日本臨床外科医学会雑誌
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52 巻, 3 号
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  • 田中 猛夫, 北尾 忠寛
    1991 年 52 巻 3 号 p. 463-470
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    1989年中に癌疑診もしくは癌を否定し得ない乳腺腫瘤103例を切除した.そのうち癌は12例,乳腺症58.3%,繊維腺腫19.4%等であった.乳房撮影(MMG),超音波検査(US)の各所見について癌の診断基準に当てはまらない非典型的像を中心に検討し,次の結果を得た.「US」上,単なる形状不整は殆ど乳腺症.低エコー巣の中に高エコー斑を伴うもの,不明確・不確実陰影は要考慮.「MMG」上,非典型的石灰化巣・不明確陰影は要留意. 2検査上のこれら所見は小径癌の場合とくに重要である. 2検査の疑診度を良性?・癌?と分類し検討すると,よく相関し共に癌?の場合は癌腫である率が高い.この疑診度を互いに照合することにより試験切除か,経過観察かの判断に供し得る. MMGは有所見例ではUSよりも高い信頼度が得られたが若年者や小径癌では腫瘤所見の得られないものが多く限界があった.
  • 麻賀 太郎, 増沢 千尋, 吉田 明
    1991 年 52 巻 3 号 p. 471-477
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    乳癌占居部位の違いによる予後と,内側乳癌に対する胸骨旁(Ps),鎖骨上(Sc),リンパ節郭清の意義について検討した.
    占居部位にかかわらず,原則として,定型乳切を行なった1975~1982年の症例を対象に,占居部位別の生存率を検討した. 1983年以降T2以上の内側例を中心にPs郭清を, 1987年以降,進行内側例に対し,活性炭吸着アクラルビシン(ACR-CH)の乳腺内注入後にPs, Sc郭清を行い,その有用性について検討した.
    占居部位別の生存率を比較したところ,内側は外側に比べ有意に悪かった.内側はPs, Sc再発が多く,これが内側の生存率を下げる原因であろうと考えられた. Ps転移(+)例に対して, Ps郭清が生存率の向上に寄与したと考えられた症例は2例のみであり. Ps郭清例49例中の約4%にすぎなかった. ACR-CH注入,拡大乳切(Ps, Sc)の治療成績は現在のところ良好であり,本法により生存率の向上が期待された.
  • 佐野 真, 木村 忠広, 花井 厳人, 白石 天三, 篠原 正明, 水野 義久, 坂野 哲哉, 松本 純夫, 吉崎 聰
    1991 年 52 巻 3 号 p. 478-482
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    腹部大動脈瘤(以下AAA)待期例に対するY型人工血管置換術は比較的安全性の高い手術であるが,近年,適応の拡大から高齢者, high risk症例が増加する傾向にある.当教室では1978~1989年迄のAAA待期手術46例につき転帰により早期死亡,晩期死亡,生存の3群に分け年齢,瘤最大径,手術時間,出血量及び術前危険因子に対する比較を行った.術前危険因子の評価法として点数制による7項目(I心機能, II腎機能, III呼吸機能, IV脳血管障害, V高血圧, VI糖尿病, VII高脂血症)からなるrisk index score (RIS)を用いその妥当性について検討を行った結果,以下の結論を得た. (1) 3群間ではRISにのみ推計学的有意差を認めた. (2) RIS total scoreをhigh (H), moderate (M), low (L)の3群で生存率を比較するとHと他の2群, LとMの間で3年以降に有意差を認めた. (3)早期死亡は全例high RIS症例であった. (4) RISはhigh riskの客観的評価法として妥要性があると思われた.
  • 術前内視鏡的clipping併用の効果について
    古川 敬芳, 原 壮, 谷口 徹志, 所 義治
    1991 年 52 巻 3 号 p. 483-487
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    胃癌手術の際に適切な切除範囲を設定するために,術中超音波検査を行い,腫瘍の進展範囲とくに口側浸潤診断についてその有用性を検討した.癌腫は正常の胃壁にみられる5層構造の肥厚・断裂・破裂像として描出される.胃癌の描出率は,進行癌27例では全例描出されたが,早期癌では33例中20例(60.6%)であり,平坦型・陥凹型の早期癌で描出不能例が多かった.口側浸潤診断に関しては,組織学的進展範囲との差が5mm以内のものを正診とすると,進行癌では19例(70.4%),早期癌では19例(57.6%)が正診であった.そこで早期胃癌13例に対し,腫瘍周囲に術前内視鏡的にclipを装着したところ, clipは術中超音波にて高エコーに描出され,全例で腫瘍の部位診断が可能であった.この内, 8例は超音波にて腫瘍は描出されず, clipのみが描出された.術前内視鏡的clippingを併用した術中超音波検査は,術中胃癌の進展範囲を診断し,適切な切除範囲を決定する上で有用な手技である.
  • 田中 千凱, 大下 裕夫, 深田 代造
    1991 年 52 巻 3 号 p. 488-492
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    80歳以上高齢者胃癌手術例31例について,その特徴,治療成績,術前検査成績,術後合併症などについて検討した. 1) A領域の分化型進行癌が多く,切除率は90.3%,治癒切除率は64.3%であった. 2) 治癒切除群の5年生存率は59.3%,非治癒切除群の5年生存率は0%であった. 3) 術前の検査異常項目数が多い群と他臓器合併切除群に術後合併症の発生頻度が高く,術前検査異常と術後合併症の多い臓器は肺であった.また,高齢者に特有な術後精神病もみられ,手術成績の向上には肺合併症と術後精神病の予防および対策が大切である. 4) 高齢者では術後合併症と手術直死を防止できる個々の症例に応じたリンパ節郭清と切除範囲の決定が重要と考える.
