以下に比べて有意に高率であった.治癒切除耐術症例75例において,3年生存率,5年生存率は結腸癌では77.5%, 63.7%,直腸癌では54.6%, 50.7%で他病死を除くと前者では83.9%, 73.7%,後者では64.5%, 58.7%であり,69歳以下の生存率に近接し良好な生存率を示した.以上の成績から,risk factorとしての術前合併症,術前全身状態を把握するとともに,積極的に根治性を目指した手術,さらに術後の慎重な全身管理をはじめとする経過観察が重要であると思われた.
  • 水谷 伸, 宗田 滋夫, 竹中 博昭, 小川 法次, 竹内 幸康, 森 匡
    1990 年 51 巻 5 号 p. 912-916
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    最近当科で経験した胆嚢隆起性病変手術例25例につき検討した.これらの病理学的診断の内訳は,コレステロールポリープ15例,腺筋腫4例,腺腫3例,腺癌3例であった.コレステロールポリープは全例12mm以下であり,腺癌は全例10mm以上であった.また,コレステロールポリープ15例中13例が多発例であったが,他の疾患では10例中8例が単発例であった.エコーパターンでは,コレステロールポリープは15例中10例が高輝度を呈し,腺筋腫,腺腫,腺癌は全例実質性エコーを呈した.胆嚢隆起性病変の手術適応は,病変の大きさ,個数,エコーパターンが参考になるが,明らかにコレステロールポリープと診断できるもの以外は,積極的に手術を施行すべきと思われた.
  • 鈴木 一郎, 正津 晃, 井上 宏司, 中島 功, 猪口 貞樹, 上田 守三, 大谷 泰雄, 三冨 利夫, 相川 浩幸, 重田 定義
    1990 年 51 巻 5 号 p. 917-924
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    東海大学病院開設以来14年間に散弾銃銃創8例を経験した.8例とも男性で,事故による被弾であり,全例に入院を要した.2例は血気胸のため胸腔ドレーンを挿入,1例は視神経に隣接した散弾による視力障害のために開頭術,1例は膝関節貫通損傷にて大腿骨・経骨の部分切除を行った.死亡例はない.試験開胸や試験開腹術を要した症例はない.
    1例は創感染を生じたが治療により改善し,他の7例には早期・晩期のいずれにおいても感染はなかった.
    体内に残留した散弾の完全除去は非常に困難であり,しかも不必要である.ただし,鉛は関節滑液に溶解しやすく,周囲組織に沈着しやすいので,関節内の散弾や関節周囲の偽嚢胞は除去しなければならない.
    体内遺残散弾による急性鉛中毒は非常に稀であり,受傷後最長13年8ヵ月を経過しているが,未だ本症を疑わせる症例はない.
  • 外傷性十二指腸破裂の1治験例
    千福 貞博, 岡島 邦雄, 曽我部 俊, 大西 律, 清水 勉
    1990 年 51 巻 5 号 p. 925-929
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    29歳,男性の鈍的腹部外傷による十二指腸破裂の1例を経験した.受傷後24時間で,消化管穿孔を疑い,水溶性造影剤による消化管造影を施行,外傷性十二指腸破裂と診断した.当人が「エホバの証人」であり,術前に輸血拒否の申請をしたため,これを承諾,手術を行った.術中所見では,十二指腸は第II部が離断された状態で修復不能と判断,膵頭十二指腸切除術を施行した.出血量は300mlで,輸血することなく術後90日目に退院した.鈍的な腹部外傷による十二指腸破裂の診断は困難であり十二指腸の損傷が疑われる症例では積極的に水溶性造影剤による造影を行うべきと考えられた.また,「エホバの証人」に対する輸血の問題については,患者が成人で輸血拒否の明瞭なる意志表示をし,医師の責任を問わないという承諾書を確保した場合,輸血をしないために死亡したとしても,また,患者の意志に反して輸血を施行したとしても法的に問題となることはないものと解釈された.
  • 症例報告および免疫組織化学的検討
    紅林 淳一, 饗場 庄一, 塩崎 秀郎, 松本 弘, 池谷 俊郎, 鯉淵 幸生, 狩野 貴之, 新開 紘子, 小山 徹也, 域下 尚
    1990 年 51 巻 5 号 p. 930-936
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    術前の血中サイクログロブリン(Tg)が高値を示した甲状腺未分化癌2例の臨床経過ならびに,Tg,ビメンチン及びケラチンに対する免疫組織化学的検討結果について,文献的考察を加えて報告する.症例は75歳の女性と69歳の男性で,大きな前頸部腫瘤と嗄声を主訴とし来院し,術前に肺転移が認められた.原発巣のreduction surgery,局所への照射及びadriamycin (ADM)を軸とした化学療法を施行した.前症例において,ADMは肺転移に対し奏効を示した.また,2例とも術後に血中Tg値は正常化した.一方,免疫組織化学的には,未分化癌細胞は2例ともTg陰性,ビメンチン及びケラチンはともに陽性であった.2例ともTg陽性の分化癌を合併しており,血中Tgはこの分化癌より流出したか,または腫瘍により甲状腺濾胞が破壊されて流出したと考えられた.甲状腺未分化癌における分化のマーカーに対する免疫組織化学的検討はその病因を考える上で有用であると考えられた.