  • 雷 哲明, 野田 尚一, 鹿野 奉昭
    1991 年 52 巻 3 号 p. 493-497
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    pm胃癌のうち5年以上生存した22例(A群)と3年内死亡した11例(B群)についてどのような因子が予後を左右するかについて比較検討した.性別,年齢,および組織型では差がなかった.癌の大きさではA群は比較的小さいものがB群は比較的大きいものが多い傾向がみられ,肉眼型ではA群は類進型がB群はBorrmann型が多く,固有筋層における癌浸潤の多寡についてはA群は浸潤の少ない症例(59%)がB群は浸潤の多い症例(64%)が多かったがいずれも有意差はなかった.占拠部位ではA群はM, C領域に多くB群はA領域に多かった(p<0.01).リンパ管侵襲ではA群はly0(55%), ly1(27%)が多くB群はly2(55%), ly3(9%)が多かった(p<0.05).リンパ節転移ではA群はn0が多く(68%), B群は全例がn (+)であり, n2以上は74%を占めていた(p<0.05).浸潤様式ではA群は井口のSUPER型が73%を占めるのに対しB群はPEN型が73%を占めていた(p<0.05).今井のCPL分類ではA群はC型が多く(77%), B群はP, L型が多かった(63%) (p<0.05).よってpm胃癌の予後に影響する因子として占拠部位,リンパ管侵襲,リンパ節転移および浸潤様式がもっとも重要と考えられる.
  • 平 康二, 熱田 友義, 伊藤 紀之, 菱山 豊平, 子野日 政昭, 西山 徹, 越湖 進, 加藤 紘之, 田辺 達三
    1991 年 52 巻 3 号 p. 498-503
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    Borrmann 4型胃癌44例の臨床病理学的検討を行った.男女比は1.10:1で平均年齢は53.8歳であった.胃全摘が77.3%, R2以上のリンパ節郭清が67.4%,および他臓器合併切除56.8%と多くの症例に拡大手術が施行された.腹膜播種は31.0%,肝転移は4.8%に認められた.組織型は低分化腺癌,深達度はse以上が多かった.組織学的リンパ節転移は73.1%に認められた.切除胃断端の癌浸潤陽性率は20.9%と高率に認められた. Borr mann 4型胃癌全体の予後は1年, 3年, 5年生存率がそれぞれ55.1%, 19.1%, 13.5%ときわめて不良であったが,治癒切除例と非治癒切除例の比較では1年, 3年生存率において治癒切除群の方が有意に良好であった. P1症例に対し転移巣を含めた胃全摘術を施行し, 5年生存1例を得た.以上から,根治性の期待できる症例には積極的に胃全摘術を含めた拡大手術を行うことにより,遠隔成績を向上できるものと思われた.
  • 腹腔膿瘍,汎発性腹膜炎症例を中心に
    寺田 克, 石曽根 新八, 百瀬 芳隆, 北原 修一郎, 浦山 弘明, 橋本 晋一, 本田 晴康, 安名 主, 幕内 雅敏
    1991 年 52 巻 3 号 p. 504-510
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    信州大学第1外科で1972年1月から, 1989年4月までに手術した小児虫垂炎症例80例中,明らかに膿瘍を形成している症例22例,汎発性腹膜炎を合併している症例19例について,治療法を検討した.膿瘍形成例では,虫垂切除とドレナージ13例(A群),虫垂切除と腹腔洗浄1例, 1回目の入院時抗生剤で炎症を抑えてから一定期間後に虫垂切除のみ行ったinterval appendectomyの例7例(B群),エコー下穿刺ドレナージ後虫垂切除のみ行った1例であった.汎発性腹膜炎例では,虫垂切除とドレナージ11例(C群),虫垂切除と腹腔洗浄8例(D群)であった.ドレナージを行ったA群13例中6例, C群11例中8例に創感染,遺残膿瘍,イレウスなどの合併症が認められた.これに対し, B群のinterval appendectomyの7例, D群の虫垂切除と腹腔洗浄の8例には合併症が認められず,入院期間,絶食点滴期間に短縮化の傾向があり,治療法として優れていると思われた.
  • 中山 肇, 更科 広実, 斎藤 典男, 布村 正夫, 横山 正之, 井原 真都, 井上 育夫, 小田 奈芳紀, 白井 芳則, 滝口 伸浩, ...
    1991 年 52 巻 3 号 p. 511-516
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    絨毛状腺腫は高度の悪性化能を有する腺腫性病変であり,しかも直腸原発の場合その術式の選択,すなわち局所切除にとどめるか,拡大根治手術を施行するか,判断に苦慮することが多い.そこで外科的に切除された直腸原発絨毛状腺腫12例を対象とし,その術前のX線,内視鏡, CEA値,直腸超音波内視鏡診断と術後病理所見とを検討し,外科治療上の指標を考察した.その結果,局所切除を適応とするm病変を示唆する所見として, 1) 腫瘍最大径5cmをこえない, 2) カーペット状型,ポリープ状型を示す, 3) 著しいびらん,もしくは潰瘍を認めない, 4) 生検上,癌巣部の採取される頻度が少ない,などであり,またsm以深の浸潤を示し拡大根治術適応を示唆する所見として, 1) 腫瘍最大径5cm以上, 2) ブーケット状型を示す, 3) 明らかなびらん,硬結,潰瘍をみる, 4) 生検上,ほとんどに癌巣部を認める,などが得られた.
  • 橋本 直樹, 琴浦 義尚, 芦田 寛, 石川 羊男, 宇都宮 譲二
    1991 年 52 巻 3 号 p. 517-520
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    17例の肝硬変症アミノ酸パターンは高芳香族アミノ酸(AAA),低分枝鎖アミノ酸(BCAA)血症を呈し,アミノ酸インバランスが認められた.また,膵内分泌動態は末梢血レベルでは対照に比し,高インスリン(IRI),高グルカゴン(IRG),低I/G血症を呈し,アミノ酸インバランスの成因にIRI, IRG, I/G比がどのように影響しているかを検討した. BCAAとIRI, IRG, I/G比の相関は認められなかった.しかしIRGはTyrとI/G比はAAA, Tryと負の相関が認められた.以上より高AAA血症は高IRGを伴うI/G比の低下すなわちcatabolic stateに起因しているものと考えた.
  • 胆石性状よりみた基礎的,臨床的検討
    星野 光典
    1991 年 52 巻 3 号 p. 521-529
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    胆嚢結石の種類による破砕状態の相違を検討するため,摘出した5種類の胆石80個に対し基礎的実験を施行した.胆石の破砕されやすさを2mm以下の破砕片の重量%で比較すると,純コレステロール石は最も破砕されやすく,混成石は破砕されにくい傾向がみられた.臨床では, 284例中50例に体外衝撃波破砕療法を施行した. 50例中18例(36%)が完全消失した. 20mm以下の単数結石で有意に消失率が高く,また超音波分類では,コレステロール石と推定されたものの消失率は40%で, CTで非石灰化症例は27例中13例(48.2%)において消失したが,石灰化症例でも21.7%の消失率を得た.破砕治療後の加藤らの分類では,微細片浮遊型は11例中10例が1回のみの施行であるが小破砕止沈澱型,大破砕片沈澱型では2回3回と治療回数が増加した.以上により術前の画像診断を駆使し胆石の性状を知ることが,消失予測に影響すると考えられた.
  • 岩崎 剛一, 遊佐 透, 川口 信哉, 木村 良直, 浅野 晴彦, 網倉 克己, 小針 雅男, 松野 正紀
    1991 年 52 巻 3 号 p. 530-535
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    教室における過去18年間の切除不能膵頭部癌に対するbypass手術(80例)を,胆道bypass単独群(42例),消化管bypass単独群(12例), double bypass群(26例)の3群に分け,術後経過,合併症につき検討した.胎道bypass単独群では,術後十二指腸狭窄および消化管出血をそれぞれ6例(14.3%)に認めた.消化管bypass単独群で,術後黄疸を来したのは, 1例のみにとどまった. double bypass群のうち, single tract群では5例(33%)で胆道感染を認めたのに対し, double tract群では, 1例(16%)にのみ吻合部狭窄を認めた.経口摂取状況,入院期間は, 3群間に有意差がないため,消化管bypassを付加しても大きな手術侵襲とはならないと考えられ, bypass手術としては, double bypassがより望ましい術式と考えられた.また再建術式としては,胆道感染,消化管出血予防の点で, double tractによる再建が優れていると考えられた.
  • 角田 卓也, 谷村 弘, 矢本 秀樹, 東 芳典, 山上 裕機, 岩橋 誠, 有井 一雄, 田伏 洋治
    1991 年 52 巻 3 号 p. 536-539
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    10年間に甲状腺癌58例中5例(8.6%)の甲状腺微小癌を経験し,そのうち,骨転移にて甲状腺微小癌が発見された症例を報告した.左股関節痛を主訴として来院した26歳の女性で,左腸骨のopen biopsyの結果,転移性甲状腺癌と診断し,甲状腺全摘術および頸部両側リンパ節郭清術を施行した.摘出標本では,リンパ節転移と3個の腺内癌病巣を認めるが,腫瘍の最大径が7mmの甲状腺微小癌で,組織学的には濾胞癌であった.このように,微小癌であっても遠隔転移をきたすので,甲状腺微小癌の術後には十分に厳格な追跡,検討を要するといえる.
  • 出口 宝, 栗原 公太郎, 渡嘉敷 秀夫, 野村 謙, 宮良 球一郎, 富田 秀司, 外間 章, 武藤 良弘, 戸田 隆義
    1991 年 52 巻 3 号 p. 540-544
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    内分泌化学療法が著効(CR)した進行期男子炎症性乳癌の1例を経験したので報告する.症例は84歳の男性で,病悩期間約5年の後,左前胸壁に21cm×13cmの発赤と左乳輪を中心とした8×7cmのしこりを主訴に来院した.精査の後,左乳癌T4cN3M1 Stage IVの診断であった.治癒切除術は不可能と判断し, ER (+)であったため内分泌化学療法を施行したところ乳癌原発巣は著効(CR)を示し,病理組織学的効果判定はGrade IVであった. Pirarubicinを中心とした複合化学療法とMPAの投与は進行期男子炎症性乳癌に対して有効な治療法の一つと考えられる.