  • 高橋 広, 阿部 康人, 木村 茂, 永井 勲
    1990 年 51 巻 5 号 p. 937-940
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    頸部巨大リンパ節転移から発見された不顕性甲状腺癌の1例を経験した.症例は61歳男性.左鎖骨上窩腫瘤を主訴に来院.腫瘤摘出により甲状腺癌の頸部リンパ節転移と診断された.5日後,甲状腺左葉切除,R1リンパ節郭清を施行した.その後,頸部所属リンパ節,頸部,前胸部皮下組織,上縦隔,胸骨,肺に再発転移をきたし,肺を除く再発転移巣に対して計11回摘出術を施行した.現在,初回手術後7年6ヵ月になり両肺転移を認めるも担癌生存中である.再発甲状腺癌に対する積極的な外科切除に加え,初回治療方針の重要性を強調した.
  • 宗田 滋夫, 森 匡, 水谷 伸, 小川 法次, 竹内 幸康, 竹中 博昭, 上池 渉
    1990 年 51 巻 5 号 p. 941-945
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    進行乳癌の治療は現在なお困難な問題点が多い.最近,日生病院外科にて腋窩に浸潤した進行乳癌の1例を経験した.症例は38歳女性で,5年前に右乳房の腫瘤が出現,次第に増大し潰瘍を形成,右上肢の浮腫・硬化が著明となり来院した.入院時の血管造影では腫瘍は右腋窩静脈に浸潤し,骨シンチグラムでは第3, 4, 5肋骨に転移が疑われた.T4, N3, M1 Stage IVであった.CAFによる化学療法を7クール施行し,またこの間免疫療法・ホルモン療法も合わせ行い,腫瘤の縮小を認めた後手術を行った.手術は腫瘤を胸壁を含め,広範囲に切除後,胸壁再建にレジン板を用い,この上にdermal flap, omental flap, mesh skin graftを行った.組織学的所見は浸潤性乳管癌,充実腺管癌型であった.術後9ヵ月の現在,局所再発の兆候なく健存である.
  • 室井 正彦, 吉田 操, 大村 光浩, 門馬 久美子, 榊 信広, 永井 鑑
    1990 年 51 巻 5 号 p. 946-950
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    乳癌の遠隔転移のうち,消化管転移は比較的少なく,食道への転移は稀である.乳癌切除術後8年目に食道転移をきたした症例を経験した.転移性食道腫瘍に関して文献的考察を加えて報告する.症例は,63歳,女性.食物のつかえ感,嚥下困難を主訴に来院.頸部食道のスムースな狭窄で,生検組織診断は得られなかった.既往に8年前,右乳癌で非定型乳房切除術を施行.右外上,20×20×12mm, adenocarcinoma scirrhosum,n0 (0/11), t1n0m0 stage I,術後治療はなかった.乳癌の再発所見はなく,粘膜下発育の食道悪性腫瘍の診断で手術施行した.病理診断では,腫瘤は粘膜下を主体に発育し,食道から気管まで浸潤が認められ,腺癌の組織像で,既往乳癌の切除標本組織像とよく合致することから,乳癌の再発転移と診断された.文献的にも乳癌食道転移は約1.0%にみられ,良性及び悪性の粘膜下腫瘍との鑑別が重要である.乳癌の既往歴のある食道狭窄は,その転移再発も考慮して治療する必要がある.
  • 浅岡 峰雄, 石井 正大, 日比 健志, 酒井 喜正, 細野 二郎, 大浜 寿博, 木村 次郎, 井上 総一郎, 市原 利彦, 守屋 斗人, ...
    1990 年 51 巻 5 号 p. 951-954
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    気管形成の合併症予防のため大網被覆を行った1例を経験した.患者は60歳,女性.甲状腺癌に対する手術を既に2回うけている.今回,呼吸困難を主訴として来院した.緊急気管切開を行った後,根治手術を行った.輪状軟骨を含めて気管を約4cm管状に切除し,食道の筋層も合併切除した.気管および喉頭を受動した後端々吻合した.また,右胃大網動脈を温存した有茎大網を作製し,胸骨後経路で頸部に引き上げ吻合部を全周被覆した.こうして吻合部と食道,頸動脈とを隔離した.術後の経過は順調で,一過性の反回神経麻痺も約2週間で改善し,気管切開カニューレも抜去でき,元気に社会復帰している.
  • 西沢 直, 鈴木 一郎, 白松 一安, 小林 純, 寺嶋 雅史
    1990 年 51 巻 5 号 p. 955-959
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    6歳女児,心雑音を主訴として入院した.単純胸部X線写真,心電図と腹部諸検査の結果,全内臓逆位と鏡像型右胸心が判明した.心臓カテーテル検査は大伏在静脈より行った.カテーテルは心臓後方から奇静脈,上大静脈を通過して右心室まで到達したが,肺動脈には入らず,カテーテルを右上腕静脈より,挿入して肺動脈まで到達した.右心房レベルで酸素飽和度の上昇を認め,左→右短絡率約56%の心房中隔欠損であった.以上の結果,全内臓逆位,鏡像型右胸心,下大静脈-奇静脈連結を伴う心房中隔欠損と診断した.根治術は完全体外循環下で行った.手術所見では右心耳の位置異常と下大静脈は肝静脈に連結しているのみであった.下大静脈の脱血カニューレの固定は不安定で,吸引回路で対処し,心房中隔欠損は直接閉鎖した.術後は良好な経過で全治退院した.
  • 宮本 伸二, 葉玉 哲生, 高崎 英巳, 森 義顕, 岡 敬二, 重光 修, 藤島 公典, 木村 龍範, 辛島 賢治, 内田 雄三, 調 亟 ...
    1990 年 51 巻 5 号 p. 960-964
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    重複大動脈弓は比較的まれな血管奇形であり,その成人例は本邦では11例しか報告されておらず,そのうち3例に手術が行われているにすぎない.
    症例は嚥下困難を主訴とする27歳の男性である.食道造影で右後方よりの圧排所見があり,胸部CTにて両側弓開存型の重複大動脈弓及び左上大静脈遺残と診断した.手術は左後側方開胸にて行い,左動脈弓が右に比してやや細いと判断しこれを切断した.術後,嚥下障害は著明に改善し,合併症もなく良好に経過した.
    成人の重複大動脈に対する手術適応は未だ定まっていないが,加齢に伴い動脈硬化が症状を進行させ,手術時の危険性が増すと考えられ,本症例のように症状の比較的強い若年者においては手術適応があると考える.
  • 小笠 延昭, 山下 長司郎, 佐藤 達朗, 今井 雅尚, 小澤 修一, 岡田 昌義, 中村 和夫, 守殿 貞夫
    1990 年 51 巻 5 号 p. 965-970
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    73歳の男性で,右萎縮腎・左腎癌を伴う高度の腎機能障害を合併した腹部大動脈瘤の症例を経験した.大動脈瘤は腎動脈分岐部末梢より総腸骨動脈にかけて存在し,最大横径は8cmであった.右腎は高度に萎縮していた.代償性に肥大した左腎の中央部に径3cm大の悪性腫瘍の存在が判明したが,実質内に限局していた.患者のquality of lifeを考慮し,腎摘出術は行わず,Y型人工血管置換術と腎腫瘍核出術を一期的に行い,良好な結果が得られた.術後管理では3,000~6,000ml/dayの大量輸液投与と利尿剤の持続静注を行い,血液透析することなく腎機能を温存することができた.
  • 竹内 幸康, 森 匡, 水谷 伸, 小川 法次, 宗田 滋夫
    1990 年 51 巻 5 号 p. 971-974
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2010/01/21
    ジャーナル フリー
    症例は30歳の女性で,28歳時,食道アカラシアと診断され,Thal-旗福法により手術を施行された.30歳時,妊娠6ヵ月より食物の胃内停滞が著明となった.妊娠9ヵ月で経腟分娩にて出産した.分娩直後より左胸背部痛が出現し,呼吸困難と血圧低下をきたした.胸部X線検査にて横隔膜ヘルニアと診断し緊急手術を行った.食道裂孔左側の〓開した横隔膜の瘢痕創より,緊満した胃及び大網が左胸腔内に脱出し心臓を圧排していた.幽門部には器質的狭窄を認めなかった.手術後は手術直前の数分間の心停止のため,失外套症候群となった.Thal-旗福法は,術後人工的な食道裂孔ヘルニアとなる.妊娠と緊満した胃が腹圧を著明に上昇させ横隔膜ヘルニアが生じたものと考えられた.妊娠を希望する食道アカラシアの患者に外科治療を行う場合は,横隔膜を切開しない術式が望ましい.横隔膜を切開する術式で,迷走神経損傷が疑われたときは,幽門形成術を追加すべきである.