  • 本邦報告例の検討
    堀口 倫博, 礒部 信一, 野木村 宏, 杉村 久雄, 伴野 隆久, 鈴木 一也, 原田 幸雄
    1991 年 52 巻 3 号 p. 545-549
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    比較的稀な気管支内過誤腫の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.症例は55歳女性.咳嗽,発熱にて発症し,胸部X線,断層写真, CT等よりS6の閉塞性肺炎と診断した.気管支鏡にてB6入口部を完全に閉塞する腫瘤を認め,生検にて間葉系細胞の増殖を認めた.悪性を否定できなかったため手術を施行した.腫瘤はB6とB10の分岐部より広基性に発生していたため,手術は右肺下葉切除術となった.術後,病理組織所見にて軟骨性の気管支内過誤腫と診断された.気管支内過誤腫の本邦報告例は現在まで本例を含めて60例である. 40歳から60歳の男性に多く,閉塞性肺炎に伴う症状で発症することが多い.術前に確定診断されることが少ないため,肺葉切除などの過大な治療が行われることが多い.過誤腫の悪性化および肺癌の合併については検討を要するが,本来良性腫瘍であるので,縮小手術またはレーザー治療が考慮されるべきであると考える.
  • 大野 徹, 松岡 英仁, 久次米 啓一郎, 山下 義信, 本田 雅之, 麻田 栄
    1991 年 52 巻 3 号 p. 550-554
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    術後の重症肺塞栓症は本邦では比較的稀な合併症であるが,米国では,術後死亡原因の15%を占め,発症後はその1/3が死亡している.症例は45歳男性で, McVay法による内鼡径ヘルニア術後3日目に,肺塞栓症により心停止をきたしたが,心肺蘇生の後,ヘパリンとウロキナーゼの併用により幸い救命しえた.肺塞栓症の診断,治療,予防等について文献的考察を加えて報告する.
  • 水谷 郷一, 幕内 博康, 町村 貴郎, 宋 吉男, 島田 英雄, 菅野 公司, 安田 聖栄, 杉原 隆, 花上 仁, 佐々木 哲二, 田島 ...
    1991 年 52 巻 3 号 p. 555-559
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    術後に乳び腹水を生じ,巨大な腹腔内リンパ嚢胞を形成した食道癌の極めて稀な1例を経験したので文献的考察を加えて報告した.
    症例は56歳男性.主訴は食欲不振,嚥下困難.アルコール性肝炎の既往あり.上部消化管検査にて胸部中下部食道にBorrmann 3型の食道癌を認め,また胃噴門部に巨大な壁内転移を認めた.手術は右開胸開腹胸部食道全摘.胸壁前頸部食道胃管吻合. R2リンパ節郭清を施行した.組織診断は高分化型扁平上皮癌でa1n3PI0M0 stage IVであった.術後に乳び腹水を生じ,その後腹腔内にリンパ管との交通が明らかなcystic massを形成しリンパ嚢胞と診断した.本症例において,術中の乳び槽付近の太いリンパ管の損傷,慢性肝炎の合併によるリンパ流量の増加が,乳び腹水よりリンパ嚢胞を形成した原因と考えられる.
  • 上ノ山 利雄, 越山 健二郎, 河面 孝
    1991 年 52 巻 3 号 p. 560-565
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は31歳,女性. 1カ月来の上腹部痛を主訴として来院,胃X線検査で胃角から幽門部にかけて狭小化が著明で不整潰瘍性病変や不整隆起像も認めた.上部内視鏡検査では体下部から幽門部にかけて不整潰瘍形成,粘膜の大小不同の顆粒状変化,発赤を認めた.
    胃梅毒の中でも前庭部を中心とした病変に酷似していること,血清梅毒反応が陽性であることより,当初から当疾患を強く疑った.抗潰瘍剤をいっさい使用せず,ベンジルペニシリンベンザチン内服による駆梅療法のみで症状,胃X線,内視鏡検査所見の著明な改善が得られた.
    症歴,臨床経過,検査所見より胃梅毒と診断したが,酵素抗体法(ABC法)によっても胃生検材料より, Treponema pallidumを証明し,胃梅毒の確診を得ることができた.
  • 角田 明良, 片岡 徹, 津嶋 秀史, 横川 京児, 保田 尚邦, 吉澤 太人, 新井 一成, 渋沢 三喜, 小池 正, 日下部 輝夫, 廣 ...
    1991 年 52 巻 3 号 p. 566-572
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    幽門狭窄をきたした胃十二指腸Crohn病を経験した.
    患者は32歳,男性. 13年前に Crohn病と診断され,経過中に二度の腸管切除と痔瘻手術を受けた.また十二指腸病変も指摘され,内科的治療で経過観察していた.今回,幽門狭窄症状が出現したため入院となった.胃内視鏡検査で,幽門輪の変形・狭窄がみられ,幽門前庭部の結節性隆起からの生検で非乾酪性肉芽腫が認められた.高カロリー輸液を中心とした内科的治療を行ったものの幽門狭窄が改善せず,さらに前回の回盲部切除後の吻合部再発病変に対する処置も含めて,手術(胃空腸吻合,迷走神経切離術,回腸上行結腸切除術)が行われた.術後経過は順調で栄養状態も改善している.
  • 矢吹 清隆, 田中 雅彦, 大久保 剛, 林田 康男, 榊原 宣
    1991 年 52 巻 3 号 p. 573-577
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    原因不明で予後不良なびまん性間質性肺炎は,本邦では特発性間質性肺炎(Idiopathic Intestinal Pneumonia;以下IIP)と命名されている. IIPは何らかの原因により急激な悪化をきたすことがあるため外科手術に際してはとくに注意を要する.
    最近,われわれはIIP患者の胃癌手術を3例経験した.そのうち1例が急性増悪に陥った.この症例は74歳と高齢の上,術前の呼吸状態が他の症例より著明に悪化していた.胃病変が幽門部の進行胃癌であったため全身麻酔下に胃亜全摘術を行ったところ,術後第2病日より急性増悪をきたした.人工呼吸器管理下に,ステロイド大量療法を施行したが,第18病日に死亡した.