  • 酒井 章次, 洪 淳一, 山本 修美, 橋本 光正, 細田 洋一郎, 椎名 栄一, 川村 貞夫
    1990 年 51 巻 5 号 p. 975-979
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    後天性食道気管支瘻は食道癌に伴って起こることはよく知られているが,憩室に伴う食道気管支瘻は比較的まれである.本症例は66歳,女性で,55歳時に嚥下困難があったが肺化膿症および食道アカラシアの診断で放置していた.66歳になり嚥下困難,発熱,体重減少,背部痛があり当院に入院した.食道鏡により上部食道に発生した食道憩室を認めた.食道憩室造影から食道憩室と右肺上葉との連絡がみられた.この食道憩室造影所見から上部食道憩室の胸腔内破裂により生じた後天性食道気管支瘻と考えられた.
  • 斎藤 雅之, 加納 宣康, 山田 直樹, 和田 英一, 松波 英一
    1990 年 51 巻 5 号 p. 980-988
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    十二指腸Brunner腺腫を合併し腫瘍内に石灰化ならびに骨化巣を有した胃平滑筋肉腫の1例を経験した.症例は66歳.男性.腫瘍は胃体上部前壁にあり径120×80×70mmでSkandalakis分類の混合型を示した.石灰化の診断において超音波検査ならびにCT検査が有用であった.組織所見では骨芽細胞に囲まれた層状骨の形成を認めた.本邦における石灰化随伴胃筋原性腫瘍の報告は22例にすぎない.その平均腫瘍径は47mmで大きくはなく,性差では男性:女性が6:14と女性に多いのが注目された.また,石灰化の機序に何んらかの内分泌因子の関与が考えられた.さらに,両腫瘍の発育に未知のhumoral activatorの関与した可能性があると考えられた.
  • 西田 広一郎, 梅北 信孝, 松峯 敬夫, 佐々木 仁也
    1990 年 51 巻 5 号 p. 989-992
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    症例は55歳男性.13年前,食道癌の診断のもとに食道亜全摘,胸骨後食道胃管吻合術,術後照射を施行されたが,最終診断は平滑筋腫であった.今回,胸痛と嚥下困難を主訴に受診し,精査にて再建胃管の胃癌の診断を得て,胸骨正中切開,開腹により,胃管切除,右結腸による胸骨後食道再建を行った.
    食道癌手術の再建術式として胸骨後再建が主流であるが,胸骨後再建後の挙上胃管に発生した癌は稀であり,現在まで8例の報告があるのみである.その術後成績は不良であり,診断,術式について文献的考察を加え報告した.
  • 佐々木 俊治, 内田 雄三, 友成 一英, 藤島 宣彦, 村上 信一, 久保 宣博, 柴田 興彦, 葉玉 哲生
    1990 年 51 巻 5 号 p. 993-996
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    胃の腺扁平上皮癌は稀で,さらに残胃空腸吻合部の腺扁平上皮癌は極めて稀である胃切除術後31年を経て残胃空腸吻合部に発生した腺扁平上皮癌の1例を報告する.
    症例は57歳男性で,31年前に十二指腸潰瘍に対し幽門側胃切除術並びに胃空腸吻合術(Billroth II)を施行されていたが,心窩部痛を主訴に当院受診した.諸検査の結果,残胃空腸吻合部癌の診断のもとに残胃全摘術,膵・横行結腸合併切除術を施行した.
    残胃空腸吻合部の浸潤潰瘍性の腫瘍は,5.5×4.0cm大で,病理組織学的には,腺扁平上皮癌であった.本症例は,肝転移及び癌性腹膜炎を発症し術後6ヵ月で癌死した.
  • 安永 昭, 柴田 興彦, 久保 宣博, 友成 一英, 葉玉 哲生, 内田 雄三, 調 亟治
    1990 年 51 巻 5 号 p. 997-1001
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    放射線治療後の腸管障害に対し外科的治療を行った5例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告した.
    症例はいずれも婦人科領域の悪性疾患に対し放射線治療が行われており,その照射線量はいずれも5,000rad以上で,とくに放射線治療のみの1例は9,611radの照射を受けていた.照射より発症までの期間は最短8ヵ月より最長20年とさまざまであったが,1年以内に発症した症例3例であった.