    IIPの急性増悪の予防としては,術前に可能な限り呼吸状態を改善しておくこと,手術では呼吸器系の負担を極力避け,術後に十分な換気を保つことなどが考えられた.
  • 岡田 秀司, 内田 雄三, 友成 一英, 村上 信一, 久保 宣博, 葉玉 哲生, 横山 繁夫
    1991 年 52 巻 3 号 p. 578-582
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    57歳女性の幽門前庭部に壁外性に発育する18×12×8cm大の腫瘍がある1例にたいし,胃全摘,膵頭十二指腸切除,結腸合併切除,リンパ節郭清ならびにChild法に準じた再建術を行った.本症例はhuman chorionic gonadotropin (HCG)値が血中HCG: 1,000IU/L,尿中HCG 4,900IU/Lと高値を示し,組織学的に悪性絨毛上皮腫と腺癌の像が混在していた.子宮・卵巣摘出術を行ない精査したが悪性絨毛上皮腫は認められず,胃原発性の悪性絨毛上皮腫と診断した.術後VAC療法(オンコビン,コスメゲン,エンドキサン)を計3クール施行したが,術後約6カ月で肝転移により死亡した.
    胃原発性悪性絨毛上皮腫の本邦女性報告例は本症例を含めて14例であり,また壁外性に発育した胃癌の報告例は41例で,本症例のごとく壁外性に発育した胃癌で悪性絨毛上皮腫の像を呈しHCGを産生する症例は極めて稀である.
  • 小松 俊一郎, 早川 直和, 梛野 正人, 北川 茂久, 道家 充, 加藤 政隆, 神谷 順一, 二村 雄次
    1991 年 52 巻 3 号 p. 583-586
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は83歳女性,食欲不振と体重減少を主訴に来院した.胃内視鏡にて,胃前庭部にBorrmann 3型胃癌を認めた.
    血清AFP (Alpha-fetprotein)値が1,720ng/mlと高値を示したが, US, CTでは,肝に異常所見を認めなかった. AFP産生胃癌の診断にて胃切除術を施行した.術中所見はH0, P0, S2, N2であった.術後,血清AFP値は正常値となり,その後再上昇は認められていない.病理組織学的には中分化型管状腺癌で,深達度はssβであった.癌巣内にはhepatoma類似の結節性組織(以下hepatoid結節)が存在し, AFP染色では,その結節領域が陽性であった.転移リンパ節では, AFP染色陽性のhepatoid結節とAFP染色陰性の腺癌の結節が混在しており,原発巣に比べて前者の比率が著しく高くなっていた.このことは, AFPを産生する癌細胞が,通常の癌細胞にくらべリンパ節転移をきたしやすいことを示唆していると考えられたので,組織所見を中心に報告する.
  • 稀有症例の報告と予防的切除に関する1私見
    木村 敏之, 松村 武男, 山岸 久一
    1991 年 52 巻 3 号 p. 587-591
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    腹膜炎を合併したMeckel憩室軸転の1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.この種の捻転は珍しく合併症を起こしたMeckel憩室例の2.4~3.8%に見られる.
    症例は27歳の男性,嘔吐と下腹部痛が増悪し救急搬入された.腹部には筋性防御が認められた.開腹すると混濁した腹水が多量流出し,先端が策状物で腸間膜と強固に癒着し捻転し,回転末端から口側40cmの回腸側壁にて暗赤色に腫大した大きさ7×2cmのMeckel憩室を認めた.憩室を楔状切除,腹腔にドレナージを置き,予防的虫垂切除を施行した.他に2例の他疾患の術中に偶然発見した無症候性Meckel憩室では将来合併症を発症する危険性があると判断し,予防的に切除した.現在,このような無症候性の憩室に対する切除適応に関しては意見が分かれており,発見次第切除することには著者も反対である.放置すれば致命的な時もあり,適切な切除基準があれば外科医の戸惑いは少なくなる.
  • 高橋 厚, 別所 隆, 大西 英胤, 篠原 央, 近藤 喬, 栗原 博明, 小野口 勝久, 関 泰, 飯尾 宏, 古川 俊治, 飛田 浩輔, ...
    1991 年 52 巻 3 号 p. 592-597
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    最近われわれは急性の経過をとった腸間膜脂肪織炎の1例を経験した.症例は23歳女性で腹痛と発熱を主訴に来院した.腹部CTにて腸間膜の炎症性疾患が疑われたが,症状増悪するために開腹手術が行われた.開腹所見は小腸間膜の炎症性肥厚を認め肉眼的に腸間膜脂肪織炎と診断した.腸間膜の生検より組織学的にも腸間膜脂肪織炎と診断された.この症例は抗生剤と非ステロイド性消炎鎮痛剤投与のみで症状軽快した.
    腸間膜脂肪織炎は腸間膜の非特異性炎症性疾患であり多くは慢性に経過する.検索し得た本邦報告例35例を集計し文献的考察を加え報告する.
  • 中川 辰郎, 養田 俊之, 尹 太明, 吉田 和彦, 藤田 哲二, 桜井 健司, 山崎 晴市
    1991 年 52 巻 3 号 p. 598-601
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    イレウス症状を呈した回腸の子宮内膜症を経験したので報告した.症例は33歳,女性で, 1988年6月より月経時腹部全体の腹痛あり.慢性膵炎の診断にて投薬を受けていた. 1990年2月14日より腹痛が増強したため緊急入院した.ガストログラフィン造影で回腸末端部に狭窄像を認めたため,イレウスの診断にて外科に紹介された.手術所見は回腸末端より約10cm口側に炎症性腫瘤を触知した.腫瘤より口側の回腸は拡張し,漿膜の一部はザラザラとした細顆粒状を呈していた.回盲部切除を施行した.回腸子宮内膜症の本邦報告例は17例でまれな疾患とされている. 30歳台に好発し,分娩回数は1回以下,骨盤内子宮内膜症の合併頻度は50%前後,イレウス症状は80%であり,本邦と欧米では差はなかった.