    症状としては,3例がイレウス症状で,残りの2例は消化管穿孔にて緊急手術が行なわれた.手術術式としては,1例を除きすべてに腸切除ならびに一期的吻合術を行い,2例に予防的人工肛門造設をおこなった.
    放射線による障害を受けた腸管の一期的切除・吻合を行うに際しては病変部より充分に離れた部位で行い,予防的人工肛門造設,さらには組織反応の少ない縫合糸を用いることが重要と考えられた.
  • 村上 文彦, 蜂須賀 喜多男, 山口 晃弘, 磯谷 正敏, 久世 真悟, 真弓 俊彦, 近藤 真治, 塩見 正哉, 新美 教弘
    1990 年 51 巻 5 号 p. 1002-1005
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    大腸Crohn病で穿孔をきたした稀な1例を経験したので報告する.症例は44歳女性,横行結腸からS状結腸にわたる大腸Crohn病として当院消化器科で通院治療を受けていた.急激な腹痛を主訴に来院し,理学的所見により腸管穿孔による汎発性腹膜炎と診断され,緊急手術を行った.穿孔部は横行結腸であり横行結腸を部分切除した.病理組織学的にもCrohn病の所見であった.術後吻合部の瘻孔と上行結腸の膿瘍を形成したため病変部を二期的に切除した.大腸Crohn病の穿孔例は本邦では9例の報告がある.
  • 岡田 和也, 岩松 正義, 西野 豊彦, 筑波 貴与根, 清水 力, 松尾 和俊
    1990 年 51 巻 5 号 p. 1006-1009
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2010/01/21
    ジャーナル フリー
    盲腸癌を先進部とし,総腸間膜症を伴った成人腸重積症の1例を経験したので報告する.
    症例は72歳女性で,主訴は右側腹部痛.同部に腹瘤を触知し,注腸造影や超音波検査により腸重積症と診断し開腹した.横行結腸中央部に先進部がある結腸結腸型の腸重積症で,整復を行つたところ盲腸から上行結腸下半分までが後腹膜に固定されておらず,総腸間膜症(mesenterium ileocecale commune)の合併と判断された.盲腸に腫瘤様硬結を触知したため,悪性腫瘍の可能性を考慮して右半結腸切除術を施行した.腫瘍は長径3.5cmのBorrmann 2型,中分化型腺癌であった.
  • 小川 佳成, 石川 哲郎, 池原 照幸, 妙中 直之, 藤本 泰久, 奥野 匡宥, 曽和 融生, 梅山 馨, 三橋 武弘, 武田 温裕, 加 ...
    1990 年 51 巻 5 号 p. 1010-1014
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    症例は77歳,女性.下血を主訴に近医受診し,直腸腫瘤を指摘され同部の組織生検に症例は77歳,女性.下血を主訴に近医受診し,直腸腫瘤を指摘され同部の組織生検に medium size cell type であった.免疫組織学的にはIgA,λが陽性でKi67の陽性率は8.7%であった.自験例はDawsonの定義による直腸原発悪性リンパ腫であり,絶対的治癒切除が可能であった.術後6ヵ月目の現在再発の徴候なく,外来通院中である.直腸に発生する悪性リンパ腫は稀で本邦報告例は1934年の久留らの報告以来,自験例を含め75例集計しえた.それらの男女比は1:1.1で,平均年齢は62.5歳と高齢者に多かった.治療については初診時腫瘍の大きさが5cmを越えるものが約半数を占め進行例が多いこと,治癒切除例でも早期死亡例が認められることなどから,より有効な化学療法や放射線療法の併用についても検討する必要があると思われた.
  • 鳥井 彰人, 末永 裕之, 鈴木 祐一, 小寺 泰弘, 禰宜田 政隆, 谷口 健次, 稲垣 均, 竹下 洋基, 余語 弘
    1990 年 51 巻 5 号 p. 1015-1018
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2010/01/21
    ジャーナル フリー
    肝葉形成不全はまれである.われわれはS状結腸癌の肝転移をともなった肝左葉形成不全の1例を経験したので報告する.症例は55歳の男性.主訴は下腹部膨満感.注腸透視の結果,S状結腸癌と診断したが, CT (computed tomography)で多発性の肝転移を認めるとともに胆嚢左側に左葉に相当する臓器を認めず,シンチグラム,血管造影所見もあわせて,肝左葉形成不全と診断した.手術は結腸切除および固有肝動脈内動注用カテーテル留置を行ったが,術中の観察で,肝鎌状間膜より左側の肝外側区域は膜様に存在するのみで肝実質は認めず,また術中胆道造影でも胆管左枝は存在するもののほとんど分枝をともなっておらず,術前診断どうり左葉形成不全と診断した.