    日常より月経に関連した腹痛を単なる“生理痛”としてかたづけるだけでなく,腸管子宮内膜症という疾患も念頭において,診療にあたるべきである.
  • 多田 雅典, 山下 博典, 椿 昌裕, 谷畑 英一, 竹村 克二, 遠藤 光夫, 寺田 充彦, 岡部 聡
    1991 年 52 巻 3 号 p. 602-606
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    虫垂の内腔に粘液が貯留し,嚢胞状に腫大した状態を虫垂粘液嚢腫といい,本邦では約400例の報告がある.病理学的には, 1) Simple mucocele, 2) mucinous cystadenoma, 3) mucinous cystadenoebrcinomaに分類されるが, 1)が大部分で, 2)は数例, 3)は約50例と少ない.当教室では3症例経験したが,第1例は65歳男性で,術前腹部エコーとCTで虫垂粘液嚢腫と診断され結腸右半切術を施行された.病理所見ではsimple mucoceleと考えられた.第2例は68歳女性で,急性虫垂炎症状にて2度ドレナージ手術を受けた後右下腹部に瘻孔を形成し,瘻孔部の生検より悪性と診断され,結腸右半切除術を施行された.病理所見より虫垂のmucinous adenocarcinomaの回盲部・皮膚への浸潤と診断された.第3例は73歳女性で肝左葉血管腫の手術時に偶然発見されたが,嚢腫から粘液が流出し腹膜偽粘液腫の状態であった.虫垂切除・腹腔洗浄が施行された.病理診断は,虫垂のmucinous cystadenomaであった.
  • 佐藤 智丈, 角田 司
    1991 年 52 巻 3 号 p. 607-610
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    Ogilvie症候群はPsudo-obstruction of colonともいわれ機械的狭窄の無い機能的結腸狭窄症であり,いろいろな基礎疾患に合併することが多く,そのため20%程度の死亡率を有する.本邦では本症候群に対する関心が薄く,自験例を含め11例の報告しか認めない.治療はまず保存的になされるが,盲腸穿孔の危険性の高いものや保存的治療に抵抗するものは手術適応とされる.近年では大腸内視鏡による結腸内ガス脱気や硬膜外麻酔が有用であったという報告がある.今回われわれは2例のOgilvie症候群を経験し,うち1例に対し大腸内視鏡によるガス脱気を行ったところ有効であった.
  • 塩見 正哉, 蜂須賀 喜多男, 山口 晃弘, 磯谷 正敏, 久世 真悟, 真弓 俊彦, 近藤 真治, 新美 教弘, 青野 景也, 新井 利幸 ...
    1991 年 52 巻 3 号 p. 611-619
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    びまん浸潤型大腸癌の4例を経験した.何れも壁外浸潤傾向が強く,リンパ節転移が高度であったため,治癒切除は不可能であり,姑息的手術が行われた. 4症例とも7カ月から1年6カ月で癌死した.切除標本には1例に浅いびらんを認めた以外は潰瘍,腫瘤形成はなく病理組織学的には2例は低分化腺癌, 1例は印環細胞癌, 1例は粘液癌であり,何れの症例にも著明なリンパ管侵襲を認めた.
    びまん浸潤型大腸癌の本邦報告例は160例あり,一般大腸癌と比較して若年者,下部大腸に好発し,病悩期間は短かいものが多かった.治癒切除可能な症例が少なく,化学療法,放射線療法等にも反応しにくいため予後は極めて不良であった.病理組織学的には印環細胞癌,低分化腺癌が多く,リンパ管侵襲,間質増生によりびまん浸潤型の肉眼形態をとるとされるが,単一なものではなく,その組織発生に関して今後の検討が必要と考えられた.
  • 内山 正一, 塩谷 猛, 渥美 理, 今井 茂, 須田 浩充, 松井 聡, 庄司 佑
    1991 年 52 巻 3 号 p. 620-623
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    明らかな肝外傷の既往のない陳旧性肝内血腫の1例を経験したので報告する.症例は16歳男性,突然の右側腹部痛と発熱を主訴に来院.入院時検査では貧血はなく, GOT, GPT, LDHの著明な上昇を認め腹部超音波およびCT検査で肝右葉の肝細胞癌を疑い定型的肝右葉切除術を行った.組織学的には7×8×8cmの腫瘍組織を含まない陳旧性肝内血腫であった.本邦において悪性腫瘍を伴わない陳旧性の肝内血腫は自験例を含め5例と少なく,内4例は肝細胞癌を疑い手術を行っている.稀ではあるが肝細胞癌の鑑別診断として考慮すべきである.
  • 岡本 雅彦, 植木 孝宣, 森田 修司, 鈴木 茂敏, 福田 雅武, 宮内 卓, 中垣 嘉信
    1991 年 52 巻 3 号 p. 624-629
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    肋骨及び肺に転移巣を有する肝細胞癌に対し,全病巣の切除を行った.症例は65歳男性で,右側背部腫瘤を主訴に受診,諸検査の結果,右第10肋骨と右肺中葉に転移巣を有した肝細胞癌と診断した.他に転移を認めず,肝機能も比較的良好であったので,肝切除,肋骨切除,肺部分切除を行った.手術標本の病理組織でも,すべて肝細胞癌の像を呈していた.術後経過は順調で,再発の兆候はない.