  • 治療方針についての検討
    河野 哲夫, 山本 正之, 飯室 勇二, 井上 慎吾, 吉岡 正和, 飯塚 秀彦, 三浦 和夫, 菅原 克彦
    1990 年 51 巻 5 号 p. 1019-1025
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    最近経験した外傷性中心性肝破裂4例に対しその治療方針について検討した.症例は9歳から48歳,男3例女1例であり,受傷原因は交通事故であった.診断,外傷後の経過観察はCT, USで行った.3例はショック状態に陥ることなく保存的治療で軽快した.1例は中心性肝破裂以外に外側,内側区域に部分的離断がみられショック状態を呈したので緊急開腹した.外側区域部分切除と内側区域裂傷部縫合により腹腔への出血を防止し肝内血腫は経過観察とした.しかし術直後に肝内血腫が破裂したため再開腹し肝部分切除術を施行した.術後11日目に内側区域内血腫が外側区城切離端に破綻したが,2回目と同様の手術を施行し順調に回復した.外傷性中心性肝破裂に対して生命徴候が正常である限り保存的治療が第一選択であるが,大血管と交通がある場合には早期肝破裂を,胆汁漏出が残る場合には遅発性肝破裂を起こす可能性があり,血圧,脈拍などの生命徴候およびCT, USによる厳重な経過観察が必要である.
  • 宮崎 卓哉, 有田 峯夫, 有田 英二, 富田 康彦, 清水 哲, 南出 純二, 孟 真, 竹鼻 敏孝, 北村 創
    1990 年 51 巻 5 号 p. 1026-1030
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    腹部USにて肝腫瘤を指摘され,原発性肝癌との鑑別が困難であった肝血管筋脂肪腫の1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.症例は52歳女性で,腹部腫瘤精査目的にて来院.自覚症状および入院時一般検査所見に異常なし.腹部USおよびCT上,肝右葉後下区域を中心に径約5cm大の占拠性病変を認めた.また,腹部血管造影では同区域にA-V shuntを伴う腫瘍濃染像を認めた.さらに,術前の細径針を用いた針生検では細胞診class V,組織診EdmondsonのGrade II~IIIと診断された.以上より,肝細胞癌の診断のもとに開腹し亜区域切除を施行した.摘出した腫瘍は3×6×7cm大の卵円形で,明かな被膜はないが肝組織との境界は明瞭.割面は多彩で,脂肪組織,出血巣,灰白色組織で占められていた.組織学的には,成熟した脂肪細胞を含む良性腫瘍で肝血管筋脂肪腫の診断であった.
  • 佐尾山 信夫, 吉田 冲, 増田 裕, 津田 洋, 乾 浩三, 河田 健介, 先山 正二, 深田 義夫, 大浦 正博
    1990 年 51 巻 5 号 p. 1031-1037
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2010/01/21
    ジャーナル フリー
    気腫性胆嚢炎の2例を経験したので,本邦報告81例を加え文献的考察を行った.
    症例1は93歳,男性で右季肋部痛,嘔吐,発熱にて,症例2は70歳,主婦で繰り返す症例1は93歳,男性で右季肋部痛,嘔吐,発熱にて,症例2は70歳,主婦で繰り返すレナージ術が,症例2は胆嚢摘出術が施行された.2例とも結石はなく,胆汁よりE. coli が症例1にP. aeruginosaが症例2に認められた,症例2は内視鏡的乳頭切開後に,消化管よりガス流入および細菌感染にて発症したもので,胆嚢内にガスが長期に存在していたと考えられた.
    本症の発生要因として,無石気腫性胆嚢炎の頻度が高いこと,胆嚢の壊疽,穿孔の頻度が高いこと,糖尿病,高血圧,心筋梗塞等の血管性疾患と胃切後に発症している例が多い点から,胆嚢壁の虚血性変化が重要と考えた.
  • 川口 廣樹, 岸本 宏之, 福井 甫, 池田 貢
    1990 年 51 巻 5 号 p. 1038-1042
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    右胸水を合併する膵疾患は,非常にまれである.今回,右胸腔内に大量の血性胸水貯留に伴う呼吸困難を主訴として受診した膵性胸水の1例を経験したので報告する.
    症例は,54歳,男性で,約10年前左胸部外傷および血胸があり,1年後に,慢性膵炎,膵尾部嚢胞,胃蜂窩織炎との診断で他院にて,胃切除術,膵尾部切除,脾摘を受けた既往がある.アミラーゼ分画がP型を示し,腹部症状,腹部所見は殆ど見られなかったが,胸水中のアミラーゼ値が高値を示したことから,膵性胸水を強く疑い,開腹術を行って,膵床ドレナージ,胸腔への内瘻と思われる索状物を結紮切断することによって治癒した症例を経験した.