    遠隔転移を有する肝細胞癌の予後は悪く,確立された治療法はないが,症例によっては,積極的な外科的治療により,よりよい予後が期待できると思われる.また肝細胞癌骨転移切除例を中心に若干の文献的考察を加えた.
  • 林 譲司, 山下 裕一, 黒肱 敏彦, 平城 守, 君付 博, 荒木 靖三, 諸富 立寿, 白水 和雄, 坂本 和義, 磯本 浩晴, 掛川 ...
    1991 年 52 巻 3 号 p. 630-634
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    胆管内発育型肝細胞癌は比較的早期に胆管内に浸潤し発育する肝細胞癌で,稀な疾患である.現在,一定の分類基準はなく,肝細胞癌全体に占める頻度は報告者により, 0.7~9.0%と異なる.これは,癌の発育過程の違いにより,肝内での発育以上に胆管内への腫瘍の顕著な発育を認め,早期に閉塞性黄疸が生じた症例と,ある程度進行した原発巣が,胆管内に腫瘍の発育をきたした症例とに分けられることによる.今回,われわれは切除例において,上記2種類の発育形態のうち,先に記した発育形態を呈した59歳男性,術後12カ月再発死亡例と,その次に記した発育形態を呈した56歳女性,術後3カ月再発死亡例と67歳男性,術後11カ月肝不全死亡例の計3症例の胆管内発育型肝細胞癌症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.
  • 笠野 泰生, 谷村 弘, 谷口 勝俊, 山上 裕機, 川口 富司, 南 光昭, 吹上 理, 林堂 元紀
    1991 年 52 巻 3 号 p. 635-639
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    近年,肝癌切除術の適応は血管外科の技術の応用により著しく拡大してきた.今回, Bio-pump®を用いた下大静脈合併切除により切除し得た孤立性の転移性尾状葉肝癌の1例を経験した.肝尾状葉に限局した肝癌は,原発性でも少なく,転移性の報告は2例のみである.
    症例は74歳,男性. S状結腸癌の術後にCEAの上昇が認められ,孤立性の転移性尾状葉肝癌と診断した.下大静脈にも浸潤していたため,右腋下静脈と大伏在静脈間にBio-pump®によるシャントを作成したのち,安全かつ確実な尾状葉切除と下大静脈合併切除術を施行した.組織学的に結腸癌の肝転移と診断された.
  • 亀井 真理, 日下 純男, 鈴木 克, 佐々木 章
    1991 年 52 巻 3 号 p. 640-643
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    胆嚢結石症の診断にて開腹したところ,先天性無胆嚢症であった79歳,女性症例を経験したので報告する.数年来,胆石症や胆道疾患を思わせる症状を呈し,数回の超音波検査および胆道造影にて胆嚢が描出されない症例であった.胆嚢および胆嚢内結石像を思わせるfalse-positiveな超音波所見を一度だけ得ており,これが胆嚢結石症と診断した根拠であった.画像診断にて胆嚢が描出されない症例では,頻度は少ないながらも先天性無胆嚢症を考慮する必要があると思われた.
  • 武藤 功, 音羽 剛
    1991 年 52 巻 3 号 p. 644-649
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例1は16歳女性,主訴は発熱, CT,超音波,血管造影等で上腹部腫瘍の診断にて手術を施行した.腫瘍は膵尾部より発生した直径約10cmのもので,胃,腸間膜,脾にとり囲まれた状態で存在し,特に胃壁に強度に癒着していた.被膜を有し壊死状の内容物が認められた.腫瘍を含めて膵尾側切除術を行った.
    症例2は62歳男性で,愁訴は特になく,糖尿病,高血圧のため内科に通過中,超音波,腹部CTを施行し,膵腫瘍を指摘され,更に精査の結果膵臓器の診断で手術した.
    腫瘍は膵体尾部に在り,一部石灰化がある充実性の腫瘍で他臓器への浸潤はなく,肝転移リンパ節転移は認められなかった.
    両症例とも病理組織学的に非機能性ラ島癌であった.
  • 脾部分切除術報告例の集計と検討
    小川 吾一, 光吉 貢, 内田 隆寿, 徳永 祐二
    1991 年 52 巻 3 号 p. 650-656
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は30歳の女性で,左季肋部痛・左背部痛を主訴に来院.総合画像診断の結果,脾嚢胞の診断にて手術を行った.手術は,脾摘後の重症感染症を考慮して脾温存術式を選択した.すなわちmicrowave tissue coagulatorを用い,嚢胞を含めた脾部分切除術を行った.嚢胞の大きさは6cm大で単房性であった.病理組織学的にはepidermoid cystであった.術後は特に合併症もなく,術後の脾機能パラメータも3カ月後には術前値に復し経過良好であった.
    脾嚢胞に対するmicrowave tissue coagulatorを用いた脾部分切除術は,手技的にも比較的容易に行うことができ,術後の脾機能検査上からも有効な術式であると思われた.
  • 原口 周一, 野中 道泰, 杉山 俊治, 鈴木 稔, 吉田 晃治, 自見 厚郎, 杉原 茂孝
    1991 年 52 巻 3 号 p. 657-661
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    悪性線維性組織球腫は四肢に好発し,組織球または間葉系細胞由来と考えられる肉腫である.本腫瘍の後膜発生は比較的少ない.局所再発,転移率が非常に高く,一般に予後不良である.組織型はstoriform-pleomorphic typeの症例を経験したので報告する.