  • 岩瀬 弘敬, 小林 俊三, 柄松 章司, 松尾 康治, 福岡 秀樹, 伊藤 由加志, 正岡 昭
    1990 年 51 巻 5 号 p. 1043-1046
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2009/05/26
    ジャーナル フリー
    低血糖症に対する盲目的膵体尾部切除に際して血中インスリンの術中迅速測定を試みた.測定は市販のインスリンEIAキットの反応時間を短縮した迅速法により行った.迅速法の変動係数は標準治に比しやや高いものの,両者によって得られたインスリン値は相互に良好な相関性を示した.
    局在不明のインスリノーマもしくはβ細胞過形成が疑われた35歳の低血糖症の女性に膵尾側切除術を施行した.膵触診時の高インスリン値,脾静脈結紮に引き続く明かな低下,さらに70%膵尾側切除後の測定感度以下の低値が,この術中迅速測定によって確認できた.切除膵にはインスリノーマやβ細胞造形成は認められず低血糖症の病因は決定できなかった.しかしながら,術後患者の低血糖状態は明かに改善し,術後は軽い糖尿病状態となった.
  • 中谷 公一, 笠原 洋, 浦田 尚巳, 今野 元博, 森下 明彦, 上田 省三, 園部 鳴海, 中尾 稀一, 竹本 雅彦, 山田 幸和, 田 ...
    1990 年 51 巻 5 号 p. 1047-1051
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2010/01/21
    ジャーナル フリー
    症例は大量飲酒歴のある58歳男性で,画像診断で多発膵嚢胞と膵石がみられた.慢性膵炎と診断し,1989年1月9日に開腹した.手術においては膵機能保全を目的とした.5コの嚢胞を認め,膵尾部脾切除で2コの嚢胞を切除した.主膵管は長軸方向に切開し,同管内の広範囲の膵石除去に続いてRoux-Y脚を用いて膵空腸吻合を行った.膵頭部から体部の2コの嚢胞も同吻合に含めた.膵頭部残存嚢胞には内面上皮を硬化するために95%エタノール注入を行った.組織学的に膵管由来の貯留嚢胞と慢性膵炎と診断された.患者は胃潰瘍出血で再手術を受けた.その胃切除時に膵頭部のエタノール注入嚢胞はすでに縮小していたが,膵鉤部に他の嚢胞がみられ,これもエタノール注入で処置した.患者はさらに小腸イレウスのため開腹したが,その時にはこれらの嚢胞も消失していた.術後10ヵ月でCT上嚢胞消失がみられている.
  • 嚢胞腺癌の術前診断および手術術式について
    及川 郁雄, 平田 公一, 古畑 智久, 服部 直樹, 唐沢 学洋, 相沢 誠, 長谷川 格, 白松 幸爾, 早坂 滉
    1990 年 51 巻 5 号 p. 1052-1056
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    当科で経験した膵真性嚢胞11例について検討した.内訳は嚢胞腺癌4例,嚢胞腺腫4例,リンパ管腫1例,貯留嚢胞1例,多発嚢胞症1例である.
    嚢胞腺癌を術前に診断することは,画像診断あるいは細胞診をもってしても困難であるが,嚢胞内容の腫瘍マーカー値の測定を加味することにより診断率の向上が期待される.
    嚢胞腺癌は予後良好であること,また,嚢胞腺腫から発癌する可能性があることから,腫瘍性嚢胞に対しては,原則として膵切除術を施行すべきであると考えられた.
  • 赤坂 義和, 中浜 貴行, 広田 有, 玉置 久雄, 谷川 寛自
    1990 年 51 巻 5 号 p. 1057-1062
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2010/01/21
    ジャーナル フリー
    大量下血を来した脾動脈瘤膵管内破裂の1例を経験したので報告する.症例は55歳男性,下血を主訴として来院.一般検血ではRBC 258×104/mm3, Hb 4.4g/dl, Hct 17.8%と著明な貧血を認めたが,上部消化管内視鏡検査,小腸造影及び注腸では出血源を思わせる所見を認めなかった.膵管造影で膵尾部に28×20mmの造影剤の貯留を認め,腹部血管造影では,脾動脈分岐部より3cm末梢に13×11mmの動脈瘤を認めたが,extravasationや膵に腫瘍濃染像は認めなかった.脾動脈瘤及び膵嚢胞性腫瘍の術前診断にて,脾動脈瘤を含め脾合併膵体尾部切除を施行.摘出標本では,嚢胞性腫瘍はなく脾動脈は嚢状に膵内にむかって拡張しその内腔に血栓を入れ壁の一部は極めて薄く,膵管との交通が認められた.術後経過良好.