    症例は61歳,女性.左側腹部腫瘤を主訴とし,軽度圧痛を認めた.腹部単純X線検査でも大きな腫瘤陰影を認めた.手術では大小2個の充実性腫瘤を摘出した.術後OK432を投与しているが,特に化学療法剤は投与せず,術後3年5カ月経過しているが健在である.
  • 花上 仁, 水谷 郷一, 奥村 輝, 菅野 公司, 徳田 裕, 田島 知郎, 三富 利夫
    1991 年 52 巻 3 号 p. 662-666
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    孤立性腸骨動脈瘤は比較的稀な疾患である.われわれは慢性腎不全による血液透析療法の経過中に発生した左総腸骨動脈瘤の1例を経験したので報告した.症例は59歳男性で3年前より透析療法を受けていたが1カ月前に臍下部の拍動性腫瘤に気付いた.超音波断層, X線CTおよび動脈造影の結果,左総腸骨動脈の嚢状動脈瘤と診断され全身麻酔下に開腹,動脈瘤を切除し,左総腸骨動脈を右総腸骨動脈に端側吻合した.術後経過は順調で術後16日目に行った動脈造影では吻合部および末梢の血行は良好であった.孤立性腸骨動脈瘤の本邦報告例は自験例を含め84例である.男女比は13:1と男性に多く平均年齢は65歳,発生部位は総腸骨動脈が最も多く次いで内腸骨動脈,外腸骨動脈の順であった. 32例に破裂等の合併症が認められ7例が死亡したが合併症非発生例には死亡例はなく予後は良好であった.
  • 飯島 哲夫, 泉雄 勝, 吉田 一郎, 坂田 義行, 石川 進, 大林 民幸, 小玉 仁, 柳沢 肇, 大滝 章男, 安斎 徹男
    1991 年 52 巻 3 号 p. 667-671
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    われわれは,腋窩-大腿動脈バイパスに対しIMPRA Graft IIを用い, perigraft seromaの症例を経験した.
    本症例は70歳男性で,外腸骨動脈の閉塞にて左下肢切断の既往がある.術後2カ月に,右側鼡径部に小さなチストを形成し,それは徐々に増大し中枢側吻合部にまで及んだ.しかしながらグラフトは開存していた. perigraft seromaの診断のもとに初回は内容の穿刺を繰り返した.しかし, 10回の穿刺で総量が2,870ml (最大量550ml)に達したため,手術的に治療することにした.
    IMPRA Graft IIは,中枢および遠位側の吻合部近傍にて切断適除したが,チストの壁は切除しなかった.しかるのち, SAUVAGE EXS Dacron Graft移植し,創部にドレーンを装着した.術後の経過は良好で,合併症も認めていない.
  • 進藤 俊哉, 登 政和, 田中 信孝, 針原 康, 七條 祐治
    1991 年 52 巻 3 号 p. 672-678
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    慢性閉塞性動脈硬化症の,急性増悪期に対して,従来緊急的血行再建術が治療の第一選択として行われてきたが,その手術成績は不良であった.われわれは,急性阻血状態から慢性閉塞の病態に速やかに移行させて,とりあえずの肢温存を図る目的で,血栓溶解療法を使用した.まず大量のウロキナーゼによる線溶療法を行い,虚血性状が安定した段階で血行再建術を加える事によって,成績向上をはかった.今回はその2症例を若干の文献的考察を加えて報告する.第1例は71歳の男性で,両側腸骨動脈閉塞と左浅大腿動脈閉塞を伴っていた.線溶療法を繰り返し行った後,大動脈両側大腿動脈バイパス,左大腿膝窩動脈バイパスを行い救肢目的と機能回復を達成することが出来た.第2例は86歳の男性で,右腸骨動脈以下脛骨動脈にいたる高度瀰漫性閉塞を認めた.線溶療法を行い,後脛骨動脈の開存が得られたため,大腿後脛骨動脈バイパスを行い,自力歩行が可能となった.
  • 西田 勝則, 宮澤 幸久, 飯田 亨, 岡野 隆, 富岡 峰敏, 赤坂 忠義, 冲永 功太
    1991 年 52 巻 3 号 p. 679-683
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は肝硬変,糖尿病を有する64歳,男性.主訴は発熱,右鼡径部疼痛. 9日前に右下腿を挫創し近医で処置を受けていた.初診時,右鼡径部に6×5cmの弾性硬,圧痛を伴う拍動性腫瘤を認めた.動脈血培養で表皮ブドウ球菌が検出され,超音波検査と動脈造影で総大腿動脈に嚢状動脈瘤を認めたためmycotic aneurysmと診断した.術前検査で食道静脈瘤と胃癌が発見された.炎症消退後,待機的手術を施行した.瘤切除後,十分にデブリードマンを行い,端々吻合した.切除標本では,瘤の辺縁は内膜と中膜が断裂して瘤壁は線維組織のみからなり,炎症細胞浸潤が目立った.瘤内には血栓,細菌塊が認められた.術後径過は良好であった. 2カ月後に胃切除術を施行したが,肝不全,呼吸不全を併発し,死亡した.医原性以外の大腿動脈のmycotic aneurysmはまれな疾患である.本症例では,肝硬変,胃癌の併存があり,全身的な免疫能の低下が本症に何らかの誘因を与えたものと推察された.
  • 1991 年 52 巻 3 号 p. 699-705
    発行日: 1991/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
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