    脾動脈瘤の膵管内破裂例は現在まで本邦では8例の報告をみるにすぎず,極めてまれな疾患であるが,原因不明の消化管出血に対しては本症も念頭において検索すべきである.
  • 小林 薫, 八代 亨, 鈴木 章, 真鍋 嘉尚, 尾崎 修武, 伊藤 國彦
    1990 年 51 巻 5 号 p. 1063-1067
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    腎癌による転移性甲状腺癌の2例を経験した.病理学的診断は2例とも明細胞癌であり,サイログロブリンの免疫染色で甲状腺原発の明細胞癌と鑑別が可能であった.腎癌の甲状腺転移には転移巣の摘除で良好な予後の得られる症例がある.
    症例1は71歳の女性で甲状腺左葉に結節を有していた.甲状腺の手術後,転移性の明細胞癌と診断され,原発巣は左腎癌と判明した.左腎摘除を行い,その後3年間再発なく良好に経過している.
    症例2は69歳の男性で甲状腺右葉に結節を有していた.9年前に腎癌で右腎摘除を施行していた.甲状腺右葉切除を行い,腎癌の甲状腺転移と確認した.3年後腎癌の全身転移にて死亡した
  • 三方 律治, 今尾 貞夫, 加藤 温
    1990 年 51 巻 5 号 p. 1068-1072
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2009/04/21
    ジャーナル フリー
    70歳の男性が,3月続く消化器症状を訴えて来院した.胃内視鏡で異常なく,腹部超音波走査で偶然右腎に腫瘍を発見した.DIP, X線CT及び血管造影で右腎癌と診断し,腎摘出術を行った.術後肺生検で腎癌の肺転移と組織学的に診断された.この症例を呈示すると共に,過去に報告した画像診断で偶然に発見された無症状腎癌9症例を併せて検討し,無症状腎癌のスクリーニング法としての画像診断法について考察を加える.
  • 辻村 享, 岩瀬 克己, 篠田 繁博, 稲垣 朝子, 宮川 秀一, 川瀬 恭平, 三浦 馥
    1990 年 51 巻 5 号 p. 1073-1079
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2010/01/21
    ジャーナル フリー
    副腎髄質原発神経節神経腫の1手術例を報告する.症例は,25歳男性.肝病変の精査中に右腎上部に腫瘤を発見された.自覚症状なく,血液・尿検査でも内分泌学的異常は中に右腎上部に腫瘤を発見された.自覚症状なく,血液・尿検査でも内分泌学的異常は由来腫瘍が疑われた.比較的大きな腫瘍で(術前の画像では径3.5cmだが),悪性の可能性も考え右副腎全摘術を施行した.摘出腫瘍は,充実性,5×4×3cmで,周囲は正常な副腎皮質に覆われ,一部残存する正常髄質に連続しており,組織学的には副腎髄質原発の神経節神経腫と診断された.
    副腎髄質原発神経節神経腫は,自験例を含め本邦報告23例と比較的少ない.成人発生23例と比較的少ない.成人発生例が多く,そのほとんどは内分泌非活性であり,自験例も切除標本の免疫組織化学的検索でもカテコラミン合成能はなかった.今後,本例発見の増加が予想され,髄質腫瘍相互の様々な分化の様相が明らかにされるものと考えられた.
  • 国崎 主税, 杉山 貢, 土屋 周二
    1990 年 51 巻 5 号 p. 1080-1085
    発行日: 1990/05/25
    公開日: 2009/05/26
    ジャーナル フリー
    内分泌非活性非機能性副腎皮質腺腫は,診断に困難を要する疾患であるが,最近診断技術の向上により臨床報告例は増加してきた.
    今回の症例は50歳の女性で,右季肋部痛と発熱を繰り返し入院となり精査をうけた.
    腹部単純X線像には,異常陰髪はなく腹部CTにより両側性の副腎腫瘍が認められた.
    また,各種ホルモン活性に異常は認められなかった.
    内分泌非活性非機能性副腎腫瘍と診断し摘出した.病理組織学的には,良性の副腎皮質腺腫であった.
    本疾患は,1961年に林らが報告して以来21例が報告されており本症例は第22例と考えられる.また,その定義は臨床的に症状がなく,かつ血中,尿中においてsteroidの増加の認めないものとされている.したがって生前に発見される症例は少なく,稀とされているので文献的考察を加えて報告した.
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